君のかけら 7


『いいね!アリー!そのままカメラの向こうに恋しい人がいると思って微笑んで。』

二台のカメラがアリーを捉えており、メインのカメラの向こうへアリーは視線を送る。
今現在はアリーを単発で撮っており、蓮はその様子をスタジオの隅で邪魔にならないように眺めていた。

『んー!なんかちょっと物足りないんだよな。…首元、ネックレスかなんかないか?』

監督がカメラを止め、スタッフを振り返った時に、アリーはそれならとジムを呼んだ。

『ジム!あれを…』

ジムが鞄の中のケースから取り出したのは、綺麗な宝石のついたネックレス。
ピンク色の石が入ったそのネックレスにモニターを見ていた社が息を飲む。
それはこの世に一つしかないはずのものだった。

そのネックレスを監督も気に入ったようだ。
上機嫌で撮影を再開させた。

「蓮!!!!あれ!!アレ見ろ!!アリーが今付けたネックレス!!」

モニターを監督の後ろから何気なくチェックしていた社が、慌てて蓮の腕を引いたかと思うと無理やりモニターの映像を見せた。
アリーの首元に光るアクセサリーに蓮は目を見開く。
社は興奮状態だった。

「な?!あれ、クイーンローザだろ?!お前がキョーコちゃんにあげたやつだ!!違うか?!」

「いえ、違わない…と思います。」

蓮は嬉しくて顔を緩めたが、社はそんな蓮に気付かず一生懸命考え込み、再度蓮に確認する。

「何でキョーコちゃんのネックレスをアリーが!!あれはキョーコちゃんのだろ?!」

「えぇ。そうですね。」

蓮はモニターを心底愛おしそうに見つめた。
今度は社もそれに気付いて困惑してしまった。

「え?!おい、蓮!どうしたんだよ!キョーコちゃんの手掛かりかもしれないんだぞ!!何でそんな顔で……もしかして、何かわかったのか?」

社は蓮の反応に訝しんだ。もっと蓮なら何かしらの反応があると思ったのだ。
蓮は相変わらずモニターを優しい眼差しで見つめている。

そして、蓮は社に視線を移すとあっさりと言ってのけた。

「だから、そういうことなんですよ。手掛かりも何も…アリーが最上さんなんですから。」

「はぁ?!」

社は言われた言葉の意味が飲み込めず思わず素っ頓狂な声をあげていた。

「お前…何言ってんの?アリーはアリーだろ?頭おかしくなったのか?」

蓮はははっと笑った。

「酷い言い様ですね。おかしくなんかありませんよ。だってアリーは最上さんなんですから。」

「???確かに顔は似てるけど…別人だろ?!アリーと一緒にいるお前が一番わかってるんじゃないのか?」

「えぇ、アリーと最上さんは別人です。でも、アリーが最上さんだということは確実です。」

「………。お前さ、言ってることがめちゃくちゃなんだけど…。」

確かにめちゃくちゃかもしれないなと思って蓮は苦笑して続けた。

「社さん、この間社さんがジムの妹のアリーが二年前に亡くなっていたことを教えてくれましたよね?」

「え?あ、あぁ。」

社は頷いた。
たしかに二日前、自分がインターネットで見つけて蓮に伝えた情報だ。

「アリーにきいたんですけど、ジムの亡くなった妹も、深いグリーンの瞳で、胸まであるストレートの茶髪だったそうですよ。」

「うん?それがなんだ?この件と何か関係があるのか?」

「わかりませんか?今のアリーと同じなんです。そうだ!ちょっと待ってくださいね。『ジム!』」

蓮は社に一言断ると、ジムを側に呼んだ。

『何だ?蓮。』

『あのアリーが今つけてるネックレス…アレどうしたんだ?』

とりあえず、社にも聞かせる為、その場で単刀直入に聞いた。

『あぁ。最初からアリーが持ってたんだよ。出会った時の所持品はあれと綺麗な石だけだった。アリーの唯一の手掛かり…と言ってもいいかもな。』

『そうだったのか。ありがとう。』

『どういうことだよ蓮?手掛かり?最初からアリーが持ってたって…何だ?』

混乱中の社を置いて、蓮はジムに質問を重ねる。

『因みにジム、その綺麗な石って、もしかしてこのくらいのサイズの原石のような碧い石だろう?』

蓮は自分の指で大きさを表していうと、ジムが驚いた顔をした。

『あぁ!だけど、どうしてそれを?アリーに聞いたのか?』

