アメンバー様200人達成!&ブログ3ヶ月記念大感謝祭☆
雪兎さんよりリクエスト頂きました!!
春雪の贈り物 3
ーーー「俺が好きな『キョーコちゃん』は、ずっと昔から君だけだよ?『最上さん』。」
蓮の発した言葉が、ゆっくりとキョーコの頭の中をくるくると回る。言葉の意味を理解出来ずに、何度も繰り返し再生させたが、20回くらい脳内で反芻して、漸くキョーコは言葉の意味を捉えることができた。
「……へ??」
固まったキョーコの百面相をやや緊張気味に真近で見ていた蓮は、たっぷりと間をおいて発せられた最初の言葉が間の抜けたそれで溜息を吐き出すしかなかった。
「ふぅー。」
大きく溜息を吐いた蓮は、手に握ったキョーコの手にそっと指を絡めた。
「だから、俺が好きな『キョーコちゃん』は『最上さん』以外にはあり得ないんだけど?」
「…え?だって、キョーコちゃんなんて…一度だって呼ばれたことない。」
キョーコが信じられないとばかりに呆然と呟くと、蓮はふっと優しい微笑みを零した。
「俺は、ずっと昔に君にあったことがあるんだよ?その時俺は君をキョーコちゃんって呼んでたんだ。」
「う…そ…だって、私、友達いなかったから、そんな人がいたらきっと覚えてます!!でも、私は敦賀さんを知りません。」
「うん。その時は『敦賀蓮』は誕生してなかったからね。」
「…え?」
「敦賀蓮は、俺が15歳の時に誕生したんだよ。」
蓮はキョーコの額に自身の額を合わせ愛おしそうに目を閉じて微笑んだ。
「俺が君に出会ったのは、俺が敦賀蓮になる前…。まだ俺の髪が金髪で、カラーコンタクトで瞳を黒くしてない時だった…」
「…え?」
「本当の姿は金髪碧目っていえば、わかってもらえるのかな?」
蓮の告白に、キョーコの目が大きく見開かれる。
じっと自身を凝視してくるキョーコに蓮は苦笑を漏らしながら目を開くと、柔らかい目でキョーコを見つめた。
「キョーコちゃんと過ごした時間は、俺の中でも宝物だった。少年時代の中で一番輝いていたかもしれないな。」
蓮の目が懐かしそうに遠くを見つめた。
「君は、目に涙をいっぱいに溜めた目で、俺の前に現れたんだ。髪はツインテールでこの変で結んでたよね?」
蓮の手が愛おしそうに懐かしそうに、キョーコの結んでいたあたりの髪をサラリと撫ぜる。
「良く母親のことで泣いて、ショーちゃんですぐに笑顔になる女の子…。君は、俺にとってとても心が温かくなる存在だったんだ。」
「コーン…なの?」
「そうだよ?キョーコちゃん…」
ふんわりと笑う蓮をみて、キョーコの目に涙が溜まり、ポロリと零れた。
「やっぱり…キョーコちゃんは泣き虫だな。」
蓮はそんなキョーコの髪を撫でながら破顔した。
キョーコが可愛くて堪らずにキョーコを胸に抱き締める。
「ん…ごめん。キョーコちゃん、うつ伏せはちょっとキツイから少し動くね?」
蓮はキョーコを抱き締めたまま、ゆっくりと身体の位置を入れ替えると、キョーコを身体の上に乗せた。
ふぅ。と息を吐く蓮に、蓮が体調を崩していたことを思い出したキョーコは慌てて蓮から離れようとした。
「あ、ご、ごめんなさい。私ったら…」
「待って!!キョーコちゃん…お願い…もうしばらくここにいて…」
起き上がろうとしたキョーコを抱き締めて、蓮はキョーコに懇願する。
蓮のトクトクトクトクと刻む心臓の音を聞きながら、キョーコは蓮の胸元に恐る恐る手を伸ばして服をキュッと握った。
「再会してからわかったんだ。俺はずっとキョーコちゃんのことが…最上さんのことが、ずっと好きだったんだ。」
蓮の真っ直ぐな言葉と共に、強く抱き締められ、キョーコは嬉し過ぎて涙が溢れてきた。
「好きだ…。好きだよ。ずっと…ずっと君だけが好きだ。」
蓮の手がキョーコの顎を捉える。
「ねぇ…俺と同じ気持ちなら、もう一回キスして?」
ポロポロと涙を流すキョーコに蓮は強請る。
