雨の日の天の川
『貴方に逢いたい…』
一言だけ書かれたその文字が笹の葉の短冊飾りの中で、蓮の目を惹きつけて離さなかった。
「最上くんなら、今ラブミー部にいると思うぞ。」
偶然廊下で会ったタレント部の椹主任の言葉を受けて、蓮は通い慣れたラブミー部へと足を向けた。
「じゃあ、俺は打ち合わせして帰るからキョーコちゃんによろしくな。」
社の言葉に、蓮は頷いて、ラブミー部の扉の前に立つ。
ーーコンコン。
彼女の耳に心地よく響くように願って丁寧に扉を叩くが、シーンと静まり返った部屋から返事はない。
人の気配すらせずに、不思議に思いながら蓮は扉に手を掛けた。
「最上さん?…入るよ?」
一応声を掛けてそろそろと扉を開けると、室内は明かりも消えておりシンとしていた。
ざぁざぁと降り注ぐ雨の音が室内に響く。
「最上…さん?」
室内に向かってそう呼びかけても返事はなかった。
諦めて踵を返そうとしたところで、目の端に見覚えのある鞄が映った。
それはキョーコの愛用する鞄で、ここにそれがあるということは、キョーコがまだ事務所内にいるということを知らせてくれた。
ここで待っていれば帰ってきたキョーコを捕まえられるかもしれないが、なんとなく蓮はキョーコを探すために事務所内を巡り始めた。
タレント部に向かう道でふと屋上が気になり、蓮は行き先を屋上に変えた。
外は土砂降りだ。そんな中、屋上にいるはずはないと思うのだが、何となくそこにキョーコがいるのではないかという気持ちになったのだ。
逸る心を抑えて屋上へと足を向ける。
辿り着いた屋上の扉の前に来ると、蓮は自分の馬鹿さ加減に苦笑を浮かべた。
屋上の扉越しにも聞こえる強い雨音に、こんなところにキョーコはいるはずがないと思ったのだ。
でもやはり気になった蓮はそっと目の前の扉を開いた。
殺風景な屋上は、暗闇に覆われていた。
周りを見回して、また室内に戻ろうとした所で、屋上の目立たない場所に人影が見えた。
「…あれ?」
よく見ると、傘をさした人影が、空を見上げていた。
蓮の心臓がドクンと跳ねる。
ーーー見つけた。
傘で髪が隠れていても、たとえそれが後ろ姿でも、そこにいるのが愛しい少女だということがすぐにわかった。
ぼんやりと空を見つめる寂しそうなキョーコの後ろ姿が儚くて、今にも消えてしまいそうで、蓮はそっと足音を殺して降りしきる雨の中、キョーコへと近付いた。
「最上さん?」
ビクンッ。
後ろから掛かった蓮の声に、キョーコが驚いて身体を跳ね上げると、慌てて振り向いた。
するとそこには、大雨をものともせずに、佇む蓮の姿があった。
それを見て、キョーコはパチパチと瞬きを繰り返す。
「つ、敦賀さん?!どうして…って、どうしたんですか?!そんな格好でっ!!風邪ひいてしまいます!!」
ずぶ濡れの蓮の姿に慌てて近寄ったキョーコは自分の傘に蓮を入れようとするが身長差があるため、それも出来ない。
オロオロとするキョーコを見ながら蓮は呟いた。
「何をしてるの?こんなところで…」
「それは、こっちのセリフです!!敦賀さんこそ何をしてるんですかぁ!!!!」
キョーコは、蓮の様子に驚きながらも蓮の手をグイっと引っ張って屈ませると、傘を蓮の頭上に翳した。
「もうっ!ダメじゃないですか!!ハリウッドスターがこんなことで風邪なんか引いたら…」
「誰に会いたいの?」
「へ?」
キョーコが怒っているのに、蓮は不意に質問を投げかけた。
「書いてただろ?短冊に願いを込めて…。」
キョーコの頬にかぁっと朱が走った。
「なっ!!なんで…私のだって…!!」
「最上さんの字だったから…」
