大宮さんです。






「…絵を描いてるんだ」


薄っぺらい 布団にくるまり
ふたり  暖をとりながら…

大野さんが 呟く。


「そう、なんですか?」

「おいら、さ?
道路工事のバイト して…金が貯まると、いろんな所に 絵を描きに行くんだ。
結構…何カ所も 行ったな。

今度、外国にも 行ってみようと 思ってて…」

「ふーん…。 
何を描くの?   人物? 風景画?
今度、見せてよ…」

「あんまり 人物は描いてないなあ。
…あ、にのを描いてみたい!」

「 ?!   嫌ですよ…」


これまでの こと や
…これからの こと。

目を キラキラさせて
楽しそうに話す  彼が

何だか とても…眩しかった。


いつしか  指先が ふれ

そこから伝わる 温もりを 
感じながら…

この時  ふたりで 交わした
他愛もない  会話は


渇いた 地面に 降りそそいだ  雨が

どこまでも  際限なく…
染み込んでゆくように


互いの 細胞 

その ひとつ ひとつに  染み込んで


このひとと 自分が …
確かに 繋がっている。

そう  想えた。



気付けば

薄く…ではあるけれど
差し込む 光が

夜明けを 告げて

{1F3D254D-048C-4806-8B24-7C4CCCFC6206}

始発電車で 一度、家に戻る  という
大野さんを  見送ると


ワタシは  

仕事に行くまでの
短い時間

まどろみ の中に 落ちていった。

     ・
     ・
     ・
     ・
     ・




「……それ、何です?」

「え?   知らない?
絵の具と   筆と  …キャンバス?」

「それは  見れば 分かりますよ?
ワタシが 言ってるのは…
何故  こんな狭い部屋に、こんなモノがあるのか?って事  ですよ!」

「だって、にの を…描きたいって
言ったよね?」

「嫌だって…言いましたよね?」

「…ダメ?」



大野さんと 夜明けまで
布団に くるまり …  過ごした 翌日。

大きな 荷物を持って 
再び  ワタシの ボロアパートに
現れた。


… 何故だか ワタシを 描きたいと、
彼は 言う。

絵の モデルなんて経験ないし…
正直、恥ずかしい。


だけど…ここに こうして道具を
持って来た 、という事は

少なくとも  絵を描いている間は

このひと…
ここにいる、んだよね?



「…ワタシは  
ゲームでもしてますから…
描きたいなら  勝手に どうぞ?」

「んふふ…」


大野さんは  嬉しそうに  笑った。



つづく


2015.3.20  miu