このたびご縁があって、素敵な女性のお写真を撮らせていただきました。
今夏、「戦地で生きる支えとなった115通の恋文」(扶桑社) という新刊を上梓された、著者の稲垣麻由美さんのポートレイトです。この本は、稲垣さんが6年もの歳月をかけて、丁寧に丁寧に取材を積み重ねて来られた“思いの結晶”なんだそう。その“きっかけ”も、まるで映画のようです。
実は、稲垣さんがこの手紙と最初に出逢ったのは2009年のこと。「鎌倉の母」とも慕う、料理研究家の渡辺喜久代さんから「実はね、あなたに見せたいものがあるの」と手渡されたのが、この手紙の束だったんだとか。それは、陸軍軍人であった喜久代さんのお父様と、お母様が戦時下に交わしたという115通の恋文でした。巡り巡って、稲垣さんの元へ届けられたのも、決して偶然ではなかったに違いありません。

恋文を手にした後、自分だけが感動して終わることだって、いくらでもできたことでしょう。しかし、稲垣さんは違いました。「私がこれを伝えなくては」とご自身の使命に奮い立ち、ペンを握り続けて来られたからこそ、この一冊の美しい本が誕生したのかと思うと、巡り逢いの不思議を思わずにはいられません。稲垣さんは、幾星霜もの歳月を経て、恋文を世に出すためにペンを持つことを許された、まさに「選ばれし人」だったのです。言葉のタイムカプセルは、こうして稲垣麻由美さんの手によって、現代に蘇ることができました。
戦後70年、「今だからこそ伝えたい言葉と想いがある」――
強烈な使命感に裏打ちされた稲垣さんの言葉たちには、声なき声を伝えたいという平和への願いが込められています。
「文は人なり」――稲垣さんの生き方そのものにも上質な感化を受けた夏でした。

【著者/稲垣 麻由美】
1968年、神戸生まれ。エッセイスト、ブランディングプロデューサー
株式会社一凛堂 代表取締役
ライター・編集者を経て執筆活動をスタート。現在は出版プロデュース、執筆の活動と並行し、経営者・政治家・ビジネス書著者を主なクライアントとしたイメージコンサルティング事業も展開。