UPしようと思ってた話をコピーしてアメブロにUPしようとしたら、間違ってコピーを選択する前に、ペーストを選んでしまい、なくした記憶 46が全消しに…。
いつもだったらそのまま覚えてる範囲で書き直すのですが、今回はそんな気分になれず別のお話にチャレンジ!!
前に、シリーズ化の要望が多くてお話募集したのに、まだ書いてなかったです☆
遅くなりましたが、お楽しみ頂けたら幸いです。
要望が多かったのは…やはりこの人!遭遇して欲しい!という声が多かったので、チャレンジして見ました!!
*****
君の隣 5
「じゃあ、行ってきます。」
「はいっ!いってらっしゃい!」
玄関まで見送りにきて、ニコニコと可愛らしい笑顔をみせてくれるのは、昨夜、想いが通じ合い恋人になったばかりのキョーコだ。
今日は学校も休みで、撮影も午後からということなので、朝一から撮影がある蓮は、時間までゆっくりしていって。と、家の合鍵を預けたのだ。
ニコニコと笑って見送りしようとしているだけのキョーコをじっと見つめる。
いってきますと言いつつも、自分を見つめたまま出かけようとしない蓮に、キョーコは首を傾げた。
「?どうかされましたか??」
キョーコが不思議そうにきいてくるので、蓮も鏡に移したように首を傾げてキョーコと同じような不思議そうな顔をして問いかけた。
「いってらっしゃいのキスはしてくれないの?」
「へ?!」
ーーボフンッ。
キョーコの顔が真っ赤に染まる。昨日も今日も散々キスをしたのに、どうやらキョーコはまだ慣れてはくれてないようだ。
当然と言えば当然だが、そんなキョーコが可愛くて堪らない。
「え…あの…えっと…」
ワタワタと慌てる姿が可愛くて、思わず笑みが漏れる。
思わずにやけしまう顔を見られたくなくて、キョーコの腕を引いて抱きしめる。
「このまま明後日まで会えないなんて、拷問みたいだ。」
「敦賀さん…」
蓮の一言がキョーコの胸を熱くする。
嬉しくて、蓮の服をギュッと掴んだ。
「私も…です。」
同じ想いと伝えたくて、胸に顔を埋めて答えると、蓮が頭にキスを落としたのがわかった。
そっと顔をあげて蓮を見上げる。
近付く顔に目を閉じて、そっと唇の感触を味わった。
軽く触れ合わせて離れた唇に少しだけ物足りなさを感じた。
「いってきます。」
そう言いながら少し寂しそうな顔を見せる目の前の蓮に、キョーコが今度は自分からキスをした。
蓮の時より短いそれは一瞬だったが、蓮は驚いて目を丸くして自分を見つめるので、キョーコは恥ずかしさで憤死しそうになりつつも慌てて離れる。
蓮の手が、キョーコの視界の端から蓮の顔を覆うようにして動いたので、それを追って蓮をみると、嬉しそうに顔を崩した蓮が赤くなった頬を隠そうとしていた。
そんな姿をポカンと口を開けて見てしまったキョーコは、じわじわと胸に染み渡る充足感を感じながら、はにかんで嬉しそうに笑った。
「いってらっしゃい。蓮さん。」
天使のような笑顔で初めて名前を呼ばれた蓮の心は天にも昇る心地となっていたのだった。
ーーピロリロリン。
携帯がメールの受信を伝え、キョーコは急いで携帯を開いた。
今日はいつも以上にメールが気になって仕方がない。
それは、恋人から届く他愛のないメールが楽しみでならないからだ。
『ちゃんとご飯食べましたか?』
と書いて送ったメールには、『ちゃんと全部食べたよ。美味しかった。ありがとう。』という言葉と共に、空になったお弁当箱の写メまでついてきたのだ。
『それは良かったです。』と送ったら、『君のご飯を毎日食べられたら幸せだろうね。』と返してくれた。
そんな他愛のないメールが嬉しくて、自分から止めることが出来ず、何かしら返信メールをついつい打ってしまうのだ。
「『撮影無事終了しました。』…っと。よし!送信っ!」
