納得出来ず、何度も訂正に訂正を加えて漸くUP☆
何とか満足?な感じで書けました。
いつもの不安な夜シリーズにしては長めです。
漸くここまできたどーーーー!!(←どこの人?!笑)
不安な夜を抜けるとあら不思議♪書くのがとっても楽しくなります( *´艸`)
お楽しみくださいませ~☆
*****
不安な夜 22
「あのね、私…好きな人が出来たの」
蓮の頭の中にエコーがかかったようにグワングワンと鳴り響くキョーコの言葉。
「好きな…人って…?さっきの…電話、の?」
蓮は動揺を隠せない。ハッキリとキョーコの口から好きな人がいる。と告げられたのは京都の河原で出会った時以来だ。
急速な喉の渇きを感じながら、蓮はキョーコを抱きしめる腕に少しだけ力を込める。
「ううん。違うの。」
「違う?秀人さんって奴じゃ…ないの?」
「うん。違うの…。」
「じゃあ…」
蓮は貴島ではないと言われて混乱していた。じゃあ誰だ?
もしかして…アイツ?でも…。
蓮の頭の中がグルグルしていることも気付かずキョーコはそっと蓮の胸にもたれかかりながら、あぁ…とあることに気付いていた。
ーーーコーンって、敦賀さんに似てるんだわ。外国人版の(あ、この場合妖精版の方が正しいかしら?)敦賀さんみたいで安心するんだ。
キョーコはコーンの胸元にそっと身を寄せる。蓮は、キョーコを誰にも渡したくなくて、先ほど抱き締めていた時よりも強くキョーコを抱き締めた。
ギリっと奥歯を噛みしめる。
ーーー最上さんの心を攫ったのはどこのどいつだ?!
蓮の心は嵐の海の如く荒れていた。
蓮のことを好きな人だと認めて声に出すことは初めてだ。親友である奏江にすら言ったことのない真実。貴島にはバレはしたが、好きだと認めて言ったわけではない。ちゃんと否定だってしていたのだから。
自分が再び愚かな気持ちを抱いてしまったことに、キョーコは苦しんでいた。だから誰にも知られたくない。これは誰にも気付かれてはいけないと一生口にするつもりはなかったが、コーンには全てを話したくなった。心の中の想いを包み隠さず全て。
コーンならこんな想いも愚かだとは思わないだろう。
でもやっぱり顔を見て言う勇気がなくて、コーンの肩に顔を埋めた状態で言うことにした。
「あ、あのね?ショーちゃんじゃないのよ?あいつはもう違うの。今好きなのはショーちゃんとは全く比べものにならないくらい誰よりも尊敬する素敵な人なの…。」
キョーコの首まで真っ赤になっているのを視界に捉えてしまった蓮の声が硬くなる。
「……それで?ソイツに何か酷い事でも言われた?」
蓮はキョーコの好きな人が聞きたいようで聞きたくなかった。荒れた心を必死に繋ぎとめる。きっと聞いてしまったら最後、キョーコの好きだという相手を傷付けて、キョーコを悲しませてしまうだろう。
だから、話を変えようとした。
キョーコはフルフルと首を振る。
キョーコの手が蓮の首に回され、ギュウっと抱きついて来た。
蓮も同じく抱きしめ返す。
絶対に離したくないという想いから、目を瞑って全身でキョーコを感じる。このままキョーコをどうしたら繋ぎ止めておけるのかということばかり必死で考えていた。
泣いてしまいそうだ。いや、心はとっくに涙を流していた。
「ううん。違うの…。敦賀さんは何も悪くない…。」
「え……?」
蓮は一瞬キョーコが言った言葉の意味がわからなかった。
「ツルガ…サン?」
ーーー好きな人の話をしてたんだよな…?…何で急に俺の話に…もしかして俺以外にも…ツルガっているのか…?いや、それはないよな…だったら…え?でも、嘘だろ?いやいや、まさか…な?都合のいい解釈してるだけで…。いや…でも…俺?
蓮は信じられず目を瞬かせた。
慌ててキョーコの顔を覗き込もうとしても、ギュウっと強くしがみ付いてるキョーコの顔は残念ながら拝めなかった。
恐る恐る腕の中の存在を抱きしめ直す。
華奢な身体、柔らかな体温、ふるふるとこきざみに震える肩。
心臓がバクバクと期待に満ちて動き出す。
「敦賀さんって…えっと、俳優の?」
キョーコはコクンと頷いた。恥ずかしいのだろう。みるみるうちにキョーコの体温が上がって行く。
いや、それとも自分の体温があがっているのだろうか?
