迫りくる時間






入れたてのお茶をこぼさないようにしながら

私は雲雀さんの部屋へと向かう。


そのとき、廊下で困り果てた顔をしながら

雲雀さんの部屋を見ている草壁さんを見つけた。





「勝手に入らないでください!」


「草壁さん?どうしたんですか?」


「あ、亜姫さん。それが・・・」


「いいから遠慮するな!オレと雲雀の仲だ!」


「ってもしかして京子ちゃんのお兄ちゃん!?」


「おぉ!お前も来ていたのか!」






10年後の彼はあいかわらずで。

私の肩をバシバシたたく。








「君がここへ来るのは沢田綱吉の決断後と聞いていたけど。」


「そう思っていたのだが、お前とはなかなか会う機会がなかったからな。」




そう言って彼はワインを取り出した。





「もとはと言えば並中の同窓生。再開を祝して飲み明かそうと思ったのだ。」


「僕は飲まないよ。」


「なんだとーっ!?貴様!俺が持ってきた酒を飲めんというのか!」


「あの・・・っ、もともと雲雀さんは洋酒は飲まないんです。」





怒った彼をなだめるように私はあわてて言った。





「なぁんだ。そうか。まだまだ子供だな。雲雀。」


「飲めないんじゃない。飲まないんだ。

 君、日本語を理解できてないんじゃないの?」


「何ーっ!?貴様!昔と全然変わってないな!

 オレは極限にプンスカだぞ!」


「君も何ら変わってないね。」


「何だとー!?」


「(確かに2人とも変わってない・・・)」



私が苦笑いしていると京子ちゃんのお兄ちゃんは急に落ち着いて言った。



「オレは10年後の沢田に会ったばかりだ。

 お前ならわかるだろう。沢田は決心することができるか?」








・・・決心?ツナくんが?なんだろう。







私は話が見えないまま耳を傾けた。








「酒とかいろいろ口実をつけてたけど、

 それが聞きたかったのか?」


「わ、わりぃか?」


「10年後の草食動物だったら無理だろうね。」



雲雀さんは少し思案した後に言った。




「だが、わずかとはいえ、

 この世界で経験したことがきっかけとなれば・・・」


「そうか・・・。それを願うことしか、俺たちにはできないか。」


「それは君たちだけだろう?僕は自由にさせてもらうよ。」


「何だとー!?貴様ァ、ここまできて!まだそんなことを!」


「ちょっと・・・2人とも・・・!」


「やめてください!恭さん、笹川さん!」




私と草壁さんは顔をあわせてため息をついた。
















「お茶、ぬるくなっちゃったんで入れなおしてきますね。」



私は2人が出て行った後、すっかり冷めたお茶を持って言った。




「いや、いいよ。」




彼は私の手から湯飲みをとった。


そのときかすかに触れた手に思わずドキッとする。




「・・・そういえばツナくんが決心するとかしないとかって

 何の話ですか?」



私が聞くと彼は私の顔を見た。


やがて、まぁいいかというように話し始める。



「5日後、世界中のボンゴレファミリーが

 ミルフィオーレに総攻撃を仕掛ける、大規模な作戦のことだよ。」


「総攻撃!?」



私は驚いて声をあげた。



「10年前の人間だが、あくまで沢田綱吉がボスらしくてね。」



彼は湯飲みを置きながら言った。



「作戦を決行するかしないかは彼しだいだそうだ。」


「ツナくんが・・・」



おそらく彼のことだから、戦いは極力避けたいと思うだろう。


でもそれは過去に戻るためのカギかもしれない。




私は彼のことを思い、心を痛めた。














「まさか・・・雲雀さんも行くんですか!?」




彼は何も言わない。

それが余計に私を不安にさせた。






「いやですっ!そんな・・・そんなこと・・・っ!」


「・・・亜姫、ここに座って。」




叫ぶように言うと雲雀さんはこちらを向いて言った。


私は半泣き状態のまま、彼のそばに座る。







彼のいない世界なんて絶対にイヤ。








そばにいたい。








そばに、いてほしい。









私がギュッと目をつぶると、大きい手が頭をなでた。




顔をあげると彼の顔が至近距離にある。







―――なんてキレイな眼をしているんだろう。







私は吸い込まれるように彼の眼を見つめた。



目が、そらせない。




彼の目に映る私が見えた。







「・・・約束するよ。」


彼は静かに言った。





「君を一人にはしない。絶対にね。」






言われてからハッと気付く。







彼はあまりにもつらそうな目をしていたことに。









その目を見た以上、私は頷くしかなかった。