先日、ずっと愛用していたiPhoneの画面を綺麗に割ってしまいまして、買い換えてもショックが収まらず書こうという気が暫く失せておりました。

だけど、いつまでもおやすみするわけにはいかないかな?と…
連載…増やしちゃったし。
なのに何故、番外編??と思われたかもですが、本当は前回UPした番外編より、本当はこっちを書くことが本命だったんです!なのに、奴が出しゃばった為、一話丸々奴に使ってしまったというね…。

もう一年ほど前になるでしょうか?スキビ話で盛り上がった某様との会話で、キョーコと美森が何処と無く似てるよね。という話になり、実は恋の季節はで美森が松太郎から離れて別の人と幸せになるシーンを考えているというような話をしたことがあるのですが、そのシーンに行きつくまでにまだまだかなりの道のりがありまして、これは流石にそろそろ形にしといた方が良くないか??と思っての今回の番外編でございました。
キョーコが度々過去の愚かな頃の自分と重ねるだけあって、美森ちゃんをショーから救って目を覚まさせてあげたい!!となんとなく思っていたのです。
某様はもう時間が経ちすぎて話したこと自体お忘れかもしれませんが、とりあえずこれ以上遅くなってもあれなんで、この間書いた番外編シリーズってことで…(時系列的にはこっちの方が先ですけどね☆)。
風月には珍しく、蓮キョ以外のカップリング(?)です!
蓮キョは友情出演程度ですが、どんなのでもいいよって方にお楽しみ頂けたら幸いです。



*****



恋の季節は 番外編2
ーーー気温も変わり始めるでしょう。


美森はため息をついた。

「なんで…あの子なのよ。」

松太郎の頭の中を占める最上キョーコを思い浮かべて、美森は眉間にシワを寄せた。

「美森だけだって言ってたのに…」

自分だけだと言ってキスしてくれた松太郎を信じていたのに、松太郎の心の中を占めることが出来るのはキョーコだけなのだとここ最近になって漸く気づき始めた。
気にしていない、関係ないと言いながらも、キョーコのことで機嫌を損ねる松太郎へ不満が募る。

美森がどんなに好意を表しても、今の松太郎は見向きもしない。

「もう…疲れちゃったよ…」

トボトボと歩きながら、はぁー。と美森は深いため息を着いた。

ふと窓の外側に目線をやると、今噂のバカップルがいた。
蕩けんばかりの目をして見つめながら、頭を撫でている蓮と、恥ずかしさそうにしながらもそれを受け入れているキョーコ。
蓮がどれだけキョーコを愛してるのかが、微笑み一つで美森にまで伝わった。
思わず美森はピタリと立ち止まる。

恥ずかしそうにしているキョーコが可愛いとばかりに目を緩ませて蓮がキョーコの頭にキスを送ると、キョーコが驚くのを見て、クスクスと楽しげに笑い、手を引き木の向こう側へと消える。
美森の視界からは木が邪魔で見えなくなったのだが、重なる二人の影がキスしている様を忠実に再現していた。

美森の握りしめた拳がプルプルと震える。
松太郎のキョーコへの暴言の数々をずっと聞いていた美森にとっては、胸もなく、たいして可愛くもないただの地味で色気のない女という認識しかキョーコに対して持てていない。
自分より明らかにキョーコの方が劣っていると思っていた美森は、松太郎の興味を引いているくせに、別の人にまで惜しみない愛を注がれているのを見て悔しくて堪らなくなった。

「最上…キョーコ…!!なんで…あんたばっかり…!!」

黒い影が美森の体を覆う。
何かに取り憑かれたかのように美森はクルリと踵を返すと、怖い顔をしてキョーコが在籍するクラスへと向かった。

ーーーショーちゃんも、誰も私のことなんて見てくれないのに!!