キョーコがウキウキとした気持ちで送信ボタンを押すと、聞くだけで気分が悪くなる声が割り込んで来た。
「何、ニヤニヤしながら打ってんだよ。気持ち悪りぃ…」
「げっ。ショータロー?!あんた何しに来たのよ!!」
楽屋の扉を勝手に開けて挨拶もないままズカズカ入ってきた尚に、キョーコはムッとした顔を向ける。
「だーー!!だから、その名前で呼ぶんじゃねぇっつってんだろ?!」
「何よ?!何か用でもあるの?!」
「別に…。お前が気持ち悪りぃ顔してメールちまちま打ってるからだろうが!!」
「別にいいでしょ?!メールくらい!どんな顔して打ったって、あんたには関係ないんだから!!」
キョーコの言葉に、尚はイライラを募らせた。
楽屋の椅子にふんぞり返るように座ると、不貞腐れて睨みつけた。
「誰だよ。相手…」
「は?!」
「だから、誰だって聞いてんだよ!!お前をそんなアホ面させるやつ!!」
「だから、あんたには関係ないでしょ?!放っておいてよ!!」
「な?!んだと…このっ!」
尚の頭に血が登った時だった。
立ち上がって、キョーコに近付こうとしたところで、キョーコの背後の扉から大きな男が入ってくるのが見えたと同時に、その男が、尚の目の前であろうことか、キョーコを抱き締めたのだ。
突然のことに驚いた尚は、すぐに反応することが出来なかった。
「みーつっけた。」
嬉しそうな弾んだ声と共に、優しい温もりが背後からキョーコを包み込むように抱き締めた。
「ふへ?!」
驚いたキョーコが慌てて、顔を後ろに向けると、そこには蓮の蕩けるような笑顔があった。
「れ…っ、つ、敦賀さんっ…。」
「ん。キョーコ…会いたかったよ…。」
「私も…です。」
蓮の腕の中で、キョーコは身体の向きを替えて、蓮に向かい合う。
その蓮の背後で、社が中を見ないように気をつけながら、楽屋の扉を外側からそっと閉めた。
幸せいっぱいという花を頭に咲かせた男の隣に一日中いた社は、何故か一緒にいる間、頭から蜂蜜と砂糖を被らされてる気分になっていたのだ。
蓮の雰囲気がそうさせているのかわからないが、とにかく一日胸焼けしそうでしょうがなかった。
扉を閉めたことで、社はそんな気分から解放されたように感じて安堵の息を吐き出した。
ーー不破君には悪いけど、俺は今のあの二人と同じ部屋にいることは出来ない。知らぬが仏。触らぬ神に祟りなしだ。
遠い目をして、社は京子と名前の書かれた部分を隠すように背にして、せめて他に巻き込まれる被害者が出ないように、楽屋前を見張るため陣取るのだった。
一瞬にして甘ったるい空気にその空間が支配された。
「どうして、ここに?」
潤んだ瞳が蓮を見上げる。
「ん?キョーコが呼んでる気がしてね。会いたくなかった?」
「いえ、一日中会いたくて溜まりませんでした。」
「俺もだよ。」
キョーコの片手を取り、ちゅっと指先に軽く口付ける蓮に、キョーコは嬉しそうに頬を染めた。
交わす会話は人並みな気がするのに、どうしてこうも、色気がだだ漏れなのか、尚には説明が出来ない。
「明後日まで会えないかと思ってました。」
「俺も…。でも、キョーコに会いたくって頑張ったんだ。お陰で予定より二時間も巻きで終われたよ。」
嬉しそうに微笑む蓮に、キョーコは驚いた顔を見せる。
そっと、キョーコの手が蓮の頬を包み込んだ。
「無理…されたんじゃないですか?」
蓮はキョーコの手のひらの温もりを感じるように、その上に自らの手を添えてそっと目を閉じた。
「ん…大丈夫だよ。ちょっと頑張ったけど、無理はしてない。」
「会うために頑張ってくださったんですか?」
「うん。だから、ご褒美くれる?」
ーーーん、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!
