多くの方から好評を頂いた君のかけら。
続編をー!!という声が予想以上に多かったのもあり、調子に乗って書いてみました!!
事故のシーンが突っ込まれそうですが、読んでくださってる方は皆様とっても優しい人が多いのできっと大丈夫だと甘えさせていただきますー!!
風月の脳内ではこんな事故でした。
あまりにもあり得ないとブーイング高くなった時は限定記事に変えるか、記事を取り下げさせて頂き対応しようと思います。
それではそんな幻に変わるかもしれないお話をどうぞお楽しみください☆
****
君のかけら~消滅の日から今~
二年前ーー。
海外ロケを無事に終えたキョーコはマネージャー達と共に小型飛行機で空港に向かうことになった。
本当はバスや電車を乗り継いで空港に向かう予定だったのだが、現地で撮影中に仲良くなった青年の中に、小型飛行機を持ってるという人物がいて、飛行機の方が早いと言われ、一緒に行った番組スタッフ共々目的の空港まで送ってもらえることになったのだ。
そして出発の日、数人の男たちが飛行機に乗り込んできた。空港まで見送りたいという申し出に疑問を持ちつつも、飛行機を貸してくれた人の仲間らしく、こちら側に断る理由はなく一緒に行くこととなった。
長旅になるからと、渡されたのはアイマスクと耳栓。
キョーコのマネージャーもアイマスクと耳栓をして眠ってしまった。
『時間かかるし京子さんも寝たら?』と飛行機を貸してくれた青年に促され、キョーコは頷いてアイマスクをして目を閉じた。
しかし、寝ようとしても考えるのは数週間前に告白してくれた蓮のことばかりで、早く会いたくて気持ちばかりが高ぶって眠れない。
海外ロケが終わって帰ったら返事をしたいと伝えていた。
そう伝えた時の蓮の柔らかい微笑みは思い出すだけでもキョーコの心を暖かく包み込む。
ーー『勿論だよ。待ってるよ。いつまでも…。』
もうすぐ…貴方に会える。
そして伝えるの…私のこの気持ち…。
漸く自覚出来たこの想い。
もうすでに、気持ちは日本へと先に帰っていた。
お土産話もいっぱいある。調子に乗ってお土産まで沢山買ってしまった。モー子さんにも、雨宮さんにも、マリアちゃんと社長とミューズ、椹さん…社さんと、そして勿論…敦賀さんへも。
後は飛行機に乗って日本に帰るだけ…。
敦賀さんのいる日本に…!
初めての海外ロケは戸惑うことも多かったけど楽しかった。
蓮と食事をしながらも料理よりもお土産話に夢中になってなってしまいそうだわ。なんて思いながら、早く顔が見たくて堪らない。
あの笑顔を見て、そしてちょっとさみしかったと伝えたらどんな顔するかな?なんて考える。
ーーーあぁぁ!!ダメダメキョーコ!!なんって破廉恥なの?!離れててさみしいなんて!!そんなの…迷惑がられるに決まってるじゃない!!嫌な顔されたらどうする気?!でも、でも!もしかしたら俺もだよって言って手を握ってくれるかも…手を…手を…って!!あぁぁぁぁ!ダメよ!!そんなっ!!敦賀さんに手を握られるなんて!!なんかとっても破廉恥だわっ!!
会えて笑顔が見れればそれだけで満足なの!!そうよ!!満足なのよ!!
そうして一週間前のやり取りを思い出す。たった一週間なのに、随分昔のことのようにも思えてしまう。
ーー『そっか…明日から暫く…君に会えないんだね。』
ーー『…はい。そうですね。』
ーー『淋しいな…』
ーー『え?淋しい…ですか?』
ーー『うん。だから、帰ってきたら真っ先に俺に会いに来てね?』
ーー『は…はい!あの…本当に待っていて下さるんですか?』
ーー『もちろんだよ。頑張ってきてね。戻ってくるの楽しみにしてる。』
ーーーあの時の敦賀さんの顔!!!!あぁ、ダメダメキョーコ!!ここで身悶えるなんてできないわ!!スタッフさんだっているし、変に思われちゃう!!