放課後の誰もいない教室に堂々と入り、キョーコの机を見つける。それに手をかけようとした時に、入口から急に声を掛けられた。

「何しようとしてるの?」

「っ?!」

突き刺すような、鋭く低い声に美森の体がビクリと震えた。

今まさに、キョーコの机を持ち上げて叩きつけようとしていたのだ。

「そこ君の席じゃないよね?そもそもこのクラスじゃないし…」

「あ、あなたは?!」

パッと机から手を離して、思わずジリジリと後ずさりながら問いかける。
男は一歩二歩と美森に近付いた。

「俺?3年5組の五十嵐。君と同じ風紀委員の副委員長。」

「あ!」

美森は漸く目の前の人物のことを思い出した。

「な、んで、先輩がここに?」

後ずさった美森はガタガタと後ろの机にぶつかる。
それにも構わず、五十嵐と名乗った男は美森との距離を詰めた。

「君こそ、何でここに?」

「わ、たし…は…」

美森の視線を追うように、五十嵐もキョーコの机へチラリと視線を向けた。

「君のクラスはこの二つ隣のはずだよね?ここ、最上…さんの席?噂の敦賀君の彼女の…。さっき中庭にいるの見てたよね?」

「なんで知って…!!」

「さっき、たまたま二人を見ている君を見かけたんだ。二人を見た後、急に血相変えて歩き出したから、どうしたのか気になって後をついてきた。」

「………。」

美森は押し黙った。キョーコの机に手を掛けようとした決定的瞬間を抑えられたのだ。
先生に言いつけられて、何かしらの処分を受けなくてはいけなくかもしれない。

「何しようとしてたかは知らないけど、どうする?俺の目の前で続ける?それとも大人しく帰る?」

ジッと見つめられ、美森は少し考えたのち、帰ります。と小さな声で答えた。
血が上っていたとはいえ、自分の行動を咎められて少し肝が冷えたことで冷静さを取り戻したのだ。
すると目の前の五十嵐がホッとしたように微笑む。

「そ。良かった。じゃあもう暗くなるし、近くまで送るよ。」

「え?!」

驚いて顔を上げた美森は五十嵐の顔を見て、思わず顔を赤く染めてしまった。
何故か五十嵐の笑みが先ほど蓮がキョーコに向けていたものと同じに感じたのだ。
一瞬だったが慈しむような愛に包まれた気がした。

「いこう。」

「え?あ…は、はい。」

美森は訳もわからぬまま、五十嵐に促されて帰路についた。

特に何を話すでもなく歩く五十嵐から、一人分の間を開けて並んで歩く。

チラチラと横目で伺いながら駅に向かっていた美森を五十嵐が手招きした。

「あ、こっちだから。」

「え…あの、でも駅は…」

「いいから、こっち。」

戸惑う美森の手を引いて、五十嵐が歩き出す。
大きな手に突然手を握られて美森の心臓がドクンと跳ねた。





「え…なんで…?」

手を引かれ連れて行かれた場所で美森は驚き目を見張った。

立ち寄ったのはバイク専門店で、何故か五十嵐がヘルメットを選び始めたのだ。

「これ、被ってみせて。」

ポンと渡されたヘルメットに戸惑いながらも言われたままに、かぶってみる。

「大きさ…どうかな?」

「…ちょっと…大きいかも?」

「そっか、じゃあこれは?」

「あ、これなら…大丈夫。」

「オッケー。おじちゃーん、これ頂戴!」

「あいよ~。」

美森が大丈夫だと答えたヘルメットの会計を済ませて、美森は再び五十嵐に手を引かれて歩き始めた。

「あの…なんでヘルメットを?」

「ん?もちろん、こいつに乗って行くからだよ。」

「えぇ?!バ、バイク?!」

「そっ。」

「ええぇ?!で、でも学校で禁止されてるはず…!!バレたらどうするんですか?!仮にも先輩、風紀委員ですよね?!」

「そうだけど、バレないよ。君が誰かに話さない限りね?」

「そんな…!」

「俺は君の秘密を握ってるだろ?俺だけ君の秘密を握ってたら、なんか一方的に弱みを握ってるみたいじゃないか。だったら俺も秘密を握ってもらおうと思ってね。」

「な、な…そんな、勝手に…」

「俺が君の秘密を守る限り、君も俺の秘密を守ってくれるだろうって思ってね。そしたら、お互い様になるだろ?」

「それは…そう…ですけど…」

「ほら、つべこべ言わずに乗って!!あ、ヘルメットはしっかり被ってね。」

「は、はははい!」

美森は慌てて返事をして五十嵐の後ろに収まった。

「しっかり、捕まって。」

「え…あ…えっと…でも、どこに捕まれば?」

背中を遠慮気味に掴んでいた美森が戸惑っているので、五十嵐はグイッと美森の両手を引き、お腹に回させた。

「うぷっ」

「ほら、ここ掴んで。落ちないようにね。」

「ふ、ふぁい。」

両手を取られてバランスを崩した美森は五十嵐の背中にぶつかってジンジンと痛む鼻を気にしながらも、流石に抱きつくことが恥ずかしくて慌てて離れようとしたのだが、その前に五十嵐がエンジンを掛けた。

