伝統太極拳の健康効果について | 健康・護身のために太極拳を始めよう

健康・護身のために太極拳を始めよう

太極拳は、リラックスによるストレス解消、血行改善、膝・腰強化、病気予防などの健康促進効果以外に、小さな力で大きな力に勝つような護身効果もある。ここでは、中国の伝統太極拳の一種である呉式太極拳の誕生、発展およびその式(慢拳・快拳・剣・推手)を紹介する。


六月十八日、十九日午後九時のNHKスペシャル番組『シリーズ キラー・ストレス』を見て、私どもの伝統太極拳の健康効果について気づいたことを記しておこう。

 

「太極拳」という言葉の前に「伝統」の文字をつけたのはその修行方法を強調したいためだ。世の中に太極拳と自称されるものが多く見られるが、真に太極拳の原理で修行されるケースはさほど多く見られなかろう。伝統太極拳の修行方法は片言で片づくものではないが、全ての動きが心→意→気→形からなるのがその核心だ。平たく言うと、太極拳の動作に係わる体の全ての関節、骨格や筋肉が意念の統率下になるように訓練するのが伝統太極拳の修行だ。つまり、太極拳の修行の中心は骨格や筋肉よりは、意念即ち頭脳そのものだ。意念で肢体を司るトレーニングと言っても過言ではなかろう。

 

NHK番組で紹介されたストレス解消法に「マインドフルネス瞑想法」がある。その詳細は割愛するが、基本はある対象に意念を集中することによって雑念(増悪・煩悩・困惑・悲傷など)を排除し、精神状態を本来の健康状態に戻し、ストレスから脳を守ることにあると筆者は理解する。それは伝統太極拳の修行と同工異曲だ。

 

伝統太極拳の修行に『一念代万念』という理念がある。つまり、あることに意念を集中することによって頭に入る雑念を排除するということだ。仏教の念仏、座禅、気功の修練、何れも同様の理念による。呉式慢架を最初から最後まで行うのに三十分間程度かかるが、正確に行えば三十分間以上のマインドフルネス効果があると言えよう。それを毎日繰り返せば、練習中のリラックス効果だけでなく、肢体を毎日リカバリすることによって体全体の抗ストレス能力が高まるようになるのだ。

 

マインドフルネス瞑想の対象は視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚の五感、即ち身体の感覚でとらえられるものの中で一つだけを特定すると定義されているが、伝統太極拳では身体の感覚で選ばれたのは体内の「気」の動きだ。マインドフルネスという西洋の発想に対し、東洋では、その瞑想の末に発見した体内流動物、即ち「気」が古くから太極拳や他の武術に活用され、ストレス解消という理論を知らずに恩恵を受け続けている。NHK番組で放送された『シリーズ キラー・ストレス』は伝統太極拳の健康効果を理論的にアプローチしたように筆者の目に映る。

 

伝統太極拳は人に勝つ武術を極めるものだと錯覚されがちだが、昔からそうではなかった。武術と健康は切っても切れない表裏の関係にある。中国の宋の時代の王宗岳氏が《十三勢歌》という著書の中で『想推用意終何在,益寿延年不老春』(訳:太極拳修行の最終目的は何かと思索したところ、答えは不老長寿だ)と太極拳の究極的な目的を明かした。無論、武術を主目的とする修行は他の項目も入るが、心→意→気→形からなる伝統太極拳の修行方法の根幹は変わらない。体内の気の動きに意念を集中して修行する以上、マインドフルネス瞑想と同様なストレス解消の健康効果があると考えることができよう。