「じゃあ…もが…キョーコ、ちゃんが好きなのって…」
「だから、その敦賀さんっ!!恥ずかしいんだからあんまり言わせないでよぉぉぉぉ!!コーンの馬鹿ぁ!!」
「いや…馬鹿って言われても…参ったな。」
蓮はキョーコが顔を見えないようにしてくれてて本気で良かったと思った。今自分の顔が見せられない程真っ赤であることを自覚出来るからだ。
ーーーヤバイ…どうしよう。こんなのって有りか?!
心臓がバコバコうるさい。
蓮が真っ赤な顔でキョーコの言葉を遡って何度も反芻していると、キョーコがどうして泣いていたのかが気になった。
「それで…何で泣いてたの?」
「話すと…長くなっちゃうんだけど…。」
「うん?」
「私、敦賀さんから逃げたの。」
「…逃げた?……どう、し…て?」
「怖かった。愛しても…愛し返される保証なんてないのに、もう恋愛なんて愚かな感情なんか持たないって決めてたはずなのに、怖かったのっ!どんどん敦賀さんに嵌っていく自分が…っ!」
ーーー信じられない…。俺は、夢でも見てるんじゃないだろうか。この子からこんなにも想ってもらえる日が来るなんて…。
腕の中の温もりが愛しくて堪らなくて、こんな形で聞いてしまったことに、少しばかりの罪悪感を感じながらも、心が浮き足立つ。
「それに、敦賀さんには…好きな人がいるのにっ!!」
「えっ…?!」
続いたキョーコの言葉に蓮は鈍器で思いっきり殴られたようなショックを受けた。
天に登りかけていたところを一気に地上まで落とされた感覚だ。
「敦賀さんみたいな人が私を見るなんてこと…あるわけがないのに…。」
キョーコの悲しげな声が胸に突き刺さる。胸を押しつぶされそうになりながらも、キョーコがどこでどう蓮に好きな人がいるという情報を得たのかわからず驚いた。
しかもキョーコ以外に好きな人などありえないし、過去にスキャンダルだってなかったはずだ。キョーコが誤解しているのはどういうことだろう?
蓮は必死で考えた。
混乱した頭でぐるぐると考えるが出てこない。
だけど、キョーコが誤解しているということにだけははっきりとわかる。
「なんで…好きな人がいるなんて…思ったの?」
蓮はグルグルと混乱している脳内から何とか質問を絞り出した。キョーコは一瞬言葉に詰まったが、すぐに口を開いた。
「あのね、実は10日位前に、私…見ちゃったの…敦賀さんに告白してる女の子…。」
「…え?!」
10日程前といえば、ちょうどキョーコの様子がおかしくなり始めた頃だ。
一緒にいて話しかけてもボーッとしていることが多く、まともに会話が出来なくなった。
ーーー俺への告白をみたからーー?でも、俺はちゃんと断ったはずだ…なんで?
「敦賀さんはその子のこと振ってたんだけど、私…それを見て一瞬喜んじゃったの…。敦賀さんがその子と付き合わないってわかってホッとしたの…」
キョーコの身体に触れる自分の手がジワリと熱くなっているのがわかる。キョーコの想いが言葉に乗り、蓮の心にじわじわと染み渡り、歓びに胸を焼く。
「だけどね、嬉しかったのに、同時に絶望しちゃったの…。あんなに可愛い子でもダメなんだって…」
「え…?」
「そして聞いちゃったんだ。他に好きな人がいるんだって…。」
「そんなの…っ。」
蓮はどう言ったらいいのかわからなくてぐっと唇を噛み締めた。
キョーコが好きなのは自分で、キョーコを好きなのもまた自分なのだ。
しかし、今のコーンの姿でそれを告げるのは、自分が蓮だと伝えることになる。
妖精だと思ってるからキョーコはずっと人に言えなかった想いを打ち明けてくれているのだろう。
もし、コーンが妖精ではなくて、ただの人間で、しかもその敦賀蓮本人だとしたら、キョーコに一生口を聞いてもらえなくなるんじゃないかと思って凄く怖くなってしまった。
「ううん。本当は最初っからわかってたの。敦賀さんに好きな人がいることは…それでずっと苦しんでいたことも…」
「……わかってた……?」
