私は小さい頃から本を読むのが好きでした。とりわけ「偉人伝」に夢中になり、毎日のように図書館に通っては、キュリー夫人やナイチンゲール、エジソンやニュートンなどの伝記にかじりついていたのを今でもよく覚えています。小学4年生の頃には「ペンで人の役に立ちたい」と思うようになり、本気でジャーナリストになることを夢見ていた時期もありました。その後大人になり、憧れだったジャーナリストにはなることができませんでしたが、仕事柄多くの女性にお会いをさせていただくようになり、気がついたら取材をしたり、原稿を書いたり、写真を撮ったり……。立場は違えど、あの頃の夢の延長線上に立っている自分を不思議に思う時があります。10歳の時の私は、時々こうしてこっそり現在の私に逢いにやって来ます。まるで、抜き打ちテストでもするかのように。

一冊の本。一本の映画。数行の新聞の記事や雑誌のコラムに取り上げられた“その人”が、その後の自分の人生に大きな影響を与えることがあります。実際に逢ったことはなくても、その人の精神性の気高さに鼓舞され、その人の覚悟に奮い立たされることがあるのです。私にとって、ステファニー・シンクレア(Stephanie Sinclair)さんがまさにその一人でした。彼女はピューリッツァー賞も受賞しているドキュメンタリー写真家で、10年以上前から「児童婚」をテーマに世界中を撮影して歩いている、私がいま最も尊敬してやまないフォトジャーナリストの一人です。私は彼女の写真を通じて、生まれて初めて「児童婚」の実態を知りました。
「できることなら学校を出て、先生になりたかった」――アフガニスタンの40歳の男性との結婚を強要され、学校を退学させられた11歳の女の子は、シンクレアさんにそう呟いたそうです。シンクレアさんの写真を通じて、この少女の存在を知った私は言葉を失ってしまいました。しかも、こうした境遇の少女たちが未だ世界中には5100万人もいることを知り、愕然としてしまったのです。そして、今まで何も知らずにのほほんと暮らして来たことを心から恥じました。シンクレアさんは自分の写真をきっかけとして、こうした児童婚の問題をより多くの人々に知ってもらい、悪しき伝統を変えさせようと日々奔走しています。写真の力はかくも偉大なり!彼女の勇気ある行動が、私たち一人一人の意識を目覚めさせ、何をしても無駄だというあきらめの心や、全てを投げ出したくなる絶望の心とも闘っていかなければならないことを教えてくれているような気がしてなりません。

正直、今の私では“ネコの手”一つにもなることはできないかも知れません。しかし知った以上、知ってしまった以上、何かをしなくてはと、目に見えない何かに背中を押されているような気がしています。以前、書き抜き帳に書き留めておいたクレイグ・キールバーガーの言葉があらためて脳裏をよぎりました。「何かの問題を自分の目で見てしまった人には、それに対して行動を起こす義務があると思います」と。ジャーナリストにはなれなかったけれど、「今」の私にできること。答えはまだ見つかってはいないけれど、いつかまた10歳の私に逢えた時、胸を張って伝えられるといいな。
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