蓮の指が優しくキョーコの涙を拭ってくれる。
キョーコは顔をくしゃりと崩すと、恥じらいながらも、蓮の両頬を手で固定すると、顔を傾けてゆっくりと唇を合わせた。
蓮とキョーコは漸く心の通うキスを交わし、胸の中に甘く広がる喜びを噛み締めるように互いに唇を合わせた。
蓮の手もキョーコの髪の中に差し込みキョーコが離れないように固定する。
優しく繰り返されるキスに二人は極上の幸福を感じるのだった。
蓮の胸に顔を埋めて、優しく髪をサラサラと梳かれる感触に、キョーコがくすぐったそうに身を攀じると、蓮も甘い溜息を吐くと、しみじみと言った。
「彼に…感謝だな…。」
「彼…??」
「うん。俺に気持ちを自覚させてくれた人がいてね。俺は彼のお陰で君への気持ちに気付けたんだ。」
「………え?そ、れって…」
キョーコは嫌な汗をかきながら蓮を見つめた。何だかわからないが、途轍もなく嫌な予感が湧いてくる。
「ダークムーンの時、一度演技が出来なくなったの覚えてる?」
「は…い…。」
「俺、あの時、実は恋の演技が出来なくなったんだ。今までしてきたと思っていた恋は全て思い込みだったことに気付いた。本当の恋愛をしたことがなかったんだ。そんな時に、俺が誰に恋をしてるのか見抜いた人がいてね?」
「………。」
「俺が君のことを話したら、その気持ちこそ恋だと断定してくれたんだ。だから俺はあの後、美月をずっと君に重ねて演じてたんだよ?」
「う…そ…じゃあ、あの時言ってた16歳の高校生って…私?!」
キョーコは言いながら顔を真っ赤に染め上げた。
ずっとヤキモチを妬き続けていた相手が自分だとは、全く想像すらしていなかったのだから仕方がない。
しかし、蓮はキョーコの言葉の中に聞き捨てならないセリフを聞いてしまった。
「っ?!それをどこで?!まさか、彼が君に話したのか?!」
「あ…!!」
キョーコはしまったとばかりに口を手で覆ったが、もう遅い。
蓮はそんなキョーコの手を顔から外させると、問いかけた。
「答えて最上さん。君はあの、鶏の彼と知り合いなの?!」
キョーコの目にはぶわっと、涙が溢れた。
滝のように流す涙に、蓮はびっくりして目を見開く。
「も、最上さん?!」
突然泣き出したキョーコの涙の意味がわからず狼狽える蓮。
「ど、どうしたの?!最上さん、もしかして泣くほど彼にひどい事言われたとか?!」
キョーコはぶんぶんと首を振って否定すると、蓮の胸から飛び降りて、ソファの隣に正座をすると、深々と頭を下げ土下座をした。
「申し訳ありません~!!!!あの鶏の正体は、私なんですぅ~~!!!!」
「………。…え?!」
キョーコの告白を聞いて、蓮は固まる。
ペコペコと頭を何度も下げるキョーコに、初めて出会った日の涙ながらに土下座をして許しを請う鶏の姿が重なった。
「嘘…だろ?彼は…君??」
蓮は参ったとばかりに、自身の真っ赤になった顔を片手で覆い隠すと、ベッドでぐったりと脱力した。
互いに恥ずかしさから暫く顔を見れず、無言が続いた。
ーーー本人に恋愛相談していたなんて…
ーーー自分自身に嫉妬をしていたなんて…
「「恥ずかし過ぎる…!!」」
二人の声が重なった。
驚いて見つめ合う二人の顔は互いに真っ赤で、蓮がふいっと顔を背けると、キョーコはくすくすと照れながら笑った。
「敦賀さん照れてるんですか?」
楽しそうに、キョーコが蓮の顔を覗き込むが、蓮は真っ赤な顔を隠すようにソファのクッションに顔を埋めた。
「照れてないよ。これは熱で赤くなっただけ。」
そんな拗ねたような蓮の屁理屈に、キョーコはまた笑うと、蓮に改めて向き直った。
「敦賀さん…。好きですよ。敦賀さんが、私も好きです。」
蓮はキョーコの言葉を聞いてクッションから顔を出すと、嬉しそうにキョーコを見つめた。
そろっと伸ばした手が、キョーコの頬に触れる。
「俺も…好きだよ。」
蓮の手がキョーコの頭を引き寄せ、また唇を合わせる。
