染められるのは…
ーーカッコッカッコッ
靴音を鳴らして兄の後ろを歩く妹。
そんな妹の存在を背後に感じながら歩いていたカインの耳に、不意に入ってきたスタッフ達の会話。
カインの足が自然と止まった。
『ぶっ。に、兄さんっどーしたの?!急に止まらないでよ!』
突然立ち止まった兄の背中にぶつかってしまったセツカが自身の鼻を擦りながら話しかける。
しかし、兄はそんなセツカの言葉が耳に入らないのか、突っ立ったままだ。
そんな兄に訝しんだセツカが、兄の見つめる方向に意識を向ける。
「だから、俺は断然京子だって!」
スタッフ同士が撮影の合間なのか、廊下でお茶を飲みながら立ち話をしていた。
自分の名前が出て来てドキッとしたセツカの中のキョーコも、耳を傾ける。
「あの純な感じがたまんねーのな。染めたくなんねー?自分の色に…」
「京子ってあれだろ?ダークムーンで未緒やってた子だろ?何か怖い印象あんだよね。」
「確かにっ!それに、あのBOX“R"のナツなんてむしろこっちが染められそうじゃねぇ?」
「それはお前らが素の京子を知らねーからだよ!一度一緒に仕事したことあんだけど、何つーの?大和撫子?今時珍しいくらい擦れてねーんだって!」
「え?!マジ?!お前一緒に仕事したことあんのかよ!」
「羨ましいー!どんなだった?!あのナツの色っぽい笑顔で見つめられたらイチコロだよな。」
「いや…だからさ…。」
まだまだ続く男達のトークにキョーコはほんのり頬を染めてどうしたらいいのか固まっていたが、先にカインが動いた。
何事もなかったかのように再び歩きはじめた兄の背中を追うようにセツカとして歩くため、赤くなった頬を隠すようにして歩く。
今まで地味で色気のない女だと周りに思われていると思ってたのだが、そんな評価をもたれるようになったのかと、少しだけ嬉しくなったのだ。
ーーー敦賀さんはさっきの聞いてどう思ったのかな?呆れた?それとも、少しはあんな風に思ってくれたりしてるのかな?
目の前を歩く今は“兄”の先輩俳優を意識して少しだけ頬を染めた。
今はセツカの格好をしてるとはいえ、やはり京子とは自分のことなので、そんな自分のことを噂していた人の隣を通り過ぎるのは少しだけ居た堪れなくて、俯いたままキョーコは足早に通り過ぎようとしたのだが、兄に不意に名を呼ばれた。
『セツ。』
セツカが返事をしようと俯き加減だった顔を上げると、突如その口を兄の口に塞がれた。
突然のことに驚いたセツカが目を見開く。その目と一緒に開いた口にぬめっとした何かが滑り込んで来た。
歯列をなぞられ、舌を絡められて初めてそれが蓮の舌であることを認識して、キョーコは驚いて固まってしまった。
しかし、蓮の舌の熱さに、頬から耳の後ろに差し込まれた指の熱に徐々に溶かされ、気付けば蓮の袖を握り締め、頬を染めて目を閉じていた。
ガクッと膝の力が抜けた所で、崩れ落ちそうになったところを蓮の腕に支えられ抱き上げられる。
その光景を見せつけられた男達はその場で固まることしか許されず、口をあんぐりと開けた状態でフリーズしていた。
そちらをチラリと見やった恐ろしい風貌の男の妙な色気に当てられて、赤面した男達。
そんな男達を一瞥したカインは、腕の中で頬を染めて恨めしげに睨みつけて来る愛しい妹に視線を移した。
『に、兄さん!いきなりなにするのよ!』
ーーえぇ?!兄?!兄妹で?!
