幻のブルボン・ポアンチュ

ブルボン島(現在のレニュオン島)で ブルボン種が栽培され、 そのブルボン種の原産種がブルボンポワンチュ (Bourbon Pointu) です。 すべてはブルボンポワンチュ から始まったと言われるほどの原々種なんです。 だが、その歴史は複雑です。

レニュオン固有のコーヒー種は「マロン」とも呼ばれ、 1711年 セント・ポール市近くで発見されましたが、 苦すぎたようです。
1715年にデュフレーヌ・ダサール船長が、 60本のモカの変種を運び込みました。 しかし船内で枯れたり、栽培途中で枯れたりして、残ったのはたった2本だけでした。 その後この2本のコーヒーが、この島に自生している木と似ていると言われ、 自生種の栽培が奨励されましたが、繁殖も栽培も難しく栽培されませんでした。
これに代わって、ふたつの起源をもつモカ種の苗7,800本からレユニオンに持ち込まれ、栽培され、ある程度成功しました。 1727年に45トンのコーヒーを収穫・産出したと記録されています。 1731年にはフランスへ出荷され、その後もしばらくは栽培、出荷されていたようです。これらレユニオン島で栽培されたコーヒーの中から、突然変異種 ブルボン ポワンチュが出現したようです。これがブルボン ポワンチュの起源です。

この島から1856年にナポレオン三世の経済政策の一環として、南太平洋における殖民地拡大のため、 カトリック系マリスト修道会のReunion人宣教師が 仏領ニューカレドニアに ブルボンポワンチュの苗を持ち込み、 現在のサンルイ・ロベンソン地区に植えられました。 
1862年には農業技術者のアドルフ・ブータン氏が60,000本の苗を配布し、 ニューカレドニア各地で栽培が始まりました。 1911年、マルティニック人の商人アルモガム氏がニューカレドニア のブルボンポワンチュを パリに持って行き販売したところ、コーヒーの専門家であり、フランスの大手輸出入業者の ポール・ジョバン氏の目に留まり、ニューカレドニアのブルボン・ポアンチュをフランスにて販売促進するアーブル・カレドニアンという会社が設立され、カフェルロワ(Cafe Le Roy)として販売されました。

この頃ニューカレドニア各地でのコーヒー栽培は盛んで、 ブルボンポワンチュや 他のアラビカ種を年間2000トンもフランス本国に輸出していました。ニューカレドニア各地で大々的に栽培されていたそうです。
その後20世紀前半、原産地レニュオン島では砂糖栽培に転換され、コーヒー栽培そのものが廃れ、ブルボンポワンチュは絶滅。 また、仏領ニューカレドニアでもニッケル鉱山の隆盛でコーヒー栽培は衰退し、輸出できないほど栽培が減りました。だからブルボンポワンチュは、この世の中から絶滅したと思われてきたのも無理はありません。

幻のブルボンポワンチュを再発見したのは、 「コーヒーハンター」 を書いた川島氏のように思われてますが、 実は、ニューカレドニアの べローム氏の方が早くから ブルボンポワンチュに着目しており、 川島氏が初めてレニュオン島に行った1999年以前、既に栽培に成功していました(1998年)。 現在、ニューカレドニアのイダマーク農園(Domaine Ida-Marc)で唯一栽培され、輸出されています。

セントヘレナ島のモカ

絶海の孤島セントヘレナは、ナポレオン流刑(1815年)の地として有名ですが、 実はスエズ運河が1869年に開通するまでは、喜望峰を回る航路の重要な中継基地でありました。
スパイスやコーヒーを乗せたオランダ、スペイン、イギリス、フランスの船がこの島に寄港していたのです。 そして当然ながら、コーヒーの木が運び込まれ栽培されました。 イエメンのモカが直接運び込まれたものだったようです。
流刑されたナポレオンが 『セントヘレナでいいものはコーヒーだけだ』 と言った という記録が残っているそうです。フランス皇帝の座まで登りつめた人間ですから、当然、口も肥えていたと思います。

1851年に開催された第1回ロンドン万博のコーヒー品評会に セントヘレナ島のコーヒーが登場しています。
見本として最高級のコーヒーが、S.マグナスという個人の庭園から送られて来たそうです。 品評会はこのコーヒーに栄誉賞を与えています。
この栄誉賞をきっかけにコーヒー栽培がはじまり、パリで「最高のモカを凌ぐほどでないにしろ、それに匹敵する」 と称賛され、プレミアム・コーヒーの価格が付きました。

1990年代、イギリスは実験農場をDevid Henryに貸し与え、再びコーヒー栽培が始まったようです。 彼のコーヒーは、日本、USAへも試験販売され、収穫量は少ないがSpeciality Coffeeとして販売されました。 「その結果、セントヘレナ島のコーヒーは世界でもっとも高価なものになっている。」 とアントニー ワイルドは書いてます。  「コーヒーの真実」アントニー ワイルド、Antony Wild 著を参照)

今から160年前の万博での評価が、今でも通用するかどうか分かりませんが、現在も僅かながら輸出されており日本にもサンディーベイ農園のブルボン種が輸入されています。