「何年か前にね、敦賀さんから恋愛相談を受けることがあってその時に。」
「恋愛…相談?キョーコちゃんに?」
蓮の頭は益々混乱した。いつ自分が彼女に恋愛相談を持ちかけたというのだろう。心当たりが全くなくて怪訝な顔をしてしまう。
「うん。でね、その告白現場を見てから、自分の気持ちがこれ以上育つのが怖くなって、敦賀さんから距離を取りたいって思うようになって…。」
「何で…?キョーコちゃんはまだ告白してないんだろ?気持ちが伝わったら、敦賀さんだって…」
キョーコはブンブンと首を振る。
「やだ!!伝えられるわけないじゃない。この気持ちは敦賀さんにだけは伝えない!伝えられない。絶対にこの気持ちは知られたくないの。敦賀さんからは可愛がってはもらえてると思うけど、ただそれだけ。特別なんかじゃない。特別だと…勘違いしたらいけないの…。だって、ショータローの時とは比べものにならないくらい自分が愚か者になるのがわかるもの。」
辛そうなキョーコの声、震える肩にそっと手を添えて蓮が口を開きかけたが、それよりもキョーコの方が少しだけ早く口を開いた。ガバッと急に顔を上げて蓮を見る。潤んだ瞳が蓮の目を覗き込みながら真剣に告げた。
「だから、今の話絶対に誰にも内緒だよ!コーンだから話したんだから。」
「え…あ…うん。」
複雑な気持ちで曖昧に頷くと、キョーコは安堵したようにそっと息をつき、また再び蓮の胸元に甘えるようにもたれ掛かり、その話を続けた。
「それでね、この間私…問題を起こしちゃってたみたいで…」
「……うん。」
「気付かない内に事務所の人にも沢山迷惑かけちゃってて…。」
キョーコはしょんぼりとした様子で続けた。どうやらその問題を起こしたことも相当応えているようだ。
蓮の頭にも貴島との熱愛報道が思い浮かぶ。
仲良くホテルから出てきたその姿、携帯ショップで買い物を楽しむ姿が今でも脳裏に焼き付いている。
キョーコの好きな人がわかった今でも貴島に対する嫉妬心は簡単に消えたりしない。
「敦賀さんへの告白を盗み見した日から…気持ちはどんどん募るのに、どんなに想っても私なんかじゃ届かないって辛くて、もう敦賀さんの側にこれ以上いれないって思って、明日仕事が早いからって嘘ついて飛び出しちゃったの。」
蓮はそうとは知らずに勝手に落ち込んでいた自分に後悔した。
あの時、キョーコが何と言おうと、可笑しくなった理由を問い質して何としてでも捕まえておかなければいけなかったのだ。
「帰り道で、偶然秀人さんに会ったの…。」
蓮の中でまたもやモヤモヤとした気持ちが膨らむ。
「秀人さんが送るって言ってくれて一緒に家に向かって帰ってたんだけど、途中で土砂降りになっちゃって…」
「あぁ…そういえば…」
蓮もその日の天候を思い出した。
雨が降り出したことに心配してキョーコの家まで様子を見に行っていたのだから…。そして、その心配は見事に的中していたのだ。
「慌てて入り込んだのが…あの…その、いわゆるラブホっていうとこらしくて…」
蓮の耳がピクリと反応する。キョーコにそんな気持ちはなかったとしても、貴島にそんな場所へ連れ込まれて無事な訳がない。蓮はジリジリと言い表わし様のない気持ちを膨らませて、キョーコの服を握り込む。今すぐ上書きしてやりたいという衝動を抱きしめる力に変えるように意識して何とかやり過ごす。
そのキョーコはセバスチャンにローリィのゲストルームへ送られる道すがら、ラブホの正しい知識を教えられていた為、良いながら顔を真っ赤にしていた。
「秀人さんと入った時はその…ラブホテルって、ラブリーなホテルのことだと思ってて…。」
「…………。」
キョーコが真っ赤になっているのを違う意味で解釈していた蓮は、キョーコの言葉が一瞬飲み込めなかった。
「だから、あのっ。うっかりしてて…熱愛報道なんて言われるなんて想像もしてなくって…。」
思わず無表情で遠くをみてしまう。
うっかり…?うっかりで抱かれたとでも言うのだろうか?
