My HOME-21-


「はぁぁぁぁ~」

「何だ?朝からため息ばっかりだな。」

「え…あ、すみません。」

「いや、いいけどさー。昨日も様子おかしかったし、キョーコちゃんと何かあったのか?」

「………別に、何もありませんよ。」

「ふーん?ため息ついたり、無表情のまま固まったり、明後日の方向見てぼうっとしてたり…今日は特に多いよなぁ~。」

蓮の反応を見てニヤニヤと遊びの顔に入り始めた社を敏感に察知した蓮は慌てて警戒心を強め、気を引き締める。

「…そうですか?」

「蓮君は何をしちゃったのかなぁ??」

グフフと笑い始めた社を見て、蓮は無視を決め込みスッと立ち上がり歩き始めた。

「あ、おい?蓮?!」

「そろそろ呼ばれますよね?行きましょうか。」

「ったく。お前はーーー」

ブツブツと文句を言いつつも仕事の顔に切り替えた敏腕マネージャーを背後に感じながら蓮は心の中で独りごちた。

ーーー話せるはずがない。

キョーコの裸を見てしまったなど他の男に話して、そんなキョーコの姿を想像させることさえ許せない。

ーーーあの姿は俺だけの…

激しく熱い口付けをして身体を掻き抱く妄想が蓮の頭の中で繰り広げられる。

「あっ!キョーコちゃん!」

ーードクンッ

蓮の心臓が一気に跳ねた。
慌てて社の視線の先を辿ると、社の声でこちらに気付いたラブミーツナギのキョーコが振り返るところだった。

「っ敦賀さん…!!あ、社さんも、お疲れ様ですっ!!」

「お疲れー!キョーコちゃんは今日はラブミー部の仕事?」

「はいっ!そうなんです!」

最初は蓮の姿を見て緊張して固まりそうになったキョーコも、社に意識を向けたことでなんとか笑顔を作りいつも通りの会話を交わすことが出来た。
そんな二人を見ながら蓮はどうしてもキョーコを邪な目で見てしまう。
唇の味を知ってしまった蓮の飢えは時間が経てば経つほど渇く一方だ。
そして不意に脳裏をよぎったのは昨夜のキョーコの独り言だった。

“やっぱりーーーーさんも、大きい方が好みなのかな?”

ーーー…そういえば、あれは、誰のことだったんだ?

キョーコが“◯◯さん”と呼ぶのはなにも自分だけではない。

大きい方が好みというのはあの行動から察するに胸のことで間違いないだろう。

ーーーだとしたら、誰を思って?誰の為に…あんな…こと、を…?

どうして胸を大きくしたいなどと思い至ったのだろう?
自分が触れた時に明らかに拒絶するかのように固まった彼女。
だとすると、自分には触れられたくなかったということなのだろうか…?

ならば、昨日のあの姿は…自分以外の誰か別の男の為に…?

フツフツと胸の中に新しく現れたのは渦巻く黒い感情。

ーーーそんなの…許せない。

蓮は気付けば一人勝手にグルグルと思考を巡らせていた。

「ーーん?おい、蓮!!」

「はっ…!え…?あ…」

社に小突かれ、蓮は漸く我に返った。
キョーコが心配しながら伺うように下から覗き込んでいるのに気付き、ドキマギしてしまい、やはり目を合わせることが出来ず、慌てて社の方に視線を向けた。

「なんですか?」

「聞いてなかったのか?」

「え…何をですか?」

「キョーコちゃんが今夜の食事のリクエスト何かあるかって…」

「あ、あぁ…そう、ですか…。」

蓮に視線を外されたことでキョーコは胸がキュウッと苦しくなった。

「なんでもいいよ。最上さんが好きなもので。」

「……わかり、ました…。」

蓮の答えをきいて落胆して俯いてしまったキョーコに社が声をかける。

「ったく。そういうのが一番困るんだよ。ねー?キョーコちゃん。」

キョーコは曖昧に笑って社に向き直ると、また二人は会話を始めた。
笑顔で言葉を交わす二人を何と無く見ていた蓮だったが、何故か急に蓮の頭の中に有り得ない構図が浮かび上がった。

ーーーもしかして…社、“さん”…?