「んなっ?!」
蓮の言葉にキョーコは絶句した。まさか字まで記憶されてるとは思わなかったのだ。
恥ずかしくて、視線を逸らす。
キョーコは雨が降る空を見上げて呟いた。
「雨が降って…天の川が見えなかったから、叶わないかもって思ってたのに…」
「……」
「誰に会いたかったかなんて…決まってるじゃないですか…。」
「そう?確認しなくちゃわからないな。」
「もうっ!!敦賀さんの…意地悪っ!!」
「意地悪でごめんね?」
ぷうっと膨れるキョーコを可愛いなとこっそり思いながら見つめる蓮。
「それで?誰に会いたかったの?」
「…コーンに…。」
キョーコが観念したように、恥ずかしそうにぽそりと呟くと、蓮はそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。
「会えなくて…寂しかった?」
「寂しかったです…。」
キョーコの目にジワっと涙が滲む。
蓮の手がそっとキョーコの頬を包み込んだ。
「俺も…寂しかった…。ずっとずっと会いたかったんだよ?」
「うっ…くっ…急に…いなくなったかと思ったら…ハリウッドなんて…酷いです…!しかも、敦賀さんが久遠さんでコーンだったなんて…!!!!」
キョーコはポロポロと涙を流した。
蓮の指が優しくキョーコの涙をぬぐって行く。
「いつ…気づいたの?」
「すぐ気づきますよ!!先生と一緒に出演した映画で、敦賀さんがいなくなったタイミングで現れた久遠さんを見たらっ!!だって、敦賀さんと久遠さんの違いなんて、髪の色と目の色だけじゃないですか!!」
「そっか…。」
「なんで…言ってくれなかったんですか?」
「俺がコーンだとわかったとしても…あの時と随分変わってしまった自分が、君を幻滅させるんじゃないかと怖かったんだ…。もし、君があの時の俺の告白にいい返事をくれてたら、話してたかもしれないけどね。」
「ずるいです。敦賀さん…ずるい!!」
キョーコは泣きながら、蓮の胸板を片手でボスボスと叩いた。
「わわっ!最上さん。落ち着いて…。」
「もうっ!敦賀さんなんて嫌いです!私になんて構わず、さっさとアメリカに帰ってお仕事して下さい!!」
「それは困るな…折角向こうの仕事を片付けてまた帰って来たのに…。」
「え?それじゃあ…。」
「うん。しばらくはまた日本での活動になるよ。」
「そう…なんですか…」
「うん…」
蓮は優しく微笑んでキョーコを愛おしそうに見つめる。
「そろそろ、素直になって俺に捕まってくれませんか?お嬢さん。」
蓮がキョーコの顔を覗き込む。
「うっ…でも…」
「俺に会いたいと思ってくれてたんでしょ?」
「だって…急に会えなくなったからっ!!」
「そうだね。君が急にいなくなった俺をどう思うかは、一種の賭けだったんだ。気になるか、気にならないか…」
「そんなの!!気になるに決まってます!!!!」
「そうかな?琴南さんも気にしてた?」
「へ?!も、モー子さん…ですか?モー子さんはそんなに気にしてなかった…ような気が…。」
「だろう?興味がないものは、いなくなっても誰も気にしないよ。あれ?そういえば最近見ないな。と思うぐらいのものだ。でも君は、俺を気にしてくれた。会いたいと、短冊に願いを込めるほどに…」
「それは…」
「最上キョーコさん。どうか俺だけの織姫になってくれませんか?」
「でも…本当に私でいいんですか?だって敦賀さんは、ハリウッドスターで、世界中の美女に囲まれて選り取り見取りなんですよ?何も好き好んでこんな地味で色気のない私なんかにしなくても…」
