新しいお話です( ・∇・)

なかなかに不穏な始まりですが、暗いお話にはならない(予定)ので、安心してお読みいただければと。

では。










目の前が真っ暗になるって、こういうことなんだなぁ。




6年前のある日

オレは続く体調不良に、ようやく重い腰を上げ、病院へと向かった。


…原因は何だろう?

でも
どうせ大したことはないだろう という
根拠のない自信は、まだ20代前半という若さ故だったかもしれない。

検査を繰り返し
医者から告げられた病名を聞いて  "何か” の正体を知った。

それは、ドラマや映画の中ではたまに聞く病名だった。だが、それが自分の身に起きているのだと言われても、にわかには信じられなくて。

病名や生存率をスマホで検索しては、何度も打ちのめされ、やがて絶望した。


…思えば、オレはカッコつけたがりだったのかもしれない。まぁまぁブラックな会社ではあったが、病休という制度もあったはず。


でも、それを使おうとは思わなかった。

だって、戻れる確証なんてないんだもん。
変に期待しない方がいい。

オレは会社を辞め





そして…


大切な人に別れを告げた。








予想通り、入院生活は半年ほど続いた。

薬の副作用で体調は最悪。熱は下がらず吐き気は続き、頭痛なんて日常茶飯事。
自分の手を持ち上げるのさえ重く 辛くて

あぁ、多分このまま…

オレの命の灯火は
ここで消えるんだろうなぁ と

何度も、そう思ったのだけれど。



気づけば、劇的に体調は良くなり無事退院。
体力こそ多少落ちたが、全然元気。

その後も定期的に検査には通うものの
どの数値も、なんなら入院する前より健康そのもので、病気が再発する傾向は皆無。

退院から5年が経過した頃

先生からも「これならもう大丈夫だ」と
太鼓判を押されたオレは

再発もなく完治したといえる、少数派の人間だったらしい。

こうして…

オレは、物語の主人公から
現実世界へと引き戻されたのだった。







「あ、新刊でてる」


妻戸 寿門

デビュー作から3作続けてベストセラーとなっていて、"悲恋の王"なんて二つ名を持つほど、今一番勢いのある作家だ。

オレがこの人の本に出会ったのは、退院後に始めたバイト先の本屋だった。
元々オレはミステリ小説系が好きだったのだが、珍しく装丁に惹かれ衝動買いしたのが、妻戸さんのデビュー作でもある、恋愛小説だった。


読み進むたび、胸が苦しくて
ぎゅうっと締め付けられる。

愛を失った主人公の心の叫びが、深く胸を突いた。

悲しくても、感動しても
本を読んで泣くなんてこと…

今まで一度も無かったのに、自然と涙が溢れてくる。

この人の書く文章は
オレの心にすっと入り込み、寄り添い

そして、記憶の中の彼を思い出させた。


自分勝手に別れを告げた
かつての…恋人のことを





つづく




miu