子どもが風邪をひいた。生まれる前、元気な子になりますようにとお願いしたおかげか、滅多なことでは病気をしない。だから39℃を超えるほど熱が上がるというのはよほどのことだ。頓服を飲んでも熱が下がらず、公園で頭ぶつけたって言ってたよね? と嫁がうろたえている。子どもは熱を出すものだからと言っても、嫁自身が滅多に熱を出すことがないので、按配がわからないらしい。
子どもは布団を跳ね飛ばし、ぐあ~うあ~と叫んでいる。仮面ライダーの怪人のような叫び声だが、頭を押さえて苦しそうだ。
「あたまがいたいよ、いたい、いたい!」
痛いなあ、頭痛いな。
「こわいよお、あたまいたいよ、きもちわるいよ、こわいよ、こわいこわいこわい」
怖い、か。頭痛を称して怖いというのか。面白いな。今年初めての頭痛だもんな。去年も熱出したが、そんなことは忘れてるよな。
「大きくなったり小さくなったりするの」
熱があるとそういう風に見えるんだよ。ぐらぐらするもんな。
「痛い、痛い、いたいたたたたたあああいいい!」
大丈夫か、おい?
「いたいたいたいたいたいたいたいたいたい」
……落ち着け。騒いだって痛いものは痛いの! 寝てなさい。
「いたいよぉ~あたまが~いたいよぉ~あたまがぁ~あたまがぁ~」
ああ、うるさいうるさい。具合悪いんだから、じっとしてなさいってば。騒いで治るものなら騒げばいいけどさ、余計に悪くなりそうじゃないか。
どうするかね、夕飯。これじゃこの子、ご飯食べられないし……何か頼むか。うちらだけだし……
「ピザ食べる」
え? 起きてたの? 元気だね、君。
「ふたつ」
何が?
「ふたつ食べるの、ピザ! コーラ飲むの!」
心配してるのがバカバカしくなっちゃったな。でも食べれないだろう? 吐いちゃうし。取っといてやるから。元気になってから食べたらいいよ。な? わかった?
「うんち出そう!」
早くトイレ行け、早く!
翌朝、熱は平熱に戻った。さすが子どもというべきか、大人にはない、急激な治り方だ。起きるなり、子どもは言った。
「ピザ食べていい?」
残しておいたピザをレンジで温めて出すと、1日半ぶりの食事を犬のような勢いで食べ始めた。お前、仮病だったんじゃないか?