「俺は君がいいんだ。他のどんな美女よりも、最上さんがいい。俺の織姫は君しか考えられない。」
「それじゃあ…敦賀さんは私の彦星になって下さるんですか?」
「うん。勿論だよ。」
蓮が嬉しそうに破顔してキョーコをぎゅうっと抱きしめた。
「きゃっ!!つ、敦賀さん!!冷たいです!!」
「あ、ごめん。嬉しさのあまりおもわず…」
そう言いながらも、離す気はないのか、蓮の抱きしめる腕の力は変わらない。
「もうっ!!」
キョーコも文句を言いながらドキドキと胸を打ち鳴らす。
真っ赤な顔を隠すために、そっと蓮の胸に頭を寄せると、蓮の心臓もキョーコに負けず劣らず早鐘を刻んでいた。
驚いたキョーコが蓮を見上げると、碧色の澄んだ瞳がキョーコを真剣な眼差しでみつめているのに気付いた。
ポタポタと、蓮の金色の髪から雫が零れる。
彦星が天の川を泳いで渡って来たかのように思えて、キョーコは愛おしそうに微笑んだ。
蓮はそんなキョーコの顔に唇を寄せた。
おでこに頬に降り注ぐキスの雨に、キョーコはくすぐったくてくすくす笑う。
でも、少し物足りなさを感じたキョーコは、勇気を出して、ちゅっと蓮の唇に触れるだけのキスをした。
蓮は驚いて瞬きを繰り返した後、これ以上ないくらい破顔して嬉しそうにキョーコをみつめた。
「おかえりなさい。敦賀さん。」
「ただいま。最上さん。これからはずっと一緒にいようね?」
「はい!!」
蓮の言葉に、キョーコは嬉しそうに笑った。
蓮がそっとキョーコを抱き上げて、もう一度キョーコの唇に触れるだけのキスをすると、キョーコもはにかんだ笑顔を蓮に向けた。
「じゃあそろそろ帰ろうか。俺たちの家に…」
「へ?俺たちの家…とは??」
蓮の言葉に、今まで幸せいっぱいだったキョーコが驚いた顔を見せた。
「俺たちの家は俺たちの家だよ。半年も会えなくて、どれだけ俺は君が好きなのか痛感した。もう離れたくないんだ。一緒に暮らそう?」
「ふへぇ??!!ちょ、ちょっと!!敦賀さんっ!!いきなり過ぎませんか?!織姫と彦星は年に一度しか会えないんですよ!!!!」
「そんなの耐えられるわけないだろう?俺たちは空の織姫と彦星の代わりに毎日会って、一緒に過ごそう。」
「きゃあ!!ちょ、ちょっとお気を確かに!!つ、敦賀さぁぁぁぁん!!」
キョーコを抱き上げて歩き出した蓮は、上機嫌で屋上を後にしたのだった。
『貴方に逢いたい…』
キョーコのそのピンク色の短冊の隣には、ゆらゆらと青い短冊が揺れていた。
『俺も、早く君に逢いたい。』
二つの短冊は重なって仲良く揺れていたのだった。
END
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*****
何だか思ってたのとちがーーーう!!
思ってた話を上手く表現出来ませんでした…!!
申し訳ないです。
この話は、蓮がキョーコに振られた後、クオン・ヒズリとして半年間ハリウッドで映画撮影に臨んだって設定にしてます(笑)
キョーコが振ったのは、蓮の気持ちが信じられなかったから。
でも、離れ離れになった時間が、どれだけ自分の中で蓮が大きな存在になってるかに気付くきっかけになった。
そして七夕の夜に、雨が降る中、二人は再会を果たす。
みたいなつもりで書きましたが、上手くまとめれませんでした!!
七夕に合わせて急遽書いてみましたがお目汚しになってたらすみません~!!
前回のブログで書いたことのお詫びに、こちらはフリーに致します。
もし、こんな話でももらってやってもいいよっ!って方がいらっしゃったら一言お声掛けしてお持ち帰り下さいませ!!
ではでは、またお逢いしましょ~!!
