ブログ一ヶ月記念 リクエスト第三弾
☆seiさんリクエスト☆
「キョーコが女優として一気に有名になるってのはどうでしょう。オーデションで、日本を舞台にしたアメリカのドラマに出演が決定。役的には、主役の通訳兼助手で、大人美人。
ドラマの監督スタッフは勿論、毎回のドラマの目玉ゲストとして多数来日する、スター俳優たちにも気に入られ、交友関係も華やかになっていくし、スキンシップにも慣れていく、というのを、レンの視点から。」
とうとうアメンバー80人超えちゃいました!皆さんありがとうございます!!
ではでは、今回のはかなり苦戦しました!!
お気に召していただけるか?
お楽しみ下さい☆
*****
君は既に高嶺の花
大手芸能事務所LMEの社長ローリー宝田のプライベートの敷地内にある迎賓館で、現在、華やかなパーティーが開かれていた。
このパーティーは、この春公開予定の日本を舞台にした今話題のハリウッド映画の完成記念パーティーだ。
ローリーのプライベート迎賓館でパーティーが開かれたのには勿論理由がある。
ローリーの秘蔵っ子であるラブミー部の京子がオーディションで見事勝ち残り、主役との絡みも多いメインレギュラーの役をやり遂げたからである。
日本を舞台にしたわりに、メインレギュラーでは日本人の起用の枠は一人しかなく、京子の出演が決まってからというもの、連日連夜テレビや新聞で騒がれることとなり、日本で京子の名を知らぬ者はいない程にもなっていた。
ローリーは映画の監督に完成記念パーティーの話を持ち出し、京子を起用したことへの感謝と映画の成功を祝い、自らプロデュースを買って出り、このようなパーティーを開いたのだ。
そして、やはり流石芸能事務所の社長と言う所か、ここはビジネス。
映画には出演していないLMEの俳優やタレントや業界の監督達やプロデューサーも多数呼び寄せ、ハリウッドと日本の監督、プロデューサーへの顔見せも抜かりなく兼ねていた。
京子に次ぐ看板俳優の敦賀蓮も、招待客の内の一人だ。
「なぁ、聞いたか?今度はあのハリウッドスターのジム=ターナーらしいぜ?!」
スタッフが何やら話をしている。
「うほっ!マジかよ?!やるなぁー京子!!」
途端に、蓮の耳がダンボになる。
「こないだは、あのアクションで有名なトミー=ウィルソンだったよな?」
「お、おい!蓮?」
隣にいた社の顔が引き攣る。それだけで、今の会話で敦賀蓮の仮面が剥がれていたことに気付き、急いで敦賀蓮の仮面をつけ直した。
日本を舞台にしたスパイ映画は、俳優に多くハリウッドスターが使われていたこともあり、日本に来日して撮影が行われることから、ハリウッドスターが来日する毎に話題が集まっていた。
元々英語が堪能な京子は、特に不自由もなく海外から来た監督やスタッフ、役者とも会話ができる為、日本語と英語の橋渡しとしても多いに重宝され、また細やかな気遣いを怠らない京子はたちまち、監督、スタッフ、俳優と皆から人気が集まり、皆から愛され可愛がられていた。
「昨日、抱き合ってる写真がスッパ抜かれてたよ!」
「うわっ!やるなぁー。まぁ、それが向こうの挨拶みたいなもんだからな。」
蓮の笑顔の仮面の裏ではイライラが募っていた。
「監督も、スタッフも、ハリウッドスターまでも虜にするって、ある意味凄い才能だよな!!」
「この間なんて、三ツ星の高級レストランでマイク=ランドと、食事取ってたって俺聞いたぜ?ま、マネージャーも一緒だったみたいだけどさ!!あれはマジ狙いだって噂だぜ!!」
やや興奮気味に話してる会話が気に入らない。
目の前に挨拶に来た女優と笑顔で会話を交わしながら、意識は完全に背後で交わされるスタッフ達の話に向いていた。
ーーパキン
蓮の持っていたグラスが不自然な音を立てて突然割れた。
目の前の女優と社は驚き慌てたが、蓮は割れたことにも気付けないくらい余裕がなく、無理に笑顔を作っている為、不自然で堪らない。
割れたグラスを握り続けてるのに、それにすら気付かず笑顔を振りまく蓮に、若干引いてしまった女優は早々と話を切り上げて、その場を離れて行ってしまった。
