青い祝祭の楽園-KREVA in 横浜アリーナ意味深2


「K-ing」武道館二日目では、緊張で手元が震えていた。

前人未到の偉業を成し遂げたけれど、それでも、昇りきれないポップスターとしての頂点へ、届かぬ手を伸ばしているかに見えた、その年の、「カウントダウンジャパン」でのライブ

方向性を失ったかに見えた翌年の、ショウケースとしての「クレハーカップ」ツアー

そして、その「方向性を失った己」に対して歯ぎしりする音が聞こえるかの様なMTV UNPLUGGEDでの、バンド編成への挑戦

常にギリギリの場所へ自分を追い込んでゆくKREVA
MTV UNPLUGGEDの準備期間は実質二週間で、驚異的な集中で成し遂げられたと聞く。
一体どれだけの煩悶と惧れを抱いてそのステージに立ったのか?
ステージ上の彼の背中からは闘志が湯気を立てて立ち昇っているかに見えた。

そして、今、その数々の挑戦を足場にして、その上に立ち、いや、さらに10センチ位宙に浮いて解き放たれているようすらにみえる。

余裕の風情で、新境地を開いた、KREVA in 横浜アリーナ意味深2

「愛・自分博」では、博覧会、「意味深」では、マジック、「クレハーカップ」ではサッカーと、毎回ギミックとなるモチーフを使ってツアーを演出してきたKREVAだが、今回は、「実験的」であることをツアーの柱に据えた。
シンプルにヒップホップ色を打ち出すとした「K-ing」ツアーよりさらにシンプルに、ヒップホップのスタイルにすら拘らず、ただ、己の望む音楽性、己の中に潜む抒情性にのみ忠実に、己の音楽を追求していく。

SONOMIの『midnight』(作詞作曲KREVA)を発表した時、その詞に、「俺の中に乙女がいた。」と笑ったKREVAだが、己の心に乙女が住むのであれば、ジャパニーズヒップホップという構造の中心にありながらDr. Kとしての自分のポジションには拘らず、乙女心を可愛い振り付きでSONOMIと並んで歌ってしまう、そんなある種の逆説的なラジカルさを今回のライブで見せ付けられた気がする。

二人で並んで踊るあり得ない構図が、まるで万華鏡の様な幻想空間を生み、「夢の途中」と歌われる『midnight』の世界感に深く沈み込んでゆける。
KREVAひとりでは表現できなかった、けれどKREVAの本質である抒情性を余すところなく表現したステージ。

ヒップホップを、再構築する音楽と定義するなら、「所謂ヒップホップ」として確立されたスタイルにも囚われてはならない、そういう考え方に至るのは自然だと思う。
けれど、それなりに、ヒップホップのアイコンとして確立した己の立場がありながら、
軽やかに、うねる様に、己の基軸であるヒップホップを飲み込んで、自らの心の羅針盤が示す海原へ躊躇なく船を漕ぎ出すKREVA

以前、彼が久保田利伸氏とライブを行った時、「そうすると『やっぱ俺はラップだな。』とか思うし。向こうが評価してくれているのはそこじゃないかと思っているし。」と語っていたKREVA(ROCKIN’ON JAPAN 2007 VOL.319インタビューより)

それにも関わらず今回は、三浦大知という、ホンモノのR&Bシンガーを、KREVAが胸を貸す立場でゲストに呼び、自らはAUTOTUNEを驚く様な技量で自在に使いこなしながら、「歌い上げる」ステージを築いたKREVA
「俺が最高」という今までのKREVA
けれど、意味深2のKREVAからは、外からどう位置づけられるかをもう気にも留めていない、そういう余裕を感じ取ることができる。

オープニングの『成功』からヒット曲を連発、会場を充分ヒートアップさせた後、ステージを、盟友、千晴に任せ、さらに三浦大知を呼び込み、二人のコラボ曲『STOP!! feat.三浦大知』、そしてKREVAと三浦による『M★A★G★I★C』へとステージにビックウェーブが弾ける。

