2017年5月20日午前0時30分。 私は約半年ぶりに京都市伏見区の伏見稲荷大社を訪れた。 もちろん今回も大阪市内から京阪電車の最終列車に乗り込んでの訪問だ。 まだ5月中旬ではあるが夏日和が続いており未明近くになってもさほど冷え込みはしないだろうとの判断で去年の訪問よりも一ヶ月早い夜中の伏見稲荷訪問となった。 もう慣れたもので真夜中の稲荷山徘徊も当初よりは恐怖心は感じなかった。 ただ一つだけ気になることがあった。 いつもどおり現地に着くや伏見稲荷大社の夜間警備員に挨拶しに行くと、彼から最近稲荷山にイノシシが出没するので気をつけてくださいとの注意を喚起された。 しかも夜間になってからの目撃情報が多いとのこと。 イノシシはクマほどは人間に対する殺傷能力はないものの、牙をむき出して人間に突進してくるので当たりどころが悪ければ重傷は免れないとのことであった。
(2017年5月20日0時40分・伏見稲荷大社正面)
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不幸にしてイノシシと遭遇したならば回し蹴りのカウンターキックで打ち倒そうと考えたがカメラや撮影用資材を抱えておりこちらの体勢を崩してしまう恐れがある。 警備員からとにかく参道から外れて山中に踏み込むことだけは避けてくださいと教示を受けた。 尚、運が良ければ猿やキツネに会えるかもとのことでもあった。 今宵の稲荷山では私のほかには夜景を撮りに来た男性とアメリカはロスアンゼルスから観光にやって来た老夫妻だけだった。 老夫妻に景色が素晴らしいから山頂まで行きましょうと誘ったが、ご主人の膝が悪いらしく登山は諦められた。
(夜中1時頃の千本鳥居。昼間は観光客でゴッタ返す。)
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さて、これまでの魔物からの襲撃を恐れての登山ではなく、今回はイノシシとの遭遇を恐れつつの登山となった。 時々回りの暗闇の中から得体の知れない獣の雄叫びや足音などが聞こえ緊張感がいや増して高まる。 やがて休憩地点である四つ辻の茶店「仁志むら亭」の前に到着する。 私は稲荷山のこの有名な飲食店を利用したことがない。 何故ならば、私がいつも此処を訪れるのは夜中だからだ。 しかしこの日は茶店の営業はなかったものの何か大掃除をされていたのか扉は開け放たれ照明が煌々とてらされていた。 思えば初めて登山した2016年は、稲荷山中はまだまだそんなに街灯も完備されておらず、妖しい雰囲気が満載のワンダーランドだったのだが、昨年中盤以降街灯が整備され、しかも依然からあった街灯もLEDに付け替えられ、正に夜中とはいえ真昼の明るさになっており、マニアとしては一抹の寂しさを禁じ得ない。
(美しい鳥居と影とのコラボ)
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稲荷山から山頂を経てまた稲荷山へ戻ってくると時刻は午前4時頃となっていた。 その間も参道の脇の暗闇の中からは絶えず獣の遠吠えや足音などが聞こえ、今回の登山はいつもよりも増して緊張感が漂うものとなった。 4時半を回るとやがて薄っすらと空が白み始めたので私は下山を急いだ。 なぜならば、今回は夜間登山に加え明るい日差しの下での登山も計画していたからだ。 一日に二度の登山は体力的に不安もあったが、休養を充分にとりつつ登山すれば大丈夫だと判断した。私は一旦伏見稲荷大社本殿付近まで下り、再度稲荷山頂を目指すことにした。
(参道で野良猫の出迎えを受ける)
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さて、日が昇ったあとの登山では夜中のように得体の知れないものに対する恐怖心もイノシシに対する警戒心も起こらない。 ところが気づいたことに、以前よりも増して稲荷山全山に亘って野良猫が多く住み着いているということだ。 さては、昨晩暗闇の中からガサガサと音を立てて私を怖がらせていたのは此奴らだったのか? しかも、彼らはいかにも人に慣れている風情で近寄り甘えてくる。 さりながら何も餌を貰えないことを悟ると踵を返してタチの悪い風俗のポン引きの如く去って行くのだ。 いずれにせよ、今回も無事故晴天で登山を終えることができた。 近いうちに完全なイノシシ対策を講じて再度夜間登山を敢行したい。 08:00過ぎに伏見稲荷大社を後にしたが、既にその時刻になると、特に千本鳥居の辺りには人盛りができ始める。 やはり伏見稲荷には夜中に来るに限る。
終わり。