新連載です。
しかし、こちらのお話は、必ず先に注意事項 を読んでからお立ち寄りください。
読んだ上で、納得した方のみ、どうぞお楽しみくださいませ。
読んだあとの苦情はお受けできません~!!
あと、アメンバー申請中でまだ風月から承認されてない方、風月のブログ内にある、【重要】アメンバー申請について。を必ずご一読くださいませ。
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君のかけら 1
『タレント京子!飛行機と共に墜落か?!』
『未だ消息不明!手掛かりなし!』
『消えたタレント京子は今どこに…』
日本のメディアに激震が走って二年。
未だ、大手芸能事務所LMEの新人タレントだった京子の消息は掴めないままだ。
京子にとっては初の海外での仕事だった。
ラブミー部に在籍中の事故。
京子としてもぎ取ったレギュラー番組の海外レポートとして現地へ赴き、観光名所を回るというものだった。
蓮はキョーコが海外に行く前日の夜、一緒に過ごしていた。
出発の一週間前にとうとうキョーコに告白はしたものの、まだ色良い返事はもらっておらず、しかし前向きに検討してくてれているということだった。
ラブミー部の仕事としてマンションを訪れ、蓮に夕食と一週間は過ごせる程の食事のストックを作ってくれていたのだ。
『あの、お返事…なんですけど、明日から行く海外のお仕事から帰ってきたら…返事させて頂きたいと思ってます。それまで…待っていてくださいますか?』
『うん。勿論だよ。待ってるよ。いつまでも…。』
『ありがとう…ございます。』
嬉しそうに、恥ずかしそうに笑う彼女の顔は今でも脳裏に焼き付いている。
一週間後にまた逢えるはずだった。
いつものように最近一人暮らしを始めたというマンションまで送って、頑張ってね。とエールを送った。
あの時に見た彼女の笑顔が最後になるなんて思わずに…。
蓮はぼうっと窓の外に見える空を眺めていた。
「…ん!おい!蓮!!」
「…は?あ、なんだ…社さん、ですか…。」
社の眉間に皺が寄る。
「蓮…お前まだ…」
社はその先の言葉を飲み込んだ。
「いや…また…寝てないんじゃないだろうな?」
「いぇ、ちゃんと寝ましたよ?」
「本当か?!どのくらいだ?」
「二時間くらいは…」
蓮は力なく笑った。
あれから二年。蓮はあまり笑えなくなった。
役者としては影のある役が多くなり、たまに来る役の中で笑うことはあっても、普段蓮が笑う姿をほとんど見なくなっていた。
力なく笑う姿もどこか痛々しくて社の胸が痛む。
蓮がキョーコの事故の報道を知ったのは、キョーコが帰ってくると言っていた日の早朝だった。
蓮は何故か気持ち悪くなるような嫌な夢を見て飛び起きて、何だか寝つきが悪く、寝ることを諦めてテレビを付けたところで、朝一番にその飛行機が墜落する事故の模様が放送されていた。
かなり離れた場所から一般人が撮影したようで、それ以外の映像はなかったという。
爆発こそしなかったものの、街の中に突っ込んで落ちて行く小型の飛行機。また凄い事故が起きたな。とその時は気にも止めず背を向けたのだが、『実はまだ確かな確認は取れておりませんがこの飛行機には…日本人のテレビ関係者数名と日本人のタレントを含めて7名の乗客がいたとの情報も入っておりまして…。』という言葉が耳に飛び込んで来た瞬間、蓮の足元がぐらりと崩れた気がした。
キョーコだと言われたわけでもないのに、嫌な汗が身体中から吹き出る。手に汗を握り、慌てて携帯でキョーコを呼び出そうとボタンを押したがキョーコが向こうで携帯は使わないと言っていたのを思い出した。
案の定携帯から流れてくるのは電源が入っていないというアナウンス。
すでに宿泊するホテルは聞いていたので、慌ててホテルに連絡をいれるが、既にチェックアウトを数時間前に済まされたということだった。
自分自身を落ち着かせるように必死で宥めて事故の詳しい情報を得ようとパソコンを立ち上げて検索をする。
