ここでは初めての映画コーナーです。現在上映中の「誰も知らない」(是枝裕和監督)をお勧めしたいと思いますが、まずはこの監督の原点ともいうべきドキュメンタリー時代の作品について触れてみます。



『記憶が失われた時』 (96)
NHK
放送文化基金賞

入院中に病院の栄養管理が原因で、新しい記憶を積み重ねていくことができない "前向性健忘" になってしまった、ひとりの男性とその家族の記録。番組は医療制度の問題点を追求しながら、やがて"人にとって記憶とは何か?"という普遍的な問いに辿り着く。


現在、最新作「誰も知らない」が予想以上のヒットとなっている是枝裕和監督による
ドキュメンタリー作品です。
前向性健忘症というのは、通常の健忘症とは異なり、発病時点以降の記憶障害を指すようである。(10分前に話した内容を覚えていないなど。映画「メメント」もこの病気を扱った脚本である)

普通ドキュメンタリーというと、患者がいかにこの病気に苦しめられているかとか、病院側の医療過誤の責任をいかに追及するとかなどといった面に光があてられがちなものである。だが是枝監督のドキュメンタリー作品はともすれば過剰と受け止められかねないほど、その客体に寄り添うような視点で撮影を進めていく。(このスタンスは他の作品にも共通しています)

患者には奥さんと幼い子供達のいる家庭がある。一見どこにもある普通の家庭だが、患者は発症以降の記憶を有しておらず、記憶の大半は結婚前の情景である。
だから目の前で日々成長していく自分の子供達のことを記憶していくことができない。ある日は全くの他人に見えたり、またある日はいとおしい我が子であると実感したりしながら、その繰り返しに悩まされ続けていく。

でもそんなハンディを負った患者にも、一瞬一瞬の感情が(記憶とは呼べないものであっても)脳裏に残っている瞬間があります。
腕にかすかに残る体温(ぬくもり)から、先ほどまで抱きしめていた我が子を
思い出したり・・・

ひるがえって自分は一瞬一瞬の感情をこれほど大事にしているだろうかと考えてしまった。
山積みになるほどのビデオで子供を撮影していたとしても、本当に子供との一瞬一瞬を大切にしていると言えるのだろうか。


誰も知らない