蓮の部屋の配置ってどうなってるんでしょう??
間取りとか公開されないかなぁ?
とりあえず今回はリビング直通ドアと、廊下から入れるドアの二つがある設定で書いてます(笑)


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My HOME-16-



指導二日目を予定していた夜は、蓮の撮影が思いの外長引いてしまい、帰宅が遅くなってしまった。

てっぺんなどとっくに過ぎ、帰宅できたのは26時…つまり夜中の2時だった。

キョーコには先に寝るように途中でメールを送っていた為、ただいまと小さく呟いても返事などあるはずもなく。迎えてくれたのはシンと静まり返った部屋の空気だけだった。
リビングの明かりは付いていたが、やはり人の気配はない。

キョーコも寝たのだろうと思って寝室へ向かおうとすると、ソファから微かに寝息が聞こえた。

近付けば、ソファには台本を胸に抱えて気持ち良さそうに眠っているキョーコがいて蓮の心臓が大きく跳ねる。

キョロキョロと思わず辺りを見回したのは、やはりこういう時の人間の習性のようなものなのかもしれない。
他に誰もいない部屋に恋しい相手と二人きりーー。

相手は寝ていて自分が近くにいることにも気付いていない。
今ならキスしても気付かれないのでは?きっと今この時の蓮とキョーコの演じる明美の心情は見事にシンクロしていただろう。

蓮はそっとキョーコの側に跪いた。
スゥスゥと空気を吐き出すピンク色の柔らかそうな唇に視線が釘付けになる。
そろりと伸ばした手でキョーコの頬を撫でる。
ん。と僅かに反応したものの起きる気配はない。
暖かい手が気持ちいいのか頬を摺り寄せて顔を綻ばせたキョーコに、蓮の顔が誘われるままゆっくりと近付いた。

キョーコの顔に蓮の影が落ち、唇が重なるかに思えた瞬間、何かを感じ取ったのかキョーコが突然、パチリと目を開けた。

突然のことに驚いて思わず蓮はそのままフリーズしてしまい固まる。
キョーコも固まって二人は至近距離で暫し見つめあった。

やがてキョーコの唇がわななき、顔が一気に真っ赤に染まる。

「きゃわっ!!つっつつつつ、敦賀さん?!わ、私…?!ね、寝て?!」

蓮は慌てて体を離した。

「あ、あぁ、いや、これは…その、気持ち良さそうに寝てたから…ベ、ベッドまで、運ぼうかと思ってたところで…」

「あ、そ、そそそそそそそうだったんですね!!御手数おかけしてしまい、申し訳ありませんでした!!そういう時は遠慮なくもう起こして頂ければ…!!」

「あ。いや、ごめん。気持ち良さそうだったからつい…。」

「あ、じゃ、じゃあ、ねねね寝ますね!!おっおやっおやすみなさいませ!!」

「あぁ…うん。うん…。おやすみ…。」

動揺を露わにリビングを後にしたキョーコを見送って、蓮は深い深いため息を一つ落とす。

そしてじっと先ほどまでキョーコが寝ていたソファに視線を落とした。
まだキョーコの温もりが残るソファに凭れるように突っ伏し、また深いため息を着く。

「はぁぁぁぁー。」

胸を蝕まれるような感覚に襲われる。
この想いはどこか身体中に広がる毒にも似てるのかもしれないなと蓮は思った。

あと僅かにキョーコの目覚めるのが遅ければ、キスが出来ていたかもしれない。
またもやお預けを食らってしまった気分になりながら、蓮はノロノロと自身の寝室を目指して歩き出した。



ーーバタン。

蓮の部屋の寝室の扉が閉まる音にキョーコの心臓がどくんと跳ねた。

蓮はベッドまで運ぶつもりだったと言っていたが、それならばあんなに顔を近付ける意味が何処にあったのだろうかとベッドに潜り込んでから何度も何度も考えてしまう。
心臓はうるさいくらいに騒いで落ち着かない。

吐息がかかる程の距離…覆いかぶさる真剣な眼差し。頬に添えられた暖かい掌の感触が今もまだキョーコの中に強く残っている。

ーーーあそこで目を開けなかったらどうなってたの…?

もう少し気付くのが遅ければキスされていたんじゃないかと思ってしまった。

ーーーい、いいいいやいやいや!!ないないないない!!敦賀さんが私にキスする理由なんてあるわけないもの!!!!

全力でそれを否定して、ベッドの中で何度も寝返りを打つ。

ーーーこんなことなら大人しくこの部屋で寝てれば良かった…。

そうすれば、こんなにドキドキしなくて済んだはずだ。
少しでも蓮の顔が見たくてリビングで待っていたのに、いつの間にか寝てしまっていたのだ。
そうして目が覚めたら、蓮の顔が目の前にあって、これは何の夢や幻かと一瞬思ってしまった。
だけど唇に掛かった彼の吐息に全身の体温が一瞬にして上がってしまった。

ーーーなんで目を開けちゃったのよ…!!