キョーコも蓮に促されたまま、静かに瞼を閉じた。
「ねぇ、キョーコって呼んでもいい?」
「はい!嬉しいです。敦賀さん。」
「…出来れば、俺の事も名前で呼んで欲しいな。」
「え?!名前…ですか…?!」
「うん。蓮って呼んで?」
「そそそそそんな!!尊敬する先輩である敦賀さんを呼び捨てになんて出来ません!!」
「そんなこと……わかった。じゃあ、久遠って呼んで?」
「え?久遠??」
「うん。俺の本名。」
「それって…。」
キョーコは久遠と聞いて、クーの姿が思い浮かんだ。
クーのどこかで見たような既視感を思い出す。
そして、今更ながら、蓮とクーが似ていることに気付いた。怒りの波動が、表情が顔立ちが似てるのだ。
びっくりした顔で固まってしまったキョーコの顔には『ま、さ、か…』とデカデカと書いてある。
「ご名答…かな?」
蓮はそんなキョーコの顔をみてクスリと楽しそうに笑った。
「もう!!信じられません!!本人の前で演じてたなんて!!親子揃っていじめっ子だわぁ~!!」
すっかりいじけてしまったキョーコは、リビングの隅っこで小さくなってグズグズ泣いていた。
「ごめんってば、キョーコ。ほら、こっちおいで?」
蓮はまだ身体がだるく動けないので、ソファからキョーコを呼ぶ。
「嫌です!!行きません!!」
キョーコはぷいっと顔を背けると、そのままキッチンへと向かった。
「っ!キョーコ!!どこ行くの?」
「御夕飯作ってきます!!つ…久遠…さんは、寝てて下さい!!」
途端に淋しそうな顔を見せる蓮に、キョーコは真っ赤な顔を怒った顔で誤魔化しながら、蓮の名前を呼ぶとキッチンへと姿を消した。
暫くすると、食欲がなかった蓮でも、空腹になりそうないい匂いがリビングまで漂ってきた。
この優しい香りはキョーコがいる証拠だ。
蓮はそのことに心から幸福を感じて微笑みながらウトウトと微睡の世界へと向かっていった。
「久遠さん、お待たせしましたー!出来ました…よ?」
キョーコは、トレーに蓮の食事を乗せてきたのだが、蓮が眠っていることに気付いた。
そろそろと蓮に近付き、蓮の寝顔をマジマジと見つめる。
きめ細かな肌と、長くて綺麗な睫毛に、整った鼻筋に美しい唇。サラサラヘアまで揃っていて、本当に芸術品のような美しさを持っている。
「やっぱり…まだ信じられないわ…。こんなに綺麗で完璧な人が私のことを好きだなんて…。そうよ。敦賀さん風邪引いて意識が朦朧としてるんだから、きっと幻覚を見ていたのよ!!」
キョーコが一人ブツブツと独り言を言ってると、その頬を蓮に力一杯引っ張られた。
「ひ、ひはいへふ、ひはいへふふるふぁふぁん。」
本気でつねられてるのか涙が出そうなほど痛い。
必死でキョーコが抗議をすると、蓮は心外な顔をしてキョーコを見ていた。
「君は、なんでそうなんだ。俺の本気の想いを君はどうやったら信じてくれるの?俺の告白が病人の戯れ言だとでも?」
キョーコはヒリヒリする頬をさすりながら、蓮を涙目で見つめた。
「だ、だって、可笑しいじゃないですか!!敦賀さんみたいな完璧な人が私みたいな地味で色気のない女を好きになるなんて…。」
「君は…男は皆そんな外見にしか興味がないとでも?それに君は色気はないというけど、それ以上に俺にとっては何にも変え難い魅力があるんだ。君が『最上キョーコ』だから俺は好きなったんだ。」
「敦賀さん…」
「キョーコ…もう自分を否定しなくていいんだよ?他の誰が君のことを認めなくても、俺は君を誰よりも認めてるんだ。それなのに、君が自分を認めないなんてことになったら、俺は凄く虚しくなるよ。」
キョーコは蓮の首に泣き付いた。
「ふ…ふえぇぇぇーん」
蓮はそんなキョーコの頭を優しく撫でるのだった。
「ねぇ、そうだ。キョーコ…明々後日は予定空いてる?」
「え?どうしてですか?」
「社長から俺が一週間強制的にオフを取らされたって聞いた?」
