My HOME-7-


「そういえば、キョーコちゃんこの後の予定は?」

キョーコが落ち着いた後、三人で食事をとっていると、社が何気無く質問してきた。

「えっと、15時から事務所に呼ばれてますが、それまでは何も…。早めに事務所に行ってラブミー部の雑用でもあれば引き受けようかと思ってますが…」

「あ!ならさ、13時までラブミー部に依頼してもいい?」

「え?依頼ですか?構いませんが…」

「良かったー!俺これから事務所にちょっとだけ行きたくってさ~。」

「社さん、事務所に用なら送りますよ?」

首を傾げて蓮が言うと、社が慌てて答えた。

「いや、それじゃあお前が休めないだろ?!何のための仮眠時間だよ!お前はここで時間までゆっくり休むの!!」

「えっと、それで私は何をすれば…?」

キョーコの問いかけに、社は満面の笑みで微笑んだ。

「蓮にさ、ついててやってくんない?鍵閉めてたらある程度は大丈夫だとは思うんだけど、迷惑な来客がないとも限らないし、蓮がゆっくり休めるように協力して欲しいんだ。」

そんな社の言葉に、蓮は社さんも大概俺に甘いよな。と心の中で独りごちるのだった。


何はともあれ、朝一緒に過ごすことが出来なかった時間分ここでキョーコと一緒にいれることに蓮は幸福を噛み締めていたのだが、社がいなくなってキョーコは何やらせっせと支度を始めた。

「最上さん?何してるの?」

謎のものを膨らまし始めたキョーコに蓮が問いかけると、キョーコはニッコリ微笑んで答えた。

「これですか?エアー枕ですよ。万が一の為に持っていて良かったです!敦賀さんが快適に休めるように使って頂こうと思いまして!」

「そ、そうなんだ。わざわざありがとう。」

なんだか少し残念な気分がするのは蓮の気のせいだろうか。

キョーコの用意した簡易枕を楽屋の座敷スペースに置き、その上に横たわる。

「すみません、タオルケットでも持ってくれば良かったのですが…そこまでは用意してなくて…あの、もしよろしければこちらを使って下さい。」

ふわりと掛けられたのはキョーコが着てきたコートだった。
体温調節が難しい季節のため、少し厚手のコートを持ってきていたらしい。

体の大きい蓮には申し訳程度のものだが、それでもキョーコの物だと思うとそれだけで愛おしく感じるのだから不思議だ。

「ありがとう。有難く使わせてもらうよ。」

ふわりと微笑んでお礼を言った蓮は、キョーコの温もりと香りに包まれながらそっと目を閉じた。

昨夜殆ど寝てなかったことも手伝って、どうやら蓮は少し眠っていたらしい。
どのくらい眠っていたのかわからないが、キョーコの大絶叫にビクッと反応し、意識が現実に引き戻された。

「モーー子っさぁぁぁぁぁん!!どうしたの?!モー子さんの方から電話してくれるなんてぇぇぇー!!」

どうやら親友の奏江から着信があったようだ。
蓮は事件じゃなくて良かったとホッと胸を撫で下ろして、もう一度寝ようと試みるが、キョーコのハイテンションに立てるつもりのない聞き耳をどうしても立ててしまう。

「うん、うん!大丈夫よ!!あっ、モー子さんは?休憩中??」

親友と話すキョーコの声の調子から表情まで簡単に想像できて、蓮は気付かれないようにクスリと微笑んだ。

「そうなんだ。え?あ、うん…。え?!本当?!うん、うん。えー!!あ、うん。え……えぇ?!」

驚いた声を上げて固まったように間ができたので、蓮は頭に疑問符を浮かべてキョーコを見ようとしたが、すぐに持ち直したようで、先程よりはトーンを落としてぽしょぽしょと内緒話をするように話し始めた。

「あー。うん、今は…ね、実はあの…つ、敦賀さん…の家に、お世話になってて…」

突然自分の名前が出たことで、ドキリと心臓が跳ねたが、今下宿先を出ていることを知っている奏江が心配して聞いたであろうことは明らかだった。

「ええぇ?!ちょっ!モー子さんったら何言ってるの?!大丈夫よ~!!…あ、やだ~心配してくれてるのね?!もぅ、モー子さん大好きぃぃぃ~!!」

大好きという単語についつい蓮の耳がぴくりと反応してしまう。

「ええー?いや、あり得ないから!!敦賀さんが私相手にそんな気起こすはずないじゃない!!絶対ないない!!天地がひっくり返ってもあり得ないわよぉ~!!」

その会話の内容を聞いて蓮にも奏江の心配していることが何と無く伝わった。
恐らく変なことされてないかということだろうが、カラカラと笑いながら本気であり得ないと一笑に付しているキョーコによって蓮は多大なダメージを与えられた。

「えぇ?!うーん?でも敦賀さん…だよ?そこまで心配されるようなことにはならないわよぉ~。もー!モー子さんったら心配性なんだからぁ~!!ふふふ。でもありがとう~。やっぱりモー子さん大好きぃ!」

ーーーって…つまりこの子にとって俺って男だと認識されてないのか?!

信頼しているのだと言われれば聞こえはいいが、要するに警戒するに値しないと言われているようなのだ。

理性を必死で繋ぎとめている一人の男としてそれはどうかと思ってしまう。

蓮の胸にぐさりと刃物が突き付けられた気がした。

「ふふふ。じゃあ楽しみにしてるぅー!じゃあねぇ~!!」

電話を切った彼女がイヤッホーとばかりに小躍りする気配を感じながら、蓮は静かに目を閉じた。

どうやらキョーコは電話を切って小躍りを終えてから漸く蓮が休んでいたことを思い出したようで、あっと小さく声を上げて急に静かになった。

そろりと近付く気配、寝ているのかを確かめるようにして覗き込まれだ、正直今の話を聞いていたとは思われたくなくて、寝たふりを決め込んだ。
キョーコが奏江のことを大好きなのは知っているが、自分に対する態度とのあまりの違いに、蓮はまざまざと現実を思い知らさせた気がした。

これが夢だったらいいのに、と思いながら現実逃避を試みる。

ーーーキョーコに男としてみられたい。

蓮の中で静かな決意が生まれた瞬間だった。


(続く)



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