胸の高鳴りは抑えられないけど、平常心よ!キョーコ。
もう少しで…
もう少しで…貴方に逢える。
ーーーふふ。こんなに逢えることが待ち遠しいと素直に思えるなんて…。
そんな風に思考の中を彷徨って考えてる時だった。
違和感を覚えて目を開けたが、アイマスクのせいではっきり見えない。身体に別の人の手が触れる感覚があり、気持ち悪さと驚きで抵抗して、慌ててアイマスクを外した。
『ちっ!眠ってなかったのかよ!おい!!薬!!さっきあの男に嗅がせたやつ!!』
見ると複数の男に取り囲まれており、カメラまで構えられていた。
服は上半身のボタンを途中まで外されており今まさに脱がされようとしているところだった。
飛行機を貸してくれた青年に仲間が声を掛ける。
『わかったよ!そんなあせんなちょっと待ってろ!』
「いや!!離して!!何でこんなことを?!何するんですか!!」
必死で抵抗して逃れようにも押さえつけられてて上手くいかない。
日本から一緒にきていたスタッフに助けを呼ぼうとしたが、皆薬で眠らされているようでぐったりとしていた。
『ちょっとだけだからさ、大人しくしててよ!京子ちゃん!』
『そうそう、ちょっと遊んだら終わりだからさ!』
『俺、東洋人初めてなんだよね!』
『飛行機貸してやってんだからその代償だと思ってさ。』
椅子から引っ張り出され、通路にねじ伏せられる。
何が何だかわからない中、恐怖しか湧いて来なかった。
抵抗すればするほどビリビリに破かれる服。
のしかかってくる男達。
ーーーやだ!!怖いっ!!助けて!!敦賀さん!!敦賀さんっ!!敦賀さん!!!!
「いや!!やだ!!やめて!!触らないで!!」
無我夢中だった。
撮影の機材として持ってきていたものや、いろいろ詰め込まれた荷物を掴んで、手当たり次第に男たちに向かって振り回し投げ付けていると、飛行機のバランスが突然崩れた。
キョーコにのし掛かっていた男達とカメラを構えてた男もバランスを崩し、頭を椅子にぶつけたりして呻いていた。
高度がだんだん落ちて、飛行機が落ちているのがわかった。
『おい!!何してるんだ!!』
キョーコが投げつけたものが運悪く仲間の運転手の頭を直撃したらしい。脳震盪を起こしているようだった。運転手に男たちが気を取られている間に、四つん這いになって隅に逃れ、最後尾の椅子に必死でしがみついた。
怖くて身体が震える。
露わにされそうになっていた胸元を必死で隠した。
ドンドン落ちる飛行機。
騒ぐ男達の怒号が聞こえた。
ーーーあぁ、私…死ぬんだわ。
ふと、脳裏にそんな考えが浮かんだ。
ーーー死ぬ前に敦賀さんにちゃんと気持ち…伝えたかったな。
そして死ぬ直前にこんなことになるなんて、自分の死に方に自嘲さえ浮かんでくる。
ーーー私にはこんな死に方が似合うってことなのかしら…やっぱり敦賀さんに気持ち伝えなくて正解だったのかも…こんな女…敦賀さんには勿体無いもの…。
そう思いながもポロポロと涙が零れる。
触られた胸が気持ち悪い。
ーーー怖い。怖いよ。敦賀さん…私、敦賀さん以外の人に触れられちゃった…こんなこと知られたら…嫌われちゃう。嫌だ!!嫌!!何で…?なんで…?帰れるはずだったのに…明日には貴方の笑顔が見れるはずだったのにっ!敦賀さん怖い!!助けて!!助けて!!逢いたい!!逢いたいのに!!ごめんなさい!!勝手に死んでごめんなさい!!