「行くよ。」

ヴァンと音を響かせ走り出したバイク。

「きゃあ!!」

突然動き始めたので振り落とされそうになって、慌てて離そうとしていた五十嵐の腰にしがみついた。
初めて乗るバイクが怖くて暫く美森は目を開けられなかったが、なんだか五十嵐の背中がとても大きくて恐怖が薄らぐような、それでいて守られているようにも感じて、ジワリと美森の目に涙が溢れた。
松太郎に全く相手にされない自分、最上キョーコに劣等感を感じた自分、松太郎が世界の中心だと信じて疑わなかった世界が崩れて行く現実。
誰にも愛されることはないのだと諦め掛けた時に不意に与えられた優しさが心に染み渡って涙が止まらなくなり、美森は五十嵐にしがみつく手に力を込めて、静かに泣いていた。

「このままどっか…行こうか?!」

「え?!」

暫く走ったところで、五十嵐がバイクの音に負けないように大声で後ろに座る美森に話しかけた。

振り落とされないように必死に五十嵐にしがみついていた美森は五十嵐の言葉を聞き漏らした。

「こーのーまーまーどっか、いーこーかー?」

美森がバイクの後ろで密かに泣いていたのを五十嵐はわかっていたのだろう、美森はそんな五十嵐の気遣いが嬉しくて更に涙が零れた。
五十嵐の背中に伝わるように頷いて答えるのが精一杯だった。
そのあとは泣いた。どんなに大声を出して泣いても、五十嵐の運転するバイクの音が泣き声を掻き消してくれた。

うわーーーんと泣く美森に、五十嵐は何も言わず、エンジン音を更に響かせてスピードを上げてくれた。

バイクで走り始めて約一時間半、どうやら目的地に着いたようで、バイクのスピードが落ち始めた。

ずっと泣いていた美森はバイクが停まっても気付かず、ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、五十嵐の背中にしがみついていた。

ポンポンと優しい五十嵐の手が美森の手を叩く。

「俺は構わないけど、いつまで抱きついてるつもり?」

「え?!あ、きゃあ!!」

五十嵐に指摘されて美森は髪の毛が逆立つほど驚いて真っ赤になって慌てて離れたので、その反応に五十嵐はツボにハマったように笑いだした。

「そんなに…笑わなくても…」

顔を赤らめたまま恨みがましい目で睨んで美森が言えば、五十嵐はごめんごめんと目元の涙を拭いながら心のこもらない謝罪をして、美森を優しい笑顔で見つめる。
その笑顔に美森はドギマギして落ち着かなくなった。

「あ…あの、えっと…」

今の今まで、自分が泣いていたことに気付いて、恥ずかしくなる。

しかし、五十嵐はぐしゃぐしゃの美森の顔にも何も言わず、頭をクシャリと撫でると、手を差し出した。

「ほら、おいで。」

美森も五十嵐にエスコートされて慌ててバイクから降りる。

そうして、高台から見せられた景色に美森は目を輝かせた。

「わぁぁぁーー!!!!海~!!」

ちょうど夕日が海へ沈もうとしているところだった。

「綺麗~!!」

美森は子供のようにはしゃいだ。
泣いていた照れ臭さを隠したいというのもあったし、それに、ずっと横顔を五十嵐からみつめられていることにも気付いて、居た堪れないというのも理由の一つだった。

