風月です☆
いつもお立ち寄りありがとうございます♪
今日は皆さんに、素敵なお話の
お届けです☆
ユンまんまさんより頂きました!!
素敵なSSです☆是非お楽しみ下さい♪
*****
《今回は先日皆様にご心配をおかけしたお詫びにフリー作品をアップしたいと思いますw
こんな駄文でもよろしければお持ち帰りくださいませ!!》
§病の気
『ハッ・・・クション!!』
蓮は思わず大きなくしゃみをしたキョーコを振り返り、心配そうに顔を曇らせた。
『風邪?』
『う~ん・・・』
蓮の言葉にキョーコも顔を曇らせた。
『そんなときは・・・・・』
蓮は入れたてのコーヒーにミルクを注いでキョーコが座るカウチソファーによく合うウッドテーブルにマグカップを置いた。
『俺から・・特性のカフェオレと・・・・はい、【ハーフロン】』
蓮は水の入ったコップと小さな薬のケースをキョーコに手渡した。
そこで映像は切り替わった。
『漢方由来成分で胃に優しく早く効く。』
ナレーションの後、映像が切り替わると蓮の入れたカフェオレのマグカップを持ったキョーコを蓮が後ろから抱きしめていた。
『『優しさをありがとう』』
***********
「これでオッケイでしょう!!次のバージョンもこの感じでお願いしますね?敦賀夫妻」
監督からそう言われた蓮とキョーコは笑顔で頷いた。
蓮とキョーコが結婚して初めての、しかも素に近い共演に社は浮き足立つのを押さえながら、次の準備で慌しく移動する二人を追いかけた。
「蓮、いい感じだな?」
「そうですか?・・・・社さんがそう言われるなら・・・そうなんじゃないんですか?」
「・・・・・・・・どうしたんだ?機嫌・・・悪いな?」
てっきり結婚二年目にしての初共演に蓮も喜んでいるのかと思ったのだが、衣装を着替えるためにカーテンで仕切られている向こう側からは覇気の無い蓮の声が返ってきた。
「・・・・別に・・・悪くないですよ・・・・機嫌なんて・・・」
そう言って着替えを終えて出てきた蓮は、明らかにカメラの前とは違って仏頂面だった。
「・・・・けんか・・・・したのか?」
この後の撮影の事も考え、社が恐る恐る訊ねるとむくれたまま蓮はソファーにドカリと腰を下ろした。
「・・・けんかすらしてません・・・・」
(!?・・・・・な・・・なんだ・・この重い空気は・・・・・)
社が冷や汗をダラダラと流していると、蓮の控え室の扉がノックされた。
「敦賀さん、スタンバイお願いします」
「あ・・はい・・・・あ・・・京子は?」
「ああ、奥様なら先にスタジオにいらしゃってますよ?」
ADはにこやかに蓮の問いに答えたのだが、それを聞いた社が真っ青になった。
(ええええ!!!?い・・・いつもなら蓮の所に直ぐ来るキョーコちゃんが!?ど・・・ど~しちゃったんだよっお前らっ)
表情を変えないでスタジオに向かいだした蓮の背中から、仄暗い空気がじわじわ出ているような気がして社はこの撮影が無事に終わるのか心配になってきた。
「それじゃあ、よろしくお願いします!!本番!!」
軽い打ち合わせを監督を交え終えたキョーコと蓮は先ほどのセットの中に立つと合図を待った。
「よ~い・・・スタート!!」
***********
『・・・・・・ふぅ・・・・・』
キョーコは少しだるそうにソファーにもたれ、額に手をやった。
『熱?・・・』
蓮はそんなキョーコに心配そうに寄り添い、自分の方へ向かせると、コツンとおでこ同士を合わせた。
『・・・・う~ん・・・少し・・・熱っぽいかな?・・・・・こんなときは・・・』
蓮はキョーコをボアで出来たストールで包んだ後、小さな薬の箱とお水を手渡した。
『熱に効く【ハーフロン -R-】』
そこで映像は切り替わる。
『【ハーフロン】から熱の風邪にも効く-R-錠が登場。漢方由来の成分に熱に効く成分を配合。胃に優しく早く効く。』