「あ…はい!お聞きしました。」
「うん。だからね、明々後日俺オフなんだ。」
「はい。ゆっくり休まないとですね。」
「…明々後日は何の日かわかる?」
「…????何かある日なんですか??」
キョーコは本気でわからないのか首を傾げ不思議そうな顔をした。
「明々後日は、14日だよ?3月14日。」
「はぁ…。??」
キョーコが本気で首を捻るので、蓮は苦笑しながら答えを示した。
「はぁ…って君ねぇ。3月14日と言えばホワイトデーだろう?」
蓮の言葉に、キョーコは興味なさげに「あぁ…。」と小さく呟いた。
それもそうだろう。
キョーコが今まで生きてきた中で、バレンタインデーにチョコを送っていたのは幼馴染の馬鹿ショーただ一人。
今年生まれて初めてショータロー以外の人にチョコを送ったのだ。
ショータローからはチョコをあげてもお返しなんてされたことは一度もない。
女将さんがキョーコへのお返しの為にショータローに持たせたお菓子も、全てショータローの口の中に消えていたのだ。
よって、キョーコはホワイトデーという存在に今まで一度も縁がなかったのだ。
冴えない表情のキョーコに、蓮は苦笑しながらキョーコの頭を撫でた。
「今年は、君からバレンタインデーに素敵な贈り物をもらったからね。明々後日は俺にお返しさせてね?」
「え?」
キョーコはピョンと姿勢を正した。
「お返し…下さるんですか?」
心なしか目がキラキラしている。
キョーコはホワイトデーに何かをしてもらうことは初めてなのだ。
「うん。もちろん。好きなとこに連れていってあげるよ?何処がいい?」
「え…でも、風邪引いてるのに…」
「明々後日までには治すから。約束する。」
蓮はそう言ってキョーコに微笑むと、ホワイトデーのキョーコの予定をしっかりと抑えた。
(続く)
*****
なんだか長くなってきましたーこんな感じで進めていいですかー?雪兎さん!
フリー作品でアメンバー様皆様に捧げます♪
雪兎さんよりリクエスト頂きました!!
春雪の贈り物 3
ーーー「俺が好きな『キョーコちゃん』は、ずっと昔から君だけだよ?『最上さん』。」
蓮の発した言葉が、ゆっくりとキョーコの頭の中をくるくると回る。言葉の意味を理解出来ずに、何度も繰り返し再生させたが、20回くらい脳内で反芻して、漸くキョーコは言葉の意味を捉えることができた。
「……へ??」
固まったキョーコの百面相をやや緊張気味に真近で見ていた蓮は、たっぷりと間をおいて発せられた最初の言葉が間の抜けたそれで溜息を吐き出すしかなかった。
「ふぅー。」
大きく溜息を吐いた蓮は、手に握ったキョーコの手にそっと指を絡めた。
「だから、俺が好きな『キョーコちゃん』は『最上さん』以外にはあり得ないんだけど?」
「…え?だって、キョーコちゃんなんて…一度だって呼ばれたことない。」
キョーコが信じられないとばかりに呆然と呟くと、蓮はふっと優しい微笑みを零した。
「俺は、ずっと昔に君にあったことがあるんだよ?その時俺は君をキョーコちゃんって呼んでたんだ。」
「う…そ…だって、私、友達いなかったから、そんな人がいたらきっと覚えてます!!でも、私は敦賀さんを知りません。」
「うん。その時は『敦賀蓮』は誕生してなかったからね。」
「…え?」
「敦賀蓮は、俺が15歳の時に誕生したんだよ。」
蓮はキョーコの額に自身の額を合わせ愛おしそうに目を閉じて微笑んだ。
「俺が君に出会ったのは、俺が敦賀蓮になる前…。まだ俺の髪が金髪で、カラーコンタクトで瞳を黒くしてない時だった…」
「…え?」
「本当の姿は金髪碧目っていえば、わかってもらえるのかな?」
蓮の告白に、キョーコの目が大きく見開かれる。
じっと自身を凝視してくるキョーコに蓮は苦笑を漏らしながら目を開くと、柔らかい目でキョーコを見つめた。