二人を見た蓮の視線が鋭く光る。蓮の脳裏に裸のキョーコを抱きしめている社の姿を想像しそうになり慌てて首を振った。


ーーーいやいや、まさか…でも…。

キョーコと社が楽しそうに話しているのが気に入らなくて、蓮は二人の間に割り込む為に、口を開きかけたのだが、その直前にキョーコへ背後から別の声がかかった。

「あれ?そこにいるのもしかして京子ちゃん?」

「あ!貴島さんっ!おはようございます!!」

蓮の耳がピクリと反応する。

ーーー貴島…“さん”?

「おー!敦賀くんとマネージャーさんもお揃いで!!それにしてもやっぱり京子ちゃん相変わらず元気いいね。」

「貴島さんこそお元気そうで何よりです。」

貴島を見上げてにこやかに話をするキョーコを見て蓮の中に嫉妬の炎が湧き上がる。

ーーーまさか、貴島君…か?

ジリジリと胸が焼けている感覚に、今すぐキョーコを捕まえて腕の中に閉じ込めたい衝動を感じる。
出来ることなら誰の目にも触れないところに閉じ込めてしまいたい。
皆が皆、キョーコを色目で見ている気がして気が気じゃないのだ。

「あれ?どうしたの?敦賀くん…怖い顔して…」

「いや…?」

必死で平静を装ってにっこりと微笑むが、キョーコは少し怯えたように顔を青ざめさせていた。

「そんな怖い顔してると京子ちゃんにも嫌われちゃうよー?ねー?京子ちゃん!」

そう言ってキョーコに同意を求める。

「えぇ?!い、いえ…そんな…」

キョーコは貴島に言われた言葉に慌てふためいて返事を返す。
貴島が冗談を言っていることに気付かず慌てて訂正させようとしている。
そんなキョーコにくくくっとからかうように貴島は笑った。

「京子ちゃんって本当純粋だよねー。」

「ええぇ?!そ、そんな!!」

「ね?今夜空いてない?飲みにでも行こうよ。勿論、二人っきりで…さ?」

さり気なくキョーコの肩を抱き寄せて、耳元で囁けば、キョーコの頬がカアッと赤くなりアワアワと慌て出す。蓮は一気に黒い感情が体内から噴き出すのを感じた。
連日の寝不足で思考回路が壊れた蓮は、己のコントロールがうまく出来ず、笑顔の仮面をかなぐり捨てて、怒りを込めた目で思いっきり貴島を睨み付け、貴島のキョーコの肩を抱く手を思いっきり払いのけていた。

「痛っ!」

「ひっ!!」

蓮の怒りを敏感に感じ取ったキョーコだが、そのキョーコの動きよりも素早い動きで貴島から奪うようにキョーコの腕を引き寄せ、庇うように頭を抱きしめた。

「気安く彼女に触るな!」

「なっ!あんなの冗談に決まってるだろー?何だよ、敦賀くん。…随分、余裕…ないじゃないか…。」

「つ、敦賀さっ!!」

急に引き寄せられ抱き締められたキョーコもたまったものじゃない。
蓮の怒りに怯えていたはずなのに、その力強さと頬に直接伝わる体温に心臓がバクバクと壊れそうなくらい暴れ始める。

