2019818日午前0時半。

私は又も夜中の伏見稲荷大社及び稲荷山を徘徊するべくやって来た。

楼門前に着くや何人かの若者が残念そうにこちらに向かって歩いて来た。 理由を聞くとイノシシの大量出没により稲荷山が閉鎖されていたとのことだった。 遠方からやって来た人々にとっては気の毒なことだ。 私は警備員の哨舎に赴き状況を聞いた。 やはり千本鳥居付近を含む稲荷山登山口及びその周囲にイノシシが大量出没し獣臭も充満しているということだった。 これは困った。 実は私はこの夜は千本鳥居を通り過ぎた稲荷山登山口近くにある「行者道」を通り伏見神寶神社を経由して大岩大神に行くつもりだったのだ。

[「行者道」=私が付けた名称。 稲荷山頂上へと向かうこの山道界隈には滝行用の行場が多く点在し、またその参道には街灯も少なく全く皆無の場所もある。 稲荷山初心者にはお勧めできない参道である。]

実は前々回の訪問で大岩神社を訪問したのであるが。そこへと至る参道が余りに恐くて、現地到着を黎明になるように出発時間を調整したのだった。 とはいえ、確かに現地の大岩神社には朝方に到着したが、そこまでの道中は暗黒世界であり無駄な調整であった。

さて、稲荷山立入禁止となった今宵はどうする? 私はやはり大事をとって警備員の指示に従うことにした。 但し、こんなことで諦める私ではない。 予定を変更し、私は「裏登山道」を使用して稲荷山に侵入して蝋燭点灯の旅に出ることにした。

[「裏参道」=私が付けた名称。 通常、伏見稲荷大社境内より稲荷山山頂へと至る参道は三種類ある。 正規の参道と先述した行者道と裏参道である。]

私は楼門前から通常の直進はせず左に折れて民家の軒先を潜り数分後には裏参道入口に到着した。 この裏参道は、難行である行者道や階段が多く体力の要る正規の参道に比べて比較的に楽な、山頂へのショートカットとも言える登山道であり、三ツ辻にて正規の登山道と交わる。 もちろんこの登山道もイノシシ遭遇の危険が大いにある。 ただ、付近の住民が参拝等に利用する参道であり、伏見稲荷大社警備員の警備管轄外の地域であるから立入禁止にできないだけの話である。 また、この参道界隈には大小様々な神社仏閣や神道系の新興宗教団体も多く、闇夜に照らされたそれらの施設が一種異様な世界を醸し出している。 私は伏見稲荷大社名物の野良猫数匹に出迎えられて裏登山道を山頂へと向かった。

前回の登山では、私は稲荷山山頂の一ノ峰で蝋燭点灯と写真撮影を敢行したので、今宵は二ノ峰(中之社)でそれら行うこととした。 本来なら順番からいって一ノ峰で撮影したいところなのだが、同地は現在台風等の影響で街灯が消灯しており暗黒の世界となっている(臨時の警告灯が数分間点灯する)。 不測の事態を避けるため同地での撮影は街灯回復を待つことにする。

庶幾の目的を達成した私は再度裏参道を通って帰ることにした。 入口付近に到着するや又も野良猫たちの歓迎を受けた。 しばし、ベンチに腰を掛け彼らと戯れていると一匹の黒猫が一方向に向かって走り出し暗闇の中を凝視しだした。 彼には人間の私には見ることのできない闇の中の何かを見つけたのかも知れない。 

(暗闇の一点を見つめる猫。彼には何かが見えていたのかも知れない。)

やがて夜も明け始めたので私は本殿付近に移動した後に帰ることにした。 本殿へ行くと立入禁止と書かれたバリケードの前で外国人を含む数十名が困惑していた。 そこに警備員が現れてイノシシ大量出没による登山禁止措置と午前5時より入山を許可すると説明していた。 私は訪問者にそれを通訳して説明してあげた。 ようやく彼等訪問者は納得し付近で開門を待ち始めた。 彼らも4-5時間早く来ていたら私が案内できたのだが(笑)。 お陰で今宵は私は稲荷山を独占して堪能することができた。

次回は真夜中の行者道踏破及び大岩大神訪問に挑戦するつもりだ。



今回の夜間登山の様子の写真を或るSNSの台湾人専門のページに投稿したが「怖い!」「怖いけど私も行きたい!」など異様な盛り上がりを見せている。 やはり、皆、興味があるのだ(笑)。

おわり。