『いや。聞かなくてもわかる。あのネックレスに使われてる石とその石は俺自身が彼女にあげたものだからね。』

『『えええぇぇ?!』』

社とジムの驚きが重なった。

『どどどどどどういうことだよ蓮!!あげたって?二年以上前にってことか?!アリーの過去を知ってるのか?!』

『彼女にあげたって?!お前があげたのはキョーコちゃんにだろう?!』

『そうですよ。俺が最上さんに…アリーになる前の最上さんにあげたものです。』

『ええぇ?!』

『驚いたな…じゃあ蓮はアリーを…』

蓮はジムに向かって頷いた。

『俺はアリーになる前の彼女を知ってる。彼女は日本人です。そしてLMEの誇るタレントの京子。最上キョーコ。』

『京子…。日本人…。』

『ちょっと待て!本当に意味不明なんだけど…!!』

『社さん…アリーは記憶喪失なんです。二年前から…自分が何者かもわからなかった。そうですよね?ジム。』

『あぁ。住所も…言葉も…自分の名前すらもわかってなかった。だから妹のアリーは…自分の名前を彼女に捧げたんだ。』

『え?!なんだって?!』

社は驚愕の事実に頭を打ちのめされた気分だった。
事故の現場では被害状況の確認も禄に出来なかった為、飛行機に乗っていた人物の生死すらも不明だった。
生きていれば連絡があるはずなのに、それがないということは…と思っていたのだが、記憶がなくなっていたとなれば話は別だ。

漸く話についていけるようになったもののまだ疑問は沢山ある。

『でも…それなら目の色は…?』

『コンタクトをしてるんです。アリーの目の色に似せて深緑にしたそうですよ。』

『それで…急にカラコンに変えてたのか…。』

蓮の言葉にジムも納得していた。聞けばいつの間にか変えていて、最初はアレ?と思っていたけど、その姿に馴染み、途中から違和感がなくなっていたのだという。
妹と似ている為、ジムにとってはそれが自然なアリーの姿として映ったようだ。
元々の目の色が違ったというのも、今の蓮の言葉を聞いて漸く思い出した程だ。

『じゃあお前は…アリーに出会った瞬間からキョーコちゃんだと気付いてたのか?!』

社の質問に、蓮は静かに首を振って否定する。

『いえ、いくらなんでもそこまでは…。ただ、彼女を見た瞬間から凄く彼女に惹かれて落ち着かなくて、ジムと仲良さそうにしているところを見ると無性に腹が立ってました。』

『つまり…一目惚れだと…』

『まぁ、そうなりますかね?』

『お前がキョーコちゃん以外に心が動かされるなんて可笑しいっておもってたけど、まさか、キョーコちゃん本人だったとは…。しかも、性格まで違うのにキョーコちゃんを認識するなんて…お前どれだけキョーコちゃんセンサー働いてるんだよ。』

社に呆れたように言われて、蓮も苦笑を零す。こればっかりは何とも反撃出来ない。

そんな二人のやり取りを見ていたジムは突然笑った。

『ハハハハ。やっぱりな!蓮に俺が敵うはずなんてなかったんだ!』

『何だよジム。』

『最初からお前たち二人は強い運命で結ばれてたってことだろ?だから記憶を失っても…例え別人になっても、また再び出会ってそして、お互いを認識出来たんだ。』

『あぁ。そうだったら嬉しいよ。』

蓮はふわりと笑った。

『蓮は知らないだろうけど、初めてだったんだよ。アリーが男を自分から食事に誘うの。だから俺はお前の存在が最初面白くなかった。』

『え?そう…なのか?』

『アリーは女には懐くけど、男にはいつもピリピリ警戒するんだ。長く一緒にいる俺でも、アリーの警戒は解けなかったのに、蓮はたった一日…それも数時間で、アリーの警戒心を取っ払った。それに驚いてた。』

『そう…だったのか…』

『全くお似合いだよ、お前たち。アリーにとって心を許せる男はお前だけ…蓮にとっても愛せる女はアリーだけ…全くどんだけ強い結びつきだよ。』

『蓮のキョーコちゃんへの想いは筋金入りだからな。そう言えば、キョーコちゃんと出会った時も一目惚れだったんじゃないのか?』

『え?』

『だってほら、キョーコちゃんぐらいだろ?蓮が出会った時から意地悪した女の子ってさ。他の女の子には分け隔てなく優しくするくせに、キョーコちゃんには意地悪してさ。最初からキョーコちゃんを特別に意識してたってことだろ?』

