同2015年。墓石の前で祈る老婆。それを見守る息子。今日は4年前に亡くなった夫の命日だ。今年も彼女は空っぽの墓の前から離れられない。


 いまから4年前の2011年、彼女の夫はその生涯に満足げに息を引き取った。

だが、遺体が死後すぐに行方不明となってしまったのだ。


 2011年のその夜は十分過ぎる月灯りが瞬いていた。複雑なレースの柄のように、主役を出し惜しみする雲の壁。不気味なほどに美しく仕組まれた演出を目撃する者は、残念ながら一羽のコウモリだけだった。


今宵も美しいものを見せてもらった。

この遺体の契約期間は5年間。

あっという間だ。

人々のためにも沢山の血を作ってもらわなければならない。

さぁそろそろお別れの時間だ。連れて行くぞ。


 二本の針が揃って空を見上げる。棺に父の亡骸を寝かせた後、真夜中に鳴り響く音を数えながら、リビングを離れた。テラスに立つ母の肩を抱くと、父の愛が月灯りとなって二人に降り注ぐ。安心して眠る父の顔を、半日見つめ続け、日を跨いだ今、ようやく死を受け入れる事が出来たばかり。それなのに...


 父だけではなかった。月が満たされる度、各地で遺体が消えた。

まるで神隠しにでもあったかのように。共通しているのは近くでコウモリが目撃されている事。

遺体が入っているはずの棺を開けると、中から一羽のコウモリが飛び立っていったという証言もある。

 こうした事から、各地で遺体が消えているのはヴァンパイアの仕業ではないか?と噂になっている。