尚は、叫びたいのに叫べない空気に、心の中で絶叫してしまった。
顎がガクンと空いて固まったのがわかった。
口の中がじゃりじゃりして気持ち悪い。
身体中から鳥肌が立ってしょうがない。
むず痒くて今にもこの場から逃げ出したいのに、それもままならず、目すらも逸らせない。
目の前のキョーコの態度が信じられなくて、蓮の態度もあり得なくて、頭がついていかない。
ーーーんだよこれ?!撮影か?ドッキリか?!?!どっかにカメラでもあんのか?!
尚の中で、芸能界一ピーとか言われてる敦賀蓮が、キョーコごときにあんなにメロメロな表情をするのも頭が可笑しいんじゃないかと思ってしまう。
だから、どこかにカメラがあって、キョーコにドッキリか何かを仕掛けてるんじゃないかと思ったのだ。
しかし、それはそうだとしても、キョーコの態度はどうなってるんだ?!
なぜか地面が砂糖と蜂蜜だらけの砂漠に迷い込んでしまったようなそんな気分だ。
風で舞う砂は甘く、足を動かそうとすれば、ぬちゃっと蜂蜜が絡みついて来て身動きが取れない。
「ご褒美…って?」
「ん?キョーコならご褒美になにくれる?」
相変わらず抱き合ったままの蓮とキョーコ。蓮がキョーコを抱えてゆらゆら揺れる、そしてちょうど、尚からキョーコと蓮の表情が横から両方見える角度に落ち着くと、蓮はキョーコのおでこに頭をつけて顔を覗き込んだ。
「あの…じゃあ、お食事を…」
「それもいいけど…ね?キョーコ…」
誘うように近付く唇が、キョーコの唇に重なる直前で寸止めされて、キスを望んでいたキョーコが目を開けて目の前の蓮を潤んだ瞳で見つめる。
何で?と責める視線に、蓮は柔らかく微笑んだ。
「ご褒美…頂戴?」
唇に蓮の吐息が当たる距離で囁かれて、キョーコは蓮の頬を両手で包み込む。ドキドキドキドキと心臓を高鳴らせながら、キョーコはそっと唇を重ねた。
時間をかけて味わうように、キスを交わすと、蓮は腕に力を込めて、隙間さえ許さないというようにキョーコを抱きしめる。
キョーコも蓮の首にしがみついて、夢中でキスを交わしたのだった。
「ご褒美に…なりましたか?」
「うん。でも、まだ足りないかな。」
「欲張りですよ?」
おでことおでこを付き合わせてじゃれるように言葉を交わす二人。蓮の足りないという言葉に、キョーコがふふっと笑みをこぼす。
「欲張りは嫌い?」
不安そうに覗き込む蓮に、キョーコはフルフルと首を横に振った。
「良かった。愛してるよキョーコ。この地球上で一番、愛してる。」
「蓮さん…。私も…。」
そう言って、再びキスを再開した二人を見ても、尚の頭は真っ白な上、脳の中に蜂蜜が入り込んで思考回路が上手く動かなくなってしまったとしか思えないくらい、何をする気にも起きなかった。
ただただ口を開けた状態で二人を見つめたまま惚けている尚は、二人からは見向きもされない。
「今日も家に…来るかい?」
「そんなに何度もお邪魔していいんですか?」
「勿論。なんなら、一緒に住んだっていいよ。引っ越しして来る?」
「えぇ?!」
驚いて真っ赤になってしまったキョーコを膝の上に座らせて、蓮はクスリと微笑んだ。
「いつか…ね?キョーコの心の準備が出来たら…。いきなり同棲は…キョーコも困るだろうから、好きなときに泊まれるように、着替えとか、バスセットを持ってきて家に置いておけばいいよ。合鍵は、朝渡したよね?あれは君がずっと持ってて。」
「でも…」
「お願い…キョーコに持ってて欲しいんだ。」
蓮の懇願に、キョーコはまたもや胸が締め付けられた。
「ありがとうございます。じゃあ、お預かりしておきます。」
「いつでも、使っていいからね?キョーコの笑顔は俺を癒してくれるから、疲れなんてすぐにどこかに行っちゃうんだ。だから、毎日だって、君に会いたい。」
「ふふ。ありがとうございます。じゃあ、私も蓮さんに会いたくなった日は…」
「毎日でも会いに来て…。」
耳元にそっとささやかれて、キョーコはふるりと震えた。
