白線の向こう側
「申し訳ございません。すぐに商品をお取替えいたします」
はぁ、まったくバカバカしいったらありゃしない。
なんで私がクレーム係なのよ。
専門学校を出て、パリに修行まで行った私が、なんでクレーム係なのよ。
確かに、クレームブリュレのクレーム担当なのかなと思って「任せてください」って言った私も私だけどさ。
だけど、こんなマニュアル通りの仕事じゃなくて、もっと自分のアイディアで創ってい、
「はい、もしもし、ラングド社です。申し訳ございません。すぐに係りの者に伺わせますので少々お待ちくださいませ」
今日も仕事が終わった。
駅のホームで帰りの電車を待っている。
私、謝って一生を終えるんだわ。
線路の向こうから電車が来る。
死んだら楽になれるかな。
でも、死んだら会社にクレーム言われるかも。
じゃあ「申し訳ございませーん」って言って飛び落ちたらいいか。
でもそれじゃあ、”謝って”転落ってボケたみたいだし、
だめだめ、私、最後の最後にスベりたくない。
それに、他人の敷いたレールの上で死ぬなんて真っ平だわ…
「大丈夫ですか?」
突然、声がして、我に返った。
「すみません。大丈夫です…」
――立ちくらみ?なんだろう?この感覚――
頭がクラっと、足元がふらついて、私は一人、線路の底へ。
悲鳴が聞こえる。
とうとう終わるのね。
―誤って転落―
結局、最後まであやまった人生なのね。
心残りだわ。
だって、私。
こいに落ちたんですもの。