蓮は怒りを抑えた声で問いかける。
「それで?ホテルで“秀人さん”に美味しく頂かれたわけ?」
「へ?!え?!違うよ!秀人さんには何もされてないもん!」
「じゃあなんで、名前でなんてっ…」
蓮が少しだけ怒りを込めて言うと、キョーコがキョトンと首を傾げた。
「名前って?」
「敦賀さんって苗字だろ?でも、秀人さんは名前だ…」
「えっとあのね?コーン。秀人さんはただの友達なのよ?友達に恵まれなかった私にね、友達になろうよって言ってくれたの。」
えへへ。と嬉しそうにはにかむキョーコに面食らう。
「…え?」
「私も最初は先輩だし苗字で貴島さんって呼んでたんだよ?でも友達なのに、貴島さんは寂しいって言われて…。秀人さんになったの。だから、別に、あの…ホテルに泊まったのは雨から逃れる為に駆け込んだのがたまたまそこだったってだけで…」
「…でも、同じ部屋をとったんだろ?」
「それは…そうだけど、でも何もなかったんだよ?先にシャワーで雨を流してくださいって言った時に冗談で一緒に入ろうか?とは言われたけど、断固拒否したし、お風呂から上がったあとはすぐに寝たし…。」
「ほ、本当に…?」
「うん。本当。」
「何もなかった?」
「うん。なかったよ?」
「そう…なんだ。良かった…。」
蓮は本当に貴島とキョーコの間に何もなかったことを知って、心底安堵した。
「それで朝、ホテルを出る時にカメラで撮られたことは秀人さんが気付いたから知ったんだけど、私みたいなパットしないタレント相手であんなに報道が過熱されるなんて思わなくて…」
「……君って子は…」
ーーー本当に…どうしてくれようか。
「だから、秀人さんに羽を伸ばそうって遊びに誘われて、携帯は壊れてたから事務所からの電話にも気づけないまま出掛けちゃって…。珍しくオフの日だったから、わざわざ事務所に電話もしなくて…。」
はぁぁぁ~。と蓮は大きく息を吐き出した。そういうことか…と小さく呟く。
一呼吸置いて、蓮はキョーコの髪を梳きながら話の続きを促す。
「それで?ここには泣きに来たんだろ?」
「うん。あのね、それで実は、秀人さんといる時に敦賀さんが来てくれたの。」
「…うん。」
心なしか、キョーコの声が少しだけ弾んでいる気がして、蓮は少しだけ面映い気持ちになった。
「でもその時は様子がおかしくて、前日の夜に見た敦賀さんと別人見たいになってて…。」
言いながら少し震え出したキョーコの髪を安心させるように優しく撫でる。
サラサラの髪から香るキョーコの香りが蓮の心を落ち着かせる。
「詳しくは言えないけど、敦賀さんがいきなり豹変したみたいになって…。」
そういえば、そうだ。貴島を殴ってたんだった。と思い出し、事情を知った今、話も聞かずにあんな強行に出た自分の行動に恥じ入る気持ちが生まれ、貴島に申し訳ないことをしたと心の中で反省をした。
「その時は私、敦賀さんの行動が信じられなくて、慌てて止めに入ったの。だけど、その時の敦賀さんの目が怖くて、でも顔はすごく傷付いた顔をしてて…。」
「うん…。」
情けない顔をさらしてたことに気恥ずかしくなって、キョーコをギュッと抱きしめた。
しかし、キョーコの震えは止まらない。
「それっきり…なの。テレビで…うぅっ…」
嗚咽が漏れて上手く話せないキョーコに無理して話さなくてもと言うのだが、キョーコは首を振る。
「電話しても繋がらないし…テレビでは決まってたお仕事を次々とおりてて、失踪なんて話になってるし…何処でどうしてるのかもわからなくて、不安で…」
「大丈夫…大丈夫だよ。彼は。」
「う…ふっ。うぅ…コーンっ!!」
「大丈夫。大丈夫だから。」
「ふぇ…ふえぇぇぇーん。」
ギュウっと抱き締めてもキョーコの涙は止まらなかった。
泣きじゃくるキョーコが愛しくて、ここまで自分を想ってくれていることに胸が熱くなる。
涙が一雫落ちるたびに、蓮の中のキョーコに対する愛しさが膨らんで行く。
少しでも不安を取り除きたくて大丈夫だと繰り返して、蓮はキョーコの頭にキスを落とした。
「大丈夫…キョーコちゃんがこんなに想ってるんだから、ちゃんと彼も帰ってくるよ。」
「本当に…?」
「うん。ちゃんと帰ってくるし、それに彼もキョーコちゃんのことを大好きだと思うよ?」
「うぅー…。それはないもんっ!」
「なんで?」
蓮も大好きだと思っているだろうということを言ったのに、即座にキョーコから否定され、少しだけムッとなった。
「だって、私なんて、色気もないし、胸もないし、美人じゃないし、家政婦の真似事しか出来ないんだもん。」
自分を卑下する言葉を聞きたくなくて、真剣に思いを伝える。
キョーコの想いを知った今、キョーコにこの気持ちを伝えたいという想いが止められない程膨らんでいた。
「そんなことない…キョーコちゃんは…可愛いよ。」
「可愛くなんて…」
「ひた向きで、素直で、礼儀正しくて、真っ直ぐで、何事にも一生懸命で本当に凄く可愛い。」
「コッコーンったらっ!」
キョーコは真っ赤になった。
不意打ちでそんなことを言うなんて反則だ。
抗議する為に顔をあげたら、そこには驚くほど真剣な瞳がキョーコを見つめていた。
「キョーコちゃんは、誰よりも可愛いよ?」
すっと大きな掌に頬を撫でられて、キョーコが目を剥いて魅入られたように固まる。見つめあったまま暫しの沈黙が続き、もはや枷も脆くなってしまった蓮の理性の糸がプツリと音を立てて千切れる音を耳の奥で聞いた時、二人の唇が静かに重なっていたーー。
サァァーっと吹き抜けた風が二人の髪を攫い柔らかく揺らしていた。
(続く)
☆お気に召して頂けたら拍手お願いします♪
何とか満足?な感じで書けました。
いつもの不安な夜シリーズにしては長めです。
漸くここまできたどーーーー!!(←どこの人?!笑)
不安な夜を抜けるとあら不思議♪書くのがとっても楽しくなります( *´艸`)
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不安な夜 22
「あのね、私…好きな人が出来たの」
蓮の頭の中にエコーがかかったようにグワングワンと鳴り響くキョーコの言葉。
「好きな…人って…?さっきの…電話、の?」
蓮は動揺を隠せない。ハッキリとキョーコの口から好きな人がいる。と告げられたのは京都の河原で出会った時以来だ。
急速な喉の渇きを感じながら、蓮はキョーコを抱きしめる腕に少しだけ力を込める。
「ううん。違うの。」
「違う?秀人さんって奴じゃ…ないの?」
「うん。違うの…。」
「じゃあ…」
蓮は貴島ではないと言われて混乱していた。じゃあ誰だ?