『貴方に逢いたい…』
一言だけ書かれたその文字が笹の葉の短冊飾りの中で、蓮の目を惹きつけて離さなかった。
「最上くんなら、今ラブミー部にいると思うぞ。」
偶然廊下で会ったタレント部の椹主任の言葉を受けて、蓮は通い慣れたラブミー部へと足を向けた。
「じゃあ、俺は打ち合わせして帰るからキョーコちゃんによろしくな。」
社の言葉に、蓮は頷いて、ラブミー部の扉の前に立つ。
ーーコンコン。
彼女の耳に心地よく響くように願って丁寧に扉を叩くが、シーンと静まり返った部屋から返事はない。
人の気配すらせずに、不思議に思いながら蓮は扉に手を掛けた。
「最上さん?…入るよ?」
一応声を掛けてそろそろと扉を開けると、室内は明かりも消えておりシンとしていた。
ざぁざぁと降り注ぐ雨の音が室内に響く。
「最上…さん?」
室内に向かってそう呼びかけても返事はなかった。
諦めて踵を返そうとしたところで、目の端に見覚えのある鞄が映った。
それはキョーコの愛用する鞄で、ここにそれがあるということは、キョーコがまだ事務所内にいるということを知らせてくれた。
ここで待っていれば帰ってきたキョーコを捕まえられるかもしれないが、なんとなく蓮はキョーコを探すために事務所内を巡り始めた。
タレント部に向かう道でふと屋上が気になり、蓮は行き先を屋上に変えた。
外は土砂降りだ。そんな中、屋上にいるはずはないと思うのだが、何となくそこにキョーコがいるのではないかという気持ちになったのだ。
逸る心を抑えて屋上へと足を向ける。
辿り着いた屋上の扉の前に来ると、蓮は自分の馬鹿さ加減に苦笑を浮かべた。
屋上の扉越しにも聞こえる強い雨音に、こんなところにキョーコはいるはずがないと思ったのだ。
でもやはり気になった蓮はそっと目の前の扉を開いた。
殺風景な屋上は、暗闇に覆われていた。
周りを見回して、また室内に戻ろうとした所で、屋上の目立たない場所に人影が見えた。
「…あれ?」
よく見ると、傘をさした人影が、空を見上げていた。
蓮の心臓がドクンと跳ねる。
ーーー見つけた。
傘で髪が隠れていても、たとえそれが後ろ姿でも、そこにいるのが愛しい少女だということがすぐにわかった。
ぼんやりと空を見つめる寂しそうなキョーコの後ろ姿が儚くて、今にも消えてしまいそうで、蓮はそっと足音を殺して降りしきる雨の中、キョーコへと近付いた。
「最上さん?」
ビクンッ。
後ろから掛かった蓮の声に、キョーコが驚いて身体を跳ね上げると、慌てて振り向いた。
するとそこには、大雨をものともせずに、佇む蓮の姿があった。
それを見て、キョーコはパチパチと瞬きを繰り返す。
「つ、敦賀さん?!どうして…って、どうしたんですか?!そんな格好でっ!!風邪ひいてしまいます!!」
ずぶ濡れの蓮の姿に慌てて近寄ったキョーコは自分の傘に蓮を入れようとするが身長差があるため、それも出来ない。
オロオロとするキョーコを見ながら蓮は呟いた。
「何をしてるの?こんなところで…」
「それは、こっちのセリフです!!敦賀さんこそ何をしてるんですかぁ!!!!」
キョーコは、蓮の様子に驚きながらも蓮の手をグイっと引っ張って屈ませると、傘を蓮の頭上に翳した。
「もうっ!ダメじゃないですか!!ハリウッドスターがこんなことで風邪なんか引いたら…」
「誰に会いたいの?」
「へ?」
キョーコが怒っているのに、蓮は不意に質問を投げかけた。
「書いてただろ?短冊に願いを込めて…。」
キョーコの頬にかぁっと朱が走った。
「なっ!!なんで…私のだって…!!」
「最上さんの字だったから…」