蓮は社に指摘されて、目をまん丸に見開き、思わずフリーズしてしまった。
否定も出来ないのをみた社の顔がニンマリと崩れる。
ジムもそんな社の言葉に驚いたあと、その話をもっと詳しく聞かせろ!とかなんとか言って面白がっていた。

『…ったく。』

蓮はそんな二人をみながらそう呟いて、撮影中のアリーに目を向けた。
アリーは蓮たちの方をみて、キョトンと可愛らしく小首を傾げていた。
蓮の視線に気付いて、ニッコリと微笑む。蓮もアリーに微笑み返した。

ーーーねぇ、アリー。そして最上さん。俺は何度でも君に恋に落ちる自信があるよ。たとえ姿や性格が変わったとしても…俺は君を見つけ出して…そしてまた恋に落ちるんだ。俺の人生において君は最高の光。何度生まれ変わっても、きっと俺には君がわかるよ。そして君も俺に気付いてくれたら嬉しいな。



『蓮!!次は二人のシーンだって!!』

アリーが跳ねるように蓮の元にやってきた。
どうやら次のシーンの撮影に入るようでスタジオは準備中だ。

『そう。良かったよ。アリーのシーンすっごく綺麗だった。』

撮影用のウィッグもとてもアリーに似合っている。

ーーー俺の女神。俺だけの天使。

こうも愛しいものなのか。愛する人というのは…。
そしてふと幼い頃から見慣れた風景が頭に浮かぶ。何年経っても息子である自分の前でも恥ずかしくなる程ラブラブで居続ける両親の姿。
いつも寄り添って、幸せそうに微笑みあって…何年経っても醒めることのない想い。

自分にとってはきっと彼女がそうなのだ。

ーーーその笑顔も、その瞳も…全部全部俺にくれるなら、俺は全力で君を守るから。だから、どうかずっとそばにいてくれ。

蓮はアリーを優しく包み込むように抱きしめる。

『この衣装も、ネックレスも凄く…似合ってる。』

『もう!駄目よ、蓮ったら…衣装なの!汚れたりシワが出来たら困るでしょ?』

『その時は買い取ればいいんじゃない?』

『そういう問題じゃないでしょ?まだまだ撮影残ってるのに、汚したら迷惑よ!』

腕で囲った中から、愛しい顔が困ったように見上げてくる。
蓮は益々顔を崩した。

『アリーが可愛いのが悪い!』

『悪くない!』

『悪い!』

そう言い合って、額を寄せ合いクスクスと笑う。
蓮とアリーの雰囲気にスタジオ中が柔らかい雰囲気に包まれて居た。

『じゃあ、蓮!アリー!行けるか?』

『『はい!』』

監督の指示に従い二人で仲良く並んで撮影に戻る。

『じゃあ、二人の初めての出会いのシーンから行こうか!ここを森の中だと思って。近くには小川が流れてる。』

『わかったわ!』

『よろしくお願いします!』

立ち位置にたち、シーンがスタートする。

背景は後から合成させる為、今二人の背景は一面グリーンシートだ。

それは奇しくも、キョーコとコーンが初めて出会った場所に似ているようだ。

監督の合図で後ろを振り返ってアリーのその姿を瞳に映す。

ーーーほらやっぱり。俺はまた君にこうやって恋をするんだ。

《貴方、妖精さん?》

幼い頃の昔の思い出。
可愛い顔した幼い少女が、ビックリした顔でこちらを向いていた。

今は大人になったその姿で、びっくりした顔でこちらを向く君。


ーーーねぇ、気付いてるかな?君はまたあの時のような顔をしてる。だからわかるんだ。この後君は花が咲くようにふんわりと笑う。きっとそうだと、想像はついているのに…何でかな?わかってたはずの笑顔にも鼓動が跳ねる。心がどうしようもなく惹かれてしまうんだ。

それはきっと君だからーー。

君の笑顔が零れる。そこには君のかけら。

君のかけらを見つけるたび、心が踊る。そして俺はずっと君を思い続けるんだ。



そう。






永遠にね。




END


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とりあえずここで…END…でいいですか?(笑)

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