ソフトバンクの“革命”は終局に向かうのか 時代はまだ孫正義に追いついていない


高く掲げた“旗”


 「デジタル情報革命を実現する!」。これが、ソフトバンクが一貫して掲げてきたビジョンである。米国のIT業界ではアップルやグーグルなどそうそうたる企業が、IT革命を力強く推し進めている。これに対して日本では、企業のダイナミックな取り組みが乏しいと言わざるを得ない。ソフトバンクの孤軍奮闘がなければ、ITビジネスにおける日本の「取り残され感」はいっそう高まっていたことであろう。

 ソフトバンクは、孫正義氏が身一つで創業した企業である。一介の新興企業にすぎなかった同社にとって、「デジタル情報革命」という遠大な理想は、不釣り合いな目標と言えるものだった。しかも日本では前を走る企業が皆無であり、ソフトバンクは独力で道を切り開かなければならなかった。だが同社はその現実にひるむことなく、全速力で時代を駆け抜けてきた。

 日本におけるITビジネスの発展に関して、ソフトバンクが果たした役割は少なくない。同社は米国のYahoo!に出資するとともに、日本でもYahoo! JAPANを創業し、インターネットへの扉を開いた。またYahoo! BBによりADSLを普及させ、インターネットの発展に欠かせないブロードバンドインフラの構築を進めた。そして現在はモバイルインターネットの世界にイノベーションを起こそうとしている。


異端の経営


 そんな“ベンチャーの雄”ソフトバンクも、今や日本を代表する大企業に成長した。ソフトバンクの時価総額(約3兆円)は日本でトップ10に入り、パナソニックやソニーを上回っている。

 だがソフトバンクをトヨタやNTTなどのトラディショナルな大企業と同列に位置付けることには、違和感があることもまた確かだ。ソフトバンクの経営スタイルは、他の日本企業とは大きく異なっている。

 多くの企業は、ある一つの業種・業界の中で中堅、大手へと成長し、最終的には業界のトップ企業となることを目指す。これは言わば“足し算の経営”だ。売上高は100億、200億という形で積み上がり、業界におけるポジションも5位、4位、3位という形で上昇していくのが、一般的なスタイルである。ホンダやソニーなど、かつてのベンチャーもそのように成長してきた。

 ところがソフトバンクの経営は、この“足し算の経営”とは次元が異なっている。ソフトバンクのビジネス領域は、業種や業態という概念を超越している。創業当時のソフトバンクは、パソコンソフトの流通を生業としていた。だがそれは仮の姿だったのかもしれない。その後のソフトバンクは、多様なビジネスフィールドでめまぐるしく躍動する。

 ソフトバンクは数多くのITベンチャーに投資しており、その点ではベンチャーキャピタルのビジネスフィールドに足を踏み入れている。またソフトバンクは米国ネット証券大手のイー・トレードに資本参加したり、日本テレコムを買収したりするなど、M&Aのフィールドでも活躍してきた。あるいはYahoo! BBに巨額の資金を投入し、ブロードバンドインフラ事業に社運を賭けた時期もあった。そして現在は携帯電話事業に参入し、業界トップのNTTドコモを猛然と追い上げている。

 このようにソフトバンクは業種・業態の枠にとらわれることなく、多様なビジネスフィールドでビジネスチャンスを追求してきた。そして多様なビジネスフィールドを結び付け、シナジー(相乗効果)を生むことで、爆発的な成長を成し遂げてきたのである。例えば米国でIT情報を取り扱うジフ・デイビスを買収したことがYahoo!を見出すきっかけとなり、Yahoo!に投資したことがYahoo! Japanの創業と成功に結び付いた。

 ソフトバンクの経営は、一つのフィールドで実績を積み上げていく“足し算の経営”ではなく、複数のフィールドで相乗的に成果を上げることにより成長を加速する“掛け算の経営”だと言える。

 大胆に行動するソフトバンクは、数多くの批判にもさらされてきた。そして「ソフトバンクは業界秩序を壊す」とか、「ソフトバンクがやっていることは虚業だ」というように、ソフトバンクの経営スタイルをネガティブにとらえる向きも少なくなかった。いずれにしてもそれぞれの業界の保守本流から見て、ソフトバンクがアウトサイダーであることは間違いない。ソフトバンクは常に“出る杭”であり、産業界の異端者であり続けてきたのだ。