もしかして…アイツ?でも…。
蓮の頭の中がグルグルしていることも気付かずキョーコはそっと蓮の胸にもたれかかりながら、あぁ…とあることに気付いていた。
ーーーコーンって、敦賀さんに似てるんだわ。外国人版の(あ、この場合妖精版の方が正しいかしら?)敦賀さんみたいで安心するんだ。
キョーコはコーンの胸元にそっと身を寄せる。蓮は、キョーコを誰にも渡したくなくて、先ほど抱き締めていた時よりも強くキョーコを抱き締めた。
ギリっと奥歯を噛みしめる。
ーーー最上さんの心を攫ったのはどこのどいつだ?!
蓮の心は嵐の海の如く荒れていた。
蓮のことを好きな人だと認めて声に出すことは初めてだ。親友である奏江にすら言ったことのない真実。貴島にはバレはしたが、好きだと認めて言ったわけではない。ちゃんと否定だってしていたのだから。
自分が再び愚かな気持ちを抱いてしまったことに、キョーコは苦しんでいた。だから誰にも知られたくない。これは誰にも気付かれてはいけないと一生口にするつもりはなかったが、コーンには全てを話したくなった。心の中の想いを包み隠さず全て。
コーンならこんな想いも愚かだとは思わないだろう。
でもやっぱり顔を見て言う勇気がなくて、コーンの肩に顔を埋めた状態で言うことにした。
「あ、あのね?ショーちゃんじゃないのよ?あいつはもう違うの。今好きなのはショーちゃんとは全く比べものにならないくらい誰よりも尊敬する素敵な人なの…。」
キョーコの首まで真っ赤になっているのを視界に捉えてしまった蓮の声が硬くなる。
「……それで?ソイツに何か酷い事でも言われた?」
蓮はキョーコの好きな人が聞きたいようで聞きたくなかった。荒れた心を必死に繋ぎとめる。きっと聞いてしまったら最後、キョーコの好きだという相手を傷付けて、キョーコを悲しませてしまうだろう。
だから、話を変えようとした。
キョーコはフルフルと首を振る。
キョーコの手が蓮の首に回され、ギュウっと抱きついて来た。
蓮も同じく抱きしめ返す。
絶対に離したくないという想いから、目を瞑って全身でキョーコを感じる。このままキョーコをどうしたら繋ぎ止めておけるのかということばかり必死で考えていた。
泣いてしまいそうだ。いや、心はとっくに涙を流していた。
「ううん。違うの…。敦賀さんは何も悪くない…。」
「え……?」
蓮は一瞬キョーコが言った言葉の意味がわからなかった。
「ツルガ…サン?」
ーーー好きな人の話をしてたんだよな…?…何で急に俺の話に…もしかして俺以外にも…ツルガっているのか…?いや、それはないよな…だったら…え?でも、嘘だろ?いやいや、まさか…な?都合のいい解釈してるだけで…。いや…でも…俺?
蓮は信じられず目を瞬かせた。
慌ててキョーコの顔を覗き込もうとしても、ギュウっと強くしがみ付いてるキョーコの顔は残念ながら拝めなかった。
恐る恐る腕の中の存在を抱きしめ直す。
華奢な身体、柔らかな体温、ふるふるとこきざみに震える肩。
心臓がバクバクと期待に満ちて動き出す。
「敦賀さんって…えっと、俳優の?」
キョーコはコクンと頷いた。恥ずかしいのだろう。みるみるうちにキョーコの体温が上がって行く。
いや、それとも自分の体温があがっているのだろうか?
