Lotus ウォッカギブソン | TRIP 嵐 妄想小説

TRIP 嵐 妄想小説

嵐さん大好き♡
智君担当♪山好き♡で
皆様のブログを見ているうちに書きたくなってしまいました。
妄想小説です。腐っているので注意してください!
タイトルに愛を込めて、嵐さんの曲名を使わせていただいてます。
ご理解いただけると嬉しいです。



「ああ、そっちはもう大丈夫。……そうだ、それでいい。

 気づかれないように……、ああ、何かあったら連絡してくれ。」

スマホを耳から離した男は、中指の第二関節を唇に当てる。

片手でポケットをまさぐり煙草を探すが、通り過ぎる車に気付き、その手を止める。

ここで吸うわけにはいかない。

ひと昔前とは違い、世知辛い世の中だ。

ふと視線が一点で止まる。

Lotus。

ミントグリーンの大きな花の上に書かれた文字だ。

「蓮の花……?天国……吉祥天女、……honey?」

ニヤリと笑った男は、看板の先にある薄暗い路地につま先を向ける。

まだ明るいが看板が出ていると言うことは、店もやっているのだろう。

バーなら一服できるはず。

男は少し重めの鉄の扉を引く。

ガチャッと音がし、ドアが開く。

中は薄暗いが、明りが付いている。

店が開いていることにホッとし、中に向かって声を掛ける。

「やってる?」

「あ、はい、大丈夫です!」

明るい声が返って来る。

それと同時にカチャカチャと何か片付けるような音がする。

「急がなくていいよ。一服できれば……。」

男が中に入って行くと、バーテンダーが、布巾の乗ったトレイを

カウンターの内側に下げようとしている。

「ああ、いいからいいからゆっくりで。俺が早く来ちゃったのが悪いんだから。」

「すみません。」

男はカウンターに腰かけると、ポケットに手を突っ込んで、バーテンダーを窺う。

「煙草、吸っても大丈夫?」

「はい。どうぞ。」

バーテンダーは笑みを湛えて灰皿を出す。

人懐こい、いい笑顔だ。

男は煙草とライターを取り出すと、一本口に咥える。

「スコッチ……。」

言い掛け、カウンターの奥の酒の棚に目を走らせる。

「何か作ってもらおうかな。」

男が柔らかい笑顔でそう言うと、煙草に火を点ける。

スマートな笑顔だ。

女性なら誰でも惹きつけられるに違いない。

だが、男の目の奥が笑っていない。

華やかな笑顔の奥の冷たさに、バーテンダーはぎこちない笑顔を返す。

気づかぬふりして、オーダーの続きを聞く。

「お好みはございますか?」

「そうだな、カクテルはあまり飲まないから……。

 飲む時はマティーニが多いかな……。」

「では、マティーニをお作りしましょうか?」

男は少し考え、バーテンダーを見てニヤリと笑う。

「君が俺に作るとしたら、どんなカクテル?」

バーテンダーは一瞬、意外と言いたげな顔でじっと男を見つめたが、

すぐに表情を戻し、にこりと笑う。

「そうですね、お客様でしたら、ギムレットなどがお似合いかと……。」

「じゃ……。」

言い掛けた男の携帯が鳴る。

画面を見た男の頬が和らぎ、携帯をタップして耳に当てる。

「honey、どうしたの?俺と寝たくなった?」

開口一番そう言うと、煙草を口から離し、煙を吐く。

「……ははは、ひどいな。そんなに悪い男じゃないよ、俺は。」

片手に携帯を持ったまま、もう片方の手で煙草を挟み、口から煙を吐く。

目尻に寄った皺が優しい。

バーテンダーは男を横目に、カウンターの内にしまったグラスを一つ磨き始める。

「お買い得だと思うけどね。一生浮気はしないし、金で困らせることもないよ?」

煙草をもう一口吸い、灰を灰皿に落とす。

「あはは、本当だよ。Honeyがずっと側にいてくれるなら、浮気する暇なんてないでしょ。

 ベッドから離れないんだから。……ははは。」

男の目が、店内を見回す。

打ちっぱなしのコンクリートの壁。

大きなガラスの容器に生けられた、涼し気な葉を持つ枝。

センスを感じさせる間接照明。

「……大丈夫、今のとこ順調、……んはは、いいね、そういうの。」

男の口に咥えられた煙草が揺れる。

煙草の先が赤く光り、口から離れると、寂し気な煙が舞う。

「わかってる。じゃ、今晩。……ふふふ、つれないなぁ。愛してるよ、honey。」

切れた携帯を耳に当てたまま、男は煙草を灰皿にねじ込む。

耳から携帯を離し、画面を確認して携帯を消す。

バーテンダーを見つめる男の目が、先ほどより幾分優しい。

「ギムレットでよろしいですか?」

バーテンダーがそう言うと、男は指を立ててニヤリと笑う。

「ギムレットには早すぎる。」

低くそう言う男の声に、バーテンダーが笑う。

有名なハードボイルド小説のセリフだ。

「確かに、強いお酒を飲むにはまだ時間が早すぎますね。

 ノンアルコールもございますが、どういたしましょう?」

「……そうだな。」

男は、ふむと考え、下唇を人差し指で撫でる。

「……ウォッカギブソンで。」

男がニヤリと笑うと、バーテンダーは声を上げて笑う。

「ふっふっふ、かしこまりました。」

ギムレットに負けず劣らずの強めの酒。

ギムレットには早すぎるが、ウォッカギブソンなら許されるとはどういう道理か。

グラスを取り出し、シェイカーを並べる。

それを見つめる男の口には、いつの間にか煙草が咥えられ、

右手のライターがカチッと音をさせる。

「お仕事の帰りですか?」

シェイカーに氷が落ち、カチンと音がする。

「いや、まだ仕事中なんだけどね。」

悪戯っ子のように楽し気に笑う顔に、バーテンダーも笑顔になる。

「仕事中でも飲めるいい商売。」

「それは僕も同じです。」

バーテンダーがニコッと笑ってシェイカーの中の酒をステアすると、男が声を上げて笑う。

「気に入った!また来るよ。」

何も飲んでいないのにそう言って笑う男の目は、柔らかい。

バーテンダーがカクテルグラスにシェイカーから酒を注ぎ、男の前に差し出す。

「ウォッカギブソンです。」

男がグラスを摘まんで口に運ぶ。

「ああ、いいね、君のように爽やかだ。」

ウィンクする男に、バーテンダーがクスクス笑う。

「男が相手でも、恋人に怒られますよ。」

「その恋人に、今フラれたばかりだよ。」

男はまた一口酒を飲む。

バーテンダーは何と言っていいか、困惑したように眉をしかめる。

「今晩は相手してくれないとさ。」

男が上目遣いでバーテンダーを見る。

「どう?今晩?」

「申し訳ありません、仕事があります。」

バーテンダーがシェイカーを持ち上げて見せる。

「今晩は一人か。じゃ、潰れるまで飲むか?」

男が、フフッと笑って、煙草を口に咥える。

カクテルグラスを持ち上げ光に翳すと、漂う紫煙が猫背の背中を映し出す。

会えない恋人を想いつつ飲む酒は、隠した気持ちを露わにさせる。

次に瞼に浮かぶのは、憎まれ口を叩く顔か、それとも……。

男の夜は長い。



 



 


ウォッカギブソン 隠せない気持ち

 

 

 



ギムレット 長いお別れ、遠い人を想う





テ・アゲロの櫻井編