社は溜息を吐くと、蓮にだけ聞こえる様にボソリと呟く。
「全く…。だから、言わんこっちゃない…。さっさと物にしないからだよ。」
「…何のことですか?」
蓮は未だに怖いくらいのニコニコとひたすら笑顔を浮かべている。
「キョーコちゃんだよ。言っただろ?女の子の成長は早いって…。」
「………。」
蓮は何も答えなかった…いや、答えれなかったと言うべきか。
「おい!もうすぐ京子ちゃんが到着するってよ!!」
「本当かよー!一言ぐらい話し出来ないかなぁ~!サインとか欲しいよな。」
「ははは、無理無理!相手はあの世界の京子だぜ?!」
「残念だよなー。俺実はデビューした時から狙ってたんだぜ。」
「嘘こけ!お前は、BOX"R"からだろうが!!」
「んな!何でそんなこと知ってるんだよ~。」
「ふふん。俺の方が早く目を付けてたからだよ。」
「バーカどっちにしろ、相手にされないよ。何てったって、京子ちゃんの周りには今やハリウッドスターがわんさかいるんだぜ?よりどりみどりだろ?!」
「とか言うお前が一番惚れてたんだよなー?」
「うるせーよ!!しょうがねぇだろ!!勝負する前から負けることはわかり切ってんだからさ!」
「本当に、遠くなったよなぁ~。」
「もっと遠くに行くんだろうなぁ~。」
男達が語り合っている言葉を聞いて、蓮の中でも様々な感情が浮かび上がる。
キョーコが自分の手の届かない場所に行くのではないかと言う不安、デビューして間もないと言うのにハリウッドに認められた事への嫉妬心、憧れ、羨望、そして手に入らない焦りと、湧き上がる焦燥感。
蓮は新しいグラスを受け取ると、中に入っていたアルコールを一気に飲み干した。
アルコールの熱が喉を焦がす。
キョーコにとって、今自分はどんな位置にいるのだろうか?
役者としてあっという間に追い抜かれてしまった自分は、尊敬する先輩という立場すらも危うくなって来ている。
ーーーあの子の中に俺の居場所はあるんだろうか…?
蓮はグッと瞳を閉じた。
それと同時に飲み干したアルコールのグラスもまた新たな犠牲になった。
蓮がキョーコへの想いを馳せている時、会場が一気にざわめきだった。
蓮が慌てて顔を上げると、思った通り愛しい少女の姿があったが、その姿は少女と表現するよりも既に立派な"大人のレディ"と表現すべきだろう。
主演男優マイク=ランドのエスコートを受けて優雅に微笑みを浮かべて歩いている。
途端に沢山の仕事仲間に囲まれ、近付くに近付けない。
遠くからみつめることしか出来ない蓮、他の男の腕の中で可愛らしくも美しい微笑みを浮かべる愛しい彼女。
キョーコと蓮、二人の目が一瞬合った。
キョーコは蓮に艶やかな微笑みを浮かべ軽く会釈をすると、目の前の人たちとの会話に戻って明るい笑顔を向けていた。
蓮は、キョーコの姿を気付かぬ内に目で追ってしまっていた。
キョーコの腰に添えられた手が、男がキョーコの肩を抱く腕が、男の腕に手を絡ませるキョーコの腕が…気になってしょうがない。
パックリ空いた背中に向かう男達の視線に殺意さえ覚えてしまう。
そして、蓮が中でも一番気になることは、挨拶のキスとハグを何の戸惑いもなく受けて、あろうことかキョーコもお返しをしているということだ。
蓮は今すぐあの輪の中から強引にでも連れ出して、抱き締めて閉じ込めて、誰にも見られない所に隠してしまいたいという衝動に駆られるのを、なんとか理性を総動員させて、辛うじて押さえ込んでいるという本当にギリギリの状態だった。
蓮はアルコールを次々と口にしており、悪酔いして気分が悪くなってしまった。
これ以上ここにいても気分も機嫌も最悪になるだけだと思った蓮は、社長に泊まる為に準備されていた部屋に、早々引き上げることにした。
社に具合が悪くなったから先に休むと伝え、一人足早に部屋に引き上げた。
蓮がベッドに潜り込み、休もうとしている時だった。
突然、部屋のドアがノックされた。
無視をしていると遠慮気味にもう一度ノックの音が聞こえた。