「ん…はい。」
「じゃあ、帰ろうか。よっこいしょ。」
「きゃっ!!だ、大丈夫です!!今日は歩いて帰れます~!!」
いきなりお姫様抱っこされたキョーコは驚いた声を上げた。
「そう?転ばないでね?」
そう言って、降ろしてくれた蓮に、ムッとした顔を向ける。
「もうっ!転びませんよ!」
「キョーコの荷物はこれだけ?忘れ物はない?」
「はい。ありませ…はっ!!あ、あら?」
「ん?どうかした?」
キョーコが漸く尚の存在に気付いた。
しまった!!忘れてた!!と、一瞬思ったのだが、慌てて振り返って尚をみると、惚けたように一点を見つめ続けて立ち尽くしている姿が目に入り、首を傾げる。
「アイツ…どうしたんでしょう?」
「さぁ?気にしなくていいんじゃない?」
蓮が飄々と答えて、キョーコを促す。
「ほら。行こう。じゃないと帰りが遅くなる。」
「あ、はい!!って、いつの間にこんな時間に…スーパーに買い物に行かなきゃ!!」
「うん。急ごう。」
「あ、社さん!」
「キョーコちゃんお疲れ~!蓮のご飯よろしくね?」
「はい!任せてください。」
「蓮、お前はそのままキョーコちゃんと帰れよ。俺はまだ仕事が残ってるから。」
「わかりました。社さんありがとうございます。お疲れ様でした。」
「うん。お疲れ!明日の為に今日もたっぷりチャージして来いよ。」
「はい。じゃあ、行こうかキョーコ。」
「はいっ!」
楽し気に会話を交わしながら去って行く二人の背中を見つめ、やれやれと深くため息を落とした社は、苦笑してキョーコの楽屋をノックした。
「不破君?」
返事がない為、恐る恐る扉を開けると、扉の方を向いたまま、ものすごい顔で惚けている尚を見つけて、社はギョッとした。
「ふ、不破君…なのか?」
呼びかけても返事はなく、固まったまま。
「おーい?不破君?不破くーん?」
目の前でヒラヒラと手を翳しても、一向に意識が戻ってこない尚を見て、やはり扉の外にいて正解だったことを社は悟る。
さて、どうしたものか…と、社が思案していると、タイミング良く尚の携帯電話が着信を知らせて音楽を奏で始めた。
それでも気付かない尚に一言断りをいれて、ゴム手袋を嵌めた手で、尚の携帯をポケットから取り出し、電話に出た。
驚いた相手のマネージャーにいろいろと省いた上で事情を話し、迎えに来てもらうようにお願いすると、そのままその場を離れる。
今日は風に当たって歩いて帰りたい気分だ。
家でビールととびっきり辛いものを食べてもいいかもしれない。
「やれやれ、キョーコちゃんも大変だなぁ。」
あんなに、嫉妬深くて、執着心の強い重すぎる蓮の愛を一身で受け止めなくてはならないキョーコ。
ーーキョーコちゃん、潰されなきゃいいけど…
そう思いながらも、月を見上げて思う。
「まぁ。大丈夫か…。キョーコちゃんだもんな。」
今までも数々のキョーコの人外の潜在能力を発揮した姿を目撃して来た社は、キョーコなら蓮の桁外れの愛情を受け止められると確信に近いものを感じる。
「よかったな、蓮。ちゃんとキョーコちゃんを幸せにするんだぞ。」
キョーコの幸せの為なら、何でもしてしまうだろう可愛い弟分を思って、社は家へと足を運ぶのだった。
END
*****
こんな感じで…どうでしょう?!
いやはや、とんでもない二人ですね。(笑)
熱いコメントに刺激されて、何故かシリーズ化してしまった君の隣。
一話完結のはずが、5話?!
自分で驚きです。どれだけのせられやすいんだ!自分っ!!(笑)
続くか続かないかは今後も気分次第です☆
募集して集まった話がいくつかあるので、また書きたくなったら書いて行くと思いますが、どこでも終われるように一応、今回のもこれでENDです☆
前回の話についたコメント読み直してついうっかり書いてしまいましたとさ☆
いつもだったらそのまま覚えてる範囲で書き直すのですが、今回はそんな気分になれず別のお話にチャレンジ!!
