夜のゆりかご心の奥、暗く無音の奥底に沈んで光も見えなくなった所に薄ぼんやりと人が見える。脚を抱えて小さくうずくまった子供がこちらに気付かないまま震えていた。「行かないで、行かないで」呟く声は癒えたはずの私の傷をジワジワと蘇らせて切り取られた映像をその暗闇に俄かに映し出す。鮮明な痛みが心を打つ。「忘れないで」と子供は言う。「忘れないよ」と私は言う。だからお休み、と静かに頭を撫でて抱きしめると安心したのか目を閉じて、子供は暖かな黒に溶けていく。あの痛みもまた、遠く暗闇に溶けていく。