蓮はもう寝る気満々だったので、再び無視しようとしたのだが、聞こえて来た声に勢いよく飛び上がった。
「敦賀さん?お加減が悪いと伺いましたが、大丈夫ですか?」
「最上さん…?」
蓮は慌てて起き上がると、急ぎ足でキョーコの声のするドアへ向かった。
慌ててドアを開けると、そこにはキョーコが先ほどのドレスのまま立っていた。
間近で見て、思わず蓮の喉が鳴る。
キョーコの美しさは、まさに言葉通り息を飲む程の美しさだった。
「敦賀さん…。大丈夫ですか??」
キョーコが下からおずおずと顔を覗き込む。
どんなに有名になっても、その愛らしさと優しさ、気遣いは変わらない愛しい少女。
ドレスの大きく空いた胸元に僅かだが谷間が覗いている。
蓮の理性がアルコールも手伝って普段よりも頼りなくグラグラ揺れる。
「あんまり…大丈夫じゃない…かも…。」
「えぇ?!」
蓮の独り言のような頼りない声が聞こえて、キョーコは驚きの声をあげた。
「ごめん…。だから、会場に早く戻って?」
蓮は早々に危険な今の状態の自分からキョーコを避難させようとしたのだが、キョーコが応じるはずもなく、キョーコはまんまと蓮の腕をくぐって蓮のテリトリーに入って来てしまった。
「何言ってるんですか!!体調の悪い敦賀さんを一人にしておけません!」
「君は、今日のパーティーの主役だろう?皆探してるんじゃないのか?」
「ふふふ。今は皆さん、社長さんの出し物に釘付けですよ。心配いりません。」
「でも…いいの?誰かが君を探してて、俺の部屋にいるなんてバレたら…」
蓮はキョーコを気遣ってるつもりの言葉でも、自分が彼女に相応しい人間でないという自信のない思いから、弱音隠して言葉にしていた。
ーーー彼女は、ハリウッドでも認められた存在だ…。俺なんかが側にいていいはずがない。
蓮が暗い表情を見せて、苦しげに顔を背けるので、キョーコの顔も曇る。
「あの…。もしかして、ご迷惑…でしたか…?」
「そんなこと…」
ーーない!と言おうとして、キョーコをみると、うっすらと涙を浮かべて下を向いていた。
「最上さん?」
蓮は思わずキョーコの頬に触れようと手を伸ばすが、思い留まりその手を強く握り込んだ。
ーーー今、彼女に触れたら…自分が何を仕出かすかわかったもんじゃない。
蓮は再び顔を逸らすと、キョーコに言った。苦しい想いを抱えたまま言ってしまったからなのか、いつもより素っ気なく冷たい声となっていた。
「今から寝るだけだから、大丈夫だよ。君は戻っていいよ。」
キョーコは、蓮に突き放された気がして、急に涙をポロポロと流し始めた。
蓮はそんなキョーコの姿にギョッとする。
「も、最上…さん??」
「やっと…貴方に近付けたと思ったのに…。」
キョーコはポロポロと涙を流しながら懸命に言葉を絞り出す。
「この映画が成功したら、ずっと秘めてた想いを、貴方に伝えようと思ってたんです。」
「…え?」
蓮はキョーコが何を言いたいのかわからずに混乱する。
キョーコは泣きながら、何を自分に伝えようとしているのか?
「最上さん、とにかく落ち着いて…!こっちにおいで…。」
少し戸惑いつつも、キョーコをソファまでエスコートをする。
キョーコは泣きながら蓮のエスコートに大人しく従うと、ソファに腰を降ろした。
蓮は隣には座らずに、キョーコの為に飲み物を用意しようとして立ち上がったのだが、それはキョーコに服の端を掴まれ、阻止されてしまった。
蓮はキョーコの目の前に膝を付き腰を降ろすと、キョーコの顔を覗き込んだ。
「どうした?」
「敦賀さんに、どうしても、伝えたいことがあるんです。」
キョーコは涙を流しながら辛そうに言った。
蓮は何を言われるのか不安で堪らず、死刑宣告でも待つ気分で、唇を噛み締め、キョーコの言葉を待った。
「敦賀さんにとって、凄く気分を悪くさせてしまう話かもしれませんが、どうしても敦賀さんに聞いて欲しいんです!!」
キョーコの優れない表情から、どうしても悪い方に考えが向いてしまう。
もう先輩とは思えないとか、恋人が出来て向こうで一緒に暮らすことになったとか、そんな話だろうか?