英語がわかるのか男達の動揺を肌で感じながら、カインとして蓮はしれっと答える。
『お前が可愛すぎるのがいけない。』
『もうっ。兄さんの馬鹿っ!!』
赤くなった頬を誤魔化すかのように可愛く睨み付けるセツカの顔を覗き込む。
そんなセツカの表情を見て、男達の顔が今までとまた別の意味で赤くなったのを見て、カインがムッとして口を開いた。
『嫌…だったのか?』
『なっ?!も、もうっ!兄さんからされて嫌なことがあるわけないじゃない!!』
『それは…俺がお前の“兄”だからか?』
自分がカインだから…だからセツカとして突然のあんな行為を許してくれたのだろうか?そう思って蓮の中で黒い感情が渦を巻き始める。
しかし、目の前の少女は、耳まで真っ赤に染めた顔をぷいっとかインから逸らして、ぽそりと呟いた。
「そんな訳…ない。」
拗ねたようなその言葉が日本語で紡がれ、蓮は目を見開く。
『そんな訳…ないっ。』
今度は英語で同じ言葉が涙とともに零れ落ちた。
蓮は呆然とそんなキョーコの涙を暫く見つめ、すぐにキョーコを強い力で抱き締めた。
『セツ…セツカ。』
『うぅぅー!兄さんの馬鹿ぁぁ!!』
『悪かった。泣くな…。』
バシバシと遠慮なく肩を叩くセツカをグッと抑え込むように抱き締める。
心臓が痛いくらい早まっているのを自覚しながら、信じられない気持ちで呟いた。
『じゃあ、兄じゃなく“俺”だから受け入れてくれたのか?』
グッと黙り込んだキョーコに、蓮は更に追い討ちをかけた。
『沈黙は肯定…だぞ?』
『~~~~っ!!』
真っ赤になったキョーコがふるふると涙を溜めた目で蓮を見るが、やはり答えられず更に顔を赤らめるだけの結果に終わる。
そんなキョーコの顔をみて、蓮は嬉しそうに微笑んだ。
『肯定と受け取っていいんだな?』
『~~っ!もうっ、好きにすれば?!』
苦し紛れにそう言ったキョーコに、蓮はもう一度口付けた。
『んっ。ふ…』
またもや突然に口付けられ、なす術もなく、そのキスに身を任せた。
頭が熱に浮かされ思考が回らなくなって来た頃、漸く唇が開放された。
『お前は、ずっと俺の側にいろ。ずっとずっと俺の側に…』
そうやって言い聞かせる様に呟いた蓮の肩に頭を預けたキョーコはきゅっと蓮に抱きついた。
『…当然でしょ?私が自分から離れる訳ないじゃない。』
小さな小さな声で呟いたその言葉はちゃんと蓮の耳に入った様だ。
ギュッと強い力で抱き返されて、キョーコは安心した様に目を閉じて蓮の温もりを感じた。
キョーコを抱き上げたまま、そのまま何事もなかったかのように歩きはじめた蓮を見送った男達のフリーズが溶けたのはそれから数分後。
「な、なんだったんだ?あのイカれた兄妹は…?」
「「さ、さぁ?」」
その後、撮影現場に現れたカイン・ヒールの様子で、何処となく上機嫌なのを感じ取った共演者達だったが、それでも近付くのが怖いのか身を寄せ合ってコソコソと噂話をする光景が繰り広げられていたのだった。
END
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なんとなーくの思いつきです。
お粗末さまでしたー!
ーーカッコッカッコッ
靴音を鳴らして兄の後ろを歩く妹。
そんな妹の存在を背後に感じながら歩いていたカインの耳に、不意に入ってきたスタッフ達の会話。
カインの足が自然と止まった。
『ぶっ。に、兄さんっどーしたの?!急に止まらないでよ!』
突然立ち止まった兄の背中にぶつかってしまったセツカが自身の鼻を擦りながら話しかける。
しかし、兄はそんなセツカの言葉が耳に入らないのか、突っ立ったままだ。
そんな兄に訝しんだセツカが、兄の見つめる方向に意識を向ける。
「だから、俺は断然京子だって!」
スタッフ同士が撮影の合間なのか、廊下でお茶を飲みながら立ち話をしていた。
自分の名前が出て来てドキッとしたセツカの中のキョーコも、耳を傾ける。
「あの純な感じがたまんねーのな。染めたくなんねー?自分の色に…」
「京子ってあれだろ?ダークムーンで未緒やってた子だろ?何か怖い印象あんだよね。」
「確かにっ!それに、あのBOX“R"のナツなんてむしろこっちが染められそうじゃねぇ?」
「それはお前らが素の京子を知らねーからだよ!一度一緒に仕事したことあんだけど、何つーの?大和撫子?今時珍しいくらい擦れてねーんだって!」
「え?!マジ?!お前一緒に仕事したことあんのかよ!」
「羨ましいー!どんなだった?!あのナツの色っぽい笑顔で見つめられたらイチコロだよな。」
「いや…だからさ…。」
まだまだ続く男達のトークにキョーコはほんのり頬を染めてどうしたらいいのか固まっていたが、先にカインが動いた。
何事もなかったかのように再び歩きはじめた兄の背中を追うようにセツカとして歩くため、赤くなった頬を隠すようにして歩く。
今まで地味で色気のない女だと周りに思われていると思ってたのだが、そんな評価をもたれるようになったのかと、少しだけ嬉しくなったのだ。
ーーー敦賀さんはさっきの聞いてどう思ったのかな?呆れた?それとも、少しはあんな風に思ってくれたりしてるのかな?