そして、飛行機は物凄い衝撃を残して地面に突っ込んだ。握りしめた椅子がビリビリと衝撃をキョーコに伝えた。
その衝撃でガツンと頭を強く打ったものの、シーンとした室内で自分にまだ意識があることにキョーコは驚いた。
ふらりと立ち上がる。
ーーーあれ?私…死んだはずじゃ…?
そう思って周りを見回せば、先ほど自身を襲っていた男達が、目を見開き 頭から血を流して倒れていた。
キョーコの身体から血の気が引き全身が震えた。
ーーーこれ、は…私が…?私が……やった、、の?
無我夢中だったとはいえ、飛行機が落ちた理由は自分がパイロットを気絶させたからだ。
ーーーはっ!!そうだ!!マネージャー!!スタッフの皆さんは!!
そう思って慌てて席を覗き込むが、キョーコの目に飛び込んできたのは、アイマスクをしたまま血の気のない顔をしてピクリとも動かないマネージャーの姿。
奇妙なほどの沈黙がこの空間の無を伝えてくる。
ぐちゃぐちゃになった機体に身体を押しつぶされているスタッフもいた。
「うそ…嘘よ…そんな…。」
怖くなった。今目の前にある光景が信じられない。
怖くて怖くて怖くて…
「コーン…コーン!!コーン!!!!」
キョーコはぐちゃぐちゃになった飛行機から自分の鞄を探し出してコーンとクイーンローザが入ったがま口を震える手で取り出して握り締めると、その場から逃げるように駆け出した。
衝撃で飛行機に割れ目があったのだ。
少しでも、離れたかった。
少しでも、忘れたかった。
ーーー何で…?!何で私が生きてるの?!
こんな事故を起こしてしまったのは自分だ。
それなのに、自分以外の人が亡くなって自分だけが生き残ってしまった。
ーーーなんで?!なんで?!なんで?!なんで?!なんでっ?!なんで私じゃなかったの?!
死ぬのが自分だったら良かった。そしたらこんなに苦しまなくて済んだのに!!
キョーコは自身の破かれた服を無意識に掴んだまま無我夢中で走った。
頭から血を流した男たちの顔が頭から離れない。
見開かれた目には生気がなく、完全に…『無』だった。
ーードンッ!!
『大丈夫かい?お嬢ちゃ…』
ーーーいや!!!いや!!!いや!!!
男の人にぶつかってよろけたところで手を伸ばされて怖くなった。
ーーーやだ!!触らないで!!助けて!!助けて敦賀さん!!
キョーコはパニックに陥り、さらに無我夢中で逃げ出した。
そしてまた人にぶつかった時、そこにいたのは優しい顔をした知らない叔母さんだった。
『どうしたんだい?あんた…大丈夫かい?』
キョーコは一気に気が抜けてそのままその場に気を失い崩れ落ちた。
キョーコの頭からも大量の血が流れていたのだ。
焦る叔母さんの声を聞きながら、キョーコは全ての記憶を…放棄した。
最初に運ばれた小さな病院から意識不明の重体のまま、大きな病院に移された。
そこでの手術で一命を取りとめ、目覚めた時には最上キョーコとしての全ての記憶を失っていた。
ボーッとした頭で目覚めると、そこには愛くるしい顔の女の子。
『あ!目が覚めたのね?』
女の子の言葉が理解できず首を傾げる。
『貴方…お名前は?』
笑顔でわからない言葉を投げかけられるので、曖昧な笑顔を返すのが精一杯だった。
『?私はアリーよ!…貴方…しゃべれないの?』
キョトンと不思議そうに見つめられるばかりでアリーはどうしていいのかわからなかった。
『アリー!調子はどうだ?』
突然背後から聞こえた声に顔を向けると、そこにはアリーの大好きな兄の姿があった。
『ジム!!来てくれたのね!!』
『あぁ。今日の仕事も早く終らせたんだ。』
『私の為に無理してない?大丈夫?』
『あぁ、平気だよ。…あれ?アリー…その子は?』