「んなっ?!」
蓮の言葉にキョーコは絶句した。まさか字まで記憶されてるとは思わなかったのだ。
恥ずかしくて、視線を逸らす。
キョーコは雨が降る空を見上げて呟いた。
「雨が降って…天の川が見えなかったから、叶わないかもって思ってたのに…」
「……」
「誰に会いたかったかなんて…決まってるじゃないですか…。」
「そう?確認しなくちゃわからないな。」
「もうっ!!敦賀さんの…意地悪っ!!」
「意地悪でごめんね?」
ぷうっと膨れるキョーコを可愛いなとこっそり思いながら見つめる蓮。
「それで?誰に会いたかったの?」
「…コーンに…。」
キョーコが観念したように、恥ずかしそうにぽそりと呟くと、蓮はそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。
「会えなくて…寂しかった?」
「寂しかったです…。」
キョーコの目にジワっと涙が滲む。
蓮の手がそっとキョーコの頬を包み込んだ。
「俺も…寂しかった…。ずっとずっと会いたかったんだよ?」
「うっ…くっ…急に…いなくなったかと思ったら…ハリウッドなんて…酷いです…!しかも、敦賀さんが久遠さんでコーンだったなんて…!!!!」
キョーコはポロポロと涙を流した。
蓮の指が優しくキョーコの涙をぬぐって行く。
「いつ…気づいたの?」
「すぐ気づきますよ!!先生と一緒に出演した映画で、敦賀さんがいなくなったタイミングで現れた久遠さんを見たらっ!!だって、敦賀さんと久遠さんの違いなんて、髪の色と目の色だけじゃないですか!!」
「そっか…。」
「なんで…言ってくれなかったんですか?」
「俺がコーンだとわかったとしても…あの時と随分変わってしまった自分が、君を幻滅させるんじゃないかと怖かったんだ…。もし、君があの時の俺の告白にいい返事をくれてたら、話してたかもしれないけどね。」
「ずるいです。敦賀さん…ずるい!!」
キョーコは泣きながら、蓮の胸板を片手でボスボスと叩いた。
「わわっ!最上さん。落ち着いて…。」
「もうっ!敦賀さんなんて嫌いです!私になんて構わず、さっさとアメリカに帰ってお仕事して下さい!!」
「それは困るな…折角向こうの仕事を片付けてまた帰って来たのに…。」
「え?それじゃあ…。」
「うん。しばらくはまた日本での活動になるよ。」
「そう…なんですか…」
「うん…」
蓮は優しく微笑んでキョーコを愛おしそうに見つめる。
「そろそろ、素直になって俺に捕まってくれませんか?お嬢さん。」
蓮がキョーコの顔を覗き込む。
「うっ…でも…」
「俺に会いたいと思ってくれてたんでしょ?」
「だって…急に会えなくなったからっ!!」
「そうだね。君が急にいなくなった俺をどう思うかは、一種の賭けだったんだ。気になるか、気にならないか…」
「そんなの!!気になるに決まってます!!!!」
「そうかな?琴南さんも気にしてた?」
「へ?!も、モー子さん…ですか?モー子さんはそんなに気にしてなかった…ような気が…。」
「だろう?興味がないものは、いなくなっても誰も気にしないよ。あれ?そういえば最近見ないな。と思うぐらいのものだ。でも君は、俺を気にしてくれた。会いたいと、短冊に願いを込めるほどに…」
「それは…」
「最上キョーコさん。どうか俺だけの織姫になってくれませんか?」
「でも…本当に私でいいんですか?だって敦賀さんは、ハリウッドスターで、世界中の美女に囲まれて選り取り見取りなんですよ?何も好き好んでこんな地味で色気のない私なんかにしなくても…」