ナレーションが終わると、二人はソファーに座ったままキョーコは蓮に肩を抱かれ少し頭をもたれかからせていた。
『『優しさをありがとう』』
使用上の注意のテロップが流れている間、二人はじゃれるように蓮がキョーコの看病をしてお粥を食べさせている映像が映っていた。
**************
「オッケイ!!完璧です!!!」
薬の説明のために作られたCGとあわせた映像を確認した監督からオッケイをもらった二人は噂どおりの品行方正、仲睦まじいおしどり夫婦の雰囲気でスタッフ達に深々と挨拶すると、ビクビクする社を伴ってそれぞれの控え室に分かれようとした。
「・・・・後で迎えに行くから」
「・・・はい・・・」
さっきまでとは違う、極短い会話でお互いの控え室に入るのを社は青ざめながら見守ると、慌てて蓮の控え室に飛び込んだ。
「お・・・おい!!キョーコちゃんに何したんだよ!?・・・なんかキョーコちゃんも怒ってないか?」
「・・・知りませんよ・・・最近あんな風に冷たいんです・・・今回のこの仕事も嫌だったみたいだし・・」
少し落ち込みながら私服を掴んだ蓮はカーテンの向こうに消えた。
「・・・・そ・・・そんなことキョーコちゃん一言も言ってなかったぞ?それどころかこの間、お前が過労で倒れたこと本当に心配してたんだぞ!?」
「・・・・・・・・その辺りから・・・キョーコの態度がおかしいんです・・・」
「え?・・・・」
着替えが終わった蓮は腕時計をはめながら小さく深くため息をついた。
「・・・・なんか・・・いつも怒っているみたいだし・・・・夜も・・・最近は一緒に寝てくれなくなったんです・・・一人でゲストルームにこもっちゃうし・・・・・」
一番不満に思っていることがなんなのかわかった社は少し安心した。
少なくとも蓮はキョーコを嫌っているわけではないことが解ったからだ。
(・・・まあ・・・蓮だしな・・・・あんだけ苦労したのにそう簡単に手放すわけ無いか・・・・)
少し夫婦の生活の様子を除き見てしまった気がして社は顔を赤らめながら一人納得したが、そうなるとキョーコの方が気になってきた。
「いきましょうか・・・・社さん・・」
着替えも終わった蓮が荷物をまとめて控え室を出ようとしているのを社は驚愕の表情で追いかけた。
「れ・・蓮!キョーコちゃんが怒ってる原因とかわかんないのか?!」
「わかってるなら・・・こんな風に苦労はしてません・・・・・」
きっぱりと社にそう告げた蓮は怒りを秘めた無表情でキョーコの控え室の扉をノックした。
「・・・・・どうぞ・・・・」
扉の奥からくぐもったキョーコの声が聞こえ蓮がゆっくりと扉を開けて中に入った。
もちろん社は嫌々だったが蓮に促されて中に入った。
「・・・帰る用意・・・できた?」
「・・・・はい・・・・・」
出来るだけ蓮は優しい声を努めて出したが、キョーコは蓮どころか社とも視線を合わせようとせず頷いた。
礼儀正しいキョーコからは想像できない態度に社は驚き、蓮は大きなため息をついた。
「・・・・何か・・・不満があるなら言ってくれないと解らないだろ?」
いい加減、堪忍袋の緒が切れたのか蓮は少し棘のある言い方でキョーコの背中に言葉を吐いた。
すると、キョーコの肩が少し揺れて、動きが止まった。
「・・・・言って・・・いいんですか?」
キョーコの暗い声に蓮と社は顔を合わせてキョーコを見た。
すると、キョーコはキロリと鋭い視線を蓮に向けた。
「・・・・・おかしいと思うんです」
「な・・・何が?」
あまりにもどんよりしたキョーコの空気に蓮も社も気圧されだした。
「・・・・風邪ひく役は・・・私じゃなくて敦賀さんが最適なんじゃないんですか?」
「「え?・・・・・・」」
何を言われるかと構えていた二人はキョーコの言葉に唖然とした。
「・・・私は子供の頃には何回か風邪をひきましたが、もうここ何年も風邪なんてひいていません!・・・・でも、蓮さんはこの間風邪を・・・しかも悪化させて来られたじゃないですか!!」