前に、シリーズ化の要望が多くてお話募集したのに、まだ書いてなかったです☆
遅くなりましたが、お楽しみ頂けたら幸いです。
要望が多かったのは…やはりこの人!遭遇して欲しい!という声が多かったので、チャレンジして見ました!!
*****
君の隣 5
「じゃあ、行ってきます。」
「はいっ!いってらっしゃい!」
玄関まで見送りにきて、ニコニコと可愛らしい笑顔をみせてくれるのは、昨夜、想いが通じ合い恋人になったばかりのキョーコだ。
今日は学校も休みで、撮影も午後からということなので、朝一から撮影がある蓮は、時間までゆっくりしていって。と、家の合鍵を預けたのだ。
ニコニコと笑って見送りしようとしているだけのキョーコをじっと見つめる。
いってきますと言いつつも、自分を見つめたまま出かけようとしない蓮に、キョーコは首を傾げた。
「?どうかされましたか??」
キョーコが不思議そうにきいてくるので、蓮も鏡に移したように首を傾げてキョーコと同じような不思議そうな顔をして問いかけた。
「いってらっしゃいのキスはしてくれないの?」
「へ?!」
ーーボフンッ。
キョーコの顔が真っ赤に染まる。昨日も今日も散々キスをしたのに、どうやらキョーコはまだ慣れてはくれてないようだ。
当然と言えば当然だが、そんなキョーコが可愛くて堪らない。
「え…あの…えっと…」
ワタワタと慌てる姿が可愛くて、思わず笑みが漏れる。
思わずにやけしまう顔を見られたくなくて、キョーコの腕を引いて抱きしめる。
「このまま明後日まで会えないなんて、拷問みたいだ。」
「敦賀さん…」
蓮の一言がキョーコの胸を熱くする。
嬉しくて、蓮の服をギュッと掴んだ。
「私も…です。」
同じ想いと伝えたくて、胸に顔を埋めて答えると、蓮が頭にキスを落としたのがわかった。
そっと顔をあげて蓮を見上げる。
近付く顔に目を閉じて、そっと唇の感触を味わった。
軽く触れ合わせて離れた唇に少しだけ物足りなさを感じた。
「いってきます。」
そう言いながら少し寂しそうな顔を見せる目の前の蓮に、キョーコが今度は自分からキスをした。
蓮の時より短いそれは一瞬だったが、蓮は驚いて目を丸くして自分を見つめるので、キョーコは恥ずかしさで憤死しそうになりつつも慌てて離れる。
蓮の手が、キョーコの視界の端から蓮の顔を覆うようにして動いたので、それを追って蓮をみると、嬉しそうに顔を崩した蓮が赤くなった頬を隠そうとしていた。
そんな姿をポカンと口を開けて見てしまったキョーコは、じわじわと胸に染み渡る充足感を感じながら、はにかんで嬉しそうに笑った。
「いってらっしゃい。蓮さん。」
天使のような笑顔で初めて名前を呼ばれた蓮の心は天にも昇る心地となっていたのだった。
ーーピロリロリン。
携帯がメールの受信を伝え、キョーコは急いで携帯を開いた。
今日はいつも以上にメールが気になって仕方がない。
それは、恋人から届く他愛のないメールが楽しみでならないからだ。
『ちゃんとご飯食べましたか?』
と書いて送ったメールには、『ちゃんと全部食べたよ。美味しかった。ありがとう。』という言葉と共に、空になったお弁当箱の写メまでついてきたのだ。
『それは良かったです。』と送ったら、『君のご飯を毎日食べられたら幸せだろうね。』と返してくれた。
そんな他愛のないメールが嬉しくて、自分から止めることが出来ず、何かしら返信メールをついつい打ってしまうのだ。
「『撮影無事終了しました。』…っと。よし!送信っ!」
キョーコがウキウキとした気持ちで送信ボタンを押すと、聞くだけで気分が悪くなる声が割り込んで来た。