「うん。綺麗…だよね?」

五十嵐も美森の反応に嬉しそうに笑みをこぼして答えると、視線を海へと向けた。

暫く黙って海を見てると美森はどうしてもアレをやってみたくなった。

思いっきり息を吸い込むと一気に声を張り上げる。

「ショーちゃんの~大馬鹿野郎ぉぉぉぉぉー!!!!!!!!」

言い切って漸くスッキリした気分になれた。ぜーはーぜーはーと息を吐いて、えへへと笑う。

「一度、やってみたかったんです。」

五十嵐はびっくりしたように目を見開いて美森を見ていたが、その一言を聞いて、フッと目元を緩めた。

「スッキリした?」

クスリと微笑んで、美森に問いかける。

「はい!!」

美森も元気いっぱいに答えた。

「そ。少しは元気になってくれたなら…良かったよ。」

そう優しい声で言われて、美森は漸く五十嵐の存在を思い出したかのように視線を五十嵐に向けた。

「そういえば、なんでここに?」

今更ながらな質問だと思いながらも聞かずにはいられない。

「ん?何となく。落ち込んだら海ってイメージがあるだろ?」

「そうじゃなくって、先輩とは美森は無関係なのに…」

美森の言葉に、五十嵐が少しばかりムッとした顔を向ける。

「無関係…じゃないだろ?互いに秘密を共有してるんだし。まぁ言うなれば秘密仲間?」

「秘密仲間?」

「そっ。秘密仲間ってことで。」

「ふーん?」

何となく、無言で二人沈みゆく夕日を眺める。

「…“ショーちゃん”と、何かあったの?」

五十嵐が気になって問いかけたが、美森はふるふると寂しそうに首を振って否定した。

「ううん。そーゆーわけじゃないの。」

「そっか…。…付き合ってるの?」

美森はまたもやふるふると首を振った。

「美森はそのつもりだったけど、ショーちゃんは違ったんだ。」

「そっか…。」

また無言が続くかに思われたが、今度は美森が言葉を続けた。

「想い続けるのが疲れちゃったなぁって思って…」

「それは…ショーちゃんを?」

コクンと美森は海を見たまま頷いて答えた。

「う…ん。どんなに好きでも、ショーちゃんは美森を見てくれないの。」

「そっか…。勿体無いね。七倉さん可愛いのに…。」

「え…?!」

美森は驚いて五十嵐を見た。
美森の反応に、五十嵐も驚く。

「え?あれ…?俺変なこと言った?」

「今…美森の名前…!なんで知ってるの?」

美森の言葉に五十嵐は少しばかり動揺を見せた。
誤魔化す様に頬をかいてバツが悪そうに答える。

「あぁー。まぁ…知ってるよ。七倉美森ちゃん…だろ?」

「どうして…?」

「いや、だってほら、同じ風紀委員だし…。あ、いや、もちろん風紀委員全員の名前憶えてる訳じゃないけどさ、可愛いし、何となく良いなって思って見てたから…さ…」

「えぇ?!美森を?!」

「あ、いや、うん、気になってたというか、なんというか…」

五十嵐の頬が少し赤く見えるのは夕日のせいなのだろうか?
美森も五十嵐の顔に負けず劣らず真っ赤になっており、恥ずかしくてモジモジとしてしまう。

「でも、七倉さんいつもショーちゃん一筋!!って感じだったから、今日はいつもと様子が違って気になっちゃって…」

松太郎の名前が出たことで、美森の顔に影が差した。
少しさみしそうに、海を見つめて美森はすっと前を見据えた。

「ショーちゃんは、もう…卒業します。」

決意を込めたその真剣な美森の眼差しに五十嵐はつい見惚れてしまった。

ずっと見つめられていることに気付いて、美森は恥ずかしそうに俯きながら、五十嵐にチラリと視線を送った。

「あの…?」

「え?!あ、…うん。そっか…そう…それがいいよ!」

慌てて、取って付けたように答えた五十嵐に美森はプッと吹き出した。
バイクに乗っていた時の頼もしさとのギャップが少しくすぐったい。

「ちょっ、七倉さん?!」

突然笑いはじめた美森に五十嵐は慌てる。
それが更に美森のツボに入ったようだ。

「あはははは!…先輩っ!面白すぎですっ!!」

「ええぇ?!何処が?!面白いって?!何が?!」

美森のツボが理解出来ず、五十嵐が必死でおかしなところがあったかと色々と考えるも、その答えが浮かばない。
しかし、さっきまで泣いていた美森に笑顔が戻ったので、五十嵐はホッとしていた。

「こらっ!七倉!笑うなっ!!」

先輩風を吹かせて、笑い転げる美森の頭を抱え込んでぐしゃぐしゃにする。

「きゃあ!!先輩!!やめてください~!!」

くすくすと楽しそうに笑う美森はすっかりと吹っ切れているように見えた。




「あ!五十嵐先輩~!!」

「おー。七倉!」

「もぅ、先輩、美森でいいって言ってるじゃないですか~!」

「いや、それはちょっと恥ずかしいだろ。」

「えぇー?!何でですか?!」

普段先輩達からは名前で呼び捨てにされることも多いが、五十嵐は恥ずかしがって中々名前で呼ぼうとしない。

たまに昼御飯をこっそり一緒に食べたり送ってもらうようになったが、別に付き合っているわけではない。

それは五十嵐から決定的な言葉を言われていないからなのだが、五十嵐からの好意は薄々感じていて、美森も惹かれていたのだった。



「美森ちゃん!!」

そんなある日、廊下を歩いていると美森は突然声をかけられた。

「あ、はい…。えっと?」

突然名前も知らない男子生徒に呼びかけられて驚いていると、その男子生徒は真っ赤になりながら大きな声を上げた。

「好きです!俺と付き合ってください!!」

「え?えええぇ?!」

突然の告白に美森は真っ赤になって目を回した。
告白を面と向かってされたのが初めてだったのだ。

「あ、えっと…あの…」

あまりに大声で叫ばれた上、頭を下げ続けて返事を待つ男が目立たないはずがない。廊下を歩く人達からチラチラと視線を受けて美森は慌てふためいた。
教室からニヤニヤとこちらの告白シーンを覗いているのは恐らく告白してきた男の子のクラスメート達だろう。

