面白いことは自分がいない時に起きる。バスで保育園へ子どもを迎えに行ったそうである。あいかわらずバスの中で子どもがうるさく、嫁はからかって、

「ちょっと最近おデブちゃんじゃない? と言ったのよ」

 正月以降、子どもの食欲は尋常じゃない。気が狂ったようにソファの上を飛び跳ね、飛んで落ちたと思ったら冷蔵庫へ走っていく。どうしたかと思ったら、

「のどかわいたから、ヤクルト飲むの」

 それ何本目? 今日、初めて? ならいいけど。

 そこへ洗濯物を取り込んだ嫁が戻ってきて、またヤクルト飲んで! もう3本も飲んだでしょ! と子どもからヤクルトを取り上げ、子どもはギャーッと泣き、

「とうちゃんが飲んでいいって!」

 言ってない、言ってない、俺は何も言ってないぞ。いや1本目だと思ったから……まったく、どうしてそういう意味不明な嘘をつくんだ。


 そういうわけで顔がプクプクしてきた子どもだ。縦に伸びつつあるからいいとはいえ、どうだろう、微妙だ。小さい頃、自分が肥満児だっただけに不安である。嫁もけしてやせていない。飯を作っている嫁をうしろから見ると僧帽筋の上に厚く脂肪が載っていて、盛り上がった首筋が三角形だ。試合がんばってね、とバチンと叩きたくなる。何の試合かよくわからないが。

「ほっぺたふくませて喜んでたわけ、ぷっくりしてるって」
 
 わかる、わかる。すぐほっぺた膨らませるからな、フグみたい。デブって言われるとうれしいのかね、ヤツは。嫁が話を続けた。

「すぐ隣の席にね、似てるなあと思ったのよ」

 ?

「金正日の息子いるじゃん、」

 ああ、ディズニーランドに来てつかまった人ね。

「また来日? みたいな人が乗ってきたのよ、そっくりでさ。そしたらアオイが指差してさ、『おデブちゃん? アオちゃん、あんな感じ? おデブちゃん?』」

 最悪だな。……ちょっとおいで、どう、そんなに太った? ああ、太ってきたねえ。

「アオちゃん、おデブちゃん?」

 子どもが腹を突き出し、ほっぺたを膨らませる。そうだねえ、ちょっと太ったねえ。お菓子食べすぎだよ。

「あんな感じ? おデブちゃん?」
 
 かあちゃんを指差すな!