「キョーコちゃんと過ごした時間は、俺の中でも宝物だった。少年時代の中で一番輝いていたかもしれないな。」
蓮の目が懐かしそうに遠くを見つめた。
「君は、目に涙をいっぱいに溜めた目で、俺の前に現れたんだ。髪はツインテールでこの変で結んでたよね?」
蓮の手が愛おしそうに懐かしそうに、キョーコの結んでいたあたりの髪をサラリと撫ぜる。
「良く母親のことで泣いて、ショーちゃんですぐに笑顔になる女の子…。君は、俺にとってとても心が温かくなる存在だったんだ。」
「コーン…なの?」
「そうだよ?キョーコちゃん…」
ふんわりと笑う蓮をみて、キョーコの目に涙が溜まり、ポロリと零れた。
「やっぱり…キョーコちゃんは泣き虫だな。」
蓮はそんなキョーコの髪を撫でながら破顔した。
キョーコが可愛くて堪らずにキョーコを胸に抱き締める。
「ん…ごめん。キョーコちゃん、うつ伏せはちょっとキツイから少し動くね?」
蓮はキョーコを抱き締めたまま、ゆっくりと身体の位置を入れ替えると、キョーコを身体の上に乗せた。
ふぅ。と息を吐く蓮に、蓮が体調を崩していたことを思い出したキョーコは慌てて蓮から離れようとした。
「あ、ご、ごめんなさい。私ったら…」
「待って!!キョーコちゃん…お願い…もうしばらくここにいて…」
起き上がろうとしたキョーコを抱き締めて、蓮はキョーコに懇願する。
蓮のトクトクトクトクと刻む心臓の音を聞きながら、キョーコは蓮の胸元に恐る恐る手を伸ばして服をキュッと握った。
「再会してからわかったんだ。俺はずっとキョーコちゃんのことが…最上さんのことが、ずっと好きだったんだ。」
蓮の真っ直ぐな言葉と共に、強く抱き締められ、キョーコは嬉し過ぎて涙が溢れてきた。
「好きだ…。好きだよ。ずっと…ずっと君だけが好きだ。」
蓮の手がキョーコの顎を捉える。
「ねぇ…俺と同じ気持ちなら、もう一回キスして?」
ポロポロと涙を流すキョーコに蓮は強請る。
蓮の指が優しくキョーコの涙を拭ってくれる。
キョーコは顔をくしゃりと崩すと、恥じらいながらも、蓮の両頬を手で固定すると、顔を傾けてゆっくりと唇を合わせた。
蓮とキョーコは漸く心の通うキスを交わし、胸の中に甘く広がる喜びを噛み締めるように互いに唇を合わせた。
蓮の手もキョーコの髪の中に差し込みキョーコが離れないように固定する。
優しく繰り返されるキスに二人は極上の幸福を感じるのだった。
蓮の胸に顔を埋めて、優しく髪をサラサラと梳かれる感触に、キョーコがくすぐったそうに身を攀じると、蓮も甘い溜息を吐くと、しみじみと言った。
「彼に…感謝だな…。」
「彼…??」
「うん。俺に気持ちを自覚させてくれた人がいてね。俺は彼のお陰で君への気持ちに気付けたんだ。」
「………え?そ、れって…」
キョーコは嫌な汗をかきながら蓮を見つめた。何だかわからないが、途轍もなく嫌な予感が湧いてくる。
「ダークムーンの時、一度演技が出来なくなったの覚えてる?」
「は…い…。」
「俺、あの時、実は恋の演技が出来なくなったんだ。今までしてきたと思っていた恋は全て思い込みだったことに気付いた。本当の恋愛をしたことがなかったんだ。そんな時に、俺が誰に恋をしてるのか見抜いた人がいてね?」
「………。」
「俺が君のことを話したら、その気持ちこそ恋だと断定してくれたんだ。だから俺はあの後、美月をずっと君に重ねて演じてたんだよ?」
「う…そ…じゃあ、あの時言ってた16歳の高校生って…私?!」
キョーコは言いながら顔を真っ赤に染め上げた。
ずっとヤキモチを妬き続けていた相手が自分だとは、全く想像すらしていなかったのだから仕方がない。
しかし、蓮はキョーコの言葉の中に聞き捨てならないセリフを聞いてしまった。
「っ?!それをどこで?!まさか、彼が君に話したのか?!」
「あ…!!」
キョーコはしまったとばかりに口を手で覆ったが、もう遅い。
蓮はそんなキョーコの手を顔から外させると、問いかけた。
