今年10月11日未明、福岡市博多区の安倍整形外科で火災が発生し、入院患者10名が亡くなりました。そのうち8名の方が高齢の患者さんであったと報じられました。ほんとうに衝撃的で、痛ましい事件です。
発火原因は今究明中だと思われますが、リハビリ室のホットパックの加熱装置の電源コンセントのショートによる発火がもっとも有力視されています。
消防庁はこの事件を受けて、スプリンクラーの設置などの義務づけを、厳しくする可能性が大きいでしょう。しかし、グループホームや20床未満の診療所など、小規模施設にもスプリンクラーの設置を義務づけたとしても焼死事故を完全になくすことはできないでしょう。
なぜなら、万が一の際にスプリンクラーが正常に作動するよう整備するのは人間であり、施設の管理者や消防署の立ち入り検査官が注意不足で見落としがあれば、このような事故はまた起きる可能性があるからです。実際、今回の火災に際しても、防火扉は自動的に作動していなかったことが指摘されています。これまでの定期的なチェックに甘さがあった疑念が残ります。
一式2000万円もかかるスプリンクラーを完備する前に、施設側でなすべきことは次のようなことではないでしょうか。
(1)経営の最高責任者が、定期的に現場をまわり、あらかじめ作成したチェックリストにしたがって、安全 をこの目で確かめ、不備・不具合を発見し、速やかに対策を講じる努力を怠らないこと。これが火災の 発生予防につながります。「まさか」の思い込みは禁物です。
(例) 旧式の機器の廃棄・更新、雨漏りの点検と補修、古い配線の更新、コンセントのほこりの除去、 たこ足配線の廃止、石油ストーブなどの暖房機周辺の燃えやすいものの除去
(2)万が一に備えて、消火器の設置計画を立てて速やかに配置し、併せてすぐそばの壁などに、消化液 の詰め替え期限を、だれもが視認できるように掲示すること。消化液は台所など要所には複数台設置 すること。
(3)近隣の人々に万が一に備えて、入所者(入居者)の搬出への協力を呼びかけ、定期的な模擬訓練を
職員と近隣の人々が一緒に実施できる体制を作り上げておくこと。
スプリンクラー設置がもし義務づけられたら、診療所も小規模介護事業所も経営が立ち行かなくなります。そうなった時に本当に困るのは、施設の管理者はもちろんのこと、患者や要介護者、その家族です。
患者・要介護者難民を大量に生み出さないためには、少しだけのお金と少なくはない手間がかかりますが、施設側がやるべき事を速やかにやっていかなければなりません。
すこし硬い話になりましたが、転ばぬ先の杖、です。
南風