先日、撮影のお仕事のため、初めてロシアへ行って来ました。訪れたのは、極東ロシアの中心地ハバロフスクという街――。何と、日本からたったの2時間で行けるヨーロッパなんですよ。今回の旅は、公私共に仲良くさせていただいている、友人の書道家・矢部澄翔さん を密着取材させていただくことがミッションでした。実は2011年にも、中東のオマーン へご一緒させていただいているのですが、その時以来、彼女の「World Performance 世界書紀行」というプロジェクトをプロデュースさせていただいています。今回もオマーンに引き続き、外務省の文化事業の一環ということで、ハバロフスクの日本総領事館からお招きをいただき、二人でロシアに行かせていただくことになりました。


実は、私たちがロシア入りする前日まで、70年ぶりの大雪が降っていたとのことで、空港に降り立つと見渡す限りの銀世界。まるで物語の中に迷いこんだような、それは美しい氷の世界が広がっていました。出国前から極寒のシベリアを覚悟して行ったものの、いざ現地に着くと、拍子抜けするくらい暖かくてビックリ。滞在中はお天気にも恵まれ、元祖晴れ女は海外でも記録を更新して来ることができました(笑)。3月とは言え、屋外の気温はマイナス10度。しかし、どこへ行っても暖房設備が整っているせいか、室内ではTシャツ姿のロシア人を数多く見受けました。人一倍寒がりの私は、出発前から相当ビビっており、使い捨てカイロを山程買い込んで行ったのですが、結果嬉しい誤算と相成りました。冬のロシアを旅する際は、どうぞ「Tシャツ」もお忘れなく(笑)。

「ロシア」といえば――大文豪トルストイとか、作曲家のチャイコフスキーとか、人類初の宇宙飛行士ガガーリンなど、錚々たる顔ぶれが思い浮かびますが、正直なところ、政治情勢も不安定なせいか、行く前まではロシアに対してちょっぴり怖いイメージを持っていました。しかし、澄翔さんが「書道」を通じて、現地の人々と楽しそうに交流している姿を見ていたら、そんな不安は一気に解消!あらためて、文化の持つ底力を痛感することができました。

今回の主な行事は――ハバロフスク市内にある最古の映画館「ソフキノ」にて日本映画祭があり、そのオープニングステージで書道パフォーマンスを披露させていただいたり、ギムナジウムを訪問して8歳から16歳までの学生たちに書道の特別授業を行ったり、普段は一切撮影禁止のスパソ・プレオブラジェンスキー大聖堂内で特別に掛け軸の奉納をさせていただいたり、その他にも一般市民へのワークショップや、芸術学校での三味線奏者とのコラボなど、連日分刻みのスケジュールが続きました。

そうした中にあって、「世界書紀行」のプロデューサー(兼ディレクター)として、どうしても澄翔さんにやっていただきたいことがありました。それは、凍結したアムール川の氷上で書を書いてほしいという無理難題なリクエストに応えていただくこと(笑)。ちょうど4年前は、オマーンの砂漠で、童謡「月の砂漠」を書いてもらいましたが、今回は雪の上に全長10メートルほどの和紙を広げ、澄翔さんの書いた文字が川の中に流れ込むようなイメージを演出させていただきました。題して、「氷上の詩人」。冷たい雪の上にも関わらず、上着ひとつ羽織ることなく、ひたすら書と向き合ってくれた澄翔さん。彼女の人並外れたプロ意識の高さには、ただただ頭が下がる思いです。太陽が沈み、時々刻々と青味がかった紫色に染まって行くアムール川は息を呑むほどに美しく、静寂に包まれた氷の世界は、いつしか神聖な場所へと昇華していきました。一生忘れられない光景です。これからも澄翔さんと一緒に世界中を回り、「世界書紀行」を通じて日本の文化を発信していけたら…と願っています。今回も佳き出逢い、佳き巡り合いに深謝。