「俺は君がいいんだ。他のどんな美女よりも、最上さんがいい。俺の織姫は君しか考えられない。」
「それじゃあ…敦賀さんは私の彦星になって下さるんですか?」
「うん。勿論だよ。」
蓮が嬉しそうに破顔してキョーコをぎゅうっと抱きしめた。
「きゃっ!!つ、敦賀さん!!冷たいです!!」
「あ、ごめん。嬉しさのあまりおもわず…」
そう言いながらも、離す気はないのか、蓮の抱きしめる腕の力は変わらない。
「もうっ!!」
キョーコも文句を言いながらドキドキと胸を打ち鳴らす。
真っ赤な顔を隠すために、そっと蓮の胸に頭を寄せると、蓮の心臓もキョーコに負けず劣らず早鐘を刻んでいた。
驚いたキョーコが蓮を見上げると、碧色の澄んだ瞳がキョーコを真剣な眼差しでみつめているのに気付いた。
ポタポタと、蓮の金色の髪から雫が零れる。
彦星が天の川を泳いで渡って来たかのように思えて、キョーコは愛おしそうに微笑んだ。
蓮はそんなキョーコの顔に唇を寄せた。
おでこに頬に降り注ぐキスの雨に、キョーコはくすぐったくてくすくす笑う。
でも、少し物足りなさを感じたキョーコは、勇気を出して、ちゅっと蓮の唇に触れるだけのキスをした。
蓮は驚いて瞬きを繰り返した後、これ以上ないくらい破顔して嬉しそうにキョーコをみつめた。
「おかえりなさい。敦賀さん。」
「ただいま。最上さん。これからはずっと一緒にいようね?」
「はい!!」
蓮の言葉に、キョーコは嬉しそうに笑った。
蓮がそっとキョーコを抱き上げて、もう一度キョーコの唇に触れるだけのキスをすると、キョーコもはにかんだ笑顔を蓮に向けた。
「じゃあそろそろ帰ろうか。俺たちの家に…」
「へ?俺たちの家…とは??」
蓮の言葉に、今まで幸せいっぱいだったキョーコが驚いた顔を見せた。
「俺たちの家は俺たちの家だよ。半年も会えなくて、どれだけ俺は君が好きなのか痛感した。もう離れたくないんだ。一緒に暮らそう?」
「ふへぇ??!!ちょ、ちょっと!!敦賀さんっ!!いきなり過ぎませんか?!織姫と彦星は年に一度しか会えないんですよ!!!!」
「そんなの耐えられるわけないだろう?俺たちは空の織姫と彦星の代わりに毎日会って、一緒に過ごそう。」
「きゃあ!!ちょ、ちょっとお気を確かに!!つ、敦賀さぁぁぁぁん!!」
キョーコを抱き上げて歩き出した蓮は、上機嫌で屋上を後にしたのだった。
『貴方に逢いたい…』
キョーコのそのピンク色の短冊の隣には、ゆらゆらと青い短冊が揺れていた。
『俺も、早く君に逢いたい。』
二つの短冊は重なって仲良く揺れていたのだった。
END
☆ポチッと拍手頂けたら嬉しいです。
*****
何だか思ってたのとちがーーーう!!
思ってた話を上手く表現出来ませんでした…!!
申し訳ないです。
この話は、蓮がキョーコに振られた後、クオン・ヒズリとして半年間ハリウッドで映画撮影に臨んだって設定にしてます(笑)
キョーコが振ったのは、蓮の気持ちが信じられなかったから。
でも、離れ離れになった時間が、どれだけ自分の中で蓮が大きな存在になってるかに気付くきっかけになった。
そして七夕の夜に、雨が降る中、二人は再会を果たす。
みたいなつもりで書きましたが、上手くまとめれませんでした!!
七夕に合わせて急遽書いてみましたがお目汚しになってたらすみません~!!
前回のブログで書いたことのお詫びに、こちらはフリーに致します。
もし、こんな話でももらってやってもいいよっ!って方がいらっしゃったら一言お声掛けしてお持ち帰り下さいませ!!
ではでは、またお逢いしましょ~!!