初めてのことに戸惑って、返事に困っていると、グイッと急に後ろから引っ張られた。
美森の手を引いて背中に庇うように目の前に立った男の背中に見覚えがあり、美森はハッとして見上げた。
すると案の定、目の前に立つ男に対面しているのは五十嵐だった。

「悪いけど…。美森ちゃんは今、俺と付き合ってるんだ。」

美森の驚きの声は周りから上がった女生徒達の悲鳴に掻き消されたのだった。



「美森…付き合ってるなんて聞いてない…」

騒ぎになってしまった廊下から逃げ出すように美森の手を引いて歩き始めた五十嵐に、騒ぎの場所から離れたところで美森が不満げに言葉をこぼした。

「うん。ごめん…つい…。」

「まだ何も言われてないよ。」

ぷんと怒って見せると、五十嵐は慌てて取り繕った。

「ごめん。その、中々タイミングが掴めなくて…、それなのにぽっと出の男に先を越されて、焦ったんだ。」

「ふーん。」

本当は庇われて嬉しかったのだが、ついつい可愛くない反応をしてしまう。

「皆の前で言った後で何だけど…七倉、俺と付き合ってくれないかな?」

「あ!!それダメ!!」

「え?!」

美森の即答に、五十嵐はショックを受けて固まった。

「え?あ、あの…違うの!!その、付き合うのがダメなんじゃなくて、さっきは美森って呼んでくれたのに、七倉って呼ぶから…」

「あぁ…そっちか…」

ガクーッと五十嵐は脱力したようにその場に屈伸するようにしゃがみ込んだ。
膝に腕を置いて髪をぐしゃりと掴んだ。
告白を断られたわけではないことがわかって安堵の表情を浮かべていた。

「けんもほろろに断られたのかと…。」

「断らないよ!!だって美森も先輩のこと…」

「あー。待って!!先に言わないで!!これ以上先を越されたくない。」

美森はピタリと口を閉じた。
期待で胸が高鳴り少し緊張する。

「…美森、ちゃん…。」

「は、はひっ!!」

五十嵐に呼ばれると名前が特別な響きに聞こえて美森の心臓が思いっきり跳ねて、思わず返事が裏返ってしまった。

ちょいちょいとしゃがんでる五十嵐から手招きされて、五十嵐の正面に座り込んで目線を合わせた。
ジッと見つめられ、真剣な目で告げられた。

「好きだよ。」

ーーートクンッ

美森の心臓が大きく跳ねた。
胸がいっぱいで張り裂けそうで、目頭が熱くなる。
うりゅう~。と泣きそうな表情になった美森の頭を五十嵐の大きな手がわしゃわしゃと撫でてグイッと引き寄せた。
飛び込むように五十嵐の胸元に収まった美森は五十嵐の制服のベストにしがみついた。
よしよしと頭を撫でられて、美森の涙が溢れ出す。

「ふひぃ~~~ん。」

告白に対する返事をしたいのにうまく言葉に出来なかった。

抱きしめられた腕の中は安心出来て暖かい。
松太郎といる時はいつも不安な気持ちが渦を巻いていたのに、五十嵐といる時はいつも満たされていた。
それが美森を安心させたのだ。
涙を受け止めてくれる広く逞しい胸板が、美森の心を包み込む。

美森が泣き止むその時まで、五十嵐は優しく美森の頭を抱きしめ続けたのだった。




END


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現在アメンバー申請が承認されていない方へ。
風月へのアメンバー申請は条件を満たしたメッセージが必要です。
スキビ好きであればそれほど難しい内容でもないので、メッセージ頂けない限りは申請を承認しませんし、扉も開きません。
『アメンバーにしてください!』だけでは当然承認致しませんので、風月のブログ内からアメンバー申請について。の記事を見つけ出して下さいね。
宝探し…にはならないかもしれませんが、そんな感覚で楽しんで見つけ出してくれたらと思います!!

時間がある時はなるべく最新の記事の方にアメンバー申請について。の記事が来るようにしてるのですが、パソコンで編集しないと行間がおかしなことになるので、中々ゆっくり触れる時にしか編集ができないのでどうしても他の更新記事に埋れてしまうんですよ~!!
不親切なブログで申し訳ないですが、どうぞよろしくお願いします。