するとその小型飛行機はちょうどキョーコ達が泊まっていたホテルからさほど離れていない空港から出発したものだということがわかった。
手が震え、それでも必死に何か情報がないかと引き続き情報を探していると、付けっ放しになっていたテレビから一番聞きたくなかった決定的な言葉を聞かされた。
乗っていた可能性があるのは日本人タレントの京子だと報道が伝えていたのだ。
蓮は急いでローリィに直接連絡を取った。
ローリィもまだ連絡を受けたばかりで良く様子がわかっていないということだった。
キョーコが帰って来ることを信じるしかなく、その日は無理を言ってキョーコが帰ってくるはずの時間を社に何とか調整してもらい、空港に迎えに行ったのだが、キョーコの姿は見当たらず、LMEが京子に付けていたマネージャー共々、飛行機に乗っていなかったという事実しか蓮には情報が取れなかった。
LMEからの要請により現地でも捜査が進められたが、墜落した場所が紛争が起こっている国境付近だったこともあり難しい場所だったらしく中々捜査が出来ず、現地にもいれてもらえるまでに時間が掛かり近づいた頃には全くと言っていいほど手掛かりがなかったという。
それでも蓮は、キョーコは生きていると希望を持つことしか出来ず、信じてずっとキョーコを待ち続けていた。
事情を知ってる者は、蓮に掛ける言葉が見つからず、いつも言葉を飲み込むが、社はそろそろ蓮には酷だろうが現実を見るべきだと思っていた。
「全くお前は…二時間じゃ寝たうちに入らないだろう。まぁいい。出番だと呼ばれてる。行けるか?」
「はい。行けます。」
蓮は立ち上がった。
今日はCMの撮影とそれとセットのスチール撮影だ。
シリーズ物にするとは前から聞いていたので、この一ヶ月間で撮ってしまう予定らしい。
相手役は海外の新人モデルらしく、蓮は名前を聞いていたものの頭に入っていなかった。
遠目に確認して社に確認をする。
日本での撮影は今回が始めてだと言う相手役のアリーは既に何枚か撮り終えたらしく、照明が当たるスタジオ内でメイク直しをされていた。
アリーに何か囁き掛けている男を見て、蓮は社に説明を求めた。
今回は二人での絡みとしか聞いてないがもしかしてもう一人増えたのだろうか?
それほど容姿が整っている男だと遠目からでもわかったのだ。
「あぁ、彼はアリーのマネージャー兼恋人だそうだよ。」
「そうなんですか。」
蓮がもう一度スタジオに目を向けると、メイクを終えたアリーはそのマネージャーと軽いキスをしていた。
微笑み合うその姿を見て、蓮の中で何故かチリッと胸が痛んだ。
ーーーなん…だ?
蓮は何故急に痛んだのかわからず、胸を思わず抑える。
「ん?どうかしたか…?蓮。」
「あ…いぇ。なんでもありません。」
そんなやり取りをしながら近付いて行くと、アリーが蓮に気付いたようで、こちらに視線を向けてすっと立ち上がった。
蓮もスタジオに足を踏み入れる。
そして彼女の姿を瞳に写した瞬間、蓮は息を飲んだ。
心臓があり得ない速度で動き始める。
綺麗とか美しいとかそんな次元の話ではない。
可憐で儚げで、それでいて美しい。天使だとか女神だとか、そんな言葉が彼女に似合うと思った。
そして何より、何処と無く似ている気がするのだ。彼女に…。
消えてしまった最上キョーコに。
瞳の色は深いグリーンで、髪の毛は腰まで長く、ウエーブがかかっていた。
あの、不破のプロモーションビデオに出ていた時のキョーコにそっくりなのだ。
瓜二つとまでは言えないが、それに近いものを感じる。
もしかしたら、メイクと衣装を変えたらあの時と瓜二つになるのではないかとそう思えたほどだ。
『初めまして。貴方が蓮ね?』
英語で話しかけられて、慌てて我を取り戻した。
『あ、初めまして。蓮です。アリー…で、いいのかな?』
『はい。一ヶ月間よろしくね。』
ふわりと微笑むその笑顔に思わず見惚れる。