目の前を歩く今は“兄”の先輩俳優を意識して少しだけ頬を染めた。
今はセツカの格好をしてるとはいえ、やはり京子とは自分のことなので、そんな自分のことを噂していた人の隣を通り過ぎるのは少しだけ居た堪れなくて、俯いたままキョーコは足早に通り過ぎようとしたのだが、兄に不意に名を呼ばれた。
『セツ。』
セツカが返事をしようと俯き加減だった顔を上げると、突如その口を兄の口に塞がれた。
突然のことに驚いたセツカが目を見開く。その目と一緒に開いた口にぬめっとした何かが滑り込んで来た。
歯列をなぞられ、舌を絡められて初めてそれが蓮の舌であることを認識して、キョーコは驚いて固まってしまった。
しかし、蓮の舌の熱さに、頬から耳の後ろに差し込まれた指の熱に徐々に溶かされ、気付けば蓮の袖を握り締め、頬を染めて目を閉じていた。
ガクッと膝の力が抜けた所で、崩れ落ちそうになったところを蓮の腕に支えられ抱き上げられる。
その光景を見せつけられた男達はその場で固まることしか許されず、口をあんぐりと開けた状態でフリーズしていた。
そちらをチラリと見やった恐ろしい風貌の男の妙な色気に当てられて、赤面した男達。
そんな男達を一瞥したカインは、腕の中で頬を染めて恨めしげに睨みつけて来る愛しい妹に視線を移した。
『に、兄さん!いきなりなにするのよ!』
ーーえぇ?!兄?!兄妹で?!
英語がわかるのか男達の動揺を肌で感じながら、カインとして蓮はしれっと答える。
『お前が可愛すぎるのがいけない。』
『もうっ。兄さんの馬鹿っ!!』
赤くなった頬を誤魔化すかのように可愛く睨み付けるセツカの顔を覗き込む。
そんなセツカの表情を見て、男達の顔が今までとまた別の意味で赤くなったのを見て、カインがムッとして口を開いた。
『嫌…だったのか?』
『なっ?!も、もうっ!兄さんからされて嫌なことがあるわけないじゃない!!』
『それは…俺がお前の“兄”だからか?』
自分がカインだから…だからセツカとして突然のあんな行為を許してくれたのだろうか?そう思って蓮の中で黒い感情が渦を巻き始める。
しかし、目の前の少女は、耳まで真っ赤に染めた顔をぷいっとかインから逸らして、ぽそりと呟いた。
「そんな訳…ない。」
拗ねたようなその言葉が日本語で紡がれ、蓮は目を見開く。
『そんな訳…ないっ。』
今度は英語で同じ言葉が涙とともに零れ落ちた。
蓮は呆然とそんなキョーコの涙を暫く見つめ、すぐにキョーコを強い力で抱き締めた。
『セツ…セツカ。』
『うぅぅー!兄さんの馬鹿ぁぁ!!』
『悪かった。泣くな…。』
バシバシと遠慮なく肩を叩くセツカをグッと抑え込むように抱き締める。
心臓が痛いくらい早まっているのを自覚しながら、信じられない気持ちで呟いた。
『じゃあ、兄じゃなく“俺”だから受け入れてくれたのか?』
グッと黙り込んだキョーコに、蓮は更に追い討ちをかけた。
『沈黙は肯定…だぞ?』
『~~~~っ!!』
真っ赤になったキョーコがふるふると涙を溜めた目で蓮を見るが、やはり答えられず更に顔を赤らめるだけの結果に終わる。
そんなキョーコの顔をみて、蓮は嬉しそうに微笑んだ。
『肯定と受け取っていいんだな?』
『~~っ!もうっ、好きにすれば?!』
苦し紛れにそう言ったキョーコに、蓮はもう一度口付けた。
『んっ。ふ…』
またもや突然に口付けられ、なす術もなく、そのキスに身を任せた。
頭が熱に浮かされ思考が回らなくなって来た頃、漸く唇が開放された。
『お前は、ずっと俺の側にいろ。ずっとずっと俺の側に…』
そうやって言い聞かせる様に呟いた蓮の肩に頭を預けたキョーコはきゅっと蓮に抱きついた。
『…当然でしょ?私が自分から離れる訳ないじゃない。』
小さな小さな声で呟いたその言葉はちゃんと蓮の耳に入った様だ。
ギュッと強い力で抱き返されて、キョーコは安心した様に目を閉じて蓮の温もりを感じた。
キョーコを抱き上げたまま、そのまま何事もなかったかのように歩きはじめた蓮を見送った男達のフリーズが溶けたのはそれから数分後。
「な、なんだったんだ?あのイカれた兄妹は…?」
「「さ、さぁ?」」
その後、撮影現場に現れたカイン・ヒールの様子で、何処となく上機嫌なのを感じ取った共演者達だったが、それでも近付くのが怖いのか身を寄せ合ってコソコソと噂話をする光景が繰り広げられていたのだった。
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お粗末さまでしたー!