にのちゃん視点のつづき…( ・∇・)










そういえば…あれはなんだったんだろう?


食べ終わった食器をかたづけながら、先刻の先生の様子を思い出していた。


先生はシチュー食べながら、何だか不思議そうな顔していた。


シチューの味が予想と違ってたのかな。

でも、すごく美味しかったけど。


最後の皿を洗い流し、布巾で水気を拭き取る。

食器を棚へと戻してリビングに戻ると、ゆらゆらと窓際でロッキングチェアに揺られている先生に声をかけた。



「あの…

晩ご飯、美味しかったです。ありがとうございました」


「こちらこそ、片付けありがとう。風呂入れるけど?」


「いや、そこまでは。風呂入らなくても死なないんで」


「何だよそれ」



フフッと優しく微笑んだ顔が、あの頃と変わらなくて。

胸の奥で…覚えのある甘い痛みが疼いた。


…違う。

もうあの頃のオレたちじゃないのよ。


これ以上、先生を見ていると、自分の手で消したはずの灯火が呼び起こされてしまいそうで。

アルコールで火照った頬を誤魔化すように、置かれていた毛布に潜り込むと、頭から被った。



「雨、上がったな」



…静かな部屋の中

耳に馴染む、少し低くて柔らかな…声が響く。


頭の中のモードを切り替えなければと、ふぅと息を吐き出した。



「良かったです…明日戻れると良いけど」


「明日の朝、役場に連絡して聞いてみるよ。迂回路の方は水さえ引いてれば通れると思う」


「すいません。お手数を…」


「…で。和、お前7年前何で消えたんだ?」


「…え…」



急に投げられた直球に、言葉が出ない。

言い淀んでいると、オレを諭すように静かに続けた。



「別に、今更怒るつもりはもうねぇよ。ただ…知りたいんだ」



…どうしよう。

でも、あの選択が間違ってなかったことを実感した今、本当のことを言うつもりはなかった。

誤魔化すように、それらしい理由を探す。



「他に…好きな人ができた、から…」


「…へぇ。それで会社まで辞めたのは?」


「あの、それは…

そう!その人が地方に引っ越すって言うから付いて行ったの」


「どこに?」


「…え」


「和?俺はさ、本当のこと聞きたいんだけど」



強い意志を持った瞳に見つめられ、狼狽えた。


久しぶりのアルコールのせいか

それともひどく動揺したせいか

すごく…顔が熱かった。


嘘をついている罪悪感に負け、つい…本音が口をつく。



「……ひとりになりたかったの」


「それは、俺と一緒じゃダメだった?」


「………うん…」


「嫌いになった…ってこと?」


「違っ、」


アナタを嫌いになんてなるはずないじゃない。


オレは、出かかった言葉を飲み込むように

テーブルに置いてあったグラスへと手を伸ばした。







つづく





miu