真夜中 no.1(2008年4月22日発行)に掲載されたエッセイです。

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 漫画のことを書きますね。
 わたしはいつも、漫画をかいている者です。
 漫画って、小説と絵画の間に生まれた、子供だって
思っていました。
 小説がお父さんで、絵画がお母さんかな。

 紙の右からスタートして、左へ進んで行くところは、
お父さん似ですよね。
 お母さん似のところは見てのとおり。人物画あり風
景画あり、コマはどれも一枚絵です。
 ところがわたし、最近不思議なことを発見しました。
 出版社の人に、「カラーで印刷しますので、原稿に
は色を塗ってくださいね」って言われたのです。「わ
ーい」。めったにないことなので、喜んで机に向かい
ましたよ。
 ところが、これが難しかった。
 早い話、わたしはすんごいヘタクソな、カラー漫画
をかいちゃったのでした。

 ふだんのわたしは、墨汁で漫画をかいています。つ
まり、紙の上は白と黒のニ色だけ。
 急にへんなこと言いはじめたぞ、と思うかもしれま
せんが、ちょっと聞いてください。

 四角いコマの中には、矢印がひいてありましてね。
これは、目に見えません。
 白も黒も、この矢印に沿って、下に降りてゆくので
すよ。黒は速く。白はゆっくり。
 この降りてゆく感じは、ふきだしの中の文字を読む
のと良く似ています。
 ほら、縦書きでしょ。

 今回はそこに色です。紙の上に、ぺろっと色を塗り
ましたらね、降りてゆかないんですよ。
 あっちこっちひっかかって下に降りない。
 すんません、わけわからん話で。
 でもこれが、わたしがカラー漫画を失敗したのと、
関係がありそうなんだなぁ。

 さてこうなりますと、最初のお母さん絵画説って、
あやしくなりませんか?
 色彩は絵画の大きな魅力ですよね。なのにわたしの
漫画は、重いだの軽いだの、速いの遅いのと。

 もしかしたら、お母さん、数学?
 まさかねー。わたし算数にがてだもの。変ですね、
漫画って。