「何、ニヤニヤしながら打ってんだよ。気持ち悪りぃ…」
「げっ。ショータロー?!あんた何しに来たのよ!!」
楽屋の扉を勝手に開けて挨拶もないままズカズカ入ってきた尚に、キョーコはムッとした顔を向ける。
「だーー!!だから、その名前で呼ぶんじゃねぇっつってんだろ?!」
「何よ?!何か用でもあるの?!」
「別に…。お前が気持ち悪りぃ顔してメールちまちま打ってるからだろうが!!」
「別にいいでしょ?!メールくらい!どんな顔して打ったって、あんたには関係ないんだから!!」
キョーコの言葉に、尚はイライラを募らせた。
楽屋の椅子にふんぞり返るように座ると、不貞腐れて睨みつけた。
「誰だよ。相手…」
「は?!」
「だから、誰だって聞いてんだよ!!お前をそんなアホ面させるやつ!!」
「だから、あんたには関係ないでしょ?!放っておいてよ!!」
「な?!んだと…このっ!」
尚の頭に血が登った時だった。
立ち上がって、キョーコに近付こうとしたところで、キョーコの背後の扉から大きな男が入ってくるのが見えたと同時に、その男が、尚の目の前であろうことか、キョーコを抱き締めたのだ。
突然のことに驚いた尚は、すぐに反応することが出来なかった。
「みーつっけた。」
嬉しそうな弾んだ声と共に、優しい温もりが背後からキョーコを包み込むように抱き締めた。
「ふへ?!」
驚いたキョーコが慌てて、顔を後ろに向けると、そこには蓮の蕩けるような笑顔があった。
「れ…っ、つ、敦賀さんっ…。」
「ん。キョーコ…会いたかったよ…。」
「私も…です。」
蓮の腕の中で、キョーコは身体の向きを替えて、蓮に向かい合う。
その蓮の背後で、社が中を見ないように気をつけながら、楽屋の扉を外側からそっと閉めた。
幸せいっぱいという花を頭に咲かせた男の隣に一日中いた社は、何故か一緒にいる間、頭から蜂蜜と砂糖を被らされてる気分になっていたのだ。
蓮の雰囲気がそうさせているのかわからないが、とにかく一日胸焼けしそうでしょうがなかった。
扉を閉めたことで、社はそんな気分から解放されたように感じて安堵の息を吐き出した。
ーー不破君には悪いけど、俺は今のあの二人と同じ部屋にいることは出来ない。知らぬが仏。触らぬ神に祟りなしだ。
遠い目をして、社は京子と名前の書かれた部分を隠すように背にして、せめて他に巻き込まれる被害者が出ないように、楽屋前を見張るため陣取るのだった。
一瞬にして甘ったるい空気にその空間が支配された。
「どうして、ここに?」
潤んだ瞳が蓮を見上げる。
「ん?キョーコが呼んでる気がしてね。会いたくなかった?」
「いえ、一日中会いたくて溜まりませんでした。」
「俺もだよ。」
キョーコの片手を取り、ちゅっと指先に軽く口付ける蓮に、キョーコは嬉しそうに頬を染めた。
交わす会話は人並みな気がするのに、どうしてこうも、色気がだだ漏れなのか、尚には説明が出来ない。
「明後日まで会えないかと思ってました。」
「俺も…。でも、キョーコに会いたくって頑張ったんだ。お陰で予定より二時間も巻きで終われたよ。」
嬉しそうに微笑む蓮に、キョーコは驚いた顔を見せる。
そっと、キョーコの手が蓮の頬を包み込んだ。
「無理…されたんじゃないですか?」
蓮はキョーコの手のひらの温もりを感じるように、その上に自らの手を添えてそっと目を閉じた。
「ん…大丈夫だよ。ちょっと頑張ったけど、無理はしてない。」
「会うために頑張ってくださったんですか?」
「うん。だから、ご褒美くれる?」
ーーーん、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!
