〜二宮の場合〜




「和?おかえり。
お友達?って、…あら?あらあらあら!」

「部屋片付けてくるから、相葉くんはここで待っててね。絶対だよ?!」

「うん、分かった!」


相葉くんをリビングに残し、自分の部屋へ向かう。やっぱり家の外で待ってて貰えばよかったかな?
母さんの何か気づいたような様子が気になるが仕方ない。とにかく速攻で片付けよう。

ヲタクという生き物は、自分流の楽しみ方を会得している。大概においてそれは完全自己満足なのだが、場合によっては自分の趣味嗜好を封印しなければならないこともある。

オレの場合は姉ちゃんの襲来だ。

普段は県外の大学に通っているため、家にはいない。だが、ゴールデンウィークや、夏休み冬休みには前触れもなく帰ってくることがある。
これがもう、ジャイアンかってくらいに横暴で。
弟を下僕のように扱うのは当たり前。弟のものは自分のもの。自分のものは当然自分のもの。オレがちょっと女子が苦手なのは、姉ちゃんに原因があるんじゃないだろうか。
そんな姉ちゃんにオレの趣味がバレたら…

…一生。
大袈裟でなく、一生揶揄われて遊ばれるのだ。
だから、元々そのための対策はしてあった。

ドアを閉め、早速片付けに取り掛かる。
祭壇に飾られた、視線の合っていない相葉くんの隠し撮り写真の数々や、自作のアクスタ群を、空のファイルボックスへと移していく。
急いでいても扱いは丁寧に。
だって傷とかついたらイヤだもん。
書き溜めた数冊の相葉くん観察記録も、元々入っていたファイルボックスごとひっくり返した。
これで、片付いた綺麗な棚の出来上がり。
中身は見えない。
もちろん背表紙部分には姉ちゃんが絶対に興味を持たないような格ゲーのタイトルを付けてあった。

えっと、後は…
ベッドの上に置いてあった 手作りの相葉くんぬい も、タオルケットの中に押し込んで隠す。

ここまで3分弱。

ふぅ。
ぐるっと部屋を見渡した。

…よし、こんなもんかな?


「相葉くんお待たせ!…って、え?!」


息を切らしてリビングに戻ると、楽しそうに談笑している相葉くんと母さんの姿があった。




「母さんと何話してたのさ?」

「ん〜?ナイショ♪」

「…別に良いけど。あの…これ使って?」


期末テスト用にまとめた自分のノートを、相葉くんの前に置いた。


「これ、分かりにくいところがあれば書き込んだりしても構わないから。自由に使って?」

「え、すごい分かりやすい!!普通に授業聞いてるより分かりやすいかも。
あ、でも…ノートは写させてくれる?書きながら復習できると思うし」

「うん。相葉くんのやりやすい方法でいいよ」


ノートを見ながら試験問題と照らし合わせ、間違えたところを一つひとつ確認していく。

いつもは穏やかな…
彼の纏う空気が 凛 と引き締まる。

紅茶色の前髪がサラリと目にかかる。
その真剣な瞳には、他のものなんて目に入っていないよう。

……ごめん。それなのに。

下に母さんがいるとはいえ
狭い空間に二人きりというこの状況で

さっきの…
二人から届いたメッセージを思い出してしまった。

シャツの隙間からチラリと見える綺麗な鎖骨

教科書を捲るアナタの指先が
するりとこの肌を滑る…なんて。

そんなの、相葉くんに失礼だよ。

ぶんぶんと頭を振り
必死に妄想を打ち消した。





つづく



miu