数分前の自分に少し恨めしい気分を抱いてしまう。
こんな悶々とするくらいならあと少し様子を見てから目を覚ませば良かったのかもしれない。

胸がぎゅーっと苦しくなった。
バカみたいに脈打つ心臓に限界を感じる。
残された練習日はたった一日。

ーーー私…こんなんでちゃんと出来るの?

初日よりも自信がなくなっている自分に気づく。

ーーー明日…出来なかったらどうなっちゃうんだろう…。

キョーコの不安は消えることなく、キョーコの心を蝕んで行った。




「じゃあやろうか?」

「は、はい!よろしくお願いします!」

練習3日目の夜がやってきた。

「大丈夫、力を抜いて。最上さんならできるから…。」

「は、はい!!」

キョーコはカチンコチンな状態で挑んでしまう。
場所は昨日のことをどうしても意識してしまうソファの上。

顔を近付けようとするが、どうしても明美になりきることが出来ず、キョーコは泣きそうになった。

「最上さん…」

蓮も少し困った顔をしていた。
仕事をしてきて疲れているだろうにもう2時間以上も、付き合わせてしまっている。

「申し訳ありません!!」

「いや…少し、休憩しようか?」

蓮も少し疲れた様子で起き上がった。

時計の針は0時を過ぎたところだった。

「明日…なんだよね?」

「はい…」

蓮が確認するように聞けば、キョーコの顔に暗い影が落ちる。
ズーンと自己嫌悪に沈む姿に何とかしてやりたいと思うが、寝ている状態では蓮はリードも出来ない。
ただひたすらに“待つ”だけなのだ。

そろそろキスしてくれてもいいんじゃないか?とか、そんなに俺とのキスは嫌なのだろうか?と余計なことを考えて只管凹んでしまう。

「明日…もうなるようになると思いますので…カメラの前だったら出来るかもしれませんし…。」

これ以上付き合わせるのも申し訳ないと思ったキョーコはそんな風に言ってしまう。

「今のこんな状態で…本番にちゃんと出来るとは思えないけど…?」

「…………。」

蓮に言われた言葉を噛みしめるように、キョーコは唇を引き結んだ。

「じゃあ…頬に…してみる?」

「え?」

「いきなり唇はやっぱり…少しハードル高いかもね。」

「頬…ですか…。」

それでも若干キョーコの頬が赤く染まる。

「うん。どうかな?」

「…やってみます。」

頬にするだけでもかなり抵抗があったのか、蓮の待ち望んだ瞬間は、頬へのチャレンジを始めてほぼ一時間後だった。

ーーちゅっ。

キョーコの柔らかな唇が蓮の頬に口付ける。
蓮は漸く与えられることの出来たその感触の余韻に浸るように間を置いてからゆっくりと目を開けた。
蓮は嬉しさで思わず顔が緩み、そのままの蕩けるような甘い笑顔を至近距離のキョーコへむけてしまった。

「ん。いいんじゃないかな?じゃあ今度は少しずつ場所をずらして…」

「い、いえ!!も、ももももうここまで出来れば充分です!!ヒントももらえましたから!!あ、ありがとうございました!!それでは、おやすみなさいませ!!」

キョーコは一気にそう言うと、真っ赤な顔でいやぁぁー!!と叫びながらさっさと部屋へ引っ込んでしまった。
そのあまりのドビュンッという効果音が似合う素早さに横になっていた蓮は咄嗟に反応が出来なかった。

「え…?最上、さん…?」

後には中途半端に手を伸ばして呆然とした蓮が一人ポツンと残されていたのだった。




そうして特訓を途中で放り出した状態で迎えた本番当日、緊張していたキョーコだったが、予想外にアッサリとOKをもらって拍子抜けしてしまった。

「え?!今ので…OKなんですか?」

思わず確認したのはキスなど実際にはしていないからだ。
でも台本にはキスと書いてある。
顔を近付けてもう少し勇気を出さなきゃと思ったところでカットの声が響いたのだ。

「うん!カメラの位置からだとそれなりにキスしてるように見えてたし、大丈夫大丈夫!!」

キョーコは監督の言葉にホッと胸を撫で下ろした。

ーーーなんだ!良かった!!敦賀さんにはとんだご迷惑をお掛けしてしまったけど、これでもう解放されるわー!!

