感謝しておりますラブラブ

第二話はこれで最終回です。
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『しあわせ探偵の事件簿』
第二話:「かがみ」⑥

納得顔の村山に対して、不満顔の沙由里は内ヶ崎にこう言った。

「なんか、ウッチーの話を聞いてたら、私の結婚に対しての理想がどんどん崩れるんですけど〜。
だって、お互いに愛し合って一緒になったんだから、もっと相手を大切にして、思いやりを持って接すれば解決するんじゃないの?
それをなんか、修行とか、倍返しだとか、先手必勝とかっていうと、なんか夫婦の間で勝ち負けの“勝負”をしてるみたいで、なんか私はイヤだな」

「沙由里ちゃんの言うことはわかるし、もしかしたら愛し合って結婚して、その後もずっとラブラブで、何かあっても思いやりで問題を解決する夫婦もいるかもしれない。でも、俺が見てきた夫婦って、大体は悪い意味で“勝負”してるよ。

相談に来て、俺が『それなら、あなたの方から優しい言葉をかけてあげたらいかがですか?』って言ったら『そんなこと言ったら相手がつけあがるし、先に言った方が負けよ』って、平気で言うもんね。

結婚に理想を持つのは悪いことじゃないけど、夫婦って親子と違って血のつながりでいえば、どこまでいってもある意味“他人”だし、そもそも、育ってきた環境も考え方も価値観も違う人間が、ずっと一つ屋根の下で一緒に暮らすのって大変だよ。
我慢も必要だし、ときには自分の考え方や生き方も変えないといけないかもしれない。

だから、どうせなら“楽しい勝負”をした方がいいよねって俺は言いたいの。
先手必勝で相手を喜ばせる。相手を喜ばせて幸せにした方が勝ち。その勝負も義務じゃなく、自分がやりたいからやる。それでいいんじゃないかな。

俺も師匠から『夫婦は修行だぞ。結婚のウエディングベルは戦いのゴングだと思え』って言われたときは『そうかなぁ』って信じられなかったけど、今は相談に来る人たちを見てたら『みんな、戦ってるなぁ』って思うもん。

だから俺は、『どうせ修行するなら、この人と修行がしたい!』と思う人と一緒になりたいな」

そう言いながら沙由里を見つめて赤くなっている内ヶ崎に、沙由里はまったく気付かずにこう言った。

「あ〜、なんか、ウッチーは私と一緒の独身のくせして偉そうなこと言ってる〜」

内ヶ崎は自分の気持ちを悟られまいとコップの水を一気に飲み干し、視線を村山の方に移して話を続けた。

「すいません、ちょっと話が脱線してしまいましたね。
どうですか。私の説明で、村山さんの心の中で起こっているこの連続事件を解決できそうですか?」

「ええ、かなりスッキリしました。犯人逮捕まではいきませんが、解決の糸口は見えて来ましたし、今後の捜査活動のプランもいくつか思いつきました」

そう言って含み笑いを見せた村山に、内ヶ崎と沙由里は安堵し、軽いハイタッチでお互いの喜びを表した。

十夢想家を出た二人は最寄り駅まで一緒に歩いて行ったが、駅に着くと村山が「ちょっと妻にメールを打ってから帰るので、先に行ってください」と言うので、沙由里は「お!早速活動開始だな」と思ったが口には出さず、笑顔で別れた。



所変わって村山の自宅。

妻は台所で夕食の準備。長女はリビングで自分のスマホをいじっていた。

「ママ〜、こっちのテーブルでママの携帯なってるよ」

「あ〜んもう、忙しいのに。なになに、パパからだ。もう!今から『ご飯いらない』って言うんじゃないでしょうね!」

いつもの母のグチは聞き流し、長女は自分のスマホでインスタグラムをチェックしていたが、しばらくして、何やら母の様子がおかしいことに気づく。

携帯を手にしたまま立ち尽くして、台所に戻ろうとはしない。

「ヒック、ヒック」という声に驚き、母の顔を見ると、泣いている!

「ママ、どうしたの!パパになんか、ひどいこと言われたの!!」

「ううん、違うの。その逆。ごめんね、泣いたりして。ちょっと、ママ、変だよね」

つけていたエプロンをとるとそれで涙を拭き、笑顔で長女にこう言った。

「ごめん、ちょっと夕飯の材料、買い忘れたのを思い出したから、ちょっとママ、買ってくるね!」

その日の村山家の夕食は、村山の好きなものばかりが豪華に並んだのはいうまでもない。

自分の好きなものが1品も出ていないことに長女は文句の一つも言おうとしたが、いつもより10倍くらいニコニコしている父と母を見ていると「ま、いっか」という気になって、いつもは夕食時もスマホをいじるのだが、かろうじて食べられるおかずを選んで食べながら、ずっと二人を眺めていた。

長女は思うのである。
「つくづくわかりやすい、似た者夫婦だな」と。

第二話:了