次のキョーコの言葉が怖くて、耳を塞ぎたくなる。
「あの、私…実は……」
キョーコが言いかけて言葉を切り、躊躇しているので、蓮は耐えられずキョーコを抱き締めて口を開いた。
「嫌だ!!ダメだ!!行かないでくれ!!俺は君じゃないと駄目なんだ!!」
キョーコは蓮の行動の意味と、言葉の意味が理解出来ず、混乱した。
「え?!ちょっと!敦賀さん?!?!」
「どうして、そんなに遠くに行こうとするの?!嫌だよ!絶対離さない!!」
「つ、敦賀さん?!どうされたんですか?落ち着いて下さい!!」
キョーコは蓮の腕の中で真っ赤になりアワアワと狼狽えていた。
「俺はずっと君のことが好きなんだ!!俺から離れて行かないで!!ずっと俺の側にいてくれ!!誰にも君を渡したくないんだ!!君だけを愛してるんだ!!!!」
蓮はずっと言いたくて言えなかった想いを一気に言い放った。
キョーコは蓮の腕の中で息を呑み固まってしまった。
蓮は動きが止まったキョーコを更にキツく抱きしめる。
しばらく無言が続いた。
どっちの心臓の音かわからないくらい、二人の心臓は早鐘を打っていた。
蓮の腕の中から、キョーコの啜り泣く声が聞こえた。
ーーー言ってしまった…。これでもう、良い先輩にも戻れない…。
蓮は絶望的な気持ちでゆっくりとキョーコを抱き締める腕の拘束を緩めていった。
その時、蓮の拘束が緩んで腕が自由になったキョーコは、蓮の肩を下からキュッと握った。
離れようとしている蓮の動きがピキンと止まる。
キョーコが小さな小さな声で涙声になりながら呟いた。
「本当…ですか?」
蓮の肩を掴む手が弱々しく震えている。
蓮はもう我慢出来なかった。
もう一度キョーコを力強くギュッと抱き締めるとそのままキョーコをソファに押し倒してしまった。
「本当…だよ。」
蓮がこれから自分がキョーコの気持ちを無視してしようとしていることを思って、苦しそうに言葉を絞り出す。
すると、次に蓮の耳に入って来た言葉は、蓮の予想を大きく裏切るものだった。
「嬉しい…。」
「…え?」
キョーコがポツリと呟いた言葉の意味がわからず、蓮が慌てて身を起こし、キョーコを見つめる。
キョーコは目に涙をいっぱい溜めたまま、ニッコリと嬉しそうに微笑んでいた。
蓮はそんなキョーコの姿に衝撃を受けると、固まってしまった。
キョーコは、蓮の肩を掴んでいた腕を、蓮の背中に回すと、ギュッと抱きついて来た。
「私も、敦賀さんの事が好きになってたんです。」
「…え?」
今度はキョーコの言葉と行動に蓮が固まる番だった。
「本当…に?」
蓮が信じられない…という表情で聞くので、キョーコは、蓮の頬に手を添えて、しっかりと目を見て答えた。
「本当です。」
蓮とキョーコは至近距離で見つめ合う。
しばらく無言で見つめあっていた二人の距離は、徐々に近付いていた。
どちらからともなく、自然に二人はキスを交わした。
幸せでたまらない、甘くて優しいキス。
二人はきっとこのキスは永遠に忘れられないだろうと思った。
段々と深くなるキスに二人で溺れていく。
もっともっと…お互いを感じたい…。
蓮が離れていたと思っていた距離は、キョーコが蓮に近づこうとして生まれた距離だった。
お互いに秘めていた想いがようやく通じ合い、二人はとてもとても幸せで暖かい時間を過ごすのだった。
END
*****
ははは☆ようやくリクエストにお答えするとこが出来ました!
seiさん、どうでしたでしょうか??
ご期待に答えれてますでしょうか??
気に入った方いましたら、ご自由にお持ち帰り下さいませ。
なかなか考えさせられて、面白いリクエストでした!
sei様、ありがとうございました!!
