〜二宮の場合〜







「あの…じゃあ、お邪魔します」

このまま玄関で…というわけにもいかなくて。どうしようかと悩んでいると、「ほら、相葉くんこっち」と、潤くんが勝手にリビングに案内していた。
大丈夫。オレの宝物は全て自分の部屋だ。リビングにはヲタバレしそうなものは置いていないはず。


「最後のシュート。あれ、すごかったな。おめでとう!」

「ありがとう!あのね、オレがここに来たのは…にのにお礼を言いたくて」

「…お礼?」

「応援に来てくれてありがとう。
正直…今日の試合は勝てないかもって思ってたんだ。勝てたのはこのお守りのおかげだよ」


そう言ってポケットから取り出したのは、相葉くんの為に作った四つ葉のクローバーを刺繍したお守りと、もう一つ。
それは、オレが潤くんにあげたはずの桜色のお守りだった。
(何で相葉くんがコレを持ってるのよ)
振り返ると、潤くんは涼しい顔で買ってきた飲み物をグラスに注ぎ入れている。


「そのお守り、マジで効き目あるからさ?大事にしてよ」

「もちろん!大事にするよ」

「いや…そんなの」


なんとか取り返せないかと手を伸ばしたが、タッチの差でお守りは相葉くんのポケットの中にしまわれてしまった。

…って、待って。
潤くんはあれが恋愛成就のお守りだと知っている。それなのに相葉くんに渡したってどう言うこと?だって相葉くんには必勝のお守りを作って渡してある。それを知っているのに自分のお守りも渡したってことは。

もしかして…相葉くんに好きな人がいるの?
それを聞いたから潤くんは応援しようと?

途端に胸の奥がぎゅうっと苦しくなった。

二人はいつの間にそんな深い話をする仲になったの?
オレよりも…
潤くんの方が話しやすい?
相葉くんが好きになる人ってどんな人?
オレのお守りで相葉くんの恋が実るなんて…そんなの、

…そんなの、何?
オレ、何を考えてるの?
相葉くんが幸せならそれで良いじゃない。
推しの幸せはヲタクの幸せ、だよね?

それなのに…広がるモヤモヤ。

(ヤダ)

この時初めて
オレは…" 相葉くんを独り占めしたい ” という気持ちが自分の中に眠っていたことに気づいた。

それは " 推す "とは似て非なるもの。
布教したくない、他の誰とも共有したくない。
オレだけを見て欲しい…なんて
そんな我儘が次から次へと湧き上がる。

あぁ、もう。認めるよ。
潤くんの言ったとおり、オレは相葉くんのこと好きなのかもしれない。


「にの?どうしたの?」


伸ばされた手が、目元を拭う。
知らず…零れた涙が、相葉くんの指先を濡らしていた。

そして、気づく。
オレと相葉くんの間に、遮蔽物がないことに。


「…あ、眼鏡!」

「うん。今日はかけてないんだね」


慌ててメガネをかけようとした手を、相葉くんが遮った。


「ね、もう少しそのままでいて?」

「え?」

「…にのの瞳、キレイだから。見ていたい」


何よこの殺し文句。
男相手だと思って、深く考えないで言ってるんだろうけど…
こんなこと言われたら、普通勘違いするよ?
本当ならキュン死する事案だろうけど、何だか腹が立ってきた。
だってこの人、無自覚が過ぎるんだもの。
自分の口から出た言葉が、どれだけの破壊力を持ってるか知らないとか信じられない。
推しは全肯定?
は?
誰よそんなこと言ったの。


「相葉くん、そこ正座!」


クスクスと後ろで笑っている潤くんに
(後で潤くんも説教だからね)と、睨みつけた。





つづく



miu