「じゃあ…もが…キョーコ、ちゃんが好きなのって…」
「だから、その敦賀さんっ!!恥ずかしいんだからあんまり言わせないでよぉぉぉぉ!!コーンの馬鹿ぁ!!」
「いや…馬鹿って言われても…参ったな。」
蓮はキョーコが顔を見えないようにしてくれてて本気で良かったと思った。今自分の顔が見せられない程真っ赤であることを自覚出来るからだ。
ーーーヤバイ…どうしよう。こんなのって有りか?!
心臓がバコバコうるさい。
蓮が真っ赤な顔でキョーコの言葉を遡って何度も反芻していると、キョーコがどうして泣いていたのかが気になった。
「それで…何で泣いてたの?」
「話すと…長くなっちゃうんだけど…。」
「うん?」
「私、敦賀さんから逃げたの。」
「…逃げた?……どう、し…て?」
「怖かった。愛しても…愛し返される保証なんてないのに、もう恋愛なんて愚かな感情なんか持たないって決めてたはずなのに、怖かったのっ!どんどん敦賀さんに嵌っていく自分が…っ!」
ーーー信じられない…。俺は、夢でも見てるんじゃないだろうか。この子からこんなにも想ってもらえる日が来るなんて…。
腕の中の温もりが愛しくて堪らなくて、こんな形で聞いてしまったことに、少しばかりの罪悪感を感じながらも、心が浮き足立つ。
「それに、敦賀さんには…好きな人がいるのにっ!!」
「えっ…?!」
続いたキョーコの言葉に蓮は鈍器で思いっきり殴られたようなショックを受けた。
天に登りかけていたところを一気に地上まで落とされた感覚だ。
「敦賀さんみたいな人が私を見るなんてこと…あるわけがないのに…。」
キョーコの悲しげな声が胸に突き刺さる。胸を押しつぶされそうになりながらも、キョーコがどこでどう蓮に好きな人がいるという情報を得たのかわからず驚いた。
しかもキョーコ以外に好きな人などありえないし、過去にスキャンダルだってなかったはずだ。キョーコが誤解しているのはどういうことだろう?
蓮は必死で考えた。
混乱した頭でぐるぐると考えるが出てこない。
だけど、キョーコが誤解しているということにだけははっきりとわかる。
「なんで…好きな人がいるなんて…思ったの?」
蓮はグルグルと混乱している脳内から何とか質問を絞り出した。キョーコは一瞬言葉に詰まったが、すぐに口を開いた。
「あのね、実は10日位前に、私…見ちゃったの…敦賀さんに告白してる女の子…。」
「…え?!」
10日程前といえば、ちょうどキョーコの様子がおかしくなり始めた頃だ。
一緒にいて話しかけてもボーッとしていることが多く、まともに会話が出来なくなった。
ーーー俺への告白をみたからーー?でも、俺はちゃんと断ったはずだ…なんで?
「敦賀さんはその子のこと振ってたんだけど、私…それを見て一瞬喜んじゃったの…。敦賀さんがその子と付き合わないってわかってホッとしたの…」
キョーコの身体に触れる自分の手がジワリと熱くなっているのがわかる。キョーコの想いが言葉に乗り、蓮の心にじわじわと染み渡り、歓びに胸を焼く。
「だけどね、嬉しかったのに、同時に絶望しちゃったの…。あんなに可愛い子でもダメなんだって…」
「え…?」
「そして聞いちゃったんだ。他に好きな人がいるんだって…。」
「そんなの…っ。」
蓮はどう言ったらいいのかわからなくてぐっと唇を噛み締めた。
キョーコが好きなのは自分で、キョーコを好きなのもまた自分なのだ。
しかし、今のコーンの姿でそれを告げるのは、自分が蓮だと伝えることになる。
妖精だと思ってるからキョーコはずっと人に言えなかった想いを打ち明けてくれているのだろう。
もし、コーンが妖精ではなくて、ただの人間で、しかもその敦賀蓮本人だとしたら、キョーコに一生口を聞いてもらえなくなるんじゃないかと思って凄く怖くなってしまった。
「ううん。本当は最初っからわかってたの。敦賀さんに好きな人がいることは…それでずっと苦しんでいたことも…」
「……わかってた……?」