☆seiさんリクエスト☆
「キョーコが女優として一気に有名になるってのはどうでしょう。オーデションで、日本を舞台にしたアメリカのドラマに出演が決定。役的には、主役の通訳兼助手で、大人美人。
ドラマの監督スタッフは勿論、毎回のドラマの目玉ゲストとして多数来日する、スター俳優たちにも気に入られ、交友関係も華やかになっていくし、スキンシップにも慣れていく、というのを、レンの視点から。」
とうとうアメンバー80人超えちゃいました!皆さんありがとうございます!!
ではでは、今回のはかなり苦戦しました!!
お気に召していただけるか?
お楽しみ下さい☆
*****
君は既に高嶺の花
大手芸能事務所LMEの社長ローリー宝田のプライベートの敷地内にある迎賓館で、現在、華やかなパーティーが開かれていた。
このパーティーは、この春公開予定の日本を舞台にした今話題のハリウッド映画の完成記念パーティーだ。
ローリーのプライベート迎賓館でパーティーが開かれたのには勿論理由がある。
ローリーの秘蔵っ子であるラブミー部の京子がオーディションで見事勝ち残り、主役との絡みも多いメインレギュラーの役をやり遂げたからである。
日本を舞台にしたわりに、メインレギュラーでは日本人の起用の枠は一人しかなく、京子の出演が決まってからというもの、連日連夜テレビや新聞で騒がれることとなり、日本で京子の名を知らぬ者はいない程にもなっていた。
ローリーは映画の監督に完成記念パーティーの話を持ち出し、京子を起用したことへの感謝と映画の成功を祝い、自らプロデュースを買って出り、このようなパーティーを開いたのだ。
そして、やはり流石芸能事務所の社長と言う所か、ここはビジネス。
映画には出演していないLMEの俳優やタレントや業界の監督達やプロデューサーも多数呼び寄せ、ハリウッドと日本の監督、プロデューサーへの顔見せも抜かりなく兼ねていた。
京子に次ぐ看板俳優の敦賀蓮も、招待客の内の一人だ。
「なぁ、聞いたか?今度はあのハリウッドスターのジム=ターナーらしいぜ?!」
スタッフが何やら話をしている。
「うほっ!マジかよ?!やるなぁー京子!!」
途端に、蓮の耳がダンボになる。
「こないだは、あのアクションで有名なトミー=ウィルソンだったよな?」
「お、おい!蓮?」
隣にいた社の顔が引き攣る。それだけで、今の会話で敦賀蓮の仮面が剥がれていたことに気付き、急いで敦賀蓮の仮面をつけ直した。
日本を舞台にしたスパイ映画は、俳優に多くハリウッドスターが使われていたこともあり、日本に来日して撮影が行われることから、ハリウッドスターが来日する毎に話題が集まっていた。
元々英語が堪能な京子は、特に不自由もなく海外から来た監督やスタッフ、役者とも会話ができる為、日本語と英語の橋渡しとしても多いに重宝され、また細やかな気遣いを怠らない京子はたちまち、監督、スタッフ、俳優と皆から人気が集まり、皆から愛され可愛がられていた。
「昨日、抱き合ってる写真がスッパ抜かれてたよ!」
「うわっ!やるなぁー。まぁ、それが向こうの挨拶みたいなもんだからな。」
蓮の笑顔の仮面の裏ではイライラが募っていた。
「監督も、スタッフも、ハリウッドスターまでも虜にするって、ある意味凄い才能だよな!!」
「この間なんて、三ツ星の高級レストランでマイク=ランドと、食事取ってたって俺聞いたぜ?ま、マネージャーも一緒だったみたいだけどさ!!あれはマジ狙いだって噂だぜ!!」
やや興奮気味に話してる会話が気に入らない。
目の前に挨拶に来た女優と笑顔で会話を交わしながら、意識は完全に背後で交わされるスタッフ達の話に向いていた。
ーーパキン
蓮の持っていたグラスが不自然な音を立てて突然割れた。
目の前の女優と社は驚き慌てたが、蓮は割れたことにも気付けないくらい余裕がなく、無理に笑顔を作っている為、不自然で堪らない。
割れたグラスを握り続けてるのに、それにすら気付かず笑顔を振りまく蓮に、若干引いてしまった女優は早々と話を切り上げて、その場を離れて行ってしまった。