きっとキョーコから睨まれて蓮も社も慌てた。
「そ・・・それは仕方ないだろう!?・・・・スポンサーからの要望での配役なんだし・・・・・」
「それは・・・そうですが・・・・この間から蓮さんの看病ばかりしてるんですよっ!?・・・・・それなのに蓮さんは演技での私の看病を楽しみなんて仰ってましたよね?!」
それはこの撮影の依頼が来たときにうっかり蓮が溢した一言だった。
「そ・・それは・・・・」
「風邪が悪化した後、詰め込んだスケジュールで無理がたたって過労で倒れられたばかりなのに・・・・私の看病を演技で出来てうれしいなんて・・・・・私の気も知らないでっ!!」
突然、キョーコが涙ぐみながら叫んだために蓮と社は動揺した。
「そ・・・そんな・・・泣かなくても・・・・」
「そ、そうだよキョーコちゃんっ・・・蓮はキョーコちゃんと夫婦として共演できるのが嬉しくてついうっかりそう言っちゃっただけなんだって!」
社も加わって蓮は必死にキョーコを泣き止ませた。
「でもっ・・・・蓮さん・・・直ぐに無理するしっ・・・私の話なんか聞かないでお仕事のためならどんなに熱があっても、フラフラでもお仕事に行かれちゃうのを私がどんな思いで見送ってるか知らないんです!!」
「ご・・ごめん・・・・」
「社さんから蓮さんが倒れたって連絡が来たとき私がどんな気持ちだったか知らないんです!!!」
「ほ、本当に・・・それは・・ごめん・・・・キョーコ・・・ちょっと落ち着いて・・・・」
蓮は今まで見たことがないほど泣き叫ぶキョーコの両腕を掴んだ。
「『自分は鍛えてるから』とか『丈夫だから』とか『不屈の精神』とか・・・・そんなことばっかり言ってたら本当に大変な事になっちゃうんですからね!?」
蓮を心配する言葉を怒りと共に吐き出すキョーコに蓮は落ち着かせるように両手でその頬を包み込み、おでこを合わせた。
その光景に社は慌てて背を向けながらも、キョーコが蓮の事を想っていることが解り自然と顔が綻んだ。
「うん・・・ごめん・・・もう、心配かけないから・・・・だから・・もう泣かないで・・・」
急速にいつもの甘い雰囲気が漂い始めたため、社は頬を掻きながらこっそり部屋を出ようとしたのだがキョーコの言葉に立ち止まった。
「本当に本当にもう、心配かけさせないで下さいよ!?・・・・もう・・蓮さん一人の体じゃないんですからっ!!」
「・・・・うん、キョーコのために・・・・」
「そうじゃ・・・ありません・・・・」
「・・・え?」
「え?・・・・」
キョーコの言葉に蓮も社も驚いて身動きできずに顔を赤くするキョーコを見つめた。
「・・・・・・・も・・・もう一人・・・・蓮さんが元気でいてくれないと困る人が・・・増えるんですっ・・・・・」
蓮が驚いた表情で真っ赤になりながらも、そっとお腹を守るように手をやるキョーコを見下ろしているのを社も驚愕の表情でドアノブを握ったまま見つめた。
「き・・・キ・・・キョーコちゃん・・・それって・・・・もしかして・・・」
「・・・・・・・・・・・・に・・・・2ヶ月・・・だ・・・そうです・・・・・・」
キョーコの話によれば、蓮が倒れたと社に病院へと呼び出された後、急に酷いめまいと吐き気に襲われて内科を受診したのだが産婦人科に回され妊娠2ヶ月と聞かされたのだった。
突然の事で固まる蓮に対して社は、狂喜乱舞をして大慌てでローリィに連絡するべく手術用手袋を満面の笑みではめると、携帯を開いてキョーコと蓮を残し控え室を飛び出していった。
「あ・・・あの・・・蓮さん?・・・・・」
先ほどから身動きせずに固まっている蓮に不安そうな顔をするキョーコが声をかけると、蓮は目を見開いたまま口を開いた。
「・・・・最近・・・・一緒に寝てくれなくなったのって・・・・」
ポツリと呟かれた言葉にキョーコは真っ赤になりながら蓮を軽く睨んだ。
「だ・・・だって・・・安定期に入るまでは・・・その・・・・しないで下さいって・・・・」
