夜は優しくて好き。

眉間に皺が寄って、喉は痛く苦しくて

歯を食いしばってしまう程、自分を責める事があっても

やっぱり朝より夜の方がずっと優しい。


だって、朝は

父が起き出す時間だから。

父と母の声が聴こえて来てしまう時間だから。

私を見られてしまう時間だから。



そっと起き出す、遅い朝がいい。

昼の落ち着いた明かりで

みんなが動き出して温まった頃に、

注目が集まらないうちにゆったりと起きたい。


静かで優しい、夜の時間。

深い青、深い黒、星と月と雲が浮かぶ時間。

みんな寝静まった、誰にも見咎められる事のない

心休まる時間。


涙だってそんな時間にしか出ない。

日中は泣き方を忘れて我慢する事ばかりで、

自分を責めて悲しんで情けなく思って

身動きが取れなくなってしまうけど

夜なら、まだ私は私でいられるから。

許されるから。

甘えも本音も、弱音もすべて明かりの消えた夜に

さらけ出す事を自然に自分に許せるから。




未だに染み付いた癖。記憶。呪い。

緊張で私を縛り付ける、毒し続ける価値観。

消えない、消したい。

在りのままの私でいい、のではなくて

その事にさえ気づかない程当たり前に。



何に許されないの?

誰に許されないといけないの?

私は私に強く期待している。

こうあれ、と願う姿がある。

そうでなければダメだなんて誰にも言われていない、誰に言われても関係ない

理想の姿以外の自分がダメだなんて誰も言っていないのに。

私は自分に完璧を、「良く」ある事を、フォローする事を、求め続ける。



ゆっくりしていいじゃない。

気持ちがいいし、落ち着くし、心が休まるよ。

そうやって満ちた分、何かをしたいと思えるようになる。

そうやって自分を労って、可愛がって甘やかして

暮らしていていいじゃない。


…でもそこに居るんだ

そんな自然な私を監視して指摘して、

神経を張り詰めてより「良く」あるように矯正していこうとする、

善意の、無自覚の悪魔が。

暗がりの部屋に差し込む明かりが逆光になって、

許可など無しに侵入して来る

恐ろしいものが。

私を支配し続ける、私を蝕む、理不尽な現実そのものが。



その呪縛から自分を解き放ちたい。

もうすっかり強くなった自分が居る事を知って、

賢くひたむきに、日々をより良くしようと出来る

真面目で誠実な、優しく小さな私を。

あの頃見えない脅威に怯えて耐え続けてでしか、

自分を保つ事を許されなかった可哀相な私を。

本当は放っておいたって積極的で明るくて頑張り屋で、

誰かに手を差し伸べて明るい笑顔と優しさを分け与えられる幼い私を。

あの時の私を、取り戻そう。

あの頃の自分と新たに一つになろう。


純粋な感動の中で、日々を体験していく事を楽しめる、ひまわりの私を。