「答えて最上さん。君はあの、鶏の彼と知り合いなの?!」
キョーコの目にはぶわっと、涙が溢れた。
滝のように流す涙に、蓮はびっくりして目を見開く。
「も、最上さん?!」
突然泣き出したキョーコの涙の意味がわからず狼狽える蓮。
「ど、どうしたの?!最上さん、もしかして泣くほど彼にひどい事言われたとか?!」
キョーコはぶんぶんと首を振って否定すると、蓮の胸から飛び降りて、ソファの隣に正座をすると、深々と頭を下げ土下座をした。
「申し訳ありません~!!!!あの鶏の正体は、私なんですぅ~~!!!!」
「………。…え?!」
キョーコの告白を聞いて、蓮は固まる。
ペコペコと頭を何度も下げるキョーコに、初めて出会った日の涙ながらに土下座をして許しを請う鶏の姿が重なった。
「嘘…だろ?彼は…君??」
蓮は参ったとばかりに、自身の真っ赤になった顔を片手で覆い隠すと、ベッドでぐったりと脱力した。
互いに恥ずかしさから暫く顔を見れず、無言が続いた。
ーーー本人に恋愛相談していたなんて…
ーーー自分自身に嫉妬をしていたなんて…
「「恥ずかし過ぎる…!!」」
二人の声が重なった。
驚いて見つめ合う二人の顔は互いに真っ赤で、蓮がふいっと顔を背けると、キョーコはくすくすと照れながら笑った。
「敦賀さん照れてるんですか?」
楽しそうに、キョーコが蓮の顔を覗き込むが、蓮は真っ赤な顔を隠すようにソファのクッションに顔を埋めた。
「照れてないよ。これは熱で赤くなっただけ。」
そんな拗ねたような蓮の屁理屈に、キョーコはまた笑うと、蓮に改めて向き直った。
「敦賀さん…。好きですよ。敦賀さんが、私も好きです。」
蓮はキョーコの言葉を聞いてクッションから顔を出すと、嬉しそうにキョーコを見つめた。
そろっと伸ばした手が、キョーコの頬に触れる。
「俺も…好きだよ。」
蓮の手がキョーコの頭を引き寄せ、また唇を合わせる。
キョーコも蓮に促されたまま、静かに瞼を閉じた。
「ねぇ、キョーコって呼んでもいい?」
「はい!嬉しいです。敦賀さん。」
「…出来れば、俺の事も名前で呼んで欲しいな。」
「え?!名前…ですか…?!」
「うん。蓮って呼んで?」
「そそそそそんな!!尊敬する先輩である敦賀さんを呼び捨てになんて出来ません!!」
「そんなこと……わかった。じゃあ、久遠って呼んで?」
「え?久遠??」
「うん。俺の本名。」
「それって…。」
キョーコは久遠と聞いて、クーの姿が思い浮かんだ。
クーのどこかで見たような既視感を思い出す。
そして、今更ながら、蓮とクーが似ていることに気付いた。怒りの波動が、表情が顔立ちが似てるのだ。
びっくりした顔で固まってしまったキョーコの顔には『ま、さ、か…』とデカデカと書いてある。
「ご名答…かな?」
蓮はそんなキョーコの顔をみてクスリと楽しそうに笑った。
「もう!!信じられません!!本人の前で演じてたなんて!!親子揃っていじめっ子だわぁ~!!」
すっかりいじけてしまったキョーコは、リビングの隅っこで小さくなってグズグズ泣いていた。
「ごめんってば、キョーコ。ほら、こっちおいで?」
蓮はまだ身体がだるく動けないので、ソファからキョーコを呼ぶ。
「嫌です!!行きません!!」
キョーコはぷいっと顔を背けると、そのままキッチンへと向かった。
「っ!キョーコ!!どこ行くの?」
「御夕飯作ってきます!!つ…久遠…さんは、寝てて下さい!!」
途端に淋しそうな顔を見せる蓮に、キョーコは真っ赤な顔を怒った顔で誤魔化しながら、蓮の名前を呼ぶとキッチンへと姿を消した。
暫くすると、食欲がなかった蓮でも、空腹になりそうないい匂いがリビングまで漂ってきた。
この優しい香りはキョーコがいる証拠だ。
蓮はそのことに心から幸福を感じて微笑みながらウトウトと微睡の世界へと向かっていった。
「久遠さん、お待たせしましたー!出来ました…よ?」