「あんまり話してくれなくなくなったのは?」
「直ぐに気分が悪くなってしまって・・・」
「この仕事・・嫌そうだったのは・・・」
「もしかしたら・・・お薬・・飲まないといけないのかなって・・・」
「・・・・て・・・てっきり・・・・俺との共演が嫌なのかと・・・・」
「そ、そんな訳ないじゃないですかっ・・・・・」
慌てて首を振るキョーコを呆然と見ていた蓮は恐る恐るキョーコの細い肩を抱き寄せ、まだ成長していないお腹をじっと見つめた。
「ほ・・・・本当に?」
「・・・・・・はい・・・・あの・・・喜んで下さいますか?」
キョーコが遠慮がちに顔を覗かせると、蓮から強烈な抱擁が返ってきた。
「もちろんだよ!!!・・・・・・・ああ!!ごめん!!痛くなかった!?ど・・どうしよう・・・抱っこして帰ろうか?」
「ええ!?病気じゃないんですから・・・・」
「病気なんてっ!キョーコには風邪なんて絶対引かせないから!!そうだ!さっきのストールもらってこようか!?」
ワタワタとしながらキョーコの肩を大事そうに抱えながら蓮がうろたえるのを、キョーコは微笑みながら落ち着くように言うのだった。
その後、このCMはシリーズ化されるほど人気を博した。それはひとえに二人の互いを思いあう空気感がいいからなのだが、この薬を二人が使うことはなかったのだった。
end
*****
フリー作品ということで、遠慮なく頂いちゃいました!!
素敵でしょう?!キューンとするでしょう?!
こんな二人、あり得そうでしょう?!
ユンまんまさんのお話は素敵なお話が多くって、いつもキュンキュンメロメロにさせられてます♪
またちょいちょいお邪魔するので、これからも素敵なお話が読めることを期待しております
よろしくお願いしますね
いつもお立ち寄りありがとうございます♪
今日は皆さんに、素敵なお話の
お届けです☆
ユンまんまさんより頂きました!!
素敵なSSです☆是非お楽しみ下さい♪
*****
《今回は先日皆様にご心配をおかけしたお詫びにフリー作品をアップしたいと思いますw
こんな駄文でもよろしければお持ち帰りくださいませ!!》
§病の気
『ハッ・・・クション!!』
蓮は思わず大きなくしゃみをしたキョーコを振り返り、心配そうに顔を曇らせた。
『風邪?』
『う~ん・・・』
蓮の言葉にキョーコも顔を曇らせた。
『そんなときは・・・・・』
蓮は入れたてのコーヒーにミルクを注いでキョーコが座るカウチソファーによく合うウッドテーブルにマグカップを置いた。
『俺から・・特性のカフェオレと・・・・はい、【ハーフロン】』
蓮は水の入ったコップと小さな薬のケースをキョーコに手渡した。
そこで映像は切り替わった。
『漢方由来成分で胃に優しく早く効く。』
ナレーションの後、映像が切り替わると蓮の入れたカフェオレのマグカップを持ったキョーコを蓮が後ろから抱きしめていた。
『『優しさをありがとう』』
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「これでオッケイでしょう!!次のバージョンもこの感じでお願いしますね?敦賀夫妻」
監督からそう言われた蓮とキョーコは笑顔で頷いた。
蓮とキョーコが結婚して初めての、しかも素に近い共演に社は浮き足立つのを押さえながら、次の準備で慌しく移動する二人を追いかけた。
「蓮、いい感じだな?」
「そうですか?・・・・社さんがそう言われるなら・・・そうなんじゃないんですか?」
「・・・・・・・・どうしたんだ?機嫌・・・悪いな?」
てっきり結婚二年目にしての初共演に蓮も喜んでいるのかと思ったのだが、衣装を着替えるためにカーテンで仕切られている向こう側からは覇気の無い蓮の声が返ってきた。
「・・・・別に・・・悪くないですよ・・・・機嫌なんて・・・」
