〜二宮の場合〜






…ずっと手の届かない存在だと思っていた。


一年の時

隣のクラスだった相葉くんのことは、体育の合同授業で知っていた。

彼はその頃から人気者で。
スラリとしたスタイルの良さと、人を惹きつける笑顔は、どこか…
オレを拒絶した過去の友人を思い出して、あまり良い印象を抱いてはいなかった。

そんな中、オレが彼に堕ちたのは
球技大会での出来事だった。

オレが選択した種目はバレーボール。
別に何でも良かった。
バレーボールは授業でやったくらいだが、元々運動神経は良い方。身長こそ低いが、本気でやれば…
まぁ、自分で言うのも何だけど、そこそこ良い線はいったと思う。
でも、オレは目立つことを嫌っていた。極力人と関わらないよう、気配を消して。
だから、球技大会でも目立たぬよう手を抜いて、早々に自分の試合を終わらせていた。
そして、何気なく見ていた隣のクラスの試合。
びっしょりと汗をかきながら元気いっぱいコートの中を動き回る相葉くんは、キラキラと輝いていた。チーム全体に声をかけながら、心から球技大会を楽しんでいる様子は、色んなことを諦めた自分とはあまりにも違っていて。
オレは居心地の悪さを感じ、視線を逸らした。


「危ないっ!!」


…一体、何が起きたんだろう?
さっきまでコートの中にいたはずの相葉くんに抱きしめられるような形で、一緒に床の上に倒れていた。


「大丈夫?痛いところない?」

「え…あの、大丈夫…です」

「なら、良かった!」


気をつけろよな と、隣のコートに声をかけ
相葉くんは足元に転がっていたボールを投げ返した。

当たりそうだった流れ玉から守ってくれたの?
自分の試合中なのに?

…意味わかんない。
バカじゃないの?!
自分が怪我するかもしれないじゃない!!

でも…
相葉くんて そういう人、なんだろうな…って

そう思ったら、もう彼から目が離せなくなっていたんだ。


それからは沼よ、沼。

オレの活動については、すでに述べたとおり。親友の潤くんまで巻き込んで、推し活を続けてきた。

同じクラスになっても、目立たないオレと相葉くんには 当然接点なんてなかったのに、なぜか声をかけられるようになった。
突然の推しからのファンサに、オレが相葉くんのファンだってことがバレたのかと思ったのだけれど、そうでもないようで。
席替えしてからは、その距離は縮まるばかりだった。


" 俺には、お前が恋する乙女にしか見えないんだけど "

潤くんの言葉が頭の中でリフレインする


…うん。

好きだと認めたくなくて…
”推し"という言葉に置き換えて
自分の気持ちを誤魔化していたのかもしれないね。

相葉くんは、こんなにも近くにいる。

重ねられた手からは体温が伝わり
オレから…握り返すことだってできる。

ねぇ、いいの?
知らないよ?

オレの愛が重くても後悔しないでね。


「…オレも好きだから…」


オレのスマホで撮り直した
二度目のツーショット写真は

頬を赤く染めながら微笑んだオレと
「にの、今なんて言った?!」と、驚いて目を見開いた相葉くん というものだった。



つづく



miu