「何年か前にね、敦賀さんから恋愛相談を受けることがあってその時に。」
「恋愛…相談?キョーコちゃんに?」
蓮の頭は益々混乱した。いつ自分が彼女に恋愛相談を持ちかけたというのだろう。心当たりが全くなくて怪訝な顔をしてしまう。
「うん。でね、その告白現場を見てから、自分の気持ちがこれ以上育つのが怖くなって、敦賀さんから距離を取りたいって思うようになって…。」
「何で…?キョーコちゃんはまだ告白してないんだろ?気持ちが伝わったら、敦賀さんだって…」
キョーコはブンブンと首を振る。
「やだ!!伝えられるわけないじゃない。この気持ちは敦賀さんにだけは伝えない!伝えられない。絶対にこの気持ちは知られたくないの。敦賀さんからは可愛がってはもらえてると思うけど、ただそれだけ。特別なんかじゃない。特別だと…勘違いしたらいけないの…。だって、ショータローの時とは比べものにならないくらい自分が愚か者になるのがわかるもの。」
辛そうなキョーコの声、震える肩にそっと手を添えて蓮が口を開きかけたが、それよりもキョーコの方が少しだけ早く口を開いた。ガバッと急に顔を上げて蓮を見る。潤んだ瞳が蓮の目を覗き込みながら真剣に告げた。
「だから、今の話絶対に誰にも内緒だよ!コーンだから話したんだから。」
「え…あ…うん。」
複雑な気持ちで曖昧に頷くと、キョーコは安堵したようにそっと息をつき、また再び蓮の胸元に甘えるようにもたれ掛かり、その話を続けた。
「それでね、この間私…問題を起こしちゃってたみたいで…」
「……うん。」
「気付かない内に事務所の人にも沢山迷惑かけちゃってて…。」
キョーコはしょんぼりとした様子で続けた。どうやらその問題を起こしたことも相当応えているようだ。
蓮の頭にも貴島との熱愛報道が思い浮かぶ。
仲良くホテルから出てきたその姿、携帯ショップで買い物を楽しむ姿が今でも脳裏に焼き付いている。
キョーコの好きな人がわかった今でも貴島に対する嫉妬心は簡単に消えたりしない。
「敦賀さんへの告白を盗み見した日から…気持ちはどんどん募るのに、どんなに想っても私なんかじゃ届かないって辛くて、もう敦賀さんの側にこれ以上いれないって思って、明日仕事が早いからって嘘ついて飛び出しちゃったの。」
蓮はそうとは知らずに勝手に落ち込んでいた自分に後悔した。
あの時、キョーコが何と言おうと、可笑しくなった理由を問い質して何としてでも捕まえておかなければいけなかったのだ。
「帰り道で、偶然秀人さんに会ったの…。」
蓮の中でまたもやモヤモヤとした気持ちが膨らむ。
「秀人さんが送るって言ってくれて一緒に家に向かって帰ってたんだけど、途中で土砂降りになっちゃって…」
「あぁ…そういえば…」
蓮もその日の天候を思い出した。
雨が降り出したことに心配してキョーコの家まで様子を見に行っていたのだから…。そして、その心配は見事に的中していたのだ。
「慌てて入り込んだのが…あの…その、いわゆるラブホっていうとこらしくて…」
蓮の耳がピクリと反応する。キョーコにそんな気持ちはなかったとしても、貴島にそんな場所へ連れ込まれて無事な訳がない。蓮はジリジリと言い表わし様のない気持ちを膨らませて、キョーコの服を握り込む。今すぐ上書きしてやりたいという衝動を抱きしめる力に変えるように意識して何とかやり過ごす。
そのキョーコはセバスチャンにローリィのゲストルームへ送られる道すがら、ラブホの正しい知識を教えられていた為、良いながら顔を真っ赤にしていた。
「秀人さんと入った時はその…ラブホテルって、ラブリーなホテルのことだと思ってて…。」
「…………。」
キョーコが真っ赤になっているのを違う意味で解釈していた蓮は、キョーコの言葉が一瞬飲み込めなかった。
「だから、あのっ。うっかりしてて…熱愛報道なんて言われるなんて想像もしてなくって…。」
思わず無表情で遠くをみてしまう。
うっかり…?うっかりで抱かれたとでも言うのだろうか?