そう言って着替えを終えて出てきた蓮は、明らかにカメラの前とは違って仏頂面だった。
「・・・・けんか・・・・したのか?」
この後の撮影の事も考え、社が恐る恐る訊ねるとむくれたまま蓮はソファーにドカリと腰を下ろした。
「・・・けんかすらしてません・・・・」
(!?・・・・・な・・・なんだ・・この重い空気は・・・・・)
社が冷や汗をダラダラと流していると、蓮の控え室の扉がノックされた。
「敦賀さん、スタンバイお願いします」
「あ・・はい・・・・あ・・・京子は?」
「ああ、奥様なら先にスタジオにいらしゃってますよ?」
ADはにこやかに蓮の問いに答えたのだが、それを聞いた社が真っ青になった。
(ええええ!!!?い・・・いつもなら蓮の所に直ぐ来るキョーコちゃんが!?ど・・・ど~しちゃったんだよっお前らっ)
表情を変えないでスタジオに向かいだした蓮の背中から、仄暗い空気がじわじわ出ているような気がして社はこの撮影が無事に終わるのか心配になってきた。
「それじゃあ、よろしくお願いします!!本番!!」
軽い打ち合わせを監督を交え終えたキョーコと蓮は先ほどのセットの中に立つと合図を待った。
「よ~い・・・スタート!!」
***********
『・・・・・・ふぅ・・・・・』
キョーコは少しだるそうにソファーにもたれ、額に手をやった。
『熱?・・・』
蓮はそんなキョーコに心配そうに寄り添い、自分の方へ向かせると、コツンとおでこ同士を合わせた。
『・・・・う~ん・・・少し・・・熱っぽいかな?・・・・・こんなときは・・・』
蓮はキョーコをボアで出来たストールで包んだ後、小さな薬の箱とお水を手渡した。
『熱に効く【ハーフロン -R-】』
そこで映像は切り替わる。
『【ハーフロン】から熱の風邪にも効く-R-錠が登場。漢方由来の成分に熱に効く成分を配合。胃に優しく早く効く。』
ナレーションが終わると、二人はソファーに座ったままキョーコは蓮に肩を抱かれ少し頭をもたれかからせていた。
『『優しさをありがとう』』
使用上の注意のテロップが流れている間、二人はじゃれるように蓮がキョーコの看病をしてお粥を食べさせている映像が映っていた。
**************
「オッケイ!!完璧です!!!」
薬の説明のために作られたCGとあわせた映像を確認した監督からオッケイをもらった二人は噂どおりの品行方正、仲睦まじいおしどり夫婦の雰囲気でスタッフ達に深々と挨拶すると、ビクビクする社を伴ってそれぞれの控え室に分かれようとした。
「・・・・後で迎えに行くから」
「・・・はい・・・」
さっきまでとは違う、極短い会話でお互いの控え室に入るのを社は青ざめながら見守ると、慌てて蓮の控え室に飛び込んだ。
「お・・・おい!!キョーコちゃんに何したんだよ!?・・・なんかキョーコちゃんも怒ってないか?」
「・・・知りませんよ・・・最近あんな風に冷たいんです・・・今回のこの仕事も嫌だったみたいだし・・」
少し落ち込みながら私服を掴んだ蓮はカーテンの向こうに消えた。
「・・・・そ・・・そんなことキョーコちゃん一言も言ってなかったぞ?それどころかこの間、お前が過労で倒れたこと本当に心配してたんだぞ!?」
「・・・・・・・・その辺りから・・・キョーコの態度がおかしいんです・・・」
「え?・・・・」
着替えが終わった蓮は腕時計をはめながら小さく深くため息をついた。
「・・・・なんか・・・いつも怒っているみたいだし・・・・夜も・・・最近は一緒に寝てくれなくなったんです・・・一人でゲストルームにこもっちゃうし・・・・・」
一番不満に思っていることがなんなのかわかった社は少し安心した。
少なくとも蓮はキョーコを嫌っているわけではないことが解ったからだ。
(・・・まあ・・・蓮だしな・・・・あんだけ苦労したのにそう簡単に手放すわけ無いか・・・・)
少し夫婦の生活の様子を除き見てしまった気がして社は顔を赤らめながら一人納得したが、そうなるとキョーコの方が気になってきた。
