2008年春のゴールデンウィークのこと である。
ケーブルTVのカウントダウンジャパン07/08の放送を、なんとなく見ていた。
突然、そこに、ケルトでアコースティックなバンドが登場!
ロッキンに、アコースティックバンド !!
なんだなんだ、このグループ
こんなの全然知らなかった。日本のグループなの?

曲は終わって 次のバンドに変わる。
あのバンドの名前は一体?
カウントダウンのHPをチェックする。「ガイジンがいるバンド……」

きっとこれ! アイルランド系のアメリカ人がメンバーにいて、
バンド名に アコースティックって入っているし

OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND

そして、プロフィールを見て、本当に驚いた。
TOSHI-LOWって書いてあるけれど、このバンドは、BRAHMANの別ユニットってことなの?

世紀の大発見をした様な気分になる。
夏のROCK IN JAPAN FES に出ますように!と念じてみる。

けれどovergroundacoustic undergroundは夏フェスには出演しなかった。
その代わり、今回初出演でトリを務めるBRAHMANのライブをこの際きちんとチェックしようと心に決める。

2008年8月2日土曜日

リップスライムの次のステージがBRAHMAN である。
リップのライブ前のサウンドチェックの時間、
ピコピコと電子音が流れるステージの後ろから、バンドの演奏が聞こえて来る。
本番さながらなプレイ、それはBRAHMAN だった。熱い、熱過ぎる奴らだ。

リップのライブが終了し、一緒に楽しんでいた、ヒップホップのイベントで知り合った友人達は、この後はテントに戻るという。

決めたことだ。ひとり残り、ステージ前の中央部に自分の居場所を決める。
最前部ではないので、モッシュは起こらないだろう。

BRAHMANの音楽は、ロック、パンク、ハードコアといったジャンル分けは困難であるそうで、さらに、BRAHMANとほぼ同じメンバーで、民族音楽色の強い、アコースティックのOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGRONDを結成している。
完全に余談だが、「事務所に、格闘技練習用のリングを備えている」という話も読んだことがある。一体彼らの視線は何処へ向いているのか?

サウンドチェックが終わり、 まるで経かコーランを唱えるかの様なオープニングの音楽が流れ始めた。同じく、なにやらスピリチュアルなイメージの映像も流れ始める。コアなファン達は、両手を合わせ、高く空に掲げている。
「なんか、マズいところに来ちゃったかも?」と心配になりつつ、けれど、この場を離れる気にはならない。

パンクの作法を知らないので、「その激し過ぎるパフォーマンスってつまりどういうことなの?」という疑問にさいなまれながら 、初体験のモッシュの波に飲み込まれそうになる。
そばにある柵にしがみついているのがやっとで、小柄な女の子が果敢にモッシュするありさまが信じられない。

そして、ついに、ライブ終盤、ダイブ禁止のこの夏フェスにおいて、アーティスト自らがダイブ。
その姿が、聴衆の波の中に沈み、視界から完全に消えると心配無用と思いつつ、動揺を抑えきれない自分がいる。
しかし、彼は、まるで地から沸く様に、ファンの手により聴衆の頭上高く抱えあげられ、その場に君臨した。まるで蓮の上に乗ったブッダの様だ。こんなアーティスト冥利につきる構図が他にあるだろうか?
理屈ではなく、意識の底で、「これは、たぶん『アリ』なんだ。」と納得してしまう。


そして、08/ 09カウントダウン ジャパン
願いが叶って、大晦日にOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDが出演する。


あの夏の夜に伝説的ライブ を行った、BRAHMANのメンバーで構成されているこのグループ

あの、ちょっと強面なTOSHI- LOWは、このケルト風アコースティックバンドで、一体どんな表情を見せるのか?

カウントダウンジャパンの楽しい雰囲気に、ついつい自分の酒量を見失い、動けなくなった私は、欲張ってステージをはしごするのは諦 め、ちょっと早めに、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDがスタンバイするコスモステージへ向かった。
早めの到着が功を奏したのか、最前列をゲットすることができた。
ローディーの方達による入念なチェックを眺めてその技量に関心しているうちに、バンドメンバーが、ステージに現れた。

あの、「地から沸いたブッダ」の様だった、、ちょっと不可解で、「怖い」、TOSHI-LOW
彼は、そのオーラを消し、静かにメインボーカルの傍らに佇んでいた。

最初の英語の挨拶では、客の反応が薄かった。「ほら、やっぱり日本語だ。」と、流暢な日本語で、喋り始めたマーティンは、「こんばんは、キマグレンです。」と、お約束であるらしい挨拶をキメる。
マーティンのトークの間、しゃがんで水を飲んでいたTOSHI-LOWは、何も言わず上目使いでそんな彼を見据えている。

この豹変ぶりは何なんだろう?優しく音に寄り添う様にギターを奏でる様は、別人の様である。
最前列でなければ、彼がTOSHI-LOWであるかどうか、自信が持てなくなったことだろう。

まるで、あの人みたいだ。「デトロイト・メタルシティ」の「クラウザーさん」
ポップ音楽を好きな心優しき青年が、悪魔系デスメタルバンドのボーカルとして活躍するというあのお話の主人公の様だ。

けれど、ライブが佳境を迎えると、あの、TOSHI-LOWの片鱗が降臨した様子で、
音楽のグルーヴは、ジャンルに囚われるものではないのだと、確信する。

その後、いくつかのインタビュー記事などを読んだのだが、彼らの中に、この二つの音楽性の異なるバンドが同時に存在する理由は、私にはわからなかった。
彼らは、訳知り顔の解釈など許さないのだろう、きっと
いや、実は彼等にもよくわかっていないのかもしれない。

けれど
二つのバンドが、語りたい、吐き出したいともがくその言葉の底には、核を同じくする叫びがこめられていると感じた。

そしてひとつだけ、わかった気になったことは
彼らは、己の立ち位置が
それが人々の頭上にある時も 地下深くにある時も、
同じ価値を持って、同じ視線の先をめがけて奏でているだけなのだろうということだった。