『あ!昨日の夜から同じ病室になった子で今目覚めたのよ!』
『そうなのか…アリーの兄のジムだ!よろし…』
そう言って近付こうとした瞬間、キョーコの身体が恐怖で震え始めた。
ガタガタと顔を真っ青にして震える姿に、ジムは困惑してアリーを見つめた。
『どうしたんだ?』
『…わからない。私は大丈夫だったのに…本当にさっき目覚めたばかりなの…。』
アリーも本当に不思議そうな顔でキョーコを見る。
そこに男性の医師が入ってきた。
『アリー調子はどうだい?あれ…この子も目覚めたんだね。君…』
そう言って近づく男性医師に、益々キョーコが震え上がったのを見て、アリーが叫んだ。
『待って!!』
アリーの声に足を止めた医師とジムはアリーを見つめた。
『その子、男性が怖いんじゃないかしら。怖がり方が尋常じゃないわ!女性の医師を呼んで来て!』
アリーの言葉を確かめるように、医師はキョーコに向き直って伺いながら一歩近付こうとした。
キョーコは真っ青で今にも気絶しそうなほどの怯えようだったので、小さく息を吐き、男性医師はアリーに微笑みかけた。
『すぐ、女性の医師を連れて来るよ。』
『ありがとう。先生!』
女性の医師が近づいても怯えなかったので、問題なくキョーコも検査を受けられた。
しばらくは入院ということになったのだが、言葉を理解していないことはアリーから見ていて明らかだった。
アリーはそんなキョーコに言葉を教えた。
アリーはずっと個室で話し相手がいないまま二年間入退院を繰り返していたのだ。
この病院を経営している父に無理を言ってお願いして話し相手がいる部屋にしてもらった。
だから、アリーはキョーコに根気良く言葉を教えたのだ。
段々とアリーのお陰でキョーコも言葉を理解できるようになった。
しかし、自分が何者でどこから来て何をしているかが全くわからなかった。
両親の顔も、自分の名前すら思い出せない。
唯一の手掛かりは気を失っても尚、離そうとしなかったというがま口に入った綺麗な碧い石と、ピンクの宝石が入ったネックレスだ。
何故自分がこんなものを持っているかもわからないが、大切なものだということだけは何と無くわかっていた。
日々の生活の中で時折パニックに陥りながらも、アリーのお陰で少しずつ他人にも心を開き始めた。
ジムとも会話くらいは出来るようになった。
『ねぇ、貴方名前がないなら、私の名前もらってちょうだい!』
『え?アリーの名前を?』
『そう!私の名前を使ってよ。』
『突然何を言い出すんだアリー。』
『だってジム!名前がないのは不便よ!!私たちもどう呼べば良いかわからないじゃない!』
『そうだけど…二人もアリーがいたら、呼び分けるのが大変じゃないか。』
『あら大丈夫よ!ね?アリー?』
『ふふ。本当にいいの?アリー?』
『うん!もちろんよ!貴方がアリーでいてくれたらとっても嬉しいわ。』
『ありがとう。アリー!』
『どういたしまして!アリー!』
そうして二人は楽しそうに笑った。名前のなかったキョーコに初めて名前がついた瞬間だった。
それから二年。
『明日は…アリーの命日ね。』
『そうだな。アリーが死んでもう二年になるのか…。』
『たった数日しか一緒に過ごしていないけど、アリーは私の親友よ。』
『そう思ってくれたら嬉しいよ。アリーもきっと喜んでる。』
ジムとは恋人同士になった。でも、恋人同士といっても世間一般のものとは違う。
ジムでもやっぱり男の人だと思うと怖くて、手を繋いでキスをするのが精一杯だ。
本当は手をつなぐのもキスをするのも嫌でしょうがないのだが、ある時から目をつぶるとぼんやりと黒髪の優しい笑顔の男の人の姿が見えてその瞬間だけ幸せな気分になれた。