「いきましょうか・・・・社さん・・」
着替えも終わった蓮が荷物をまとめて控え室を出ようとしているのを社は驚愕の表情で追いかけた。
「れ・・蓮!キョーコちゃんが怒ってる原因とかわかんないのか?!」
「わかってるなら・・・こんな風に苦労はしてません・・・・・」
きっぱりと社にそう告げた蓮は怒りを秘めた無表情でキョーコの控え室の扉をノックした。
「・・・・・どうぞ・・・・」
扉の奥からくぐもったキョーコの声が聞こえ蓮がゆっくりと扉を開けて中に入った。
もちろん社は嫌々だったが蓮に促されて中に入った。
「・・・帰る用意・・・できた?」
「・・・・はい・・・・・」
出来るだけ蓮は優しい声を努めて出したが、キョーコは蓮どころか社とも視線を合わせようとせず頷いた。
礼儀正しいキョーコからは想像できない態度に社は驚き、蓮は大きなため息をついた。
「・・・・何か・・・不満があるなら言ってくれないと解らないだろ?」
いい加減、堪忍袋の緒が切れたのか蓮は少し棘のある言い方でキョーコの背中に言葉を吐いた。
すると、キョーコの肩が少し揺れて、動きが止まった。
「・・・・言って・・・いいんですか?」
キョーコの暗い声に蓮と社は顔を合わせてキョーコを見た。
すると、キョーコはキロリと鋭い視線を蓮に向けた。
「・・・・・おかしいと思うんです」
「な・・・何が?」
あまりにもどんよりしたキョーコの空気に蓮も社も気圧されだした。
「・・・・風邪ひく役は・・・私じゃなくて敦賀さんが最適なんじゃないんですか?」
「「え?・・・・・・」」
何を言われるかと構えていた二人はキョーコの言葉に唖然とした。
「・・・私は子供の頃には何回か風邪をひきましたが、もうここ何年も風邪なんてひいていません!・・・・でも、蓮さんはこの間風邪を・・・しかも悪化させて来られたじゃないですか!!」
きっとキョーコから睨まれて蓮も社も慌てた。
「そ・・・それは仕方ないだろう!?・・・・スポンサーからの要望での配役なんだし・・・・・」
「それは・・・そうですが・・・・この間から蓮さんの看病ばかりしてるんですよっ!?・・・・・それなのに蓮さんは演技での私の看病を楽しみなんて仰ってましたよね?!」
それはこの撮影の依頼が来たときにうっかり蓮が溢した一言だった。
「そ・・それは・・・・」
「風邪が悪化した後、詰め込んだスケジュールで無理がたたって過労で倒れられたばかりなのに・・・・私の看病を演技で出来てうれしいなんて・・・・・私の気も知らないでっ!!」
突然、キョーコが涙ぐみながら叫んだために蓮と社は動揺した。
「そ・・・そんな・・・泣かなくても・・・・」
「そ、そうだよキョーコちゃんっ・・・蓮はキョーコちゃんと夫婦として共演できるのが嬉しくてついうっかりそう言っちゃっただけなんだって!」
社も加わって蓮は必死にキョーコを泣き止ませた。
「でもっ・・・・蓮さん・・・直ぐに無理するしっ・・・私の話なんか聞かないでお仕事のためならどんなに熱があっても、フラフラでもお仕事に行かれちゃうのを私がどんな思いで見送ってるか知らないんです!!」
「ご・・ごめん・・・・」
「社さんから蓮さんが倒れたって連絡が来たとき私がどんな気持ちだったか知らないんです!!!」
「ほ、本当に・・・それは・・ごめん・・・・キョーコ・・・ちょっと落ち着いて・・・・」
蓮は今まで見たことがないほど泣き叫ぶキョーコの両腕を掴んだ。
「『自分は鍛えてるから』とか『丈夫だから』とか『不屈の精神』とか・・・・そんなことばっかり言ってたら本当に大変な事になっちゃうんですからね!?」
蓮を心配する言葉を怒りと共に吐き出すキョーコに蓮は落ち着かせるように両手でその頬を包み込み、おでこを合わせた。
その光景に社は慌てて背を向けながらも、キョーコが蓮の事を想っていることが解り自然と顔が綻んだ。