社は溜息を吐くと、蓮にだけ聞こえる様にボソリと呟く。
「全く…。だから、言わんこっちゃない…。さっさと物にしないからだよ。」
「…何のことですか?」
蓮は未だに怖いくらいのニコニコとひたすら笑顔を浮かべている。
「キョーコちゃんだよ。言っただろ?女の子の成長は早いって…。」
「………。」
蓮は何も答えなかった…いや、答えれなかったと言うべきか。
「おい!もうすぐ京子ちゃんが到着するってよ!!」
「本当かよー!一言ぐらい話し出来ないかなぁ~!サインとか欲しいよな。」
「ははは、無理無理!相手はあの世界の京子だぜ?!」
「残念だよなー。俺実はデビューした時から狙ってたんだぜ。」
「嘘こけ!お前は、BOX"R"からだろうが!!」
「んな!何でそんなこと知ってるんだよ~。」
「ふふん。俺の方が早く目を付けてたからだよ。」
「バーカどっちにしろ、相手にされないよ。何てったって、京子ちゃんの周りには今やハリウッドスターがわんさかいるんだぜ?よりどりみどりだろ?!」
「とか言うお前が一番惚れてたんだよなー?」
「うるせーよ!!しょうがねぇだろ!!勝負する前から負けることはわかり切ってんだからさ!」
「本当に、遠くなったよなぁ~。」
「もっと遠くに行くんだろうなぁ~。」
男達が語り合っている言葉を聞いて、蓮の中でも様々な感情が浮かび上がる。
キョーコが自分の手の届かない場所に行くのではないかと言う不安、デビューして間もないと言うのにハリウッドに認められた事への嫉妬心、憧れ、羨望、そして手に入らない焦りと、湧き上がる焦燥感。
蓮は新しいグラスを受け取ると、中に入っていたアルコールを一気に飲み干した。
アルコールの熱が喉を焦がす。
キョーコにとって、今自分はどんな位置にいるのだろうか?
役者としてあっという間に追い抜かれてしまった自分は、尊敬する先輩という立場すらも危うくなって来ている。
ーーーあの子の中に俺の居場所はあるんだろうか…?
蓮はグッと瞳を閉じた。
それと同時に飲み干したアルコールのグラスもまた新たな犠牲になった。
蓮がキョーコへの想いを馳せている時、会場が一気にざわめきだった。
蓮が慌てて顔を上げると、思った通り愛しい少女の姿があったが、その姿は少女と表現するよりも既に立派な"大人のレディ"と表現すべきだろう。
主演男優マイク=ランドのエスコートを受けて優雅に微笑みを浮かべて歩いている。
途端に沢山の仕事仲間に囲まれ、近付くに近付けない。
遠くからみつめることしか出来ない蓮、他の男の腕の中で可愛らしくも美しい微笑みを浮かべる愛しい彼女。
キョーコと蓮、二人の目が一瞬合った。
キョーコは蓮に艶やかな微笑みを浮かべ軽く会釈をすると、目の前の人たちとの会話に戻って明るい笑顔を向けていた。
蓮は、キョーコの姿を気付かぬ内に目で追ってしまっていた。
キョーコの腰に添えられた手が、男がキョーコの肩を抱く腕が、男の腕に手を絡ませるキョーコの腕が…気になってしょうがない。
パックリ空いた背中に向かう男達の視線に殺意さえ覚えてしまう。
そして、蓮が中でも一番気になることは、挨拶のキスとハグを何の戸惑いもなく受けて、あろうことかキョーコもお返しをしているということだ。
蓮は今すぐあの輪の中から強引にでも連れ出して、抱き締めて閉じ込めて、誰にも見られない所に隠してしまいたいという衝動に駆られるのを、なんとか理性を総動員させて、辛うじて押さえ込んでいるという本当にギリギリの状態だった。
蓮はアルコールを次々と口にしており、悪酔いして気分が悪くなってしまった。
これ以上ここにいても気分も機嫌も最悪になるだけだと思った蓮は、社長に泊まる為に準備されていた部屋に、早々引き上げることにした。
社に具合が悪くなったから先に休むと伝え、一人足早に部屋に引き上げた。
蓮がベッドに潜り込み、休もうとしている時だった。
突然、部屋のドアがノックされた。
無視をしていると遠慮気味にもう一度ノックの音が聞こえた。