ジムとキスをしているというより、その人とキスをしているような感覚。
もちろん、こんなことジムには申し訳なくて言えない。
前に抱きしめられた時は思いっきり突き飛ばしてしまった。
そのあと身体には鳥肌がたち、戻るまでにかなりの時間を要したのだ。
ジムの口利きでモデルの仕事もするようになった。
姿勢を褒められショーモデルとしても仕事をさせてもらっている。
レッスンを受けてないのに、基本が出来ていて筋が良いと絶賛されて嬉しかった。
ジムには感謝してもしきれない。それなのに、どうしても一線を引いてしまう自分がもどかしい。
男性恐怖症を克服したいが、なかなかうまくいかない。
それでもモデルの仕事をするうちに段々と抗体も出来て来たように思う。
前のようにあからさまに怯えるのではなく、演技をすることを覚えた。
怖くても怖くないと自分自身に言い聞かせることができるようになった。
『アリー、来月から一ヶ月間日本で仕事の話が来てるけどどうする?』
ジムに言われた日本という単語に、アリーは胸が高揚するのを覚えた。
『え?!日本?!日本で仕事が出来るの?!』
『うん。日本!』
『行きたい!!行く!!絶対行く!!』
日本という言葉に急に親しみが湧いた。
その日からアリーは日本に興味を持ち、一ヶ月後の予習の為、日本のことを調べ始めた。
和食を食べたいといえばジムが連れて行ってくれ、アリーは和食を食べた後、益々日本に興味を持っていた。
『この人だよ。蓮=敦賀。今度のお前が共演するモデル。』
『蓮…。蓮…ね。』
雑誌を一冊目の前に落とされたそこには表紙を飾る美貌があった。
暗い影を背負ったようなその表情に一気に心惹かれた。
無意識に食い入るように見つめながら、アリーは蓮の輪郭を指でたどっていたのだった。
飛行機は怖いと感じた。その理由はわからなかったが、震えるのを抑えるのに必死だった。
それでも演技で乗り越える。ジムにも気付かれなかったとこをみると今回の演技は完璧だったようだ。
そして飛行機への恐怖よりも、日本に行けることが何よりも楽しみで、蓮というモデルにもとても興味をもっていたから乗り越えられたのだろうと思った。
ジムから用意されたアイマスクと耳栓を断って、寝ようとするが、全く落ち着かず目をつぶるのが怖くて眠る気になれなかったアリーは寝るのを諦め、集めた日本の観光ガイドに目を通し始めるのだった。
そうして日本につき、蓮と出会ったーーー。
『ん…。』
薄暗い部屋でアリーは目を開けた。
枕元の時計を見ると3時27分を指していた。
何だか夢をみてた気がする…何だっけ?
『アリー?起きたの?どうかした?』
背中から包むように抱きしめてくれている逞しい腕に手を添えて、首から上だけうしろを向ける。
『ん。蓮…蓮…』
『うん。ここにいるよ?』
『蓮…』
『アリー?』
『キスして…』
『ん。お望みなら何度でも。』
そう言って優しく降り注ぐキスにアリーは胸いっぱいに幸福感を味わった。
深夜という時間帯。
アリーと蓮は出会ってからほぼ毎晩どちらかがどちらかの部屋を訪ね、夜を共にしていた。
真っ暗で静かな部屋の中で彼の逞しい鼓動を感じると、心が落ち着く。
ここ数日怖い夢を見なくなったのは蓮のお陰だと思う。
後ろから抱きしめられている状態は守られてるという感覚になって好きだ。
離れるのが怖い。離れたくない。ずっとずっと一緒にいて欲しい。
この二年、美容に悪いと言われても眠ることが出来なかった。
怖い夢を見てすぐに飛び起きてしまうのだ。
それなのに、蓮と出会って腕の中にいると安眠出来た。心からの安らぎを手に入れた。
『蓮は私の運命の人なのね。』
熱いキスの合間に蓮に囁けば、蓮の手が意思を持って動き出す。