蓮は怒りを抑えた声で問いかける。
「それで?ホテルで“秀人さん”に美味しく頂かれたわけ?」
「へ?!え?!違うよ!秀人さんには何もされてないもん!」
「じゃあなんで、名前でなんてっ…」
蓮が少しだけ怒りを込めて言うと、キョーコがキョトンと首を傾げた。
「名前って?」
「敦賀さんって苗字だろ?でも、秀人さんは名前だ…」
「えっとあのね?コーン。秀人さんはただの友達なのよ?友達に恵まれなかった私にね、友達になろうよって言ってくれたの。」
えへへ。と嬉しそうにはにかむキョーコに面食らう。
「…え?」
「私も最初は先輩だし苗字で貴島さんって呼んでたんだよ?でも友達なのに、貴島さんは寂しいって言われて…。秀人さんになったの。だから、別に、あの…ホテルに泊まったのは雨から逃れる為に駆け込んだのがたまたまそこだったってだけで…」
「…でも、同じ部屋をとったんだろ?」
「それは…そうだけど、でも何もなかったんだよ?先にシャワーで雨を流してくださいって言った時に冗談で一緒に入ろうか?とは言われたけど、断固拒否したし、お風呂から上がったあとはすぐに寝たし…。」
「ほ、本当に…?」
「うん。本当。」
「何もなかった?」
「うん。なかったよ?」
「そう…なんだ。良かった…。」
蓮は本当に貴島とキョーコの間に何もなかったことを知って、心底安堵した。
「それで朝、ホテルを出る時にカメラで撮られたことは秀人さんが気付いたから知ったんだけど、私みたいなパットしないタレント相手であんなに報道が過熱されるなんて思わなくて…」
「……君って子は…」
ーーー本当に…どうしてくれようか。
「だから、秀人さんに羽を伸ばそうって遊びに誘われて、携帯は壊れてたから事務所からの電話にも気づけないまま出掛けちゃって…。珍しくオフの日だったから、わざわざ事務所に電話もしなくて…。」
はぁぁぁ~。と蓮は大きく息を吐き出した。そういうことか…と小さく呟く。
一呼吸置いて、蓮はキョーコの髪を梳きながら話の続きを促す。
「それで?ここには泣きに来たんだろ?」
「うん。あのね、それで実は、秀人さんといる時に敦賀さんが来てくれたの。」
「…うん。」
心なしか、キョーコの声が少しだけ弾んでいる気がして、蓮は少しだけ面映い気持ちになった。
「でもその時は様子がおかしくて、前日の夜に見た敦賀さんと別人見たいになってて…。」
言いながら少し震え出したキョーコの髪を安心させるように優しく撫でる。
サラサラの髪から香るキョーコの香りが蓮の心を落ち着かせる。
「詳しくは言えないけど、敦賀さんがいきなり豹変したみたいになって…。」
そういえば、そうだ。貴島を殴ってたんだった。と思い出し、事情を知った今、話も聞かずにあんな強行に出た自分の行動に恥じ入る気持ちが生まれ、貴島に申し訳ないことをしたと心の中で反省をした。
「その時は私、敦賀さんの行動が信じられなくて、慌てて止めに入ったの。だけど、その時の敦賀さんの目が怖くて、でも顔はすごく傷付いた顔をしてて…。」
「うん…。」
情けない顔をさらしてたことに気恥ずかしくなって、キョーコをギュッと抱きしめた。
しかし、キョーコの震えは止まらない。
「それっきり…なの。テレビで…うぅっ…」
嗚咽が漏れて上手く話せないキョーコに無理して話さなくてもと言うのだが、キョーコは首を振る。
「電話しても繋がらないし…テレビでは決まってたお仕事を次々とおりてて、失踪なんて話になってるし…何処でどうしてるのかもわからなくて、不安で…」
「大丈夫…大丈夫だよ。彼は。」
「う…ふっ。うぅ…コーンっ!!」
「大丈夫。大丈夫だから。」
「ふぇ…ふえぇぇぇーん。」
ギュウっと抱き締めてもキョーコの涙は止まらなかった。
泣きじゃくるキョーコが愛しくて、ここまで自分を想ってくれていることに胸が熱くなる。
涙が一雫落ちるたびに、蓮の中のキョーコに対する愛しさが膨らんで行く。
少しでも不安を取り除きたくて大丈夫だと繰り返して、蓮はキョーコの頭にキスを落とした。
「大丈夫…キョーコちゃんがこんなに想ってるんだから、ちゃんと彼も帰ってくるよ。」
「本当に…?」
「うん。ちゃんと帰ってくるし、それに彼もキョーコちゃんのことを大好きだと思うよ?」
「うぅー…。それはないもんっ!」
「なんで?」
蓮も大好きだと思っているだろうということを言ったのに、即座にキョーコから否定され、少しだけムッとなった。
「だって、私なんて、色気もないし、胸もないし、美人じゃないし、家政婦の真似事しか出来ないんだもん。」
自分を卑下する言葉を聞きたくなくて、真剣に思いを伝える。
キョーコの想いを知った今、キョーコにこの気持ちを伝えたいという想いが止められない程膨らんでいた。
「そんなことない…キョーコちゃんは…可愛いよ。」
「可愛くなんて…」
「ひた向きで、素直で、礼儀正しくて、真っ直ぐで、何事にも一生懸命で本当に凄く可愛い。」
「コッコーンったらっ!」
キョーコは真っ赤になった。
不意打ちでそんなことを言うなんて反則だ。
抗議する為に顔をあげたら、そこには驚くほど真剣な瞳がキョーコを見つめていた。
「キョーコちゃんは、誰よりも可愛いよ?」
すっと大きな掌に頬を撫でられて、キョーコが目を剥いて魅入られたように固まる。見つめあったまま暫しの沈黙が続き、もはや枷も脆くなってしまった蓮の理性の糸がプツリと音を立てて千切れる音を耳の奥で聞いた時、二人の唇が静かに重なっていたーー。
サァァーっと吹き抜けた風が二人の髪を攫い柔らかく揺らしていた。
(続く)
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