蓮はもう寝る気満々だったので、再び無視しようとしたのだが、聞こえて来た声に勢いよく飛び上がった。
「敦賀さん?お加減が悪いと伺いましたが、大丈夫ですか?」
「最上さん…?」
蓮は慌てて起き上がると、急ぎ足でキョーコの声のするドアへ向かった。
慌ててドアを開けると、そこにはキョーコが先ほどのドレスのまま立っていた。
間近で見て、思わず蓮の喉が鳴る。
キョーコの美しさは、まさに言葉通り息を飲む程の美しさだった。
「敦賀さん…。大丈夫ですか??」
キョーコが下からおずおずと顔を覗き込む。
どんなに有名になっても、その愛らしさと優しさ、気遣いは変わらない愛しい少女。
ドレスの大きく空いた胸元に僅かだが谷間が覗いている。
蓮の理性がアルコールも手伝って普段よりも頼りなくグラグラ揺れる。
「あんまり…大丈夫じゃない…かも…。」
「えぇ?!」
蓮の独り言のような頼りない声が聞こえて、キョーコは驚きの声をあげた。
「ごめん…。だから、会場に早く戻って?」
蓮は早々に危険な今の状態の自分からキョーコを避難させようとしたのだが、キョーコが応じるはずもなく、キョーコはまんまと蓮の腕をくぐって蓮のテリトリーに入って来てしまった。
「何言ってるんですか!!体調の悪い敦賀さんを一人にしておけません!」
「君は、今日のパーティーの主役だろう?皆探してるんじゃないのか?」
「ふふふ。今は皆さん、社長さんの出し物に釘付けですよ。心配いりません。」
「でも…いいの?誰かが君を探してて、俺の部屋にいるなんてバレたら…」
蓮はキョーコを気遣ってるつもりの言葉でも、自分が彼女に相応しい人間でないという自信のない思いから、弱音隠して言葉にしていた。
ーーー彼女は、ハリウッドでも認められた存在だ…。俺なんかが側にいていいはずがない。
蓮が暗い表情を見せて、苦しげに顔を背けるので、キョーコの顔も曇る。
「あの…。もしかして、ご迷惑…でしたか…?」
「そんなこと…」
ーーない!と言おうとして、キョーコをみると、うっすらと涙を浮かべて下を向いていた。
「最上さん?」
蓮は思わずキョーコの頬に触れようと手を伸ばすが、思い留まりその手を強く握り込んだ。
ーーー今、彼女に触れたら…自分が何を仕出かすかわかったもんじゃない。
蓮は再び顔を逸らすと、キョーコに言った。苦しい想いを抱えたまま言ってしまったからなのか、いつもより素っ気なく冷たい声となっていた。
「今から寝るだけだから、大丈夫だよ。君は戻っていいよ。」
キョーコは、蓮に突き放された気がして、急に涙をポロポロと流し始めた。
蓮はそんなキョーコの姿にギョッとする。
「も、最上…さん??」
「やっと…貴方に近付けたと思ったのに…。」
キョーコはポロポロと涙を流しながら懸命に言葉を絞り出す。
「この映画が成功したら、ずっと秘めてた想いを、貴方に伝えようと思ってたんです。」
「…え?」
蓮はキョーコが何を言いたいのかわからずに混乱する。
キョーコは泣きながら、何を自分に伝えようとしているのか?
「最上さん、とにかく落ち着いて…!こっちにおいで…。」
少し戸惑いつつも、キョーコをソファまでエスコートをする。
キョーコは泣きながら蓮のエスコートに大人しく従うと、ソファに腰を降ろした。
蓮は隣には座らずに、キョーコの為に飲み物を用意しようとして立ち上がったのだが、それはキョーコに服の端を掴まれ、阻止されてしまった。
蓮はキョーコの目の前に膝を付き腰を降ろすと、キョーコの顔を覗き込んだ。
「どうした?」
「敦賀さんに、どうしても、伝えたいことがあるんです。」
キョーコは涙を流しながら辛そうに言った。
蓮は何を言われるのか不安で堪らず、死刑宣告でも待つ気分で、唇を噛み締め、キョーコの言葉を待った。
「敦賀さんにとって、凄く気分を悪くさせてしまう話かもしれませんが、どうしても敦賀さんに聞いて欲しいんです!!」
キョーコの優れない表情から、どうしても悪い方に考えが向いてしまう。
もう先輩とは思えないとか、恋人が出来て向こうで一緒に暮らすことになったとか、そんな話だろうか?
