つづきです


潤くん視点…










「あ、それ酒…」



俺の言葉を聞く前にグラスの中身を飲み干してしまった和は、アルコールが喉に滲みたのだろうか、ゴホゴホと咳き込んだ。


大丈夫か?と ミネラルウォーターのボトルを手渡したが、それを拒むと拗ねたような瞳で俺を見上げた。

さっき和は食事しながらビールを二本飲んだ。グラスに入っていた焼酎のウーロン茶割りは、寝酒のつもりだったから…少し濃いめに作ってあった。

俺の知っている和なら、そんなに酔うほどの量ではないのだが、会わなかった数年の間に酒に弱くなったのだろうか?

ほろ酔い…ではなく、しっかり酔っ払ってしまったようだ。


とろんとした瞳に、俺が映る。



「…ね、潤くんだったら…どんなストーリーにする?」


「ど、どんなって?」



急な潤くん呼びに、胸が躍る。



「…好きだけど、どうしてもその人と離れなきゃならない物語を書くとしたら。アナタはどんな理由にする?」



くすくすと笑いながら、その瞳を潤ませた。

あぁ。これは、完全に酔っている。

悪酔いしている時の和だ。


こうなってくるともう…

知りたかった、嘘と真実の境目はあやふやで。和の嘘をつく時のクセも、もうわからない。


…これが恣意的なものだとしたら、コイツには本当に敵わない。

もうこれ以上は問いただそうとしても無理だと諦め、和の発する言葉の意味を推し量った。


好きなのに、どうしても離れなくちゃならない

その理由…?

とりあえず乗っかってみるか、と 自分に思いつく設定を片っ端から上げてみる。



「そうだな…

借金取りとかヤクザに追われていて、逃げなくちゃならなかったとか」


「お♪さすが先生!他には?」


「主人公が実は宇宙人で、失っていた記憶が蘇った、とか」


「おおー!!かぐや姫的な?

ファンタジー系もいいかも。あとは?」


「自分の夢に挑戦するために恋を捨てた」


「うんうん、なるほど。どれも面白そう。

先生なら…その中で、どのストーリーを書く?」


「俺が書くとしたら…?」



そうだな、と一呼吸置いた。


好きだけどどうしても離れなければならない…

それが、俺だったなら。



「余命宣告をされた主人公が、猫のように…ひっそりと独りで死に向き合う物語、かな。

大好きな恋人や、大切な友人に自身の死による悲しみを残したくなくて、その真実を隠して離れる…

覚悟の深さと清廉な潔さを、文字にしたい」


「………」



返ってこない感想に、恐る恐る和を見た。


…え?

和の瞳からは、大粒の雫が溢れ落ちている。


ぽろぽろ ぽろぽろ


涙はとめどなく流れ落ちて…



「和…え?どうした?!どこか痛いのか?」


「……ダメよ、そんな話。つまんない」


「いや、お前泣いて…大丈夫か?」


「…もう寝る」



そう言うと、和は毛布を頭まで被り

まるで猫のようにソファの上で丸くなった。




つづく



miu