尚は、叫びたいのに叫べない空気に、心の中で絶叫してしまった。
顎がガクンと空いて固まったのがわかった。
口の中がじゃりじゃりして気持ち悪い。
身体中から鳥肌が立ってしょうがない。
むず痒くて今にもこの場から逃げ出したいのに、それもままならず、目すらも逸らせない。
目の前のキョーコの態度が信じられなくて、蓮の態度もあり得なくて、頭がついていかない。
ーーーんだよこれ?!撮影か?ドッキリか?!?!どっかにカメラでもあんのか?!
尚の中で、芸能界一ピーとか言われてる敦賀蓮が、キョーコごときにあんなにメロメロな表情をするのも頭が可笑しいんじゃないかと思ってしまう。
だから、どこかにカメラがあって、キョーコにドッキリか何かを仕掛けてるんじゃないかと思ったのだ。
しかし、それはそうだとしても、キョーコの態度はどうなってるんだ?!
なぜか地面が砂糖と蜂蜜だらけの砂漠に迷い込んでしまったようなそんな気分だ。
風で舞う砂は甘く、足を動かそうとすれば、ぬちゃっと蜂蜜が絡みついて来て身動きが取れない。
「ご褒美…って?」
「ん?キョーコならご褒美になにくれる?」
相変わらず抱き合ったままの蓮とキョーコ。蓮がキョーコを抱えてゆらゆら揺れる、そしてちょうど、尚からキョーコと蓮の表情が横から両方見える角度に落ち着くと、蓮はキョーコのおでこに頭をつけて顔を覗き込んだ。
「あの…じゃあ、お食事を…」
「それもいいけど…ね?キョーコ…」
誘うように近付く唇が、キョーコの唇に重なる直前で寸止めされて、キスを望んでいたキョーコが目を開けて目の前の蓮を潤んだ瞳で見つめる。
何で?と責める視線に、蓮は柔らかく微笑んだ。
「ご褒美…頂戴?」
唇に蓮の吐息が当たる距離で囁かれて、キョーコは蓮の頬を両手で包み込む。ドキドキドキドキと心臓を高鳴らせながら、キョーコはそっと唇を重ねた。
時間をかけて味わうように、キスを交わすと、蓮は腕に力を込めて、隙間さえ許さないというようにキョーコを抱きしめる。
キョーコも蓮の首にしがみついて、夢中でキスを交わしたのだった。
「ご褒美に…なりましたか?」
「うん。でも、まだ足りないかな。」
「欲張りですよ?」
おでことおでこを付き合わせてじゃれるように言葉を交わす二人。蓮の足りないという言葉に、キョーコがふふっと笑みをこぼす。
「欲張りは嫌い?」
不安そうに覗き込む蓮に、キョーコはフルフルと首を横に振った。
「良かった。愛してるよキョーコ。この地球上で一番、愛してる。」
「蓮さん…。私も…。」
そう言って、再びキスを再開した二人を見ても、尚の頭は真っ白な上、脳の中に蜂蜜が入り込んで思考回路が上手く動かなくなってしまったとしか思えないくらい、何をする気にも起きなかった。
ただただ口を開けた状態で二人を見つめたまま惚けている尚は、二人からは見向きもされない。
「今日も家に…来るかい?」
「そんなに何度もお邪魔していいんですか?」
「勿論。なんなら、一緒に住んだっていいよ。引っ越しして来る?」
「えぇ?!」
驚いて真っ赤になってしまったキョーコを膝の上に座らせて、蓮はクスリと微笑んだ。
「いつか…ね?キョーコの心の準備が出来たら…。いきなり同棲は…キョーコも困るだろうから、好きなときに泊まれるように、着替えとか、バスセットを持ってきて家に置いておけばいいよ。合鍵は、朝渡したよね?あれは君がずっと持ってて。」
「でも…」
「お願い…キョーコに持ってて欲しいんだ。」
蓮の懇願に、キョーコはまたもや胸が締め付けられた。
「ありがとうございます。じゃあ、お預かりしておきます。」
「いつでも、使っていいからね?キョーコの笑顔は俺を癒してくれるから、疲れなんてすぐにどこかに行っちゃうんだ。だから、毎日だって、君に会いたい。」
「ふふ。ありがとうございます。じゃあ、私も蓮さんに会いたくなった日は…」