「うん・・・ごめん・・・もう、心配かけないから・・・・だから・・もう泣かないで・・・」
急速にいつもの甘い雰囲気が漂い始めたため、社は頬を掻きながらこっそり部屋を出ようとしたのだがキョーコの言葉に立ち止まった。
「本当に本当にもう、心配かけさせないで下さいよ!?・・・・もう・・蓮さん一人の体じゃないんですからっ!!」
「・・・・うん、キョーコのために・・・・」
「そうじゃ・・・ありません・・・・」
「・・・え?」
「え?・・・・」
キョーコの言葉に蓮も社も驚いて身動きできずに顔を赤くするキョーコを見つめた。
「・・・・・・・も・・・もう一人・・・・蓮さんが元気でいてくれないと困る人が・・・増えるんですっ・・・・・」
蓮が驚いた表情で真っ赤になりながらも、そっとお腹を守るように手をやるキョーコを見下ろしているのを社も驚愕の表情でドアノブを握ったまま見つめた。
「き・・・キ・・・キョーコちゃん・・・それって・・・・もしかして・・・」
「・・・・・・・・・・・・に・・・・2ヶ月・・・だ・・・そうです・・・・・・」
キョーコの話によれば、蓮が倒れたと社に病院へと呼び出された後、急に酷いめまいと吐き気に襲われて内科を受診したのだが産婦人科に回され妊娠2ヶ月と聞かされたのだった。
突然の事で固まる蓮に対して社は、狂喜乱舞をして大慌てでローリィに連絡するべく手術用手袋を満面の笑みではめると、携帯を開いてキョーコと蓮を残し控え室を飛び出していった。
「あ・・・あの・・・蓮さん?・・・・・」
先ほどから身動きせずに固まっている蓮に不安そうな顔をするキョーコが声をかけると、蓮は目を見開いたまま口を開いた。
「・・・・最近・・・・一緒に寝てくれなくなったのって・・・・」
ポツリと呟かれた言葉にキョーコは真っ赤になりながら蓮を軽く睨んだ。
「だ・・・だって・・・安定期に入るまでは・・・その・・・・しないで下さいって・・・・」
「あんまり話してくれなくなくなったのは?」
「直ぐに気分が悪くなってしまって・・・」
「この仕事・・嫌そうだったのは・・・」
「もしかしたら・・・お薬・・飲まないといけないのかなって・・・」
「・・・・て・・・てっきり・・・・俺との共演が嫌なのかと・・・・」
「そ、そんな訳ないじゃないですかっ・・・・・」
慌てて首を振るキョーコを呆然と見ていた蓮は恐る恐るキョーコの細い肩を抱き寄せ、まだ成長していないお腹をじっと見つめた。
「ほ・・・・本当に?」
「・・・・・・はい・・・・あの・・・喜んで下さいますか?」
キョーコが遠慮がちに顔を覗かせると、蓮から強烈な抱擁が返ってきた。
「もちろんだよ!!!・・・・・・・ああ!!ごめん!!痛くなかった!?ど・・どうしよう・・・抱っこして帰ろうか?」
「ええ!?病気じゃないんですから・・・・」
「病気なんてっ!キョーコには風邪なんて絶対引かせないから!!そうだ!さっきのストールもらってこようか!?」
ワタワタとしながらキョーコの肩を大事そうに抱えながら蓮がうろたえるのを、キョーコは微笑みながら落ち着くように言うのだった。
その後、このCMはシリーズ化されるほど人気を博した。それはひとえに二人の互いを思いあう空気感がいいからなのだが、この薬を二人が使うことはなかったのだった。
end
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フリー作品ということで、遠慮なく頂いちゃいました!!
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こんな二人、あり得そうでしょう?!
ユンまんまさんのお話は素敵なお話が多くって、いつもキュンキュンメロメロにさせられてます♪
またちょいちょいお邪魔するので、これからも素敵なお話が読めることを期待しております
よろしくお願いしますね