『…いぇ、こちらこそ。』
何とか絞り出した言葉は、ちゃんと彼女にも届いたようだ。
「よーし!じゃあ蓮待たせたな!!早速アリーとの絡みを撮りたいからスタンバイしてくれ。」
「あ、はい!」
『アリーさっきの位置に立っててくれ。』
『はーい。』
蓮には日本語で話しかけたカメラマンが、アリーには英語で話しかける。
蓮もセットの中に足を踏み入れ立ち位置に立つとまずはスチールの撮影が始まった。
「蓮!英語わかるよな?指示英語でいいか?」
「はい。構いませんよ。」
蓮がそう答えると、カメラマンは満足そうに頷き英語で指示を出し始めた。
『そう…蓮!アリーの腰に手を回して引き寄せて。アリーはもっと蓮の顔に顔を寄せて。』
『OK!じゃあそのまま後ろのソファを自由に使ってくれ!』
『いいね!じゃあ蓮、彼女をベッドに押し倒して、胸元に顔を埋めて…よーし!いい顔だ!!』
夢中でシャッターをきるカメラマンの指示に従いつつ、二人の絡みを撮る。
『アリーちょっと膝を立てようか?髪を掻き揚げて蓮をもっと誘惑して!』
様々な表情を見せるアリーに蓮の表情も段々と乗ってくる。
キョーコがいなくなって以来、久しぶりに高揚する気持ちを感じて、蓮は少し戸惑った。
『よーし!いったん休憩!!昼にしよう!!』
『はい。』
『凄いわっ!こんなに楽しかったの初めて!!蓮、貴方さすが日本のトップだけあるわね。』
『ありがとう。君も凄いよ。俺も久しぶりに気持ち良いって感じたよ。』
『そう?私たち気が合うかもね。あ、ちょっと待って…。ジム!!』
『ん。お疲れ、アリー。』
そう言って、自然な動作で蓮の目の前でキスをした男に蓮はまた胸の中がジリジリと妬けるのを感じた。
それに気付かずキスを受け止めたアリーは少し頬を染めて困ったようにジムを睨みつけていた。
『ごめんごめん。で?何?』
『お昼、蓮達も一緒にどうかしら?』
『え?』
その言葉に蓮も驚いた。
『いいけど…何で?』
明らかに快く思ってないジムだが、それには気付かずアリーはぱぁぁーと微笑んだ。
『本当?良かった!これから一ヶ月間日本にいるんだもの。それに何だか懐かしい感じがするのよね。蓮に色々お話聞きたいわ!』
『そっか。わかった。でも無理はダメだぞ。お前無理するとすぐ倒れるんだから。』
『えぇ、勿論よ。じゃあ蓮、行きましょう?良かったらマネージャーさんも一緒に…。』
『わかった。じゃあちょっと待ってて。』
蓮はアリーにそう言うと、社の姿を探しに出かけた。
「れーん?どうした?」
「あ、社さん。アリーが一緒にお昼どうかって誘ってくれてるんですけど…」
「ん?行くのか?珍しいな。」
いつもはそんなことを女性から誘われたらやんわりと断っているはずの蓮が、行こうとしている態度に社は目を見張った。
「えぇ、折角なので…。社さんもどうですか?」
「ん?二人じゃないのか?」
「向こうもマネージャーさんも一緒らしくて…」
「あぁ、そうなのか…残念だな。」
蓮が女性に興味を持ったいい傾向かと思いきや、相手にはマネージャー兼恋人がいることを思い出して、少し残念に思った。
ーーーこれでフリーだったら、蓮もキョーコちゃんのこと忘れられたかもしれないのに…。
「待たせてるんで行きましょう?」
「あぁ、わかった。」
衣装を着替え、4人は合流してスタジオのそばにあった定食屋に入った。
どうやらアリーのウエーブの入った髪はカツラだったらしく、本来は胸ぐらいの長さのストレートの茶髪だった。
『こんなところで良かったの?』
昔ながらのお店といえば聞こえはいいが、あまり芸能人が入るような店ではないような気もする。
でもまぁスタジオの側という点ではやはり芸能人もよく来るのか、サインがたくさん飾ってあった。
『えぇ。食べて見たかったのよ。本場の日本食!』
『アリー好きだもんな。』
『うん。だってなんだか懐かしい感じがするの。』
『アリーは日本人の血が混じってるの?』