優しくて大きな手がアリーの素肌を辿り小振りな胸を包み込む。
背を向けていた身体を仰向けに変えられ、その上に蓮がのしかかった。
『うん。俺にとってもアリーが運命の人だよ。君以上に最高の女性はいない。』
蓮はアリーにそう耳元に囁き返し、そのまま唇で耳を辿って首筋を辿ると、アリーの身体が震え、甘い声を吐き出した。
『愛してるわ。蓮』
『俺も愛してるよ。アリー』
『ふふ。嬉しい。』
『俺も』
そしてまた唇を合わせ、お互いの熱を分け合うようにして夜と共に溶け合った。
『またアリーと一緒かよ。いつも一緒だなお前達。』
ジムは蓮の存在にも慣れっこになって二人をからかう。
寄り添い合うその姿は、アリーがとても幸せそうに笑うので、ジムも嬉しかった。
こんな笑顔は蓮の前でしかみれないものだ。
本当はその隣でアリーを笑顔にする男は自分でありたかったと思わないこともないが、蓮には敵うはずもないと自覚があるため、そんなことを考える自分がアホらしくも感じる。
『全く、朝っぱらから見せつけられる俺の身にもなってみろよな!』
『はは。ごめん。ジム…でも、離れ難くて…』
『あ!蓮ったらまた残してる!ダメよ!朝の栄養は大事なんだからちゃんと食べないと…』
『んー。アリーが食べさせてくれるなら食べれるかも。』
『もう。蓮ったらすぐに甘えるんだから!ほら、これ美味しいわよ?アーン』
『アーン』
『…………』
『美味しい?』
『うん。でもアリーの料理が一番だな!』
『え?!アリーが料理?!』
呆れて二人を見ていたジムは蓮の言葉に驚いてアリーを見た。
『お前、料理なんてするのか?』
『うん。蓮のマンションに行った時は作るようにしてるの。最初は散々だったけど、少しずつ成長してるのよ!』
『うん。アリーは日に日に上手くなってるよ。』
『ありがとう。蓮のお陰よ。』
そう言って、アリーが蓮の頬を掴んで唇に軽くキスをすると、蓮の顔が甘く崩れた。
そんな蜂蜜より甘い二人を見てジムは内心、あーあーあーやってらんねー!と思いながら赤くなった頬をごまかすように視線を逸らした。
ここがホテルの部屋の中だから許されるものの、外だったらとてもじゃないが見せられる顔ではない二人の表情。
ーーピンポーン。コンコンコン。
『お?社が来たかな?!』
無意識イチャラブカップルから逃げる口実をみつけ、ジムが席を立った。
『やぁ!ジムおはよう。蓮いるか?』
『おはよう社!あぁいるよ。朝から暑苦しくてたまらないよ。』
ハハハと笑いながら二人で戻ると先ほどまで朝食を食べていたはずなのに、いつの間にかアリーは蓮の膝に乗せられ、抱き合いながら激しいキスをしているところだった。
しかも、蓮の手がアリーの服の中に侵入していた。
呆気に取られたジムと社は赤くなった頬をごまかすように首を振ると、同時に咳払いをした。
二人はその音を聞いて名残惜しげに唇を離し、互いに色気を垂れ流しながらそのままの視線を社とジムに向けた。
そんな姿も一枚の絵になる二人を見て、ここにカメラマンがいたらきっと夢中でシャッターを切るんだろうな…と思いながら苦笑を零す。
『蓮!仕事だからそろそろアリーから離れなさい。』
『アリー、俺たちもそろそろ出るぞ。支度しろ!』
『わかりました。』
『支度はほぼ済んでるわ。』
蓮から離れてアリーはカバンを持ち、最後の仕上げとばかりに口紅を引き直す。
『んー。準備OKよ!』
『じゃあ行くか!』
そう言って4人で仲良く部屋を出てジムとアリーは蓮の車の後部座席に乗り込み蓮と社もそれぞれ運転席と助手席という最近定番の位置について車が出発したのだった。
(続く?)
****
この先はまだ続けるかは浮かび次第です!
スキビ☆ランキング