「蓮っ!!おま、何してるんだよ!!」

慌てる社の声を耳にしつつ一度着火した蓮の怒りはなかなか消えない。

「悪いけど、彼女はまだ未成年だ。飲みに…?行けるはずないだろう。」

「つ、敦賀さん!!」

ぐいっとキョーコが慌てて蓮の腕を引いたことでハッと我に帰り少し冷静になれた。
周りに目をやるとテレビ局の廊下で注目を集めてしまってたのだ。

「…ごめん。」

蓮はなんとかそう言葉にして、己の怒りを抑え込み、キョーコの頭を抱え込んでいた腕をそっと解く。
そして貴島にも頭を下げた。

「ごめん。つい…」

「いや、敦賀くん少し疲れてるんじゃない?少し休んだ方がいいかもね~。」

貴島が軽いノリで言ったことでこの場は何とか収集がついた。
何事かと注目していた人達もホッとして散って行く。

「すまない…。」

「いーっていーって!その代わり今度埋め合わせ、よろしくっ。っとそろそろ行くよ。またね。敦賀くん、京子ちゃんも。」

「あ、はいっ!!お疲れ様でした!!またよろしくお願いします。」

キョーコが貴島に向かってぺこりとお辞儀をすれば、貴島は振り返らずヒラヒラと手を振って去って行った。


蓮も一緒に貴島の背中を見送りながら、貴島に頭を下げ続けているキョーコを見つめる。
胸の奥がジリジリとする感覚はまだ消えず、怒りによって発生した手の震えがとまらない。

ーーーもし、彼女が……

自分以外の“誰か”との関係を望んでいたら…?

そんな未来が垣間見えて怖くなったのだ。
他の男になんか渡したくない。
でも今の自分にどんな権利があるというのだろう?

今の自分は、キョーコにとってただの先輩で、ただの同居人というだけだ。
キスも奪うように口付けて自分の気持ちを押し付けただけ。

キョーコからキスはされてもキョーコから明確な言葉をもらったわけではない。
本番で一発OKだった為に、気が大きくなっただけかもしれないのだ。
ラブミー部のラスボスだけに、過度な期待は禁物…だからこそ、明確な答えがない今はとても不安定だった。

「あ、悪い電話だ。」

社がそう言ってゴム手袋を取り出すと蓮とキョーコの側から離れた。

蓮が己の気の高ぶりを沈めたくて深い息を吐き出した時に、また新たな声がキョーコの名を呼んだ。

「あ、京子ちゃーーん!!うわっ!!敦賀さんや!!本物?!は、はじめまして!!」

「…はじめまして。」

「あ、光さん。おはようございます。今日はお一人なんですか?」

蓮はキョーコの発した呼び名に衝撃を受けた。

ーーー“光…さん”?!

慌てて光さんと呼ばれた男に視線を向ける。

ーーー何者なんだ?!

ファーストネームでキョーコが親しげに男を呼ぶことなど滅多に無い。
年もキョーコより年上である自分と変わらないように見える。
相手の男はキョーコとほのぼのした空気を作り出し、キョーコに好意を持ってるのが丸わかりだった。

「これから事務所?」

「あ。はい!そうです!」

「残念~!俺も撮影じゃなかったら送って行くのに…」

「えぇ?!そんな、お気持ちだけで充分ですよ~。」

「あ、そうだ!!この間作ってくれたカツカレー美味しかったよー!!次は何を作ってくれるの?」

「ふふふ。それは来週のお楽しみです。」

楽しそうに話す会話の中で聞こえた単語に鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。

「え…?」

いつの間に男の家に料理を作りに行っていたのだろうか?
寝耳に水な話で蓮はショックを隠せない。
しかもどうやら来週も作りにいく約束を既に取り付けられているようだ。

「あ、そや!まだ時間あったら二階の楽屋に雄生たちがいてるんやけど、行けへん?」

「そうなんですね。それではまだ時間があるので、少しだけお邪魔させていただきます。」

キョーコがにっこり笑顔で答えれば、光と呼ばれた男も嬉しそうに顔を紅潮させた。

「おっしゃ!雄生達も喜ぶで~。」

「ふふ。あ、では敦賀さん、私はここで光さんと失礼しますね!」

「敦賀さん!いつも応援してます。同じ事務所何でいつかお会いできるといいなって思ってました!また今度ゆっくりお話しさせてください。」

「え?あ、あぁ…」

蓮はそう返事をするだけでいっぱいいっぱいだった。
脳が思考回路を動かすことを諦めたのか、全く言葉の内容が入ってこない。
爽やかな好青年。
きっと誰の目からみてもそう映るだろう光は、どこからどうみてもキョーコとお似合いに見えた。

蓮に背を向けて楽しそうに話しながら歩き始めた初々しいカップルのような二人を蓮はただ呆然と見送ることしか出来ないのだった。


(続く)


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