極上のR&Bと最高のラップが響き渡る空間に身を置き、幸福感に満たされる瞬間。

幸福なんて結局イマジネーションの問題なのだと。

イマジネーションの力さえあれば、時間も距離も飛び越えられる、不可能はないのだと。
そしてそのイマジネーションの力漲る青い海こそを、「夢」と呼ぶのだと、この瞬間に理解することができた。

映画も小説も、作り手と受け手が同じイマジネーションを共有する為に、同じイメージを喚起できるミクロな要素を積み上げてゆく。
音楽もしかり、リズムとメロディーと音色と言葉でイマジネーションを共有する。
今回さらにそこに、リミックスというディティールを積み重ね、この空間に集った人々が青い海の世界を共有している。
KREVAが新たに生命を吹き込んだ曲は、かのYMOの名曲

前回のクレハーカップのファン投票の「ベスト盤に収録されなかったけれどライブで披露して欲しい曲」第一位が、自分の曲ではなく、スチャダラパーの、『今夜はブギーバック』であったことを「残念 だった。」とKREVAは語り、「今回は自分から作ってきました。」と歌い出した 新たな生命、『君に胸キュン』
メロウに、歌詞を大切に、でも、太いビートがKREVAらしい。
原曲の、テクノムードから一転、歌詞の切なさに改めて気付かされる。『イタリアの映画でも見てるよう』なその世界感に心地良く酔うことができる。

そして、もうひとりのゲスト、R&Bの雄、さかいゆうの登場 。
壮大とか、ありきたりな言葉を使いたくはない。
深い青い海の底で、遠く頭上に光を見ながら、安心してゆらゆらと波に揺られている、そんな感覚を思い出した、ここ、横浜アリーナの底、センター席。

キーボードのリフで、「ドラム」を披露するさかいゆう
第一線のキーボーディスト4名をステージに揃え、キーボードでバンド編成の音を超えられることを証明しようとするKREVA率いる「クレイジー鍵盤バンド」

けれど、しっとりとメロウな空気に会場が浸る中ついに彼は立ち上がり、「こんな風にみんなに座ってもらって聞いてもらってもいいけれど、俺は立ちあがって歌わせてもらう。」と彼は、MTV UNPLUGGEDの時と同じ言葉をもう一度ここで繰り返した。自らに言い聞かせる様に。
「トイ・ピアノに合わせてこのまま歌っていたいけれど、そういうのは、17年後でいいと思っているから」

セットリストは、『アグレッシ部』からカリビアンアレンジの『イッサイガッサイ』へ
KREVAが、最も好きなアルバムとしていつもその名を挙げるのは久石譲氏の「RAKUEN」だ。彼は、ちゃんとなりたいものに少しずつ近づいているのだ。

こんなに、「ビートの効いたセンチメンタル」を全面に打ち出したライブでありながら、彼は、「こんなにさわやかに終わるはずねぇだろ」とフィナーレの『ストロングスタイル』に繋げてゆく。
このセットリストによりKREVAは、これからもヒップホップというフィールドで闘っていくのだという意思を明確に示し、このライブを締め括った。

ライブのオーラスで、客席から口笛が鳴り響き、客の大合唱で、アリーナが満たされてゆく。
「型にはまったノリじゃなくていい」とKREVAは繰り返しインタビュー等で語っていたけれど、客が自然に自由に振舞って盛り上がれるライブを今回彼は提供してくれたと思う。

ラストのこの祝祭感を、どうやったら言葉で伝えることができるのか?

「HEY!HEY!!」と声をあげながら会場全体を昂揚させてゆく、ステージ上にずらりと揃った出演者達。
そこに、まるで、楽園の強い光が注いでいる様にすら見える。

言葉なんかでは表現できない世界に浸ることができるのが、至福のライブなのだ。


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