「毎日でも会いに来て…。」
耳元にそっとささやかれて、キョーコはふるりと震えた。
「ん…はい。」
「じゃあ、帰ろうか。よっこいしょ。」
「きゃっ!!だ、大丈夫です!!今日は歩いて帰れます~!!」
いきなりお姫様抱っこされたキョーコは驚いた声を上げた。
「そう?転ばないでね?」
そう言って、降ろしてくれた蓮に、ムッとした顔を向ける。
「もうっ!転びませんよ!」
「キョーコの荷物はこれだけ?忘れ物はない?」
「はい。ありませ…はっ!!あ、あら?」
「ん?どうかした?」
キョーコが漸く尚の存在に気付いた。
しまった!!忘れてた!!と、一瞬思ったのだが、慌てて振り返って尚をみると、惚けたように一点を見つめ続けて立ち尽くしている姿が目に入り、首を傾げる。
「アイツ…どうしたんでしょう?」
「さぁ?気にしなくていいんじゃない?」
蓮が飄々と答えて、キョーコを促す。
「ほら。行こう。じゃないと帰りが遅くなる。」
「あ、はい!!って、いつの間にこんな時間に…スーパーに買い物に行かなきゃ!!」
「うん。急ごう。」
「あ、社さん!」
「キョーコちゃんお疲れ~!蓮のご飯よろしくね?」
「はい!任せてください。」
「蓮、お前はそのままキョーコちゃんと帰れよ。俺はまだ仕事が残ってるから。」
「わかりました。社さんありがとうございます。お疲れ様でした。」
「うん。お疲れ!明日の為に今日もたっぷりチャージして来いよ。」
「はい。じゃあ、行こうかキョーコ。」
「はいっ!」
楽し気に会話を交わしながら去って行く二人の背中を見つめ、やれやれと深くため息を落とした社は、苦笑してキョーコの楽屋をノックした。
「不破君?」
返事がない為、恐る恐る扉を開けると、扉の方を向いたまま、ものすごい顔で惚けている尚を見つけて、社はギョッとした。
「ふ、不破君…なのか?」
呼びかけても返事はなく、固まったまま。
「おーい?不破君?不破くーん?」
目の前でヒラヒラと手を翳しても、一向に意識が戻ってこない尚を見て、やはり扉の外にいて正解だったことを社は悟る。
さて、どうしたものか…と、社が思案していると、タイミング良く尚の携帯電話が着信を知らせて音楽を奏で始めた。
それでも気付かない尚に一言断りをいれて、ゴム手袋を嵌めた手で、尚の携帯をポケットから取り出し、電話に出た。
驚いた相手のマネージャーにいろいろと省いた上で事情を話し、迎えに来てもらうようにお願いすると、そのままその場を離れる。
今日は風に当たって歩いて帰りたい気分だ。
家でビールととびっきり辛いものを食べてもいいかもしれない。
「やれやれ、キョーコちゃんも大変だなぁ。」
あんなに、嫉妬深くて、執着心の強い重すぎる蓮の愛を一身で受け止めなくてはならないキョーコ。
ーーキョーコちゃん、潰されなきゃいいけど…
そう思いながらも、月を見上げて思う。
「まぁ。大丈夫か…。キョーコちゃんだもんな。」
今までも数々のキョーコの人外の潜在能力を発揮した姿を目撃して来た社は、キョーコなら蓮の桁外れの愛情を受け止められると確信に近いものを感じる。
「よかったな、蓮。ちゃんとキョーコちゃんを幸せにするんだぞ。」
キョーコの幸せの為なら、何でもしてしまうだろう可愛い弟分を思って、社は家へと足を運ぶのだった。
END
*****
こんな感じで…どうでしょう?!
いやはや、とんでもない二人ですね。(笑)
熱いコメントに刺激されて、何故かシリーズ化してしまった君の隣。
一話完結のはずが、5話?!
自分で驚きです。どれだけのせられやすいんだ!自分っ!!(笑)
続くか続かないかは今後も気分次第です☆
募集して集まった話がいくつかあるので、また書きたくなったら書いて行くと思いますが、どこでも終われるように一応、今回のもこれでENDです☆
前回の話についたコメント読み直してついうっかり書いてしまいましたとさ☆