キョーコは恥ずかしすぎたレッスンを思い出して、真っ赤になりながらも安心した。

本番よりも特訓の方がハードだった気がしてならない。
身体を起こした星巻はそんなキョーコに軽口を叩いた。

「ちぇー。京子ちゃんからキスをもらえると思ってたのにな。残念っ!ね?そーだ!後で楽屋に来ない?」

「あ、申し訳ありません。今日はこの後用事があるので…」

「え?まだ仕事?」

「あ、いえ、仕事ではないんですが…。」

「え?じゃあプライベートで?」

「はいっ!!」

キョーコは蓮に一刻でも早く報告したいと思って心を踊らせていたのでその心のまま、満面の笑みを浮かべて頷いた。

「…そ、そっか…。」

星巻が残念そうに肩を落としていたのは余談である。

その後の撮影も順調に進み、予定より少し押しただけで終了となった。


今日の帰宅は蓮の方が早いと聞いていたので、キョーコは浮かれ気分で帰り支度をした。

「そーだ!敦賀さんには上手くいったこと先にメールでも伝えとこう!」

ウキウキと楽屋でメールを打ち今日の報告をする。

《敦賀さんへ。取り急ぎ報告です。今日の撮影問題なく終わりました!!敦賀さんにご指導頂いた問題のシーンはなんと一発OKでした!帰ったらお話ししますね。最上。》

「ふふ。これでよしっと!!」

キョーコはスキップでもしそうな勢いで楽屋を後にしたのだった。




「最上キョーコ!ただいま帰りました!!」

元気良く上機嫌で玄関を開けて中に呼びかけたキョーコだったが、返事はなく、代わりに暫くしてバタンと扉の閉まる音が大きく響いた。

「…敦賀さん?」

恐る恐る中に足を踏み入れる。

リビングに足を踏み入れたが、いつもキョーコよりも帰宅が早い日は「おかえり。」と優しい微笑みを浮かべて出迎えてくれる蓮の姿が見当たらない。

ーーーどうして…?

キョーコは頭に疑問符を浮かべながら蓮の寝室の扉の前に立った。
バタンと音がしたのはここの扉で間違いないだろうという確信がある。

ノックをするのを少し戸惑ったが、どうしても確かめずにはいられず、キョーコはドアを控え目にノックした。

「……。敦賀さん…?」

ノックにも、呼び掛けにも返事がない。
キョーコは恐る恐るドアノブを捻った。
鍵は空いていたのか、ガチャリと音を立てて扉が開く。
そろりと中を覗き込めば、真っ暗な部屋の真ん中にあるキングサイズの大きなベッドに大きな固まりがあった。
蓮はベッドの隅の方で横になっていたのだ。
入り口に背を向けたような状態で、布団すら被っていない。

「敦賀さん…?」

恐る恐る近付きながら声を掛ける。
しかし、蓮は無反応だ。

「おかげんでも…?」

具合でも悪いのかと思ったがどうやらそれも違う気がする。
どちらかといえば、拗ねてるようなそんな気がしてしまうのだ。
ゆっくりと蓮の正面に回り込んで顔を覗き込めば、蓮はグッと難しい顔をして瞳を閉じていた。
まるで口も聞きたくないとでも言うような態度だ。

「…どうされたんですか?」

「…………。」

「寝てるんですか?」

「…………。」

「………。あのメール…見て頂けましたか?」

「…………。」

「一発OKだったんですよ?敦賀さんのお陰なので、一番にお礼…言いたかったんです…。」

「…………。」

余りにも反応がなさ過ぎてキョーコは痺れを切らした。

「ーーーもうっ、敦賀さん!!」

「…………。」

それでも返事がない。
そっと顔を近付けて問いかける。

「………寝て…ますか?」

「……………。」

「本当に……?」

「……………。」

全く反応のない蓮は本当に寝ているのかもしれない。疲れが溜まりすぎてキョーコの帰宅にも気付けないほどだったのかもーー。
キョーコはそう思った。

「……。本当に、寝てるんですか?」

「……………。」

何度も何度も確認したが、やはり返事がない。

「敦賀さん…。」

キョーコは確かめるように手を伸ばしてそっと蓮の頬を撫でた。
スベスベの肌、薄くセクシーな唇。
蓮に触れても何の反応もないのを確かめてから、キョーコは蓮にレッスンで教えてもらった行動を辿るようにゆっくりと顔を傾けた。
徐々に近づく二人の顔。
蓮の顔にキョーコが影を落として、二人の距離はゼロになった。



そっと柔らかな唇同士が優しく重なる。
しっとりしていながらふわりとしていて、でも少しカサついた不思議な感触。

ーーーこれが、キス…。

ファーストキスが甘いとよく聞くが、甘いのかどうかはわからなかった。だけど心がむず痒くて無性に身体が熱くなっているように感じる。
キョーコはそっと唇を離した。
ゆっくりと目を開き眠っている蓮を見つめようとした。

そうすると驚いて目を見開いている蓮と至近距離で目が合ってしまい、キョーコは予想外の視線を受けて思考が止まり目を見開きピタリと固まってしまった。

ーーー私…今、何をーーー?!?!

瞬間湯沸かし器のように一気に真っ赤になったキョーコは、唇を隠すようにパチンと両手で覆って、その場から声にならない悲鳴を上げて逃げ出した。

後に残された蓮も真っ赤な顔で唇を片手で覆って暫く動くことが出来なかった。



(続く)


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やっとこの話がかけました!!!!
そして一番書きたかったシーンのはずなのに、いざ書こうと思うと難しく苦戦しちゃいました…。