雲をつかんだ日(改)。 | 明け行く空に…。  ~ひねもすひとり?~

雲をつかんだ日(改)。

街を彩る並木の明るいイチョウは散り、年末の気配が濃厚になってきました。
いやね、来年の話をすると鬼が笑うなどとよく言われますが、んなもん創造の存在であり、さらには迷信であって他ならず、マジで笑えるもんならその姿をオレの前に表して、声高らかに笑ってみろって話な訳であります。何なら再来年辺りの豊富でも語ってやろうかいな。
つーかいるわきゃねー。なまはげ上等!わはは…。
まぁいいや。

鬼でもオバケでもそうだが、それらの何が怖いかって言いますと、その素性がよく分からないのが一番の恐怖なんじゃねーかと思うのです。
「私実際に見たことがあるんです。いやいやマジでマジで」とか、「つーかさ、俺一緒に住んでるんですけど…」などと、ちょっと残念な事実を有する方にはここはおとなしくスルーしていただくとして、いそうでいない、見えそうで見えない、正にそのチラリズムが人々の心に恐怖を植え付けるんでしょう。
ミニスカートはチラリだからこそ男性の桃色な心情をくすぐるのであって、多々ある何らかの障害を乗り越えて、いざ堂々と直視できる状況までたどり着いて見ると、意外と冷静さを取り戻してしまったりもする。
見えないからこそ恐ろしく、それ故に発生する実体を確認したいと思う気持ちこそ、怖いもの見たさという言葉の真意なんじゃねーかと思うんですよ。

でね、この季節にその到来を待ちこがれられ、鬼が出るか蛇が出るかと巷に巣食う平民どもを震撼させるものと言えばアレですよ、新春初売りでお馴染の福袋。
まだクリスマスも来ちゃいないのに、正月の話をするのもどうかと思うんだけど、オレはアレが大好きなんですよ!
そんでもって、開けてみてがっかりな場合が多いってところもこれまた大好きなんです。

「うわっ!こんな色のジャケットいつ着ればいいんだよ!」

なんてハズレ感満載なのが大好き。
それが何だ!最近は不公平感を無くすためか何だか分からんが、予め中身が確認できるようになってる物が多々ある。
コレについては何とも遺憾でありますと、どこぞの政治家とか権力者とかが、とりあえず怒っとけーって時に発する言葉を借りるしかないって具合です。
根本的に間違っていると言わざるを得ない。
あれは中身が何だか分からないからこそ購入意欲がかき立てられるのであって、そうじゃないのならばわざわざ袋に入れて秘密裏感満載で販売する意味がないと思うのである。何が入ってるか分かっているのなら、それは単なる安売りのセット販売だったり、抱き合わせ商法(ドラクエ商法)であって他ならない。
ちなみに福袋ってのもどうやら仙台発祥らしい…。
まぁいいや。

そんなことをぼんやり考えながら家路を急いでいた先日の話なんですがね、ちょっと小腹が空いてきたオレは、己の胃袋と相談しながら街に溢れる飲食店の看板を眺めていると、大変興味深いフレーズを目にする。

「シェフの気まぐれパスタ850円」

もうね、そばを食いたいと主張する胃袋の意見なんぞ無視し、その店に即決と相成りまして地下にある店舗へ続く階段を下りる。
席に着き注文するのはもちろん気まぐれパスタだ。

「今日の気まぐれのメニューは何ですか?」

などと聞くような真似はしない。ついでに言っとくと、日替わり定食なんかを食うときも、そのメニューの詳細は聞かない。何が出るかはお楽しみ、それが曖昧な表現を持つ商品を注文するときの醍醐味だと思い込んでいるから。

程なくして我がテーブルに注文の品が運ばれてきた。何やらカニだかエビだかを絡めたソースがたっぷりとかけられ、恐ろしいほどに食欲をそそる美味そうなパスタとスープのセットだ。
一口食してみて確信する。コレは当たりだ!この味で850円は安い。
気まぐれであるこのメニュー、本来であればその詳細については深く追求しないのであるが、あまりに美味かったので一人の店員を捕まえて材料が何であるのかを聞いてみた。
そうすると、その店員は声を大にしてシェフをに訊ねる。



「シェフ!今日の気まぐれは何ですか!?」


その声に呼ばれて厨房から現れた男は、シェフと言うよりは確実に板、もしくは親方と呼ぶに相応しい風貌、且つ無愛想な男だった。



「ワタリガニー」



とシェフは一言。
とにかく滅法美味かったということだけは事実であるので、これ以上言うことは何もない。
美味けりゃそれでいい。
そして無愛想なシェフの気まぐれは、それはそれはナイスだったいうことは間違いない。


福袋も日替わり定食も、そして今回のような気まぐれメニューも、オレにとってはギャンブル的要素を含む存在であると言っても良い。
だから、当然のようにハズレを引くときだってあるわけだが、その一方で当たり引いたときの喜びは計り知れない。
そうやって考えてみると、やはり初めからその内容が分かっている福袋や日替わりメニューなんてのは、オレにとっては無しだなぁと思わざるを得ないのである。
まぁその辺の考え方は人それぞれですので、実際はどうでもいいんですけどね。
そもそも日替わりメニューの詳細なんて、どこの店でも大っぴらにしてますし…。


さて、そんなこんなでお腹もいっぱいになり、ご満悦で帰路につくオレ様。
帰宅完了し、そう言う訳で飯はいらないからというオレに対して妻は言う。



「ご飯食べないんだったら早く言ってよ!携帯持ってんでしょ!」



あぁ、その形相は正に冒頭のアレだった。
しかも笑ってねーし。

鬼は己の心の中に巣食い、己の心が創造する。

そして自分のあさはかさが作り出した鬼に怯えながら、オレはそそくさと就寝したのでした。




そんな感じで。




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