ゆきたんが病気になってから、毎日いろんな思いの中で生きてきた。


苦しみ、喜び、希望・・・そして悲しみ。。。




はじめは2人、ベルトコンベアーに乗せられた。


いつもビクビクしながら、ただその時々の苦しさに


必死で耐えてきた。




ベルトコンベアーの周りは荒れ果て、



毎日、毎日、とにかく恐ろしかった。



周りは武器を持った敵だらけ。


片時も気が休まらない。




敵が放つ矢が雨のように降り、


恐ろしい顔をした大勢の敵が


いつもゆきたんの命を狙ってる。




少しでも気を抜けば、すぐに敵が襲ってきて殺される。


いつ敵が襲ってくるかわからない不安と恐怖。




身を守るため、唯一出来たことは、目立たないようにうずくまり、


常に敵に目を光らせながら、息をひそめてひっそり生きること。



そこでじっとしていれば、ゴールは自ずと近づいてくると信じた。





でも、身をひそめながら生きていても、完全に姿は隠せない。


自分たちも知らない間に、体の中に小さな爆弾を入れられる。



時限爆弾!



爆発しない間に何とか探し当て取り除く。


そんな日々の繰り返し。



一度、この時限爆弾にやられた。


何とか命は取りとめたが、


いつかゴールに辿り着くと信じた気持ちが揺らいだ。







いつの頃からか?


ゆきたんはベルトコンベアーから降り、自分の足で歩き始めた。


そして身をひそめながら生きる事、


逃げる事、隠れる事を止めた。




それからは、どんどん強く大きくなっていき


遥か遠くの高い丘の上をゴールと信じ、


一直線に駆け出しだ。



僕はゆきたんのペースに追い付けなかった。


応援する事しかできなかった。




相変わらず周りには多くの恐ろしい敵と降りしきる矢。


そんな事、ものともせず、黒い鞄一つ下げ、カリカリの体で


真正面から立ち向う。




丘を登り始めたゆきたんのお腹に矢が刺さっても、


振り返る事もなく丘を登り続ける。


胸にも矢が刺さり、たくさん血を流しながらも、


まだ丘を登っていく。



敵の攻撃は容赦なく、ゆきたんの背中を大きな刀で切りつける。




途中、何度かこちらを振り返り、苦しそうな表情を見せるけど、


僕の顔を見て大丈夫とニッコリ笑い、また前を向いて登り始める。




決して逃げない。決して止めない。




体中、傷だらけ血だらけになりながら、


とうとう高い丘の頂上に辿り着いた。




そして振り返り、今まで見たこともない、この世のものとは思えないほどの


キラキラした笑顔で、誇らしげに僕を見つめた。




・・・・・・・・・・でも戻ってきてはくれなかった・・・・・・・・・・・・・





そんなゆきたんを見てた僕は、恐ろしさと悲しさのあまり


その場に立ち尽くした。


どんどん増していく恐怖と悲しみで、後退りし、


気付けばもう逃げ場のない断崖絶壁。




恐怖と悲しみのあまり動くことができず、


その断崖絶壁に身を投じることばかり考えた。


それが正しい事のようにも思えた。



どうしようもなくクルクルと同じ場所を回り続け、


気付けばまた同じ断崖絶壁のすぐ前にいる。


そんな事を何か月もの間、何回も何回も繰り返した。






ゆきたんが見せた最後のキラキラした笑顔。


どんな思いで駆け上がったのか?


そしてあの高い丘の上から見た景色はどんな景色だったのか?



そんな事を考えられるのに・・・今までかかった。




断崖絶壁には 今 飛び込まなくてもいい。


飛び込みたくなったら、それはいつでもできる。


今はその時じゃない。



そう考えられるのに・・・今までかかった。




あの高い丘は、僕には決して登れない大きな山なのかもしれない。



ゆきたんにはずっと追いつけないかもしれない。




でもゆきたんが苦しみに、痛みに、


不安に、恐怖に耐えたように、


そして決して逃げなかったように、


今度は僕が耐えないと。。。




どこまで耐えられるかは分からない。



いつまで耐えられるのかもわからない。




でも・・・いま出来る事は耐える事。


この苦しみや恐怖、悲しみから逃げない事。





あれからもうすぐ半年。




何も変わってないような・・・



何かとんでもなく大きく変わったような・・・



今は自分でもよくわからない。





ただ、耐えられるだけ耐えないといけない事、



決して逃げてはいけないという事だけは分かった。





いつか尊敬する最愛の妻に追いつきたい。



最高のライバルであった最愛の妻に負けたくない。




今度は僕をいつでも、いつまでも応援して欲しい。