待ち合わせに遅れたのは風呂で寝落ちしてたからだと言う。
そして生理が来たと矢継ぎ早に言う。
急いで来たのかまるで小籠包のように蒸し上がっていた。
朝の月など見れなかったそうだ。
高い丘の上の町まで散歩しよう。
「1999年の夏休み」で則夫を探してたシーンのような森の道を歩いて紅葉を楽しもう。
ということでマーチンブーツで意気込んだが・・・
『つらい?やめとく?』
『そんな選択枝はない。バンバン張り替えてバンバン歩く』
『おお。頼もしいね』
『でも本当はパンパンしたい・・・って恥ずかしい事言わせないで!』
『今のは俺のせいじゃない!!』
脚や体調や張り替えポイント等を気にしながらお昼過ぎには一連の散歩が終わる。
(張り替えの申し出にオープンなほうの子)
丘に張り付く家々のパノラマ。
お腹の赤い脚の長いクモ。
枯れ葉が地面に着地する音。
グラデーションの森。
1番と2番と歌詞がゴッチャになったトトロの散歩のうた。
それぞれ楽しんでいただけたようで、しっかり空腹も訴えて来た。
火照った体をソバで冷やしながら次はどうしようと考える。
あと3時間半で日は落ちて暗くなる。
『あの川の土手に行こうか、お不動の滝を見て、小川を辿って合流点まで行って、そこでお酒とおつまみでのんびりすれば夕焼けと日の入りが見れるよ』
『それはスペシャルだ!』
電車を乗り継ぎ次の目的地へ。
ついた小さな駅舎は、都内なのにまだ木の柱を使っていてホッとした気持ちになる。
彼女も好きと言っていた。
土手から河川敷に降り、護岸の淵に並んで腰を下ろす。
せせらぎと日の落ちかけた空の色とが心を和ませてくれる。
『癒される。私、やっぱり心やられてたんだ』
『まぁ・・・そうでしょうよ、あれだけ振り回されればね』
『大丈夫って思ってたけど、こういう風に過ごしちゃうと癒されてる自分に気付く』
いよいよ夕景となり、目玉焼きのような夕日と水に溶かした牛乳のような雲が広がった。
騒いでいた子供も帰り、薮を渡り歩く猫の姿も見えなくなった。
一番星が見えた頃、何やらやたらと暖かい布を僕に巻き始めた。
「なに?この布、やたらと暖かいんだけど、遠赤の何か?』
『カシミヤですがー!』
彼女は来年もここへ来たいと言ってくれた。
初めて会ったころから毎年一度は来てた場所だったが、ちょっと前に大病をして2年ほど来てなかった。
初回の時に川面の岩を飛んで渡る僕の動画を撮っていて、それを見せながら約束をせがんだ。
いろんなところへ散歩に出かけているけれど、ここにそう言った想いが有るとは知らなかった。
『そろそろリフには学んでほしい。ここへ来るとあなたは最後に必ず寒がる、なぜもう一枚用意しないのか』
確かにそうだしカシミヤは暖かい。
昼間はやたらと暖かかったし、それに思いつきでここに来たのだからしょうがない。
でも小籠包のようにまでなって備えをしてくれた彼女には頭が上がらない。