キョーコは、トレーに蓮の食事を乗せてきたのだが、蓮が眠っていることに気付いた。
そろそろと蓮に近付き、蓮の寝顔をマジマジと見つめる。
きめ細かな肌と、長くて綺麗な睫毛に、整った鼻筋に美しい唇。サラサラヘアまで揃っていて、本当に芸術品のような美しさを持っている。
「やっぱり…まだ信じられないわ…。こんなに綺麗で完璧な人が私のことを好きだなんて…。そうよ。敦賀さん風邪引いて意識が朦朧としてるんだから、きっと幻覚を見ていたのよ!!」
キョーコが一人ブツブツと独り言を言ってると、その頬を蓮に力一杯引っ張られた。
「ひ、ひはいへふ、ひはいへふふるふぁふぁん。」
本気でつねられてるのか涙が出そうなほど痛い。
必死でキョーコが抗議をすると、蓮は心外な顔をしてキョーコを見ていた。
「君は、なんでそうなんだ。俺の本気の想いを君はどうやったら信じてくれるの?俺の告白が病人の戯れ言だとでも?」
キョーコはヒリヒリする頬をさすりながら、蓮を涙目で見つめた。
「だ、だって、可笑しいじゃないですか!!敦賀さんみたいな完璧な人が私みたいな地味で色気のない女を好きになるなんて…。」
「君は…男は皆そんな外見にしか興味がないとでも?それに君は色気はないというけど、それ以上に俺にとっては何にも変え難い魅力があるんだ。君が『最上キョーコ』だから俺は好きなったんだ。」
「敦賀さん…」
「キョーコ…もう自分を否定しなくていいんだよ?他の誰が君のことを認めなくても、俺は君を誰よりも認めてるんだ。それなのに、君が自分を認めないなんてことになったら、俺は凄く虚しくなるよ。」
キョーコは蓮の首に泣き付いた。
「ふ…ふえぇぇぇーん」
蓮はそんなキョーコの頭を優しく撫でるのだった。
「ねぇ、そうだ。キョーコ…明々後日は予定空いてる?」
「え?どうしてですか?」
「社長から俺が一週間強制的にオフを取らされたって聞いた?」
「あ…はい!お聞きしました。」
「うん。だからね、明々後日俺オフなんだ。」
「はい。ゆっくり休まないとですね。」
「…明々後日は何の日かわかる?」
「…????何かある日なんですか??」
キョーコは本気でわからないのか首を傾げ不思議そうな顔をした。
「明々後日は、14日だよ?3月14日。」
「はぁ…。??」
キョーコが本気で首を捻るので、蓮は苦笑しながら答えを示した。
「はぁ…って君ねぇ。3月14日と言えばホワイトデーだろう?」
蓮の言葉に、キョーコは興味なさげに「あぁ…。」と小さく呟いた。
それもそうだろう。
キョーコが今まで生きてきた中で、バレンタインデーにチョコを送っていたのは幼馴染の馬鹿ショーただ一人。
今年生まれて初めてショータロー以外の人にチョコを送ったのだ。
ショータローからはチョコをあげてもお返しなんてされたことは一度もない。
女将さんがキョーコへのお返しの為にショータローに持たせたお菓子も、全てショータローの口の中に消えていたのだ。
よって、キョーコはホワイトデーという存在に今まで一度も縁がなかったのだ。
冴えない表情のキョーコに、蓮は苦笑しながらキョーコの頭を撫でた。
「今年は、君からバレンタインデーに素敵な贈り物をもらったからね。明々後日は俺にお返しさせてね?」
「え?」
キョーコはピョンと姿勢を正した。
「お返し…下さるんですか?」
心なしか目がキラキラしている。
キョーコはホワイトデーに何かをしてもらうことは初めてなのだ。
「うん。もちろん。好きなとこに連れていってあげるよ?何処がいい?」
「え…でも、風邪引いてるのに…」
「明々後日までには治すから。約束する。」
蓮はそう言ってキョーコに微笑むと、ホワイトデーのキョーコの予定をしっかりと抑えた。
(続く)
*****
なんだか長くなってきましたーこんな感じで進めていいですかー?雪兎さん!
フリー作品でアメンバー様皆様に捧げます♪