私は目の端で、その手品を見逃しはしませんでした。
が、黙っておりました。ふふーん。
A君には気の毒ですが、若いうちの苦労は買ってでもしろ、というものです。
それに私は、正義を主張するために
来店したわけではありません。
彼にしたって昨日今日、美容界に入ったA君に
負けるわけにはいかないのでしょう。
客が少ない時間帯は店内で待機していていい身分なのに、
わざわざ店先に立って、ゴミもないのに掃除し続けるのは、
サッカーでは反則ですが、
銀座の某美容室の厳しいヒエラルキー競争を勝ち抜くには、
彼の貪欲さは、ノンキに店内でおしゃべりしている他の青年美容師より、
立派なものと言えるかもしれません。
ただ私から見りゃ、まだ若い。
よくも出会ってすぐに、わかりやすく性格を示してくれたものです。
つづく