つづきです
にのちゃん視点










「病院って?治療って?
…命の先って、それは…」


オレは、7年前 自分の身体を蝕んでいた病の名を、静かに…潤くんに告げた。
命を諦めるには充分なそれに、息を飲む音が聞こえ、潤くんの手がさらに震えた。

オレは微笑みながら その手を取り、指をしっかりと絡ませる。


「先生がね、もう大丈夫だろうって。
オレは生きてる。
…あなたの本に出会うために、神様が治してくれたのかもね。
だから…これからも書いて欲しいの。
オレみたいに、あなたの綴る文字に 光を…
未来を繋ぐ人が絶対にいるから」


気がつけば、オレは潤くんの腕の中にいた。

ギュッと…抱きしめられている。


「…お前の中に…俺はいた?」

「うん…
生きる希望をもらっていたし、あなたの…
潤くんの幸せを、ずっと願ってた。

オレなんていなくても、あなたは絶対幸せになるって思ってた。オレが惚れるくらいの良い男よ?すぐに新しい恋を始めるだろうって。

今日も笑って過ごしているんだろうなぁ って…
毎日、空を見上げてた」

「……」

「オレは弱って…壊れていく自分をあなたに見せたくなくて、自分勝手にあなたの元を離れた。

でも…
でもね?
あの時あなたが言った

"余命宣告をされた主人公が、猫のように…ひっそりと独りで死に向き合う物語、かな。
大好きな恋人や、大切な友人に自身の死による悲しみを残したくなくて、その真実を隠して離れる…
覚悟の深さと清廉な潔さを、文字にしたい"

って、それは違うって思ったの。

もしもあなたが…
潤くんが主人公だったらって考えたらゾッとした。
覚悟?潔さ?…そんなのクソ喰らえよ。
カッコ悪くても良い。
縋りついて、一緒に泣いて…
泣きながら、それでも笑うのよ。
最期のその時まで一緒に。
それが…ふたりにとっての幸せだから」


一気に捲し立てると、深く息を吸い込んだ。

潤くんの…
懐かしい香りが胸いっぱいに広がる。


「…お前、勝手だよ」

「うん」

「俺にはそんな選択肢を与えてくれなかったのに」

「…うん」

「だったら、俺も勝手にしていい?」

「…?」


抱きしめられていた手が、少し緩んだ。

ゆっくりと 落ちてくる影。

そして…
唇が重なった。





つづく




miu