グリーンの目は純日本人ではないので気になって蓮が聞いて見たのだが、どうやらタブーの質問だったようだ。
アリーの目が曇った。
『記憶がないんだよ。両親のことも何にも覚えてないんだ。』
アリーの代わりに、ジムが請け負い答えた。
それに蓮は慌てて謝罪した。
『ごめん。そんなこととは思わなくって…。』
『ううん。いいの。私も自分が何者かわかってないもの…。』
悲しそうな顔をしてアリーは言うが、それをジムが横からコツンと小突いた。
『こら!アリーはアリーだろ?いいじゃないか。わからないことでメソメソしてたってしょうがないんだから。』
『うん。そうよね。ごめんなさい。ありがとう。ジム。』
アリーがジムに微笑む。
また蓮の中でモヤモヤした気持ちが生まれる。
二人が仲良くしているところを見ると妙に胸が騒ぐのだ。
そんな自分がどうしてしまったのかわからなくて混乱する。
キョーコ意外にこんな感情を持ったことは初めてだったのだ。
社が三人の注文を聞き、まとめてオーダーする。
蓮は小鉢で…と言いそうだったので社から勝手に決められてしまった。
『蓮ってあんまり食べないのね。』
蓮の箸の進み具合を見てアリーが聞くと、社がそうなんだよ。と言って話に入る。
会話は全部英語だが、キョーコがいた時のような和やかな空気が少しだけ生まれていた。
ジムは恐らくアリーと二人っきりで過ごしたかったのだろう。少し面白くなさそうに三人のやり取りを見ていた。
4人揃ってスタジオに戻ると、どうやらまだスタジオの準備に時間が掛かりそうだった。
新しい衣装を渡され、着替えて戻ると、アリーはまだ準備中だからと今度は蓮だけのシーンから撮り始めた。
その後もアリーを交えた撮影は順調に進み、15時頃に今日予定していた撮影は終了した。
次の撮影は3日後の予定だ。
『蓮!もっと貴方と話したいわ。今日の夜は空いてる?』
夕方からドラマの撮影が入ってはいたが、確か20時までで終わるはずだ。
『21時以降なら空いてるけど…』
そう言った蓮は、自分に自分で驚いていた。
例え予定が空いていても誘って来る相手にそれを教えたことなど一度もなかったからだ。
『OK!じゃあ21時に晩御飯に行きましょう。社も来るかしら?』
『うん。誘っておくよ。どこに行けばいい?』
『連絡頂戴。』
そう言って、電話番号とメールアドレスが書いた紙が手渡され、蓮は自然と微笑んでいた。
『わかった。ありがとう。じゃあ、後でね。』
蓮は自分がどんな顔して微笑んでいたかはわからなかったが、その顔を二年ぶりに見た社は驚愕していた。
その後の予定も上機嫌で過ごす蓮に、社は念の為釘を刺すことにした。
「わかってはいると思うけど、アリーには恋人がいるからな?」
少しだけ重たい間が空いて、蓮は口を開いた。
「………わかってますよ。」
「でもまぁ…お前が少し前を向き始めたのはいい傾向だし、応援したいと俺は思うけどね。」
「前を…?」
蓮は社の言葉に驚いていた。
「俺が?」
「アリーのこと…気になってるんだろう?」
「そう…なんでしょうか?」
「お前が笑ったのなんて久しぶりに見たよ。キョーコちゃんに向けてた笑顔で微笑んでた。」
蓮は心底驚いて動揺した。
キョーコが帰って来るのを信じて待ってると言いながら、自分は他の人に…?
許されることではないだろう。第一、アリーに手を出してキョーコが帰ってきたらどうするつもりなのか…。
ーーーいや、ないない。だってアリーにはジムがいるんだ。俺とどうこうなるはずがない。
そう思い直すと、やはり胸の中では苦しいくらいにジリジリとした痛みを感じるのだった。
(続く)
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こんな感じで始まりました!!
なるべく早くラストに持っていけるよう頑張ります!!
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