タイトルは飛行船ヒンデンブルクとはなっているが話の内容はあまりそれには関係ない。これは私の小学校低学年時代の話だ。

或る日、学校から帰宅した私は自宅裏に多くの古新聞や広告チラシに混じって一通のダイレクトメールが捨てられかけているのを発見した。そのダイレクトメールの差出人は近所の薬局だった。私はおもむろに中身を改めてみた。封筒にはチラシと見たこともないサンプル商品が梱包されていた。そのサンプル商品は四角いビニール製の形をしており片面は中身が見えるように透明になっていた。中には何やら柔らかいゴム製品が入っているようだ。私は意を決してそのゴム製商品を外に取り出してみた。やはりその商品はゴム製品のようだった。しかもそのゴム製品にはタップリとゼリーのような液体がまぶしてあるらしく何やら子供だった私には気持ちの悪い物体のように感じられた。

「いったいこれは何だろう?」

私は子供心に思案した。そして私はひらめいた!

これは風船の新商品に相違ない。まぶしてあるゼリーはゴム製の風船がくっつかない為の配慮だろう。早速私はその風船の新商品を膨らませてみることにした。それにしては息の吹き込み口が異様に大きい。指が三本は入りそうな大きさだ。しかも風船全体が息の吹き込み口方向に巻かれている。しかもゼリーでベタベタしている。不審に感じながらも私は必死に口で風船内部に息を送り続けた。すると風船はどんどん大きく横に伸びて子供の頭を横に3人分並べたぐらいに膨らんだ。しかも風船の先の方は女性の乳首のようないびつな形になっている。何とか風船を精一杯膨らまし息の吹き込み口を縛って封をすると風船は風船そのものというよりも飛行船のような形になった。そうして空中に放つとこれまた飛行船ヒンデンブルク号のように優雅に空を舞ったのだった。しばらくヒンデンブルク号で遊んでいるとやがて母親が外出先から帰宅した。ヒンデンブルク号で遊んでいる私を見て当初は微笑んでいた彼女だったがやがてその風船の形態や元の風船の入れ物を見て顔色が変わった。彼女は送られてきたダイレクトメールの発信先の薬局に電話をかけて子供の教育に悪い云々(うんぬん)の苦情を言い放ったのであった。私は何が何だか分からなかったがその瞬間に飛行船ヒンデンブルク号は大爆発を起こして破(わ)れてしまった。

母親が教育に悪いと言った意味が分かったのはかなり後年のことだ。そりゃ元来は風船遊びが目的の商品ではないからすぐ割れるわな。

飛行船ヒンデンブルク号の話である。


おわり。


(飛行船ヒンデンブルク号)