次のキョーコの言葉が怖くて、耳を塞ぎたくなる。
「あの、私…実は……」
キョーコが言いかけて言葉を切り、躊躇しているので、蓮は耐えられずキョーコを抱き締めて口を開いた。
「嫌だ!!ダメだ!!行かないでくれ!!俺は君じゃないと駄目なんだ!!」
キョーコは蓮の行動の意味と、言葉の意味が理解出来ず、混乱した。
「え?!ちょっと!敦賀さん?!?!」
「どうして、そんなに遠くに行こうとするの?!嫌だよ!絶対離さない!!」
「つ、敦賀さん?!どうされたんですか?落ち着いて下さい!!」
キョーコは蓮の腕の中で真っ赤になりアワアワと狼狽えていた。
「俺はずっと君のことが好きなんだ!!俺から離れて行かないで!!ずっと俺の側にいてくれ!!誰にも君を渡したくないんだ!!君だけを愛してるんだ!!!!」
蓮はずっと言いたくて言えなかった想いを一気に言い放った。
キョーコは蓮の腕の中で息を呑み固まってしまった。
蓮は動きが止まったキョーコを更にキツく抱きしめる。
しばらく無言が続いた。
どっちの心臓の音かわからないくらい、二人の心臓は早鐘を打っていた。
蓮の腕の中から、キョーコの啜り泣く声が聞こえた。
ーーー言ってしまった…。これでもう、良い先輩にも戻れない…。
蓮は絶望的な気持ちでゆっくりとキョーコを抱き締める腕の拘束を緩めていった。
その時、蓮の拘束が緩んで腕が自由になったキョーコは、蓮の肩を下からキュッと握った。
離れようとしている蓮の動きがピキンと止まる。
キョーコが小さな小さな声で涙声になりながら呟いた。
「本当…ですか?」
蓮の肩を掴む手が弱々しく震えている。
蓮はもう我慢出来なかった。
もう一度キョーコを力強くギュッと抱き締めるとそのままキョーコをソファに押し倒してしまった。
「本当…だよ。」
蓮がこれから自分がキョーコの気持ちを無視してしようとしていることを思って、苦しそうに言葉を絞り出す。
すると、次に蓮の耳に入って来た言葉は、蓮の予想を大きく裏切るものだった。
「嬉しい…。」
「…え?」
キョーコがポツリと呟いた言葉の意味がわからず、蓮が慌てて身を起こし、キョーコを見つめる。
キョーコは目に涙をいっぱい溜めたまま、ニッコリと嬉しそうに微笑んでいた。
蓮はそんなキョーコの姿に衝撃を受けると、固まってしまった。
キョーコは、蓮の肩を掴んでいた腕を、蓮の背中に回すと、ギュッと抱きついて来た。
「私も、敦賀さんの事が好きになってたんです。」
「…え?」
今度はキョーコの言葉と行動に蓮が固まる番だった。
「本当…に?」
蓮が信じられない…という表情で聞くので、キョーコは、蓮の頬に手を添えて、しっかりと目を見て答えた。
「本当です。」
蓮とキョーコは至近距離で見つめ合う。
しばらく無言で見つめあっていた二人の距離は、徐々に近付いていた。
どちらからともなく、自然に二人はキスを交わした。
幸せでたまらない、甘くて優しいキス。
二人はきっとこのキスは永遠に忘れられないだろうと思った。
段々と深くなるキスに二人で溺れていく。
もっともっと…お互いを感じたい…。
蓮が離れていたと思っていた距離は、キョーコが蓮に近づこうとして生まれた距離だった。
お互いに秘めていた想いがようやく通じ合い、二人はとてもとても幸せで暖かい時間を過ごすのだった。
END
*****
ははは☆ようやくリクエストにお答えするとこが出来ました!
seiさん、どうでしたでしょうか??
ご期待に答えれてますでしょうか??
気に入った方いましたら、ご自由にお持ち帰り下さいませ。
なかなか考えさせられて、面白いリクエストでした!
sei様、ありがとうございました!!