実は、赤を2つ、青を3つ取ってあるのよね。
Happinessに持って行こうと思って。
でも……。
枯草模様のチョコを見ながら、思案してる高校生が目に入る。
この子にあげても、最終的に女の子に行っちゃうのよね……。
いや、待って。
ここはあたしの妄想力を発揮するところじゃない!?
このショウ君似の男の子があげる相手が男の子だったら?
同じ歳くらいの男の子!
そう、やっぱりイケメンで同級生……じゃ、面白くないか。
仲良しの友達も相手のことは知らなそうだし、ここはよくある話で、先生との禁断の恋?
禁断なら叔父と甥?
兄弟とか?
兄弟!
血のつながらない兄弟に想いを抱く男子高校生!
チャラさで隠すその内に秘めたるは兄を想う切ない想い!
くぅ~~~っ、いいっ!
この顔面でBLなんてたまらない!
じゃ、相手はやっぱり店長似のイケメンよね。
ニノちゃん似の弟でも、MJ似の従妹でもいいけど、
ここは店長似のお兄ちゃんに凌辱されるチャラ男が見たい!
ショウ君似のイケボで『いいよ、好きにして』なんて言われたら!
落ちない男はいないでしょ?
いないよね?ね?ね!
店長似のお兄ちゃんも一発で落ちる!
店長似のお兄ちゃんかぁ~。
少し長めの髪を掻き上げると、人懐っこい顔で笑いかけてくれて。
『どうしたの?何、話って。』
キラキラ感がヤバイ!
『あ、えぇっと……。』
照れるチャラ男もヤバイ!
『今日、なんの日か知ってる?』
イケボのチャラ男にキラキラお兄ちゃんが首を傾げて。
『今日?』
きょとんとした目でチャラ男を見上げたら!
『……やるよ。』
つっけんどんに着き出すピンクの箱。
『これ、ショウ君(仮)がもらったの?』
『違うよ、サトシ(仮)の為に……選んだんだよ。』
お兄ちゃんなんて呼びたくないよね?
チャラ男だし、好きだし!
『今日は、バレンタインだよ?好きな人に告白……あぁっ!』
ここで抱き締めるチャラ男!
『好きな人に告白してんだよ!気づけ!』
『ショ、ショウ君(仮)……でも、俺たち兄弟……。』
『いいから!……そんなの、関係ねぇから!』
『ショウ君(仮)……。』
二人の顔が一瞬離れ、見つめあう瞳が徐々に近づき……チュウっと!
くぅ~~~~~~~~っっっっ!いいっ!
これにしよ!禁断の兄弟モノ!
「あ、あの、店員さん?」
アイバ君似の友達の声でハッと我に返って、急いで笑顔を作る。
「どうしたの……?」
友達が、指で顎を差す。
あ、顎!?
「ヨダレ……。」
や、やばっ!
慌てて後ろを向き、ポケットのハンカチで拭う。
イカンイカン!
ここんとこ忙しくって、妄想もできなかったから……。
気を引き締めなくちゃ!
「お、お品物はお決まりですか!?」
クルッと振り返ってスマイル!
ヨダレなんてなかったような笑顔!
「店員さん、変わり身、早っ!」
当たり前でしょ、そういう処世術は歳取れば誰でも身に着く物なのよ!
まだ決めあぐねてるチャラ男君の肩を小突いて、友達が急かす。
「そろそろ決めないと。他も見る?」
「う~~。」
悩みに悩みまくるチャラ男のイケメン君。
こういう姿もいいのよね、イケメンって得!
この唐草模様のチョコじゃ、押しが弱いよなぁ。
本命感はあるけど、それだけだもんなぁ。
あたしはまたチラッと後ろの鞄に目をやる。
う~~~~、しょうがない!
「こちらは……。」
あたしは鞄から、青いのを取り出してチャラ男に見せる。
ボールペンのチャームがチャラっと揺れる。
オヤジギャグみたい!
チャラ男がチャラっと!(笑)
「最後の一つなんです。」
さっきの女の人、ごめんなさい。
でも、この子、イケメンなんだもん!
と心の中で呟くと、チャラ男の目が輝く。
「これ!これがいい!気に入ってくれるかも!」
チャラ男とあたしの目が合って、同時にニッと笑う。
そうでしょう、そうでしょうとも!
この青いボールペンはあたしが店長をイメージして作った物。
ショウ君似のチャラ男が店長似のお兄ちゃん(仮)に渡すなら、それが一番!
「では、こちらで。」
あたしはボールペンとセットになったピンクのチョコを手に取る。
「ピンクははずいけど、まぁいっか。食べちゃうし。」
食べちゃう……!
食べられちゃうのよ、きっとあなたが!
あなたに大きなピンクのリボン掛けてあげるのが一番!
な~んて、お客様には口が裂けても言えません。
あたしは急いでラッピングして紙袋に入れる。
簡単に袋に入れてリボンかけるだけだけどね。
「もう、気持ちは伝えたんだろ?旅行まで行ってるんだし。」
「……伝わってはいると思うけど……はっきり言ったかさだかじゃなくて。」
「ばか、はっきり言わなきゃわかんないんだぞ、女は。」
アイバ君似の友達が、さも分かった風なことを言う。
でも、正しい。
男も女もはっきり言わなきゃわからないこともある。
わかってても言ってもらいたいこともある!
「お待たせしました。どうぞ。」
紙袋を差し出し、チャラ男に渡すと、チャラ男がニコッと笑う。
か、可愛いじゃない!
ショウ君も若い頃はこんな感じだったのかな。
「あ、じゃ、俺も母ちゃんに。」
アイバ君似の友達が、唐草模様の隣にあったナッツの乗ったチョコを指さす。
おっと、友達の方は彼女いないの?
母ちゃんに買ってくなんて、可愛いじゃない!
「じゃ、俺もオヤジに……。」
オヤジ!?
お父さんにもあげるの!?
なんていい子!
こんなイケメンのお父さんなんだから、きっとお父さんもイケメンのはずなのに、
チョコもらえないお父さんを可哀そうに思って買っていくのね。
あ、もしやここにもBL要素が溢れてる……!?
「ありがとうございました。」
笑顔で見送るあたしに、満面の笑みで答えてくれるイケメン二人!
いい一日になるといいね!
きっと、母ちゃんもオヤジもお兄ちゃん(仮)も喜んでくれるよ~!
あ~、あたしも早く終わらせて、Happiness行きたい!
いい一日で終りたい!
そのためには……。
「あ、すみません、今のボールペンの、まだありますか?」
隣で見ていた他のお客が声を掛けて来た。
「すみません、今ので完売なんです。」
「そうですか……。」
「こちらも人気なんですよ、この模様が大人っぽくて……。」
「あら、素敵。」
食い着いた!
さっさと残りも売ってHappinessへ行く!
待っててね、本物のショウ君と店長!
チャラ男とお兄ちゃん(仮)も幸せにね!